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第25話:装獣戯画〔ビーストアート〕②

 今回のバトルフィールドは、巨木が辺り一面に広がっている大森林だった。

 樹の一本一本が、装獣戯画ビーストアートの全長を遥かに超えている。

 これでは遠くが一切見渡せない。

 遠距離攻撃が専門の、僕のゲータウロスは相性が良くないかもな……。


「大森林だああああああヒャッホー!!!」

「まーちゃんそれ言いたいだけでしょ!?」


 緊張感持ってよ、もう!


「あれ? 相手チームがボイスチャットを申請してきたよ。面白そうだから受けちゃってもいいよね?」

「えっ!? ま、まーちゃん、それはちょっと!?」


 赤の他人とボイスチャットしながら戦うなんて、僕的には大分気まずいんですけど!?


「ポチッとな」

「まーちゃあああああん!!」


 まーちゃんは受理ボタンを押してしまった。

 ガッデム!!

 すると――。


『ヒャッハー!! どこの誰だか知らねーが、残念だったなお前ら! 今から俺達がお前らを、ヒャッハヒャハにしてやんよ!』

『ヒャッハー!!』

『ヒャッハッハー!!』

「っ!?」


 こ、この声と喋り方は!?


「あ、この声、あなた達いつぞやの、世紀末ザコ兄弟でしょ?」

『『『ヒャハッ!?』』』


 まーちゃんこいつらにそんなあだ名つけてたの!?

 まーちゃんてたまに辛辣だよね!?


『ま、まさかお前は、ヒャハ気道女!? ……チィ! ここで会ったがヒャハ年目だぜ! パパ! ママ!』


 っ!?

 パパママ!?!?


『ヒャハハハハハハハ。こいつなのか息子達よ、お前達をあべししたのは?』

『そうなんだよパパ!』

『まったく情けないねえ。ま、可愛い息子達の仇だ。精々痛い目見てもらうよ』

『やっちゃってくれよママー!』


 こいつら家族でスマホゲーやってんの!?!?

 てか、パパとママて……。

 お前らそんなキャラだったのかよ……。

 むしろ、平日の昼間から一家揃ってゲームやってて、生活は大丈夫なのか?


「へっへへー、今回も私達が勝っちゃうから、精々頑張ってね世紀末ザコ一家さん」

『『『『『ヒャッハー!!!!!』』』』』


 まーちゃん……。

 僕の彼女はなんて煽り力が高いんだろう……。


 こうしてここに、世紀末ザコ一家との、血で血を洗う争いの幕が切って落とされたのであった(ゲッソリ)。




「フッ、では一ヶ所に固まっているとHPが減ってしまうからな。私と智哉がペアで行動するから、他の三人はあっちを散策してくれ」

「なっ!? 何でともくんとあなたがペアなんですか!? ともくんのペアは私ですッ!」


 あわわわわわ。

 ついさっき意気投合したと思ったらこれだよ。

 どうして仲良くできないの!?


「フッ、だが足立、私のバルファルトは星5だ。3機のチームに入ったらバランスが悪くなってしまうぞ?」

「ぐっ」


 うむ、それは一理あるな。

 戦力のバランスを考えれば、星5の梅先生は2機のチームに入ってもらったほうがいいだろう。


「じゃ、じゃあ、峰岸先生のペアは私が務めます! ともくんとペアを組ませるよりはマシですッ!」

「フッ、仕方ない。今回はそれで譲ってやる」


 ……まあ、何はともあれ、両者が納得してくれたなら、僕は何でもいいよ。


「よし、そんじゃ俺達はあっちに行ってみようぜ、美穂、智哉」

「うん、勇斗くん!」

「あ、うん」


 こうして勇斗・篠崎さん・僕の3人は、西の方角に向かうことにしたのだった。




「おっ、何だあれ?」

「え?」


 勇斗の進行方向上に、明らかに他の樹と色が異なっている樹があり、その下に木箱みたいなものが置かれていた。

 ああ、あれは――。


「さっきチュートリアルで言ってたじゃないか。あれはアイテムボックスだよ。あの中に各種アイテムがランダムで隠されてるらしいよ」

「ああ、あれがそうなのか。よし、早速いただくぜ」


 勇斗のゼノタウロスが木箱を斧で破壊した。

 勇斗は昔からゲームの説明書とかも読まないタイプだもんな(因みに僕はちゃんと読んでからやるタイプ)。


「ん? 何だこのアイテム? って、うおっ!」


 木箱から出てきたガソリンタンクみたいなアイテムを取ると、ゼノタウロスの装獣熱ビーストゲージが瞬時に満タンになった。


「へえ、あれで装獣熱ビーストゲージをマックスにできるのか。悪い美穂、ホントは俺よりも、回復役の美穂に取らせてやるべきだったな」

「ううん、気にしないで。その代わり、何かあったら勇斗くんが私を守ってね」

「ああ、任せてくれ」


 ……。

 相変わらずお安くないなッ!!

 ちょっとだけ微居君の気持ちがわかったよ、僕!


『【猪突盲信ブラインドチャージ】!!』

「「「!!」」」


 その時だった。

 横合いの茂みから突如として、猪みたいな装獣戯画ビーストアートが、衝撃波を纏いながら篠崎さんのアルミラージャに突貫してきた。

 あ、危ないッ!


「美穂ッ!」

「っ! ゆ、勇斗くん!」


 が、間一髪勇斗が篠崎さんの盾となり、代わりに敵の攻撃を受けたのだった。

 とはいえ、今の一撃だけで勇斗のHPは半分近く減ってしまった。

 耐久力が低いアルミラージャが喰らっていたら、致命傷だったかもしれない……。

 今のが敵の特殊技か!?

 勇斗同様、どこかでガソリンタンクのアイテムを拾ってたのか。


『ヒャッハー! よく庇ったな! でもどの道、お前らがヒャハるのは時間の問題だぜえ。一郎いちろう兄ちゃん、二郎じろう兄ちゃん、ここにいたぜえ!』


 っ!

 三男と思われる猪野郎が呼び掛けると、その後ろから亀みたいな装獣戯画ビーストアートと、蛇みたいな装獣戯画ビーストアートが現れた。

 3機共星は4だ。

 てか、長男が一郎で、次男が二郎って名前なの?

 ……まあ、いいんだけどさ。


『ヒャッハー! よく見つけたぞ公彦きみひこ。三人でこいつらをヒャッハヒャハにすんぞ!』

『『ヒャッハー!!』』


 三男は公彦なの!?

 三郎じゃないの!?

 次男と三男の間に、両親にどんな心境の変化があったの!?


『喰らいな、【蛇蝎だかつ】!』

「「「っ!」」」


 二郎の蛇が、紫色の毒霧みたいなものを僕達に浴びせてきた。

 なっ!?

 こいつも装獣熱ビーストゲージが満タンになってる!?

 どういうことだ!?


『ヒャッハッハッハ! 俺達はこのゲームがリリースされて以来、毎日寝る時間以外は、全てこのゲームにヒャハらせてきたからな。アイテムの場所は全てヒャハッてんだよお! 因みに俺の特殊技、【蛇蝎だかつ】は、毒霧を浴びたやつ全員の足を暫く遅くする効果があるからなあ。もう逃げらんねえぜえ』

「そんな!?」


 そうはそれでどうなの!?

 完全にニートなことが確定したじゃん!!

 マジで生活どうしてんだこいつら!?

 ……だが、これはピンチだぞ。

 つまり一郎の亀も、装獣熱ビーストゲージはマックスってことだ。

 見たところタンク系みたいだから、防御寄りの特殊技なのかもしれない。

 僕ら三人は火力に乏しいから、このままじゃジリ貧だ。


「ともくん! 今私がそっちに行くから!」

「まーちゃん!?」


 で、でも、そしたら4機になって、ペナルティでHPが減っちゃうよ!?


「すぐに全滅させればいいだけの話だよ! そしたら5対2になるから、後は数で圧倒出来るよ」

「あ、うん」


 時々まーちゃんがちょっとだけ怖い!

 意外と好戦的なところあるよね、まーちゃんって!?


『ヒャハハッ! そーはさせないよ』

「っ!?」


 何事かとまーちゃんのスマホの画面を横目で覗くと、カラスみたいな装獣戯画ビーストアートが、まーちゃんと梅先生に襲い掛かってくるところだった。

 カラスの星も4。


「フッ、どうやらママさんの登場らしいな」

「くっ! こんな時に!」

『ヒャハハッ! 可愛い息子の仇だよ! 【幻影の羽ミラージュフェザー】!』

「「「!」」」


 当然のようにママも装獣熱ビーストゲージは満タンだった。

 うぬぬ、この、装獣熱ビーストゲージの差は相当不利だな……。

 ママのカラスは、10機ほどに分身した。

 何だこの技は!?


『ヒャハッ! 【幻影の羽ミラージュフェザー】は本物そっくりの分身を作るのさ。もちろん本物は1機だけだよ。さあ、アタシとヒャハろうじゃないか!』

「もう!」

「フッ、安い挑発に乗るな足立。数ではこちらが有利なんだ。1機ずつ、確実に倒して本物を見つけていけばいい」

「むむむむ! ……わかりましたよ。ともくん、すぐ行くから、あと少しだけ粘って!」

「う、うん!」


 そうだ。

 どのみち僕らがこの三人と互角に戦えなかったら、僕らのチームが勝つ見込みは極めて低いんだ。

 せめてまーちゃんが来るまでの時間稼ぎくらいはしてみせる!


「勇斗くん、浅井君、バフはかけたよ!」

「美穂!」

「篠崎さん!」


 アルミラージャが杖をかざすと、僕らの機体に『攻撃力アップ』というメッセージが表示された。

 これがアルミラージャ固有の能力か!

 やっぱ補助役はどのゲームでも必須だよね!

 よし、僕も頑張らないと!


「このお!」


 僕はまず一番耐久力が低そうな、二郎の蛇を狙うことにした。

 標準を合わせ、弓を引き絞って矢を放つ。

 矢は真っ直ぐ蛇に向かって飛んでいった。

 やったか!?


『ヒャッハー! 【白金の甲羅プラチナムシェル】!』

「「「!!」」」


 が、僕の矢は蛇の前に立ちはだかった、一郎の亀に受け止められてしまった。

 しかもダメージは微々たるものしか与えられていない。

 これは!?


『ヒャッハッハ! 俺の【白金の甲羅プラチナムシェル】は、一定時間防御力を10倍にするんだ。お前らの攻撃なんてヒャでもねえんだよ!』


 10倍!?

 そんなのほぼ無敵じゃないか!?


『ヒャッヒャッヒャッヒャ! 降参するならヒャまの内だぜえ!』

「くうううッ!」




 ――それから。

 僕らも何とか応戦したものの、攻撃をことごとく亀に防がれ、まともなダメージを与えられずにいた。

 それに対して僕らのHPは徐々に削られている。

 このままじゃ本当にもたない……!


「……美穂、智哉」

「え?」

「勇斗?」


 その時、勇斗が覚悟を宿した瞳で、僕と篠崎さんの顔を交互に見た。

 ど、どうしたんだ勇斗!?


「……ここは俺が時間を稼ぐ。その隙にお前らは逃げてくれ」

「勇斗くん!?」

「なっ!? お、お前まさか!」

「――【星の盾アステリオスシールド】!」

「「っ!!」」


 勇斗ッ!?

 勇斗のゼノタウロスの身体が眩く輝いた。


「これで一定時間攻撃は俺だけに集中する。今の内に逃げるんだ!」

「そ、そんな……、勇斗くん……」


 お前……、死ぬつもりなんだな……。

 もう勇斗のゼノタウロスもHPは残り少ない。

 いくら防御力が上がっているとはいえ、3機の攻撃を一手に受けて、耐え切れるはずがない。

 ……くっ!


「嫌ッ! 私は嫌よ、勇斗くんを置いていくなんて!」

「美穂……」

「篠崎さん……」


 篠崎さんは今にも泣き出しそうな顔をしている。

 ……わかる。

 君の気持はわかるよ篠崎さん。

 僕だって、まーちゃんが勇斗みたいな立場だったとしたら……。

 ……でも。


「……篠崎さん、行こう」

「っ! ……浅井君」

「このままじゃ勇斗が無駄死にになっちゃうよ。勇斗のためにも、ここは一旦退いて、必ず勇斗の仇を僕達が討とう」

「う、うぅ……」


 篠崎さんは奥歯を嚙みしめながらも、ゆっくりと頷いた。

 勇斗は、「悪いな」とでも言いたげな顔で、僕を見つめていた。

 いいってことよ。


『ヒャッハー! こいつを倒したら、次はお前らだからな! ちょっとだけ寿命がヒャハるだけだぜえ!』


 ほざいてろ!

 今に見てろよッ!


「行こう! 篠崎さん!」

「う、うん!」

「美穂、智哉」

「「っ?」」


 何だ、勇斗?


「俺は止まんねぇからよ、お前らが止まんねぇかぎり、その先に俺はいるぞ! だからよ――止まるんじゃねぇぞ……」

「「っ!?!?」」


 勇斗ーーーー!?!?!?!?!?

 お前それ言いたかっただけだろ!?

 僕達の感動を返せ!!


『『『ヒャッハー!!!』』』

「うあああああああああ!!」


 僕と篠崎さんが逃げ去る後ろで、勇斗のゼノタウロスの撃墜音が聴こえた。

 団長……、いや、勇斗。

 お前の無念は、必ず僕らが晴らすからな。

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