今回のバトルフィールドは、巨木が辺り一面に広がっている大森林だった。
樹の一本一本が、
これでは遠くが一切見渡せない。
遠距離攻撃が専門の、僕のゲータウロスは相性が良くないかもな……。
「大森林だああああああヒャッホー!!!」
「まーちゃんそれ言いたいだけでしょ!?」
緊張感持ってよ、もう!
「あれ? 相手チームがボイスチャットを申請してきたよ。面白そうだから受けちゃってもいいよね?」
「えっ!? ま、まーちゃん、それはちょっと!?」
赤の他人とボイスチャットしながら戦うなんて、僕的には大分気まずいんですけど!?
「ポチッとな」
「まーちゃあああああん!!」
まーちゃんは受理ボタンを押してしまった。
ガッデム!!
すると――。
『ヒャッハー!! どこの誰だか知らねーが、残念だったなお前ら! 今から俺達がお前らを、ヒャッハヒャハにしてやんよ!』
『ヒャッハー!!』
『ヒャッハッハー!!』
「っ!?」
こ、この声と喋り方は!?
「あ、この声、あなた達いつぞやの、世紀末ザコ兄弟でしょ?」
『『『ヒャハッ!?』』』
まーちゃんこいつらにそんなあだ名つけてたの!?
まーちゃんてたまに辛辣だよね!?
『ま、まさかお前は、ヒャハ気道女!? ……チィ! ここで会ったがヒャハ年目だぜ! パパ! ママ!』
っ!?
パパママ!?!?
『ヒャハハハハハハハ。こいつなのか息子達よ、お前達をあべししたのは?』
『そうなんだよパパ!』
『まったく情けないねえ。ま、可愛い息子達の仇だ。精々痛い目見てもらうよ』
『やっちゃってくれよママー!』
こいつら家族でスマホゲーやってんの!?!?
てか、パパとママて……。
お前らそんなキャラだったのかよ……。
むしろ、平日の昼間から一家揃ってゲームやってて、生活は大丈夫なのか?
「へっへへー、今回も私達が勝っちゃうから、精々頑張ってね世紀末ザコ一家さん」
『『『『『ヒャッハー!!!!!』』』』』
まーちゃん……。
僕の彼女はなんて煽り力が高いんだろう……。
こうしてここに、世紀末ザコ一家との、血で血を洗う争いの幕が切って落とされたのであった(ゲッソリ)。
「フッ、では一ヶ所に固まっているとHPが減ってしまうからな。私と智哉がペアで行動するから、他の三人はあっちを散策してくれ」
「なっ!? 何でともくんとあなたがペアなんですか!? ともくんのペアは私ですッ!」
あわわわわわ。
ついさっき意気投合したと思ったらこれだよ。
どうして仲良くできないの!?
「フッ、だが足立、私のバルファルトは星5だ。3機のチームに入ったらバランスが悪くなってしまうぞ?」
「ぐっ」
うむ、それは一理あるな。
戦力のバランスを考えれば、星5の梅先生は2機のチームに入ってもらったほうがいいだろう。
「じゃ、じゃあ、峰岸先生のペアは私が務めます! ともくんとペアを組ませるよりはマシですッ!」
「フッ、仕方ない。今回はそれで譲ってやる」
……まあ、何はともあれ、両者が納得してくれたなら、僕は何でもいいよ。
「よし、そんじゃ俺達はあっちに行ってみようぜ、美穂、智哉」
「うん、勇斗くん!」
「あ、うん」
こうして勇斗・篠崎さん・僕の3人は、西の方角に向かうことにしたのだった。
「おっ、何だあれ?」
「え?」
勇斗の進行方向上に、明らかに他の樹と色が異なっている樹があり、その下に木箱みたいなものが置かれていた。
ああ、あれは――。
「さっきチュートリアルで言ってたじゃないか。あれはアイテムボックスだよ。あの中に各種アイテムがランダムで隠されてるらしいよ」
「ああ、あれがそうなのか。よし、早速いただくぜ」
勇斗のゼノタウロスが木箱を斧で破壊した。
勇斗は昔からゲームの説明書とかも読まないタイプだもんな(因みに僕はちゃんと読んでからやるタイプ)。
「ん? 何だこのアイテム? って、うおっ!」
木箱から出てきたガソリンタンクみたいなアイテムを取ると、ゼノタウロスの
「へえ、あれで
「ううん、気にしないで。その代わり、何かあったら勇斗くんが私を守ってね」
「ああ、任せてくれ」
……。
相変わらずお安くないなッ!!
ちょっとだけ微居君の気持ちがわかったよ、僕!
『【
「「「!!」」」
その時だった。
横合いの茂みから突如として、猪みたいな
あ、危ないッ!
「美穂ッ!」
「っ! ゆ、勇斗くん!」
が、間一髪勇斗が篠崎さんの盾となり、代わりに敵の攻撃を受けたのだった。
とはいえ、今の一撃だけで勇斗のHPは半分近く減ってしまった。
耐久力が低いアルミラージャが喰らっていたら、致命傷だったかもしれない……。
今のが敵の特殊技か!?
勇斗同様、どこかでガソリンタンクのアイテムを拾ってたのか。
『ヒャッハー! よく庇ったな! でもどの道、お前らがヒャハるのは時間の問題だぜえ。
っ!
三男と思われる猪野郎が呼び掛けると、その後ろから亀みたいな
3機共星は4だ。
てか、長男が一郎で、次男が二郎って名前なの?
……まあ、いいんだけどさ。
『ヒャッハー! よく見つけたぞ
『『ヒャッハー!!』』
三男は公彦なの!?
三郎じゃないの!?
次男と三男の間に、両親にどんな心境の変化があったの!?
『喰らいな、【
「「「っ!」」」
二郎の蛇が、紫色の毒霧みたいなものを僕達に浴びせてきた。
なっ!?
こいつも
どういうことだ!?
『ヒャッハッハッハ! 俺達はこのゲームがリリースされて以来、毎日寝る時間以外は、全てこのゲームにヒャハらせてきたからな。アイテムの場所は全てヒャハッてんだよお! 因みに俺の特殊技、【
「そんな!?」
そうはそれでどうなの!?
完全にニートなことが確定したじゃん!!
マジで生活どうしてんだこいつら!?
……だが、これはピンチだぞ。
つまり一郎の亀も、
見たところタンク系みたいだから、防御寄りの特殊技なのかもしれない。
僕ら三人は火力に乏しいから、このままじゃジリ貧だ。
「ともくん! 今私がそっちに行くから!」
「まーちゃん!?」
で、でも、そしたら4機になって、ペナルティでHPが減っちゃうよ!?
「すぐに全滅させればいいだけの話だよ! そしたら5対2になるから、後は数で圧倒出来るよ」
「あ、うん」
時々まーちゃんがちょっとだけ怖い!
意外と好戦的なところあるよね、まーちゃんって!?
『ヒャハハッ! そーはさせないよ』
「っ!?」
何事かとまーちゃんのスマホの画面を横目で覗くと、カラスみたいな
カラスの星も4。
「フッ、どうやらママさんの登場らしいな」
「くっ! こんな時に!」
『ヒャハハッ! 可愛い息子の仇だよ! 【
「「「!」」」
当然のようにママも
うぬぬ、この、
ママのカラスは、10機ほどに分身した。
何だこの技は!?
『ヒャハッ! 【
「もう!」
「フッ、安い挑発に乗るな足立。数ではこちらが有利なんだ。1機ずつ、確実に倒して本物を見つけていけばいい」
「むむむむ! ……わかりましたよ。ともくん、すぐ行くから、あと少しだけ粘って!」
「う、うん!」
そうだ。
どのみち僕らがこの三人と互角に戦えなかったら、僕らのチームが勝つ見込みは極めて低いんだ。
せめてまーちゃんが来るまでの時間稼ぎくらいはしてみせる!
「勇斗くん、浅井君、バフはかけたよ!」
「美穂!」
「篠崎さん!」
アルミラージャが杖をかざすと、僕らの機体に『攻撃力アップ』というメッセージが表示された。
これがアルミラージャ固有の能力か!
やっぱ補助役はどのゲームでも必須だよね!
よし、僕も頑張らないと!
「このお!」
僕はまず一番耐久力が低そうな、二郎の蛇を狙うことにした。
標準を合わせ、弓を引き絞って矢を放つ。
矢は真っ直ぐ蛇に向かって飛んでいった。
やったか!?
『ヒャッハー! 【
「「「!!」」」
が、僕の矢は蛇の前に立ちはだかった、一郎の亀に受け止められてしまった。
しかもダメージは微々たるものしか与えられていない。
これは!?
『ヒャッハッハ! 俺の【
10倍!?
そんなのほぼ無敵じゃないか!?
『ヒャッヒャッヒャッヒャ! 降参するならヒャまの内だぜえ!』
「くうううッ!」
――それから。
僕らも何とか応戦したものの、攻撃をことごとく亀に防がれ、まともなダメージを与えられずにいた。
それに対して僕らのHPは徐々に削られている。
このままじゃ本当にもたない……!
「……美穂、智哉」
「え?」
「勇斗?」
その時、勇斗が覚悟を宿した瞳で、僕と篠崎さんの顔を交互に見た。
ど、どうしたんだ勇斗!?
「……ここは俺が時間を稼ぐ。その隙にお前らは逃げてくれ」
「勇斗くん!?」
「なっ!? お、お前まさか!」
「――【
「「っ!!」」
勇斗ッ!?
勇斗のゼノタウロスの身体が眩く輝いた。
「これで一定時間攻撃は俺だけに集中する。今の内に逃げるんだ!」
「そ、そんな……、勇斗くん……」
お前……、死ぬつもりなんだな……。
もう勇斗のゼノタウロスもHPは残り少ない。
いくら防御力が上がっているとはいえ、3機の攻撃を一手に受けて、耐え切れるはずがない。
……くっ!
「嫌ッ! 私は嫌よ、勇斗くんを置いていくなんて!」
「美穂……」
「篠崎さん……」
篠崎さんは今にも泣き出しそうな顔をしている。
……わかる。
君の気持はわかるよ篠崎さん。
僕だって、まーちゃんが勇斗みたいな立場だったとしたら……。
……でも。
「……篠崎さん、行こう」
「っ! ……浅井君」
「このままじゃ勇斗が無駄死にになっちゃうよ。勇斗のためにも、ここは一旦退いて、必ず勇斗の仇を僕達が討とう」
「う、うぅ……」
篠崎さんは奥歯を嚙みしめながらも、ゆっくりと頷いた。
勇斗は、「悪いな」とでも言いたげな顔で、僕を見つめていた。
いいってことよ。
『ヒャッハー! こいつを倒したら、次はお前らだからな! ちょっとだけ寿命がヒャハるだけだぜえ!』
ほざいてろ!
今に見てろよッ!
「行こう! 篠崎さん!」
「う、うん!」
「美穂、智哉」
「「っ?」」
何だ、勇斗?
「俺は止まんねぇからよ、お前らが止まんねぇかぎり、その先に俺はいるぞ! だからよ――止まるんじゃねぇぞ……」
「「っ!?!?」」
勇斗ーーーー!?!?!?!?!?
お前それ言いたかっただけだろ!?
僕達の感動を返せ!!
『『『ヒャッハー!!!』』』
「うあああああああああ!!」
僕と篠崎さんが逃げ去る後ろで、勇斗のゼノタウロスの撃墜音が聴こえた。
団長……、いや、勇斗。
お前の無念は、必ず僕らが晴らすからな。