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第26話:装獣戯画〔ビーストアート〕③

「篠崎さん、あれ!」

「え?」


 勇斗の尊い犠牲で命からがら逃げてきた僕と篠崎さんは、色が異なっている樹の下にアイテムボックスを見つけた。

 どうやらアイテムボックスは、色が異なっている樹の下にあるのが法則らしい。

 僕はすかさず矢でアイテムボックスを破壊した。

 すると、中からスパナみたいな形をしたアイテムが出てきた。

 こ、これはッ!


「篠崎さん、これはHPをある程度回復するアイテムだよ! 篠崎さんが取って!」

「え、で、でも……、HPが減ってるのは浅井君もだし……」

「ううん、ここはサポート機能が充実してる篠崎さんが取るべきだよ。僕の代わりは誰でも出来るけど、篠崎さんの代わりはいないんだから」

「でも……」

「美穂、智哉の言う通りだ。これは美穂が取るべきだよ。その代わり、最後までしっかりみんなをサポートしてやってくれ」

「勇斗くん」


 勇斗は篠崎さんの肩に手を置きながら、優しく微笑んだ。

 それを受けて、篠崎さんは意を決したように唇をギュッと引き結んだ。


「わかった、私頑張る!」

「ああ、頑張れ」


 勇斗は篠崎さんの頭をポンポンした。

 後にしようか!?

 まだ対戦中なんだよ!?

 はあぁ~。

 マジで今なら微居君と美味い酒が飲める気がする(未成年)。

 微居君ちょっとだけ岩貸してくんないかな?

 二人で岩でセッションしない?


「あ、結構HP回復したよ、勇斗くん!」

「そうか、よかったな」


 よし、これで多少は戦況的にマシになったぞ。

 そういえばまーちゃんの方は――。


『ヒャッハー! ここにいやがったかあ! ヒャく悟しやがれえ!!』

「「!!」」


 が、ホッとしたのも束の間。

 公彦の猪に見つかってしまった。

 こいつは猪だけあって、足は相当速いらしいな。

 だが今なら2対1だ。

 一郎と二郎が追い付く前に、何とか倒したいところだが……。


「浅井君、バフかけたよ!」

「っ!」


 アルミラージャが杖をかざすと、僕らの機体に『防御力アップ』というメッセージが表示された。

 逃げている途中に篠崎さんから聞いた話によると、アルミラージャのバフは常に一種類しかかけられないらしい。

 つまりこの状態から更に『攻撃力アップ』を重ねがけは出来ない。

 僕的にはここは『攻撃力アップ』で一気に勝負を決めた方がいいと思うのだが、篠崎さんが守りを固めるべきだと判断したなら、それに従おう。


「ありがとう篠崎さん! とにかく無理はせず、『いのちだいじに』をモットーに、何とかここを凌ごう!」

「うん!」

『ヒャッハッハ! そうは問ヒャが卸すかよお! オラァ!!』

「「っ!?」」


 公彦の突進を僕はモロに喰らってしまった。

 チィ!

 こいつ、攻撃は直線的だけど、その分かなり攻撃力が高めに設定されてるみたいだ。

 やっぱ防御力にバフかけておいてもらって正解だったみたいだな。

 ゲータウロスとアルミラージャはどちらも耐久力はあまりない。

 バフがかかってなかったら、耐えきれなかったかもしれない。


「おっまたせー!」

『ヒャッ!?』

「「!!」」


 その時だった。

 木々を掻き分けながらまーちゃんのカマソーソが颯爽と現れ、公彦の背中を鋭い爪で斬り裂いた。

 まーちゃああああん!!!


「そっちはもう大丈夫なの?」

「うん、ある程度分身の数は減らしたから、あとは峰岸先生が任せとけって」

「へえ」


 横目で梅先生のスマホを覗くと、ヒャッハーママの分身は、あと2機にまで減っていた。

 梅先生は不敵な笑みで、その分身達と対峙している。

 よし、これで大分形勢はこちらが有利だ。


『このヒャろおお!!! パパにもぶたれたことないのに!』


 お前意外と甘やかされてんだな!?


「ともくん、今ので私、装獣熱ビーストゲージが溜まったよ! 私の【翼王の咆哮ジャターユスロアー】で、こいつを屠るから!」

「まーちゃん!?」


 ちょいちょい言い回しが物騒だねまーちゃんは!?

 でも、確か【翼王の咆哮ジャターユスロアー】は、威力が高い代わりに直線上にしか攻撃範囲がなかったはずだ。

 公彦の素早い動きでは、避けられてしまうのでは……。

 ――そうか!


「まーちゃん! ここは僕に任せて!」

「え? ともくん?」

「オイ公彦! お前のかーちゃんでーべそー」

「ともくん!?」

『ヒャッ!? テ、テメェ!!!』


 我ながら古典的な挑発だという自覚はあるが、家族想いなこいつのことだ、きっと引っ掛かるはず。


『うちのママはでべそなんかじゃねえ!!! スッと縦長で小さい、理想の美へそなんだぞ!! 俺はママのへその画像を、スマホの待ち受けにしてんだかんなッ!!』


 大分マザコン拗らせてんな!?

 興奮し過ぎてヒャハ語も忘れてるし。


『もうお前だけは絶対許さねえ!! さっきので俺も装獣熱ビーストゲージが再度溜まった! 俺の【猪突盲信ブラインドチャージ】で、お前をぶっ殺してやる!!!』


 公彦が僕に身体を向けてきた。

 ……よし、来い。


「ともくんッ!!」

「浅井君!」

『【猪突盲信ブラインドチャージ】!!』


 公彦が物凄い速さで突進してきた。

 僕は構わず正面から公彦に何度も矢を放つ。

 だがまだHPに余裕がある公彦は、僕の攻撃くらいではビクともしない。


『ヒャッハー! これで終わりだあああああ!!!』

「いや、終わりなのはお前の方だ」

『ヒャッ!?』


 公彦の突進が僕に当たる直前でピタリと止まった。

 公彦の機体の影には、僕が放った矢が深々と突き刺さっている。


『ヒャヒャヒャッ!? こ、これは!?』

「――【影縫かげぬい】だよ」

『ヒャに!?』

「ともくん!」

「浅井君!」


 僕の特殊技【影縫かげぬい】は、矢を相手の影に当てると一定時間行動を封じる効果がある。

 実は僕もあと少しで装獣熱ビーストゲージが溜まるところだったんだ。

 これでまーちゃんの【翼王の咆哮ジャターユスロアー】も、確実に公彦に当てることが出来る。


「まーちゃん! 今だよ!」

「ありがとう、ともくん! 愛してるよッ!」

「っ!」


 サラッと告白してくるのはやめてッ!(赤面)

 まーちゃんはまた右手で顔を抑えるような仕草をした。

 おや? このポーズは……?


小夜さよを舞う三対の翼よ、くうを斬り裂く尖鋭せんえいなる爪よ――」

「「「っ!?」」」


 まーちゃん!?

 ま、まさかまた!?


「月を背負え、宵闇を統べろ、の者を狩り、その燈火ともしびを吹き消せ。――絶技【翼王の咆哮ジャターユスロアー】!!!」

「「「っ!?!?!?」」」


 まーちゃああああん!!!!!!!

 アーイタタタタタタタタタァ……(デジャブ)。

 まーちゃんの中二化がとどまることを知らないッ!


『ヒャッ……ヒャッ……、ヒャッハアアアアアアアアア!!!』


 カマソーソの合わせた手のひらから放たれた【翼王の咆哮ジャターユスロアー】が、公彦の機体をズタズタに斬り裂いた。

 そして公彦を撃墜した旨が、画面に表示されたのであった。

 ……ふぅ。

 何はともあれ、これで数的には4対4のイーブンだな。


『ヒャハッ!? き、公彦おおおおおおお!!!!!』

『ヒャハ彦おおおおおおお!!!!!』

「「「!」」」


 が、間髪入れずに一郎と二郎も合流してしまった。

 だが一歩遅かったな。

 今は3対2でこちらが有利だ。

 このままお前らも屠ってやる!(まーちゃんの性格が移ってきた)

 ……そういえば、ここまでまったくヒャッハーパパが姿を見せてないけど、どこにいるんだろう?


『ぶっ殺す!!! ヒャハ彦の仇だッ!!!』


 一郎が息巻いて宣言してきた。

 最早名前がヒャハ彦になってるけど、まあいいか……。


「フッ、だが残念だな。死ぬのはお前達のほうみたいだぞ?」

『ヒャヒャッ!?』

「「「っ!!」」」


 その刹那、二本の大剣を豪快に一郎の亀に叩きつけながら、満を持して梅先生が駆けつけたのであった。

 う、梅先生!?


「梅先生、ヒャッハーママは大丈夫なんですか!? それに、一ヶ所に4機が集まると、HPが減っちゃいますよ!」

「フッ、その心配なら無用だ智哉。ホラ、来たぞ?」

「え?」

『ヒャハハハハッ! 逃がさないよお!!!』

『『ママー!』』

「「「!」」」


 ヒャッハーママも合流してしまった。

 これで数は4対3。

 むしろHPが減ってしまう分、こちらが不利なのでは!?

 梅先生とヒャッハーママもHPが半分以上減っていることからも、かなりの激戦だったことが窺える。

 ……ん? HPが半分?

 ま、まさか!?


「フッ、その通りだ智哉。今ので私も溜まったんだよ――装獣熱ビーストゲージがな!」

「「「!!」」」

『『『ヒャに!?』』』

「……後は頼んだぞ」


 ――!

 梅先生ッ!!


「――【淪滅りんめつ】!」

『『『ヒャ、ヒャッハアアアアアアアアアア!?!?!?』』』


 バルファルトの全身から球状の青白い爆風が辺り一面に広がり、ヒャッハーママ・一郎・二郎の機体を一瞬で消し炭にしてしまった。

 な、何て威力だ……。

 流石星5。

 でも、今ので……。


「フッ、これで残る敵は1機だけだ。お前達三人だけでも、これなら勝てるだろう?」


 【淪滅りんめつ】は自らのHPも半分犠牲にするので、これで梅先生も脱落してしまった。


「……ふん、美味しいところを横取りしないでくださいよ。あのままでもきっと私達は勝ててたのに」

「フッ、そうか」


 悪態をついてはいるものの、まーちゃんの雰囲気的に梅先生がファインプレーをしたことは認めているみたいだ。

 確かにこれで大分僕らが有利だろう。

 ――問題は残るヒャッハーパパがどこにいるかということだが。


『――ヒャハハハハハハハ。小童共が、精々今のうちヒャハッておくがいいわ』

「「「!!」」」


 ――などと思っていた矢先。

 王者の風格を漂わせながら、前方からゆっくりとヒャッハーパパの機体がその姿を現したのだった。

 ――それはライオンを模した機体だった。

 ランクは星5。

 ……くっ、ラスボス登場ってわけか。

 こちらは3機いるとはいえ満身創痍の状態だ。

 しかも相手はおそらく装獣熱ビーストゲージが溜まっている。

 ……これは、むしろこちらの方が不利なのか?


「ともくん、大丈夫だよ」

「っ! まーちゃん?」


 まーちゃんは真っ直ぐな瞳で僕を見つめながら、こう言った。


「あなたは死なないわ……。私が守るもの」

「っ!?!?」


 みんなロボットアニメの名台詞言いたすぎじゃない!?

 ……でも、泣いても笑ってもこれが最後の戦いだ。

 収めてみせるぜ、勝利をッ!(倒置法)

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