「篠崎さん、あれ!」
「え?」
勇斗の尊い犠牲で命からがら逃げてきた僕と篠崎さんは、色が異なっている樹の下にアイテムボックスを見つけた。
どうやらアイテムボックスは、色が異なっている樹の下にあるのが法則らしい。
僕はすかさず矢でアイテムボックスを破壊した。
すると、中からスパナみたいな形をしたアイテムが出てきた。
こ、これはッ!
「篠崎さん、これはHPをある程度回復するアイテムだよ! 篠崎さんが取って!」
「え、で、でも……、HPが減ってるのは浅井君もだし……」
「ううん、ここはサポート機能が充実してる篠崎さんが取るべきだよ。僕の代わりは誰でも出来るけど、篠崎さんの代わりはいないんだから」
「でも……」
「美穂、智哉の言う通りだ。これは美穂が取るべきだよ。その代わり、最後までしっかりみんなをサポートしてやってくれ」
「勇斗くん」
勇斗は篠崎さんの肩に手を置きながら、優しく微笑んだ。
それを受けて、篠崎さんは意を決したように唇をギュッと引き結んだ。
「わかった、私頑張る!」
「ああ、頑張れ」
勇斗は篠崎さんの頭をポンポンした。
後にしようか!?
まだ対戦中なんだよ!?
はあぁ~。
マジで今なら微居君と美味い酒が飲める気がする(未成年)。
微居君ちょっとだけ岩貸してくんないかな?
二人で岩でセッションしない?
「あ、結構HP回復したよ、勇斗くん!」
「そうか、よかったな」
よし、これで多少は戦況的にマシになったぞ。
そういえばまーちゃんの方は――。
『ヒャッハー! ここにいやがったかあ! ヒャく悟しやがれえ!!』
「「!!」」
が、ホッとしたのも束の間。
公彦の猪に見つかってしまった。
こいつは猪だけあって、足は相当速いらしいな。
だが今なら2対1だ。
一郎と二郎が追い付く前に、何とか倒したいところだが……。
「浅井君、バフかけたよ!」
「っ!」
アルミラージャが杖をかざすと、僕らの機体に『防御力アップ』というメッセージが表示された。
逃げている途中に篠崎さんから聞いた話によると、アルミラージャのバフは常に一種類しかかけられないらしい。
つまりこの状態から更に『攻撃力アップ』を重ねがけは出来ない。
僕的にはここは『攻撃力アップ』で一気に勝負を決めた方がいいと思うのだが、篠崎さんが守りを固めるべきだと判断したなら、それに従おう。
「ありがとう篠崎さん! とにかく無理はせず、『いのちだいじに』をモットーに、何とかここを凌ごう!」
「うん!」
『ヒャッハッハ! そうは問ヒャが卸すかよお! オラァ!!』
「「っ!?」」
公彦の突進を僕はモロに喰らってしまった。
チィ!
こいつ、攻撃は直線的だけど、その分かなり攻撃力が高めに設定されてるみたいだ。
やっぱ防御力にバフかけておいてもらって正解だったみたいだな。
ゲータウロスとアルミラージャはどちらも耐久力はあまりない。
バフがかかってなかったら、耐えきれなかったかもしれない。
「おっまたせー!」
『ヒャッ!?』
「「!!」」
その時だった。
木々を掻き分けながらまーちゃんのカマソーソが颯爽と現れ、公彦の背中を鋭い爪で斬り裂いた。
まーちゃああああん!!!
「そっちはもう大丈夫なの?」
「うん、ある程度分身の数は減らしたから、あとは峰岸先生が任せとけって」
「へえ」
横目で梅先生のスマホを覗くと、ヒャッハーママの分身は、あと2機にまで減っていた。
梅先生は不敵な笑みで、その分身達と対峙している。
よし、これで大分形勢はこちらが有利だ。
『このヒャろおお!!! パパにもぶたれたことないのに!』
お前意外と甘やかされてんだな!?
「ともくん、今ので私、
「まーちゃん!?」
ちょいちょい言い回しが物騒だねまーちゃんは!?
でも、確か【
公彦の素早い動きでは、避けられてしまうのでは……。
――そうか!
「まーちゃん! ここは僕に任せて!」
「え? ともくん?」
「オイ公彦! お前のかーちゃんでーべそー」
「ともくん!?」
『ヒャッ!? テ、テメェ!!!』
我ながら古典的な挑発だという自覚はあるが、家族想いなこいつのことだ、きっと引っ掛かるはず。
『うちのママはでべそなんかじゃねえ!!! スッと縦長で小さい、理想の美へそなんだぞ!! 俺はママのへその画像を、スマホの待ち受けにしてんだかんなッ!!』
大分マザコン拗らせてんな!?
興奮し過ぎてヒャハ語も忘れてるし。
『もうお前だけは絶対許さねえ!! さっきので俺も
公彦が僕に身体を向けてきた。
……よし、来い。
「ともくんッ!!」
「浅井君!」
『【
公彦が物凄い速さで突進してきた。
僕は構わず正面から公彦に何度も矢を放つ。
だがまだHPに余裕がある公彦は、僕の攻撃くらいではビクともしない。
『ヒャッハー! これで終わりだあああああ!!!』
「いや、終わりなのはお前の方だ」
『ヒャッ!?』
公彦の突進が僕に当たる直前でピタリと止まった。
公彦の機体の影には、僕が放った矢が深々と突き刺さっている。
『ヒャヒャヒャッ!? こ、これは!?』
「――【
『ヒャに!?』
「ともくん!」
「浅井君!」
僕の特殊技【
実は僕もあと少しで
これでまーちゃんの【
「まーちゃん! 今だよ!」
「ありがとう、ともくん! 愛してるよッ!」
「っ!」
サラッと告白してくるのはやめてッ!(赤面)
まーちゃんはまた右手で顔を抑えるような仕草をした。
おや? このポーズは……?
「
「「「っ!?」」」
まーちゃん!?
ま、まさかまた!?
「月を背負え、宵闇を統べろ、
「「「っ!?!?!?」」」
まーちゃああああん!!!!!!!
アーイタタタタタタタタタァ……(デジャブ)。
まーちゃんの中二化がとどまることを知らないッ!
『ヒャッ……ヒャッ……、ヒャッハアアアアアアアアア!!!』
カマソーソの合わせた手のひらから放たれた【
そして公彦を撃墜した旨が、画面に表示されたのであった。
……ふぅ。
何はともあれ、これで数的には4対4のイーブンだな。
『ヒャハッ!? き、公彦おおおおおおお!!!!!』
『ヒャハ彦おおおおおおお!!!!!』
「「「!」」」
が、間髪入れずに一郎と二郎も合流してしまった。
だが一歩遅かったな。
今は3対2でこちらが有利だ。
このままお前らも屠ってやる!(まーちゃんの性格が移ってきた)
……そういえば、ここまでまったくヒャッハーパパが姿を見せてないけど、どこにいるんだろう?
『ぶっ殺す!!! ヒャハ彦の仇だッ!!!』
一郎が息巻いて宣言してきた。
最早名前がヒャハ彦になってるけど、まあいいか……。
「フッ、だが残念だな。死ぬのはお前達のほうみたいだぞ?」
『ヒャヒャッ!?』
「「「っ!!」」」
その刹那、二本の大剣を豪快に一郎の亀に叩きつけながら、満を持して梅先生が駆けつけたのであった。
う、梅先生!?
「梅先生、ヒャッハーママは大丈夫なんですか!? それに、一ヶ所に4機が集まると、HPが減っちゃいますよ!」
「フッ、その心配なら無用だ智哉。ホラ、来たぞ?」
「え?」
『ヒャハハハハッ! 逃がさないよお!!!』
『『ママー!』』
「「「!」」」
ヒャッハーママも合流してしまった。
これで数は4対3。
むしろHPが減ってしまう分、こちらが不利なのでは!?
梅先生とヒャッハーママもHPが半分以上減っていることからも、かなりの激戦だったことが窺える。
……ん? HPが半分?
ま、まさか!?
「フッ、その通りだ智哉。今ので私も溜まったんだよ――
「「「!!」」」
『『『ヒャに!?』』』
「……後は頼んだぞ」
――!
梅先生ッ!!
「――【
『『『ヒャ、ヒャッハアアアアアアアアアア!?!?!?』』』
バルファルトの全身から球状の青白い爆風が辺り一面に広がり、ヒャッハーママ・一郎・二郎の機体を一瞬で消し炭にしてしまった。
な、何て威力だ……。
流石星5。
でも、今ので……。
「フッ、これで残る敵は1機だけだ。お前達三人だけでも、これなら勝てるだろう?」
【
「……ふん、美味しいところを横取りしないでくださいよ。あのままでもきっと私達は勝ててたのに」
「フッ、そうか」
悪態をついてはいるものの、まーちゃんの雰囲気的に梅先生がファインプレーをしたことは認めているみたいだ。
確かにこれで大分僕らが有利だろう。
――問題は残るヒャッハーパパがどこにいるかということだが。
『――ヒャハハハハハハハ。小童共が、精々今のうちヒャハッておくがいいわ』
「「「!!」」」
――などと思っていた矢先。
王者の風格を漂わせながら、前方からゆっくりとヒャッハーパパの機体がその姿を現したのだった。
――それはライオンを模した機体だった。
ランクは星5。
……くっ、ラスボス登場ってわけか。
こちらは3機いるとはいえ満身創痍の状態だ。
しかも相手はおそらく
……これは、むしろこちらの方が不利なのか?
「ともくん、大丈夫だよ」
「っ! まーちゃん?」
まーちゃんは真っ直ぐな瞳で僕を見つめながら、こう言った。
「あなたは死なないわ……。私が守るもの」
「っ!?!?」
みんなロボットアニメの名台詞言いたすぎじゃない!?
……でも、泣いても笑ってもこれが最後の戦いだ。
収めてみせるぜ、勝利をッ!(倒置法)