「はあ~、痛たたた」
「ん? どうしたのまーちゃん?」
今日はまーちゃんと今話題の、『転生したら織田信長のチョンマゲだった件 ~いや、これから本能寺行くんすか!? お願いだから考え直して!!~』という映画を観てきたのだが(因みに凄くつまらなかった……)、その帰りに駅前を歩いていると、まーちゃんが肩を押さえながら苦悶の表情を浮かべた。
「うん、何か最近凄く肩がこるんだよねー。また胸が大きくなったせいかな?」
「……ああ」
まーちゃんは自らのおっぷぁいをたゆんと持ち上げてみせた。
確かにそれは僕も感じていたよ。
何というか最近のまーちゃんのはこう…………、いや、これ以上はやめておこう(オイ!)。
「へっへーん、でも今日の私には秘密兵器があるんだ!」
「秘密兵器?」
まーちゃんはバッグの中から、手のひらサイズの謎の器具を取り出した。
何それ?
「これはね、マッサージ機だよ!」
「へえ、それが」
最近のマッサージ機はそんなにコンパクトなんだね。
まーちゃんは二つある器具を、それぞれ左右の肩に装着した。
そしてそれとは別の独立した器具を手に持つと、それに付いているダイヤルを徐々に回し始めた。
「ひゃうんっ」
「っ!?」
まーちゃん!?
どうしたの!?
「ご、こめんね。マッサージがあまりに気持ち良かったもんだから、つい」
「そ、そうなんだ」
まーちゃんはうっとりとした表情で、更にダイヤルを回した。
「ひやあっ、らめ、らめぇっ」
「まーちゃん!?!?」
街中で何て声を出してるんだい!?
周りの人に誤解されたらどうするの!?
「ごめんね……。気持ち良すぎて、どうしても声が出ちゃうの」
「そんなに気持ち良いんだ……」
最新型のマッサージ機恐るべし。
それともまーちゃんが感じやすいだけなのか?
「……ねえともくん、次はともくんがやって」
「えっ!?」
まーちゃんはダイヤルが付いた器具を、僕に手渡してきた。
僕がまーちゃんにマッサージするの!?
な、何だか凄くいけないことをしてるような気がするんだけど……。
……いやいや、何を言ってるんだ僕は。
これはただのマッサージじゃないか。
そう、これはただのマッサージ!
大事なことだから二回(ry
今から僕達はマッサージをするだけなんだから、そこのところくれぐれもよろしく頼むよ!(誰に言ってるの?)
「じゃ、じゃあ……、いくよ?」
「うん。……きて」
きてはおかしくない?
ま、まあいいか。
僕はゆっくりと、ダイヤルを回した。
「あぁっ、と、ともくん……! ともくぅんっ!」
「まーちゃん!?」
何か声がアレなんだよな!?
重ねて言うけどこれはマッサージだからねッ!
マッサージ以外の、何ものでもないんだからねッッ!!(必死)
……でも、マッサージで悶えてるまーちゃん可愛いな。
もうちょっとだけ、可愛いまーちゃんが見てみたいな。
僕は背徳感に苛まれながらも、ダイヤルを回す手を止められなかった。
「ああああぁっ! ともくんッ!! 私……、もうッ」
まーちゃん。
ああ、可愛い僕のまーちゃん。
ダイヤルぐりぐり。
「ふあああああぁんッ! らめえええええッ! もう……もう――――ニャッポリート!」
「ニャッポリート!?」
何それ!?
「……はぁはぁはぁ。……ニャッポリートは私が考えた造語で、特に意味はないんだけど、気分が高まった時とかに使うの……。昔の女子高校が使ってた、『マジ卍』みたいなものかな」
「へ、へえ」
まーちゃんは恍惚とした表情を浮かべながら、息を切らせている。
よくわからないけど、余程気持ち良かったってことなのかな?
まあ、肩のこりが
「ありがとともくん。大分楽になったよ」
「いえいえ、どういたしまして」
僕はダイヤル回してただけだし。
そもそも僕がやる意味あったのかな、これ?
「あ! 急げば次の電車乗れるよ! イこイこ、ともくん!」
「ぬえっ!? いやだから引っ張らないでよ、まーちゃん!」
いつもの如くまーちゃんに腕をグイグイと引かれ、そして最近更に大きくなった、肉の沼みたいなおっぷぁいをむにゅむにゅ押し付けられながら、僕とまーちゃんは駅の改札をくぐった。
「ふぅ、ギリギリセーフ」
「ハァハァ、む、無理してこの電車に乗らなくてもよかったんじゃ……」
ちょうど帰宅ラッシュの時間と重なってしまったのか、休日だというのに電車は満員だ。
僕とまーちゃんはドアに身体を押し付けるような、窮屈な姿勢を強いられることになった。
「えへへ、た、確かにちょっと苦しいね」
走ったせいで身体が熱くなってしまったのか、まーちゃんは首筋にじんわりと汗を滲ませながら苦笑いを浮かべた。
――その時僕は気付いた。
まーちゃんが、まだ肩にマッサージ機を付けっぱなしだということを――。
そして僕の手には、マッサージ機のスイッチが握られたままだということを――!
……この時の感覚を僕は一生忘れないかもしれない。
普段はどちらかというとMに属するかもしれない僕だが(どちらかというと?)、そんな僕の中に、沸々と形容し難い感情が湧いてきたのであった。
――ここでマッサージ機のスイッチを入れたら、まーちゃんはどんな顔をするだろう。
悪魔の囁きとも言える誘惑に、この時の僕は抗う術を持っていなかった。
気が付くと僕は、ダイヤルを回していたのだった。
「えっ!? と、ともくん!?」
こんなところで!? とも言いたげな顔で、まーちゃんは助けを求めるような眼差しを僕に向けてきた。
でも当然僕は手を緩めるつもりはない。
ぐりぐりと、少しずつ、だが確実にダイヤルを回してゆく。
「――はっ、ともくぅん……。らめぇ……、らめらってばぁ」
身体をビクビクと震わせながら、まーちゃんは必死に声を押し殺そうとしている。
――ああ、可愛い。
可愛いよ僕のまーちゃん。
もっと――、もっとその可愛い顔を、僕だけに見せておくれ――。
ぐりぐりぐり。
ぐりぐりぐりぐり。
「ひゃはぁぁん。もう……、もうらめ……、出ちゃう……ニャッポリート出ちゃうよおぉぉ」
いいよ。
ニャッポリート出しちゃっていいよ。
さあ見せて。
まーちゃんがニャッポリートするところを、僕に見せて――。
ぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐり。
「あああぁあぁぁ、ニャッ、ニャニャニャッ……」
まーちゃん――!
「ニャッポリ――」
『肘川~。肘川~に到着です』
「「っ!」」
――が、まーちゃんがニャッポリートする直前で、僕らの家の最寄り駅である、肘川駅に着いてしまったのであった。
ドアが開くと同時に、車内の人がどっとホームに流れ出ていく。
そしてその流れに押されて、僕とまーちゃんもホームに降り立った。
「……」
「……」
僕は我に返った。
ああああああああああ!!
僕は何てイケナイことをしていたんだッ!?
い、いや、厳密に言うとただマッサージをしていただけなのだから、何もやましいことはしていないのだけれど……。
何と言うか……、僕の中に眠っていたドSの血が目覚めてしまったようで、僕は自分で自分が怖かった。
「……ご、ごめんねまーちゃん? 僕も、ちょっとやり過ぎちゃったよ」
「……」
僕の心からの謝罪も虚しく、まーちゃんはちょっとだけ眼に涙を浮かべながら、頬をぷくーと膨らませている。
う、うわあ、これは大分怒ってるな。
「……許さない」
「――!」
はわわわわわ。
どうしよう、まーちゃんをこんなに怒らせちゃうとは……。
何かないか……、何とかまーちゃんの機嫌を直す方法は……。
「……次はともくんの番だからね」
「……え?」
僕の番?
な、何が?
「マッサージ」
「っ!」
まーちゃんは僕が首に下げている、僕の誕生日にくれたリングネックレスを指で弾きながら、そう言った。
……お、おおふ。
「今夜はウチに泊ってね」
「あ……うん」
「朝までともくんをニャッポリートしちゃうからね」
「……」
まーちゃんは嗜虐的な笑みを浮かべながら、唇をぺろりと舐めた。
……やっぱドSっぷりじゃ、まーちゃんには適わないな。
このあと滅茶苦茶ニャッポリートした。