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第30話:マッサージ

「はあ~、痛たたた」

「ん? どうしたのまーちゃん?」


 今日はまーちゃんと今話題の、『転生したら織田信長のチョンマゲだった件 ~いや、これから本能寺行くんすか!? お願いだから考え直して!!~』という映画を観てきたのだが(因みに凄くつまらなかった……)、その帰りに駅前を歩いていると、まーちゃんが肩を押さえながら苦悶の表情を浮かべた。


「うん、何か最近凄く肩がこるんだよねー。また胸が大きくなったせいかな?」

「……ああ」


 まーちゃんは自らのおっぷぁいをたゆんと持ち上げてみせた。

 確かにそれは僕も感じていたよ。

 何というか最近のまーちゃんのはこう…………、いや、これ以上はやめておこう(オイ!)。


「へっへーん、でも今日の私には秘密兵器があるんだ!」

「秘密兵器?」


 まーちゃんはバッグの中から、手のひらサイズの謎の器具を取り出した。

 何それ?


「これはね、マッサージ機だよ!」

「へえ、それが」


 最近のマッサージ機はそんなにコンパクトなんだね。

 まーちゃんは二つある器具を、それぞれ左右の肩に装着した。

 そしてそれとは別の独立した器具を手に持つと、それに付いているダイヤルを徐々に回し始めた。


「ひゃうんっ」

「っ!?」


 まーちゃん!?

 どうしたの!?


「ご、こめんね。マッサージがあまりに気持ち良かったもんだから、つい」

「そ、そうなんだ」


 まーちゃんはうっとりとした表情で、更にダイヤルを回した。


「ひやあっ、らめ、らめぇっ」

「まーちゃん!?!?」


 街中で何て声を出してるんだい!?

 周りの人に誤解されたらどうするの!?


「ごめんね……。気持ち良すぎて、どうしても声が出ちゃうの」

「そんなに気持ち良いんだ……」


 最新型のマッサージ機恐るべし。

 それともまーちゃんが感じやすいだけなのか?


「……ねえともくん、次はともくんがやって」

「えっ!?」


 まーちゃんはダイヤルが付いた器具を、僕に手渡してきた。

 僕がまーちゃんにマッサージするの!?

 な、何だか凄くいけないことをしてるような気がするんだけど……。

 ……いやいや、何を言ってるんだ僕は。

 これはただのマッサージじゃないか。

 そう、これはただのマッサージ!

 大事なことだから二回(ry

 今から僕達はマッサージをするだけなんだから、そこのところくれぐれもよろしく頼むよ!(誰に言ってるの?)


「じゃ、じゃあ……、いくよ?」

「うん。……きて」


 きてはおかしくない?

 ま、まあいいか。

 僕はゆっくりと、ダイヤルを回した。


「あぁっ、と、ともくん……! ともくぅんっ!」

「まーちゃん!?」


 何か声がアレなんだよな!?

 重ねて言うけどこれはマッサージだからねッ!

 マッサージ以外の、何ものでもないんだからねッッ!!(必死)

 ……でも、マッサージで悶えてるまーちゃん可愛いな。

 もうちょっとだけ、可愛いまーちゃんが見てみたいな。

 僕は背徳感に苛まれながらも、ダイヤルを回す手を止められなかった。


「ああああぁっ! ともくんッ!! 私……、もうッ」


 まーちゃん。

 ああ、可愛い僕のまーちゃん。

 ダイヤルぐりぐり。


「ふあああああぁんッ! らめえええええッ! もう……もう――――ニャッポリート!」

「ニャッポリート!?」


 何それ!?


「……はぁはぁはぁ。……ニャッポリートは私が考えた造語で、特に意味はないんだけど、気分が高まった時とかに使うの……。昔の女子高校が使ってた、『マジ卍』みたいなものかな」

「へ、へえ」


 まーちゃんは恍惚とした表情を浮かべながら、息を切らせている。

 よくわからないけど、余程気持ち良かったってことなのかな?

 まあ、肩のこりがほぐれたなら何よりだけど。


「ありがとともくん。大分楽になったよ」

「いえいえ、どういたしまして」


 僕はダイヤル回してただけだし。

 そもそも僕がやる意味あったのかな、これ?


「あ! 急げば次の電車乗れるよ! イこイこ、ともくん!」

「ぬえっ!? いやだから引っ張らないでよ、まーちゃん!」


 いつもの如くまーちゃんに腕をグイグイと引かれ、そして最近更に大きくなった、肉の沼みたいなおっぷぁいをむにゅむにゅ押し付けられながら、僕とまーちゃんは駅の改札をくぐった。




「ふぅ、ギリギリセーフ」

「ハァハァ、む、無理してこの電車に乗らなくてもよかったんじゃ……」


 ちょうど帰宅ラッシュの時間と重なってしまったのか、休日だというのに電車は満員だ。

 僕とまーちゃんはドアに身体を押し付けるような、窮屈な姿勢を強いられることになった。


「えへへ、た、確かにちょっと苦しいね」


 走ったせいで身体が熱くなってしまったのか、まーちゃんは首筋にじんわりと汗を滲ませながら苦笑いを浮かべた。

 ――その時僕は気付いた。

 まーちゃんが、まだ肩にマッサージ機を付けっぱなしだということを――。

 そして僕の手には、マッサージ機のスイッチが握られたままだということを――!

 ……この時の感覚を僕は一生忘れないかもしれない。

 普段はどちらかというとMに属するかもしれない僕だが(どちらかというと?)、そんな僕の中に、沸々と形容し難い感情が湧いてきたのであった。

 ――ここでマッサージ機のスイッチを入れたら、まーちゃんはどんな顔をするだろう。

 悪魔の囁きとも言える誘惑に、この時の僕は抗う術を持っていなかった。

 気が付くと僕は、ダイヤルを回していたのだった。


「えっ!? と、ともくん!?」


 こんなところで!? とも言いたげな顔で、まーちゃんは助けを求めるような眼差しを僕に向けてきた。

 でも当然僕は手を緩めるつもりはない。

 ぐりぐりと、少しずつ、だが確実にダイヤルを回してゆく。


「――はっ、ともくぅん……。らめぇ……、らめらってばぁ」


 身体をビクビクと震わせながら、まーちゃんは必死に声を押し殺そうとしている。

 ――ああ、可愛い。

 可愛いよ僕のまーちゃん。

 もっと――、もっとその可愛い顔を、僕だけに見せておくれ――。

 ぐりぐりぐり。

 ぐりぐりぐりぐり。


「ひゃはぁぁん。もう……、もうらめ……、出ちゃう……ニャッポリート出ちゃうよおぉぉ」


 いいよ。

 ニャッポリート出しちゃっていいよ。

 さあ見せて。

 まーちゃんがニャッポリートするところを、僕に見せて――。

 ぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐり。


「あああぁあぁぁ、ニャッ、ニャニャニャッ……」


 まーちゃん――!


「ニャッポリ――」

『肘川~。肘川~に到着です』

「「っ!」」


 ――が、まーちゃんがニャッポリートする直前で、僕らの家の最寄り駅である、肘川駅に着いてしまったのであった。

 ドアが開くと同時に、車内の人がどっとホームに流れ出ていく。

 そしてその流れに押されて、僕とまーちゃんもホームに降り立った。


「……」

「……」


 僕は我に返った。

 ああああああああああ!!

 僕は何てイケナイことをしていたんだッ!?

 い、いや、厳密に言うとただマッサージをしていただけなのだから、何もやましいことはしていないのだけれど……。

 何と言うか……、僕の中に眠っていたドSの血が目覚めてしまったようで、僕は自分で自分が怖かった。


「……ご、ごめんねまーちゃん? 僕も、ちょっとやり過ぎちゃったよ」

「……」


 僕の心からの謝罪も虚しく、まーちゃんはちょっとだけ眼に涙を浮かべながら、頬をぷくーと膨らませている。

 う、うわあ、これは大分怒ってるな。


「……許さない」

「――!」


 はわわわわわ。

 どうしよう、まーちゃんをこんなに怒らせちゃうとは……。

 何かないか……、何とかまーちゃんの機嫌を直す方法は……。


「……次はともくんの番だからね」

「……え?」


 僕の番?

 な、何が?


「マッサージ」

「っ!」


 まーちゃんは僕が首に下げている、僕の誕生日にくれたリングネックレスを指で弾きながら、そう言った。

 ……お、おおふ。


「今夜はウチに泊ってね」

「あ……うん」

「朝までともくんをニャッポリートしちゃうからね」

「……」


 まーちゃんは嗜虐的な笑みを浮かべながら、唇をぺろりと舐めた。

 ……やっぱドSっぷりじゃ、まーちゃんには適わないな。


 このあと滅茶苦茶ニャッポリートした。

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