目次
ブックマーク
応援する
12
コメント
シェア
通報

第33話:体育祭①

「いいかお前達ッ! これをたかが体育祭と思うなッ! これはいくさだ! 何が何でも、死ぬ気で勝利を掴み取るのだ! 我が紅組のために、全員命を懸けろッ!!」

「「「おーーー!!!!」」」


 ……うわぁ。

 やっぱ皆川先輩って、意外と熱い男なんだな。

 まあ、皆川先輩はカリスマ性もあるし、我が紅組の団長としては、この上なく適任なのかもしれない。


「……先・輩」


 ……。

 そんな皆川先輩のことを、古賀さんは眼をハートマークにしながら見つめている。

 うん、まあ、彼氏のあんなカッコイイ姿を見たら、そりゃ惚れ直しちゃうよね。

 ――しかも何と、今の皆川先輩は、という出で立ちなのだ。

 皆川先輩だけではない。

 僕も最近知ったのだが、何故か我が校は代々、体育祭は男子はふんどし一丁で出場するのが伝統になっているらしく、ご多分に漏れず、僕もふんどし一丁で貧相な身体を晒しているのだった……。

 ……うぅ、恥ずかしい。


「智哉、今日は力を合わせて、絶対紅組俺達が勝とうな!」

「あ、うん……」


 そんな僕とは対照的に、見事な逆三角形を描いている胸筋と、六つにくっきり割れた腹筋を持つ勇斗が、僕の肩に手を回してきた。

 いいよな勇斗は。

 どこに出しても恥ずかしくない身体で。


「エクストリームヘヴンフラーーーッシュ!!!!」

「み、美穂!?」


 ……。

 そんな僕達の遣り取りを見て、篠崎さんがまたエクフラを出している……。

 エクフラってそんな簡単に出ちゃうものなの?


「よーし、今日は私も、本気出しちゃうぞー」

「まーちゃん」


 まーちゃんが本気出したら、周り人の命が危ない気がするんだけど、大丈夫かな……。

 ……それにしても、男子も男子だが、女子もなかなかに凄い格好だよな。

 女子は何と、下はブルマーにテニスウェアの白のスカート、上は白のポロシャツという出で立ちなのだった。

 何このマニアックな格好!?

 ニャッポリート!

 まったく、誰が考えたんだよこんな格好!

 ニャッポリート!

 趣味を疑っちゃうぜ!

 ニャッポリート!


「あさいくんあさいくーん」

「っ!?」


 こ、この声は!?

 声のした保護者席のほうを向くと、案の定そこには未央ちゃんとまーちゃんのご両親が鎮座しており、未央ちゃんはいつもの無表情で僕に手を振ってくれていた。

 今日の未央ちゃんもカッワイイッ!

 そうか、今日はみんなの家族も来てるんだよな。

 あれ?

 そういえばうちの家族はどこにいるんだろう?


「うぇーーーい!!! 智哉ー! 何だよお前のその貧相な身体は! お前も弟なら、胸に北斗七星を模った傷の一つも付けてみやがれ!」

「ゲッ」


 と、思ったら、クソ兄貴をはじめ、父さんと母さんもちゃっかりまーちゃんのご家族のすぐ横に陣取っていた。

 しかもクソはこんな日でも上下ダルダルのスウェット姿で来てやがる。

 マジで恥ずかしいから、勘弁してよ……。


「浅井さん、これ、枝豆茹でてきたんですけど、よかったら摘まんでください」

「あらあらあらまあまあまあ! 先生、いつもいただいてばっかりですいません! あらあらあらまあまあまあ! 何てあらあらあらまあまあまあな枝豆でしょう!」

「先生!?」


 何でうちの母さんが、まーちゃんのお母さんを先生って呼んでるんだ!?

 それにうちの親とまーちゃんのご両親は、面識はないはずだけど!?


「あれ? ともくんは知らなかったっけ? 最近ともくんのお母さんは、うちのお母さんの料理教室の生徒になってくれたんだよ」

「初耳なんですけど!?!?」

「あらあらあらまあまあまあ! そういえば智哉にはまだ言ってなかったわね。これは私としたことが、あらあらあらまあまあまあだったわ」


 ジーザス!

 マジかよー。

 絶対うちの母さん、「あらあらあらまあまあまあ」連発して、他の生徒さんから変な目で見られてるよー。

 もううちの家族ヤだ!!

 家出したいッ!(思春期)


「勇斗ー、あんたも男なら、ビシッと美穂ちゃんにイイとこ見せなさいよー」

「そうよー、でも今日の美穂ちゃんもとっても可愛いわー。食べちゃいたーい」

「いつでもお嫁さんに来てねー」

「あ、姉貴!? お袋!?」

「お、お姉さんとお母さん!?」


 おっ。

 うちの家族の横には、勇斗のお姉さんとお母さんもいるな。

 お父さんはいないか。

 まあ、勇斗のお父さんは忙しい人だからな。

 しょうがないか。

 それにしても、相変わらずお姉さんとお母さんは、可愛い子なら男女問わずなんだな……。

 僕も昔は、よく襲われそうになったっけ……(遠い目)。


「美穂ーーーー!!!! 美穂は今日もとってもプリチーだよーーーー!!!! お願いだからこっちに目線おくれーーーー!!!!」

「ゲッ、お父さん……」


 あ、あれは!?

 僕らの家族からは大分離れたところに、作務衣を着た渋い壮年男性が、ビデオカメラ片手に叫んでいた。

 あの人が篠崎さんのお父さんなのか……。

 如何にも娘のことを溺愛してそうな雰囲気がビンビンに出てる。

 こりゃ、勇斗も目の敵にされてそうだな。


「もう……マジお父さん最悪……。マジ嫌い……」


 篠崎さん……。

 お互い家族で苦労するね……。


「……お父さん」


 そんな篠崎さんを見て、勇斗は篠崎さんのお父さんに向かって、静かに会釈したのだった。

 ――が、


「フンッ!」


 お父さんは露骨にそっぽを向いてしまった。

 やっぱりドチャクソ嫌われてるぅ!


「あなた、いい加減にしてね?」

「イデデデデデ!? 母さん!? 痛い、痛いって!?」


 っ!?

 その時、篠崎さんのお父さんの横に座っていた和服姿の美人が、お父さんの耳を笑顔でつねり上げた。

 あれは!?

 顔も篠崎さんそっくりだし、あの方が篠崎さんのお母さんか。

 ううむ、いかにも篠崎さんのお母さんらしい、大和撫子といった佇まいだ。


「フッ、今日は頑張りたまえよ、紅組の諸君」

「え? ……って、梅先生!?!?」


 そこに現れた変態公務員を見て、僕は目を見張った。

 何故なら変態は、幼稚園児が着ているような、スモックと黄色い帽子を身に着けていたのだ。

 当然サイズはパッツパツで、特におっぷぁいの部分は今にもはち切れんばかりだ。

 今日の変態はいつも以上にエグみが強いなッ!?!?

 何故懲戒免職にならない!?(何故角を取らない!?)


「う、梅先生……、その格好は……」

「フッ、智哉、太古の昔より、体育祭といえばスモックと相場が決まっているだろう?」

「……はぁ」


 ダメだ。

 僕には変態の社会通念は一生理解できそうにない(する気もない)。


「あれ!? 梅先輩! 梅先輩じゃないっすか!!」

「ん?」


 えっ!?

 その時、クソ兄貴が梅先生を、と呼んだ。

 せ、先輩……!?


「……どちら様だったかな?」

「そんなあああ!!! 俺ですよ梅先輩! 大学で同じサークルだった浅井ですよ!」


 ニャッポリート!?

 クソと変態は同じ大学だったのか!?!?

 しかもサークルも同じだと!?!?!?

 ……これぞ類友。


「ああ、その締まりのない顔、『ダルダルマイスター』の浅井か」

「そうです! 『ダルダルマイスター』の浅井ですよ梅先輩!」


 ダルダルマイスター!?

 なにそのクソダサい二つ名は!?

 クソは二つ名もクソなんだなッ!


「ぐへへへ~、梅先輩は相変わらずけしからんおっぷぁいをしてますねえ~」


 オイやめろ!

 ひとの担任をそんな眼で見るな気持ち悪い!!

 これだから童貞チェリーブロッサムはッ!


「フッ、それ以上寄ったら私特製のスタンガンで終わらせるぞ?」

「何をですか!? 俺の人生をですか!? てか梅先輩、まだあのスタンガン持ってたんすかッ!?」


 大学の頃から持ってたのかよあれ!?

 よく無事卒業できたな!?


「フッ、それよりも智哉、お前達が一番気にしなくちゃいけないのは、白組の連中みたいだぞ?」

「え?」


 それって……、どういう……?


「ヒャッハー!」

「「「っ!!!」」」


 こ、この声は!?

 咄嗟にまーちゃんが臨戦態勢になるのがわかった。

 勇斗と篠崎さんも緊張した面持ちで、白組のほうに目を向けた。

 ――そこには。


「ヒャッハッハー! 優勝はこの、百派山ひゃはやま一郎いちろう率いる、白組がいヒャヒャくぜえッ!!」


 えーーー!?!?!?

 いいいいい一郎ーーー!?!?!?

 何故一郎がうちの学校に!?!?!?


「ヒャッハー! どいつもこいつもヒャハッた顔ばっかだね兄ちゃん!」

「ヒャッハー! ホントヒャよね兄ちゃん!」

「「「っ!!?」」」


 二郎じろう公彦きみひこまで!?

 どういうことなんだこれは!?


「フッ、先週転校生が来たっていう話はしただろ?」

「え?」


 ああ、そういえばホームルームで梅先輩――じゃなかった梅先生がそんなことを言っていたような。

 自分のクラスのことじゃないから、気にしてなかったけど。


「その転校生があいつらだったんだよ」

「何の冗談ですかそれは!?」


 え!?

 てか、高校生だったのあいつら!?!?


「ヒャハッ!? お、お前らは……、ヒャハ気道女一味!?」

「……どうも」


 まーちゃんがジト目で一郎に挨拶をした。

 何その麦わ〇の一味みたいな括りは……?

 まあ、確かにまーちゃんがル〇ィポジションだろうけど(差し詰め僕はウソ〇プか?)。


「ヒャハッ! ま、まさか同じ高校の生徒になるとはな! ここで会ったがヒャく年目! 今度こそヒャッハヒャハにしてやるからなあ!!」


 一郎はモヒカンをそそり立たせながら、息巻いた。


「三年一組百派山一郎!」

「二年二組百派山二郎!」

「一年三組百派山公彦!」

「「「我ら百派山三兄弟!!」」」


 百派山三兄弟は、三人で組体操の扇を作った。

 てか公彦はまさかのタメかよッ!?

 三人共、ふんどし一丁なのにトゲトゲ付きの肩パッドは装着してるし!?

 校則どんだけブチ破れば気が済むんだ!?


「ヒャハハハハハハハ。存分にヒャハらせてやるがよいぞ、息子達よ!」

「ヒャハッ! 勝ったら今夜はヒャき肉だよお、坊や達ィ!」

「「「っ!!!」」」


 そうか!

 一郎達がいるってことは、当然……。

 声のした保護者席の方を向くと、そこにはいかにも世紀末からやってきたとしか思えない、キャラデザが濃い夫婦が鎮座していたのであった。

 パパとママもいたーーー!!!!

 もう滅茶苦茶だよおおおおおお!!!!!!


「フッ、ではこれより開会式を執り行う! 先ずは校歌斉唱!」


 ……。

 マジでどうなっちゃうんだろう、この体育祭……。


「「「駅前の~ 三叉路を~ 左に曲がって~

しばらく進んだ先にある~ 場末のスナックの~

角を右に曲がって~ 道なりに進むと~

年季の入った校舎が~ 右手に見えてくる~

嗚呼~ 我らの~

肘川北高校~」」」


 ……。

 前から思ってたけど、うちの校歌変じゃない!?

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?