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第48話:優子⑤

「チィ! 浅かったか!」


 兄貴が自らの身体に鞭打つように、フラフラになりながらも立ち上がった。

 あ、兄貴ッ!


「うふふ、確かにあなたは地球人の割にはなかなか強かったわ。でも所詮それは地球人レベルでの話。どうしたって種族間の圧倒的な壁は超えられないのよ。――こんな風にねッ!」

「「「っ!!」」」


 途端、アーリスの腰に生えている羊の毛が、モコモコと異様な程に膨れ上がった。

 モッコリート!?!?

 そして瞬く間に空を覆う程の体積になり、僕達の前にそびえ立った。

 ――それは巨大な四足の羊の姿をしていた。

 だが大きさが羊とは桁違いだ。

 ざっと全長は100メートル近くはあるだろう。

 な、何なんだこのバカみたいなスケールは……。

 完全に怪獣映画のノリじゃないか……。


「うふふふふふ、これこそが私の奥の手、『傲慢な牡羊エンペラーアリエス』よ」

「エ、傲慢な牡羊エンペラーアリエス!?」


 羊の頭頂部に生えているアーリスの上半身から、勝ち誇った声が落ちてきた。


「クソッ! どんだけデカかろうが、俺の【雁渡かりわたし】で……」

「兄貴!?」


 兄貴は震える手で、カイツブリに手を伸ばす。

 む、無理だよ!

 いくら兄貴でも、このサイズが相手じゃッ!


「フッ、あまり無理はするなダルダルマイスター。――後はに任せておけ」


 っ!?

 変公!?


「っ! …………すんません梅先輩。頼んます……」

「ああ、お前は小説家になりまっしょいで、婚約破棄モノの小説でも読んでいるがいい」

「……そうさせてもらいます」


 兄貴婚約破棄モノとか読むの!?

 知りたくもなかった兄の意外な一面が露わに……。

 てか、変公ならこの怪獣相手にも勝てるってのか?

 流石に変公の発明品でも、これには太刀打ちできないんじゃ……。

 それに、さっき『私達に』って言ったよね?

 変公の他にも、戦闘要員がいるのかな?

 普津澤さん達は戦闘要員じゃないって言ってたけど。


「うふふ、虚勢はみっともないわよ? 今だったら、大人しく智哉くんを私に差し出せば、許してやらないこともないわ」

「なっ!? フザけんじゃないわよッ!! ともくんは、たとえどんな手を使おうとも、死んでもあんたなんかに渡さないわッ!!」


 っ!

 ……まーちゃん。


「フッ、その心意気や良し! ……足立、智哉のために、命を賭ける覚悟はあるか?」


 変公!?

 命って、何を急に物騒なことを!?


「あります」


 ――!

 ……即答。


「フッ、お前ならそう言うとは思っていたがな。――田島、篠崎、お前達はどうだ?」

「もちろん、智哉のためだったら俺なんかの命、いくらでもくれてやりますよ」


 ……勇斗。


「私も! 勇斗くん以外の人に、浅井君は絶対渡しませんッ!」


 …………篠崎さん。

 僕は勇斗のものでもないんだけど……?


「フッ、どうやらみな、覚悟完了しているようだな。――智哉はどうだ?」

「――!」


 変公、まーちゃん、勇斗、篠崎さんは、真っ直ぐな瞳を僕に向けてくれている。

 ……そんなの、当たり前じゃないか。


「当然覚悟はありますよ。まーちゃんやみんなと離れ離れになるくらいなら、死んだほうがマシです」

「っ! ……ともくん」


 これは僕の、嘘偽らざる気持ちだ。


「フッ、よく言った。――ではいくぞ。で、アーリスこいつに引導を渡してやろう!」

「「「!!」」」


 変公はおっぷぁいの谷間から、丸いボタンのようなものを取り出してそれを押した。

 すると地響きを立てながら、大地が激しく鳴動し出した。

 ニャッポリート!?!?

 な、何が起きたんだ!?


「あっ! ともくん、あれ見てッ!」

「え!?」


 まーちゃんが指差した校庭の中央辺りを見ると、地面に大きな穴が5つ開くところだった。

 そしてその穴からそれぞれ1機ずつ――――計5機の、がせり上がってきたのである。

 ロッボリートオオオオオオオオオ!!?!?!!??!?!??


「フッ、これぞ私が開発した最終兵器――等身大装獣戯画ビーストアートだ!」

「「「!!!?」」」


 ……そう、確かに言われてみれば、それは普段僕達が遊んでいるスマホゲー、装獣戯画ビーストアートの持ちキャラに瓜二つだった。




「どうだ智哉、具合は?」

「え、ええ……、大丈夫だと思います」


 モニターに映ったバストアップの変公に、僕はたどたどしく返事をした。

 今僕は、装獣戯画ビーストアート『ゲータウロス』のコックピット内にいる。

 あの直後、各々の装獣戯画ビーストアートから光の筋が僕達の方に伸びてきて、気が付いたらこのコックピットの中にいたのである。

 しかもいつの間にか服が、ロボットアニメでよく見る、ボディラインがクッキリしたパツパツのパイロットスーツのようなものに変わっていた。

 フックリート!?

 最早ここまでくると何でもアリだな。

 ある意味、今日ほど変公が味方でよかったと思ったことはない。

 ともすればこいつは、その気になれば世界征服を成し遂げることさえ可能なのかも……。

 何とも恐ろしい話だ。

 ……それにしても。


「梅先生、本当にこれで、このロボットを操縦するんですか?」

「フッ、当然だ。お前もそれが、一番使い慣れているだろう?」

「まあ……、そりゃあ」


 僕の手元には、が置かれているのだ。

 そしてそのスマホには、装獣戯画ビーストアートのゲーム画面が映っている。

 どうやらこのスマホでゲーム画面の機体を操作すると、僕の乗っている機体も連動して動く仕組みらしい。

 流石にスマホで操縦する巨大人型ロボットは、世界中探してもこれだけだろうね(真顔)。


「お前達が操縦しやすいように、わざわざそう設計してやったのだからな。感謝するんだぞ」

「……はあ」


 そんなことが可能なら、僕達が乗らないでも無人で動くように設計してほしかったところだが、どうせこいつのことだ、「それじゃ巨大人型ロボットの意味がないだろう!」とか言うに決まってる(断言)。

 つくづく技量と人間性が反比例しているやつだ。

 あと、これは余談だけど、変公も僕同様パツパツのパイロットスーツを着ているので、おっぷぁいの形がクッキリとし過ぎていて正直目のやり場に困る。

 その上どんな材質を使っているのか謎だが、変公が身体を動かすたびに、まるでノーブラかってくらいおっぷぁいがブルンブルン揺れるのだ。

 スパ○ボとかでもそうだけど、これ、パイロットスーツの機能果たしてなくない?

 全裸で乗ってるのと変わんなくない?

 これもお約束ってやつなのかな……。


「足立はどうだ?」

「ええ、イイ感じですよ。ちょっとだけ胸が苦しいですけど」


 ……!

 モニターに映ったまーちゃんも、やはりおっぷぁいがブルンブルンだ。

 これはいつでもスパ○ボに参戦できる(確信)。


「田島と篠崎も準備はいいな?」

「はい、大丈夫です」

「あ、あの、コーチ、……申し上げにくいんですが、私のスーツ、ちょっと胸の部分がぶかぶかなんですけど……」


 ……!?

 ……変公、お前。


「おお、すまんすまん、どうやら私の想定より、篠崎の胸が大分小さかったようだな。失敬失敬」

「コッ!? コーチ……!!」


 お前は鬼か。

 さてはワザとだな?

 でも大丈夫だよ篠崎さん。

 そんな篠崎さんのぶかぶかのパイロットスーツ姿にも、勇斗はギャン萌えしてるから。

 涼しい顔してるけど、内心はエクフラニャッポリートなの僕には丸わかりだから。

 ……もしもここまで計算ずくなんだとしたら、最早変公は神を通り越して悪魔だと言っても過言ではないな。


「うふふ、そろそろ始めてもよろしいかしら?」


 アーリスがお茶会でも始めるみたいな口調で、僕達に語りかけてきた。

 僕達の準備が整うまで、ショ〇カーのみなさんよろしく待っていてくれたことからも、相当余裕が窺える。

 ……それもそのはずだろう。

 何せ僕達の機体もかなりの大きさを誇るとはいえ、精々全長はどれも20メートル前後といったところだ。

 それに対してアーリスの傲慢な牡羊エンペラーアリエスは、前述の通り全長約100メートル。

 原始人とマンモス並みの体格差がある(マンモスの全長知らないけど)。

 この状況を前にしても、アーリスは尚、自らの勝利を微塵も疑っていないのだろう。

 実際僕も、正直なところさっきから震えが止まらない。

 みんなの手前覚悟はできてるなんて見栄を張ったものの、強大な敵を目の前にすると、その覚悟も所詮子供の戯言だったのだということを実感せざるを得ない。

 ……だが戯言でも構わない。

 どっちにしたって、やらなきゃやられるんだ。

 だったら怖かろうが何だろうが、当たって砕けろの精神で戦うしかない……!

 それこそ、原始人だって圧倒的な体格差のマンモスを、気合と根性で狩ってたんだ。

 どちらかというとスパ〇ボってよりはモン〇ンみたいな展開になったけど、こうなりゃ自棄だ。

 僕とまーちゃんの未来のためにも、いつやるか?

 ――今でしょ!!!!(クソデカ声)


「フッ、もちろんだ。さあいくぞみんな! これが最後だ。これが終わったら、私が焼肉を奢ってやるからな!」

「「「ヒャッハー!」」」


 文化祭の打ち上げかよ。


 まーちゃんのカマソッソを模した『カマソーソ』。

 勇斗のミノタウロスを模した『ゼノタウロス』。

 篠崎さんのアルミラージを模した『アルミラージャ』

 変公のバハムートを模した『バルファルト』。

 そして、僕のケンタウロスを模した『ゲータウロス』。

 ――計5機の装獣戯画ビーストアートが、アーリスの最終形態、傲慢な牡羊エンペラーアリエスと対峙した。


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