「落ちろぉー!」
「まーちゃん!?」
開口一番、まーちゃんが例によってロボットアニメをバリバリ意識した台詞を吐きながら、アーリスに跳び掛かった。
そしてまーちゃんのカマソーソはその鋭い爪で、アーリスの
――が、
「うふふ、無駄よ」
「「「っ!」」」
分厚い羊毛に守られた前脚からは、血の一滴さえ流れていない。
クソッ! あの羊毛は、鉄壁の鎧も兼ねてるってのか!?
「み、みんな、バフはかけたよ!」
「篠崎さん!?」
篠崎さんのアルミラージャが杖をかざすと、スマホの画面上に、『攻撃力アップ』というメッセージが表示された。
実際機体の全身からも、ブオオオオンという重々しい駆動音が鳴り響いている。
どうやら本当に出力が上がっているらしい。
どういう原理なのかは不明だけど……。
まあ、変公の発明品に、整合性を求めるだけ野暮か。
「いよっしゃあッ! サンキュー美ッ穂! これで今度こそはー!!」
再度まーちゃんはアーリスに斬り掛かろうとした。
――が、
「うふふ、そう何度も同じ手が通用すると思うの?」
「「「っ!!」」」
「ま、まーちゃんッ!!!」
「――くっ!」
「足立ッ!!」
「「「っ!?」」」
――が、瞬時に勇斗のゼノタウロスがまーちゃんのカマソーソを突き飛ばすと、代わりに
「勇斗!?」
「勇斗くんッ!!!」
「た、田島君……」
「お、俺なら大丈夫、だ……」
流石タンク役のゼノタウロス。
大型トラックでさえ一撃で木端微塵にする程の衝撃だっただろうに、何とか機体の形を保っている。
とはいえ、そう何度も受けきれる程軽い攻撃ではないことも確かだろう。
やはり総合的な戦闘力ではあちらが上みたいだ。
となれば戦いが長引く程、こちらがジリ貧になる。
何とか短期決戦で勝負を決めなくては!
僕は牽制も兼ねて、遠くから
「うふふ、智哉くん、せっかくのあなたからの愛の鞭だけど、私には届かないわよ」
「っ!」
が、またしても分厚い羊毛に阻まれ、僕の矢は吸い込まれてしまう。
ヤッポリート……!
やはりあの毛の鎧を何とかしない限り、こちらに勝機はない。
どうする……。
どうしたらいいんだ……。
「……ん?」
その時だった。
僕はスマホの画面端に、『【
【
【
そんなものまで再現してるのか、あの
でも、それが本当なら……!
「まーちゃん! まーちゃんも特殊技、使えるようになってる!?」
「えっ、特殊技!? あ、ああ、うん、使えるよ!」
よし!
これならイケるかもしれない!
「うふふ、何を企んでるのかしら? どんな手を使おうと、あなた達じゃ私は倒せないわよ?」
「それはどうかな」
僕は弓を引き絞り、【
図体がデカい分、影の面積も膨大だ。
矢はあっけなく影に深々と刺さった。
――どうだ?
「なっ!? こ、これは……! どういうことなのッ!?」
途端、
おおっ!!
最早科学力の域を超えてる気もしないでもないけど、とにかく凄い!!(語彙)
よくやったぞ変公ッ!!(謎の上から目線)
「フッ、見たか、これが地球人の科学力だ」
「くっ、そ、そんなバカなあああああああ」
「今だ足立!」
「任せてください峰岸先生! ――
まーちゃんは恒例の右手で顔を抑えるような仕草をした。
それは絶対にやりたいんだね!?
「
「茉央ちゃん、頑張って!」
「頼むぞ、足立!」
「月を背負え、宵闇を統べろ――」
「まーちゃん、やっちゃえええええッ!!」
「
「あああああああああああああああああああああ」
まーちゃんの【
よしッ!
やはり【
これで僕達の勝ちだッ!
「――う、うふふふふふ、なーんちゃって」
「「「!!!」」」
――が、アーリスは一瞬で元の優雅な表情に戻り、無邪気に舌を出した。
シッタリート!?
そ、そんな……!?
心臓に穴が開いてるんだぞ!?
無事でいられる訳が……!
「うふふ、どうやらあなた達は勘違いをしてるみたいね?」
「勘違い!?」
どういうことだ……?
「この
「「「――!?」」」
毛!?!?
バカな……!?
い、いや、言われてみれば、心臓に大きな穴が開いたにもかかわらず、
それどころが、見る見るうちにその傷が塞がっていく。
キッズリート!!?
「うふふ、これでわかったでしょ? あなた達には勝ち目はないってことを」
「くっ……!」
確かにこれはお手上げだ……。
僕らじゃどう足掻いても、こいつは倒せない……。
「フッ、それはどうかな?」
「「「――!」」」
変公!?
「毛で出来ているのは、あくまで
「「「――!!」」」
そ、そうか!
「……うふふ、まあ、ね。――でも、こうしたらどうかしら?」
「「「――!?」」」
そう言うなり
ズッポリート!?!?
『うふふ、さあ、これで私の本体はどこにいるか、あなた達からは見えないでしょう?』
「「「――!」」」
『それとも手当たり次第攻撃してみる? どこかしらねえ? 心臓の辺り? それとも尻尾の先かしら? うふふふふふ』
クソッ!
絶体絶命だ……!
「フッ、智哉、足立、次の特殊技のチャージまで、どの程度かかる?」
「っ!?」
変公!?
何か策があるってのか!?
「わ、私は5分くらいです」
「……僕もです」
「フッ、よしみんな、5分だけ何としても時間を稼いでくれ! そうすれば私が、
「「「――!」」」
本当か変公!?
……いや、今はどの道、こいつの言うことを信じる以外に道はない。
正直癪だけど、言う通りにしてやるさ!
『うふふ、そもそも5分ももつのかしら? これを見ても同じことが言える?』
「「「っ!!?」」」
うわ気持ち悪ッ!!
これも毛で出来てるってのか!?
『さあ、あなた達の可愛い泣き声を聴かせてちょうだいッ!』
数え切れない程の触手が、鞭のようにしなって僕達を襲う。
「うああッ!!」
「くううッ!!」
「がああッ!!」
「きゃあッ!!」
「くっ……!」
それはまるで鉄塊の雨のようだった。
羊毛が材料とはいえ、
こ、これじゃ、とても5分ももたない……。
「――みんなッ! バフかけたよッ!!」
っ!?
し、篠崎さん!?
スマホの画面上に、『防御力アップ』というメッセージが表示された。
篠崎さんッ!
「攻撃はなるべく俺が受けるッ! みんな俺の後ろに下がってくれ!」
勇斗……!
……そうだよな、あきらめたらそこで試合終了だよな(至言)。
ありがとう、篠崎さん、勇斗。
もう迷わない。
何としても5分間だけ、この猛攻を凌いでみせるよッ!
『うふふ、いつまでその気力が続くかしらねえええ』
「ぐあぁっ!」
「勇斗ッ!?」
「勇斗くんッ!!!」
「勇斗おお!!」
「勇斗くううんッ!!!」
「だ……大丈夫だ……」
――!
……勇斗。
「お、俺は毎日、バスケ部でゴール下の戦場を生き抜いてんだぜ……? こんくらい、屁でもねーよ……」
「勇斗……」
「勇斗くん……」
モニターに映る篠崎さんの顔は、涙でぐしゃぐしゃになっている。
……くっ、勇斗。
『うふふ、これでとどめよおおおお!!!』
「「「――!!!」」」
アーリスは無数の触手を束ね、一本の太い幹のようにしてゼノタウロスに容赦なく叩きつけた。
「がはああッ――」
「勇斗おおおおお!!!!」
「勇斗くううううううんッ!!!!!!」
結果、ゼノタウロスの頭部から右肩にかけてのパーツが、ゴッソリ吹き飛んでしまった。
うわあああああああああ!!!!!!!!!
「案ずるなッ! コックピットの位置からはズレている! 無事だな、田島?」
変公!?
「……え、ええ、何とか」
「「「――!!」」」
勇斗ッ!!!!
よ、よかった……。
本当によかった……。
「フッ、そしてちょうどこれで5分。――チャージは済んでいるよな、二人共?」
「――はい」
「は、はい、僕も大丈夫です!」
勇斗が、文字通り命を賭けて稼いでくれた時間だ。
「フッ、これで我々の勝ちだ。さあ、とどめといこうッ!」
変公のバルファルトは両手に持つ大剣をその場に放り投げ、単身
な、何を考えてんだお前はッ!?
『うふふ、カミカゼアタックってやつ? 本当に日本人て、自己犠牲が好きね』
「フッ、そうでもないさ。――私はあくまで、一番勝率が高い方法を選んでいるだけだ」
――!
ま、まさかお前!?
「――後は任せたぞ、智哉、足立」
「う、梅先生ッ!!」
「峰岸先生ッ!!」
「――【
『なっ!?』
バルファルトから球状の青白い爆風が広がり、
その威力は凄まじく、強靭な
……へ、変公。
「ぐあああ……! な、何て威力なの……!? それに、本当に自爆するなんて……!」
「――!」
後には黒焦げになったバルファルトと、同じく全身を黒焦げにして息を切らせているアーリスの本体だけが残っていた。
「――フッ、さあ、そろそろ勝利確定BGMが流れている頃だろう。キメてみせろ、智哉、足立!」
「梅先生!?」
「峰岸先生ッ!?」
生きとったんかワレ!!!
――いや、そりゃあ変公のことだ。
自分が本当に死んでしまうような非効率的な設計なんて、するわけないか。
――よし、ご要望通り、シッカリ最後はキメますか!
「なっ!? ま、また、身体が……!」
僕は寸分違わず、【
普通の人間サイズしかないアーリスの影に矢を刺すのは常人なら難しいことかもしれないが、僕はゲームの
射撃の腕なら自信があるのさ!
肘川のの○太君とは、僕のことさ!(ドヤ顔)
「まーちゃんッ!」
「オッケーーーイ!! ともくん、大人になったら結婚しよーね!」
「っ!?!?」
このタイミングで求婚!?!?
い、いや、僕もそのつもりだったけど、できればプロポーズは、僕からしたかったな。
……ん?
僕のゲータウロスのかかと辺りに、何かが当たったって表示が出たな?
……さては微居君の岩だな。
「
「茉央ちゃん!!」
「足立!!」
「ま、待って……、私が悪かったわ。お願いだから許して……」
「
「足立さん、今度私、この経験を元に、小説書くね!」
「いや、それはやめろ古賀」
「……クソッ、リア充が」
「微居、こんな時くらいは素直になろうぜ」
「茉央ちゃん、俺は茉央ちゃんみたいな義理の妹がいて鼻が高いよ!」
「お疲れ様、みんな。IGAを代表して、俺からもお礼を言うよ」
「どうも、私が伝説の神獣アーティスティックモイスチャーオジサンです」
「月を背負え、宵闇を統べろ――」
「いや……、いや……、いやあああああああああ」
――まーちゃん。
「まーちゃん、いっけえええええええッ!!!!」
「
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
まーちゃんの【
「あ……、ああ……、あが」
アーリスはその場に崩れ去った。
今度こそ起き上がる気配はなかった。
……ハァ、な、何とか勝った、か。
「勝利のポーズ――キメッ!」
……。
まーちゃんは本当に元気だね。
「ともくううううううん!!!」
「まーちゃん!?」
お互い
パツパツのパイロットスーツ越しのおっぷぁいを、むにゅんむにゅん押し当てられている。
「んーーーちゅっ」
「「「っ!!!?」」」
その上頭をがっしり掴まれ、無理矢理唇を奪われてしまった。
ブッチュリートオオオオオオ!?!?!?
いやいやいや、結構な大人数の前なんですけど!?!?
お願い微居君!!
その岩を仕舞って!!
今の君なら、マジで投げかねないからッ!
「本当にありがとうみんな。お陰で地球の平和は守られたよ」
そんな中、普津沢さんは眉一つ動かさずに労いの言葉をかけてくれた。
この人マジハート強いな。
いったい今まで、どれだけの修羅場をくぐってきたというのだろう……。
「いえ、僕は自分のために戦っただけですから」
実際僕が大人しくアーリスに連れていかれる道を選んでいたとしても、地球に害は出なかったのだろうし。
まあ、それはそれで、まーちゃんが黙っておかなかっただろうけど……。
……あ、そうだ。
「普津沢さん、アーリスの身柄はどうされるおつもりなんですか?」
今のアーリスはサラッサンが髪の毛でグルグル巻きにして拘束しているが、目を覚ましたらまた暴れ出すかもしれない。
そうしたら、今度こそ僕達じゃ抑えきれないと思うんだけど……。
「うん、その点は大丈夫だよ。IGAには、対異星人用の牢屋が用意してあるからね。そこに幽閉してしまえば、たとえアーリスでも脱出は不可能さ」
「あ、そうなんですか」
そんなんあるんだ。
てか、肘川ってそんなにしょっちゅう、異星人に襲撃されてたの?
……僕達が普段平和に暮らせてるのは、いろんな人が影で支えてくれてるからなんだな。
「それこそ、本当は俺の
「「「――!!」」」
ふ、普津沢さんの、奥さんが!!?
普津沢さんの奥さんもIGAの一員なのか……?
……しかも、アーリスも瞬殺なんて。
本当に地球人なんですか?
魔女とかだったりしないですか?
「でも、なんで今日はいらっしゃらないんですか?」
まーちゃんが当然の疑問を投げかけた。
そんなに凄い人がいるなら、是非お越し願いたいところだったけど。
「……うん、それが実は今、
「「「――!!!」」」
あ、そ、そういうことでらっしゃいましたか。
「わあ、それはおめでとうございますッ!」
「ふふ、ありがとう」
この時ばかりは、普津沢さんはクールな笑顔を崩して、心から幸せそうな表情を見せた。
「ともくん、私達はいつ子供作ろっか?」
「まーちゃん!?」
まーちゃんがおっぷぁいを押し当てながら、耳元で囁いてきた。
いやいや、少なくとも結婚するまでは作らないよッ!?
あと、微居君は『ライスシャワー』と書かれた籠の中に入った岩を仕舞ってね!?
それはライスシャワーってよりは、ロックシャワーだよッ!?
「フッ、これにて一件落着ッ!!」
……。
いや、またお前が締めるんかいッ!!!