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第56話:修学旅行 in タイ②

「アハハハハハハ! たっのしーねー、ともくーん!」

「う、うん、そうだね……」


 本音を言うと、今にもボートから投げ出されそうで、気が気じゃないけど……。


 修学旅行二日目の今日。

 僕達は、スピードボートでタイの観光名所の一つである、『ピピ島』に向かっている。




 ピピ島はプーケットの南東に浮かぶ、小さな島々の総称だ。

 当然飛行場などは存在しないので、船しか向かう手立てがないのだが、普通の大型フェリーならピピ島に着くまで2時間掛かるところを、20人程しか乗れない小型のスピードボートなら1時間で行けるということで、僕達はスピードボートで波に揺られているのだった。

 ……ただ、これがまた文字通り大いに波に揺られるのだッ!

 何せ本来なら2時間掛かるところを、半分の1時間に短縮しようとしているので、運転手さんは常にアクセルベタ踏み!

 しかもちょうど波が高い時間帯らしく、さっきからボートが激しく上下して、そのたびに船内に水がざっぱんざっぱん入ってくるので、僕達はすっかりびしょびしょだ……。

 まあ、水着だから、いいっちゃいいんだけどさ。


「FOOOOOOOOOOO!!!! ピピ島FOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!」

「まーちゃん!? 危ないからあんま暴れないでッ!!」


 ただでさえボートが揺れるたび、まーちゃんのおっぷぁいピピ島がスリングショットからキャストオフしそうになってるんだからッ!


「フッ、足立もまだまだ若いな」


 そういう変公お前は今日も金太郎スタイルじゃないか。

 精神年齢はお前が一番若いだろ。


「うふふ、そうよ足立さん、女はもっとどっしりと構えてなくちゃね。じゃなきゃ本当の意味で男を満足はさせられないわよ?」

「余計なお世話だよーだ!」


 そんなこと言ってる優子も相変わらず羊モードなので、羊毛が海水で濡れに濡れて、濡れ鼠ならぬ濡れ羊になっているため全然締まらない。

 だから僕は羊モードはやめといたほうがいいと言ったんだ(言ったっけ?)。


 因みに篠崎さんはボートの揺れが怖いのか、さっきからずっと隣に座る勇斗の腕に震えながらしがみついている。

 そして勇斗は今日も今日とて、海底に届きそうなくらい鼻の下を伸ばしているのだった。

 そしてそして、そんな勇斗のことを、後ろから微居君が岩でロックオン(岩だけに)していることは言うまでもない。

 ……あれ!? でも待って!?

 よく見たらあれ、岩じゃなくてサンゴだッ!

 あんなところもタイ仕様になってる!!

 謎の岩職人のこだわりッ!


「フッ、お前達、いよいよピピ島が見えてきたぞ」

「え? ――おお」


 ……圧巻だ。

 何だこのそそり立つような断崖絶壁は。

 壁面に無数の木が生えていることからも、この崖が出来てから相当な年月が経っていることが窺える。

 まるで島自体が人間の侵入を拒否しているかのようだ。

 日本じゃなかなかお目にかかれない光景だな。

 最初修学旅行先がタイと聞いた時には、「何でタイ? 京都とかでよくない?」と疑問に思ったものだが、僕が間違っていた。

 日本にいるだけでは、どうしたって見聞きできるものには限界がある。

 今はネットで検索すれば、いくらでも世界中の画像が自宅でも見られる世の中になったけど、こうやって実際に自分の目で見るのじゃ、脳味噌へのインパクトが段違いだ。

 ――きっと僕は、一生この光景を忘れないことだろう。

 いつかまーちゃんとの間に子供が出来たら、タイの素晴らしさを、子供にも教えてあげたいな(気が早い)。


「フッ、因みにピピ島は、レオ様が主演した『ザ・ビーチ』という映画の舞台にもなったところだ」

「へえ」


 そうなんだ。

 知らなかった。


「『ザ・ビーチ』は閉鎖された楽園をテーマにした映画なんだが、まさにうってつけだと思わないか?」

「ああ」


 確かに。

 閉鎖された楽園か。

 まさしくそんな感じだもんな、ここは。

 外界から隔離された一つの独立した世界。

 まるで物語の中に迷い込んだかのような錯覚に陥る、不思議な魔力を島全体が放っている気がする。


「フッ、では暫し自由時間だ。各自シュノーケリングを楽しむがいい!」

「「「「FOOOOOOOOOOO!!!!」」」」


 シュノーケリングか。

 初めてやるけど、どんな感じなのかな(ワクワク)。




 おおっ!!

 手を伸ばせば届きそうなくらいの距離を、色鮮やかな可愛い魚達が沢山泳いでる!!

 あれはカクレクマノミか!?

 ニ○だ!!

 ファイン○ィング・ニ○だ!!!

 スゲー!!!!

 本物初めて見た!!!!

 シュノーケリング楽しーーー!!!!!


「プハァ。流石映画の舞台になっただけあって、凄く透明度が高い、綺麗な海だね!」


 シュッケリート!?

 まーちゃん!?!?

 何でまーちゃんは、シュノーケルもライフジャケットも着てないの!?!?

 危ないよッ!!


「大丈夫大丈夫。私のお母さんは海女さんとして生計を立ててたこともあるんだから」


 恒例のまーちゃんのお母さんチート設定!!


「それに私には、大きなが二つも付いてるからね」


 まーちゃんはその大きなを、たゆんと持ち上げた。

 ウッキリート(迫真)。

 うん、まあ、確かにそれはよく浮きそうだね……。

 でも、良い子は真似すんなよ!(戒め)


「はばばばばば! 勇斗くーん、助けてはばばば!」

「美穂ッ!?」

「「っ!?」」


 一方篠崎さんは、ライフジャケットを着ているにもかかわらず溺れそうになっていた。

 ま、まあ、篠崎さんはほら、がないから……。




「はー、お腹空いたー。さあ、今日もいっぱい食べるぞー」

「まーちゃんは何にしたの?」


 そして迎えた夕飯。

 一日ピピ島を満喫した僕達は、それはそれはお腹ペコペコだった。

 夕飯はバイキング形式なので各自好きなものを食べられるんだけど、まーちゃんは何をチョイスしたんだろう?

 昨日は大盛りのトムヤムクンを食べてたけど。


「今日はね……、トムヤムクンだよ!」

「また!?」


 二日続けて!?

 見ればまーちゃんは、ピピ島の海で採れたと思われる、エビをはじめとした数々の魚介類がふんだんに入った、大盛りのトムヤムクンをテーブルにドカッと置いたところだった。


「ともくん、私ね……」

「ん?」


 何、改まって?


「トムヤムクンが…………、大好きなのッ!!」

「っ!」


 随分溜めたね!

 それだけのことを言うのに!


「そ、そうなんだ、知らなかったよ」


 そんなにトムヤムクンが好きだったなんて。

 そういう意味では、まーちゃんにとってタイは理想郷かもしれないね。


「私、この旅行中、毎日欠かさずトムヤムクン食べるって決めてるから!」

「あ、うん」


 謎の宣言。


「ともくんは何にしたの?」

「僕はパッタイにしたよ」


 パッタイはタイ風の焼きそばみたいなものだ。

 焼きそばとの一番の違いは米麺を使ってるところ。

 それを産地直送の海老などの魚介類や、種々のスパイスと一緒に炒めたもので、鼻腔を刺激するパンチの強い風味が実に食欲をそそる。


「おっ、智哉もパッタイにしたのか」

「うん、勇斗も?」


 見れば、勇斗も同じくパッタイを盛った皿をテーブルに置くところだった。

 もっとも、量は僕の倍以上ある爆盛りだが……。

 流石成長期(お前もだろ)。


「美穂は何にしたの?」

「私もね、茉央ちゃんと同じく、トムヤムクンにしてみたの」

「えっ、大丈夫? 美穂、辛いもの苦手でしょ?」


 あ、そうなんだ。

 そういえば篠崎さんが辛いもの食べてるところってあまり見たことない気がする。


「う、うん、でも、せっかくタイに来たんだから、トムヤムクン食べないまま帰るのは勿体ない気がして」

「そっかー、美穂らしいね」


 まあ、もしも食べきれなかったら、隣にいる大男に食べてもらえばいいよ。


「じゃあもう我慢できないから食べよっか! いっただっきまーす!」

「「「いただきまーす」」」


 さーて、パッタイはどんなお味かな。


「あっつッッッ!!!!」

「「「っ!!?」」」


 し、篠崎さん!?

 トムヤムクンを一口飲んだ篠崎さんが、舌を出してヒーヒー言いながら涙目になっている。

 どしたの!?


「あーあー、美穂は猫舌でもあるんだから、こんな熱々のトムヤムクンいきなり飲んだら、そりゃそうなっちゃうよ」

「ううー、だってー」


 あ、そういえば、前にみんなで夏祭りに行った時も、これでもかってくらいタコ焼きをフーフーしてたっけ。


「大丈夫か美穂?」

「あ、ありがとー勇斗くん」


 すかさずハンカチを取り出して篠崎さんの口元を拭いてあげる、スパダリ勇斗の姿がそこにはあった。

 相変わらずカマしてるねえ、イケメンムーブ!(倒置法)


 猫舌の

 君の横顔

 トムヤムクン


 智哉 心の俳句(字余り)

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