「むぐむぐむぐ」
「……」
「ん? ともくんも食べる?」
「あ、いや、僕はいいよ」
「そ。あーん、むぐむぐむぐ」
「……」
よく食べるなあ……。
修学旅行最終日の今日。
次の観光地、『ワットパクナム』にバスで向かっている僕達だが、朝ご飯を三人前は食べたにもかかわらず、まーちゃんは昨日のデパートで買ったファミリーパックのポテチをずっと一人で食べている。
まーちゃんの胃は宇宙なのかな?
いくら食べても全然太らないし……。
栄養が全部おっぷぁいにいくタチなのだろうか。
……世の女性から恨まれそうだな。
「はー、でも流石に全部は食べきれないかなー。残りは後で食べよっと」
「……」
既に3分の2くらいは食べてるけどね。
足立家の食費エグそうだなあ……。
「あれッ!?」
「え?」
ど、どうしたのまーちゃん?
「何かポテチの袋に赤いテープみたいなのが付いてて、これ何に使うんだろうって思ってたんだけど、このためだったんだよッ!」
「――!」
これは――!?
まーちゃんはそのテープで、ポテチの袋をピッタリと閉じたのである。
ポッテチート!?!?
何とッ!!!
食べ掛けのポテチを留めておくためのテープだったのかッ!!!
これSUGEEEEEEEE!!!!!
いやマジでこれは凄くない!?
これは日本でも採用すべきだよ!
どうですかカ○ビーさん!?
「あっ! ともくん見て! あんなところに、おっきな仏像が見えるよ!」
「え? ――ええッ!?」
ブッツゾート!?
バスから降りた僕達を待っていたのは、閑静な住宅地にしれっと佇む巨大な仏像だった。
「フッ、ここが今日最初の観光地にして最先端の寺院、『ワットパクナム』だ!」
「……」
これがタイクオリティか。
大分シュールな絵面だな。
日本じゃ考えられない。
奈良や京都だって、ここまで大仏様は地域密着型じゃないんじゃなかろうか?
マンションの窓から顔を出したら目の前に大仏様が見えるって、仏像萌え(仏像萌え?)の人には堪らないだろうな。
「フッ、さあ、目玉の大仏塔はこっちだ。ついてこい、諸君」
「「「……おお」」」
そして仏像の隣に建っている大仏塔の最上階まできた僕達は、この世のものとは思えない程の、幻想的な風景を目にした。
塔の形をしたエメラルドグリーンのオブジェが中央に建てられており、その真上の天井には、宇宙を彷彿とさせる背景に、光る玉が放射状に描かれていたのである。
はわあー。
き、綺麗ー。
これぞパワースポットって感じだな。
エメラルドの塔の頂上から放たれたエネルギーが、真上の円形の模様に集約されて、そこから世界中に広がってくみたいなイメージなのかな?
何度も言うけどここ住宅地なんだよね?
玄関開けたら五分でパワースポットとか、家賃が心配になっちゃうよ。
「凄いねー、ともくん」
「うん……凄いね」
マジで凄すぎて、それ以外に言葉が出てこない。
「美穂と田島君もそう思うでしょ……って、あれ?」
「ん? ――んん??」
篠崎さんの方を見たまーちゃんがポカンとした顔をしたので僕も目線を向けると、篠崎さんはエメラルドの塔を眺めつつも、心ここにあらずといった表情をしていた。
し、篠崎さん……?
「
「「――!!」」
篠崎さん!?
「あちゃー。どうやら昨日のBLドラマが余程刺さったみたいだね。この塔を見たら、それを思い出しちゃったみたい」
「塔を見たら!?」
ぶるうちいず先生ッ!!
太くて長い塔を見たらBLドラマを思い出すとは、ぶるうちいず先生は何て破廉恥な先生なんだ!!
ここは煩悩を捨て去って祈りを捧げる場所なんだよ!?
何、逆に煩悩を増幅させちゃってんだよ!!
勇斗は勇斗で、そんなぶるうちいず先生をアルカイックスマイルで見つめてるし!
お前は逆に悟り開きすぎ!!
「あははー、こうなった美穂は当分帰ってこないから、私達はちょっとバルコニーに出てみようよともくん」
「あ、うん」
じゃあ、ぶるうちいず先生のことは任せたぞ、アルカイック勇斗。
「わあー、ともくん、ここからだと、ちょうどさっきの大仏様の背中がよく見えるね!」
「本当だね」
それにしても、メチャメチャ建設中じゃん。
大仏様の首から下は、工事現場でよく見るような、無数の鉄骨でガチガチに囲まれていた。
大仏様も、こんな姿を見られるのは不本意だろうな……。
まあ、これも今しか見られない光景なんだろうから、ある意味ラッキーってことで(ポジティブ)。
「フッ、では次は本日のメインイベント、世界遺産でもある、『アユタヤ遺跡』に向かうぞ!」
「「「――!」」」
……いよいよか。
「うわあ、何か普通に野晒しになってるんだね」
「そ、そうだね」
世界遺産にも登録されている『アユタヤ遺跡』。
数百年前に存在したアユタヤ王朝の残り香であるこのアユタヤ遺跡は、バンコクでも有数の観光スポットらしい。
現に観光客でごった返している。
でも、まーちゃんが言うように、完全に野晒しになってるのには若干面食らうな……。
世界遺産なんだから、もう少し厳重に保管しようという気はないのかな?
この辺のアバウトさも、タイの気質なのかもしれないけど。
ただ、本物の遺跡だけあって、霊験あらたかとでもいうか、数百年前ここで生活していた人々の息吹が、今尚色濃く残っている気がする。
この塔の裏のほうから、今にもアユタヤ王朝の王様が、「やあ、よく来たね。トムヤムクンでも食べてく?」なんて言いながらひょっこりはんしても違和感ない(いやあるだろ)。
「
「「――!?!?」」
ぶるうちいず先生ッ!?!?
ま た か よ!!!!
太くて長い塔だったら、何でも
その内電柱見るだけで
「じゃ、じゃあ、私達はもう少し奥も探索してこようか、ともくん」
「う、うん、そうだね」
後は頼んだぞ、アルカイック勇斗(天丼)。
「あっ! あれ、パンフレットにも載ってた、有名な仏頭だ!」
「っ!」
見れば樹の幹の中心に、仏頭が埋め込まれていた。
おお!
ホンマや!(唐突な関西弁)
これはちょっとだけ怖いけど、そこはかとなく神秘的だな。
地面に落ちた仏頭が、木が成長すると共に根元に取り込まれてこうなったらしいけど、その割には仏頭はシッカリ真正面を向いてるし、そこに見えざる者の意志みたいなものを感じる。
仏様も、どうせ取り込まれるなら、真っ直ぐに世界を見たかったのかもしれない。
「おおー! この建物はとりわけおっきいね!」
「そうだね」
小高い丘くらいはあるピラミッド型の建物が、悠然と佇んでいた。
ここが本殿的なところなのかな?
「何かRPGとかによくあるさー、クリア後にしか行けない隠しダンジョンの入り口っぽくない、ここ?」
「ああ」
何となくわかるけど、これを見て最初に出てくる感想がそれって、つくづくゲーマーだねまーちゃんは。
令和版ハイスコアガ○ルかな?
「フッ、歴史の壮大さを感じるな」
「うふふ、本当ね梅ちゃん」
「あ、梅先生と優子――んん!?!?」
いつの間にか変公と優子は、またしても金太郎モードと羊モードに変身していた。
ニャッポリーナ!?(女性名詞)
「な、なんでまたその格好になってるんですか……」
「フッ、そんなこともわからないのか、智哉?」
「うふふ、智哉くんもまだまだね」
「……」
僕は変態じゃないので、変態の考えてることはわかりません。
「フッ、それはな――目立ちたいからだ!」
「そういうこと!」
「「――!」」
僕達を巻き込まないで!!!
お前ら一応修学旅行の引率なんだかんなッ!?
これじゃどっちが引率かわかんないよ!!
「フッ、それでは次はいよいよこの旅の締めくくり、『ワット・ローカヤスッター 』に向かうぞ!」
「イエーイ!」
「「……」」
マジで別行動にしてくんない?
「あー!! と、ともくん、これ、アレだよ!! サガットステージだよッ!!!」
「え? ああ」
そこには巨大な涅槃仏が、アルカイックスマイルで寝ていた。
どうりで既視感があると思った。
「フッ、その通り。この『ワット・ローカヤスッター 』は、伝説の格闘ゲーム、ストリートファイターIIのサガットステージのモデルになった場所と言われているのだ!」
「……」
「私、ストIIじゃサガットが持ちキャラなの! タイガーアパカッ! FOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!」
「そ、そうなんだ」
まーちゃんは女豹じゃなく、
「可哀想、この仏像……」
「「「――!?」」」
ぶるうちいず先生!?
何だか凄く嫌な予感がするッ!
「きっとこの仏像は、悟りを開きに旅に出た
「「「――???」」」
何その無駄にエモいBLストーリー!?!?
タイの人に謝って!!!
ぶるうちいず先生の頭の中、BLまみれかよッ!!
多分今脳内メーカーやったら、
_____
/ 腐腐腐腐 \
/ 腐腐腐腐腐腐 ヽ
|腐腐腐腐腐腐腐 |
| 腐腐腐腐勇腐腐|
/ 腐腐腐斗腐腐|
(_ 腐腐腐腐 ノ
`つ /
( |
 ̄ ̄)____亅
こんな感じだと思う(迫真)。
「あっという間だったねー」
「うん」
飛行機の窓から見える、どんどんと小さくなっていくタイの土地を眺めながら、僕とまーちゃんはこの四日間を思い出して感慨にふけった。
さらばタイ。
ありがとうタイ。
きっといつかまた来よう。
そう思えるくらい、刺激的でエキゾチックな国だった。
中でも一番のカルチャーショックは……。
「ねえともくん、ともくんはこの旅で、何に一番驚いた?」
「――!」
まさかまーちゃんも同じことを考えていたとは。
「それはもちろん、
「ふふふ、だよね。私も
まーちゃんもか。
「じゃあ、せーので言う?」
「うん! いくよ、せーの――」
「「ポテチに食べ掛けを留めておくためのテープが付いてたこと!」」
カ○ビーさん、ご検討の程よろしくお願いいたします!!(念押し)
「
「「……!」」
ぶるうちいずや
ああぶるうちいずや
ぶるうちいずや
智哉 心の俳句(大分字余り)