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第61話:エチュード

「みんな、今日はエチュードをやってみない?」

「「「エチュード?」」」


 今日も今日とて放課後の教室でダベっていた僕達四人だが(もうバスケ部の練習は完全になくなっちゃったのかな?)、まーちゃんがにわかにそんな提案をしてきた。

 エチュードって、何?


「エチュードっていうのは演劇の練習法の一つで、一言で言うならアドリブ劇のことだよ」

「へえ」


 まーちゃんは本当に物知りだね。


「前に文化祭で男女逆転劇やったじゃない? あれでちょっと演劇に目覚めちゃってさ私! だからみんなで練習がてら、エチュードやってみないかと思って」


 なるほど、そういうことか。

 でもまーちゃんはまだしも、僕は本来なら人前で演技とかするのは苦手だしなあ……。

 しかも台本無しのアドリブって……。

 大分ハードル高いな。


「フッ、何やら楽しげなことをやっているではないか諸君!」

「うふふ、元宇宙海賊として、腕が鳴るわ」

「「「――!」」」


 変態コンビもやってきた!

 お前らマジで最近仲良いなッ!


「演者の数は多い方が面白かろう、足立?」

「まあ、それは確かにそうですね。じゃあこの六人でやってみますか!」


 あ、もう僕らもやることが確定してる。

 ……まあ、まーちゃんが言い出した以上、僕らに拒否権なんてはなからなかったんだろうけどね(遠い目)。


「フッ、ではテーマは『職員室』としよう!」

「「「職員室!?」」」


 何でお前が仕切ってんだよ。

 しかも職員室とか、自分に有利なテーマにしやがって。


「フッ、『何でお前が仕切ってんだよ。しかも職員室とか、自分に有利なテーマにしやがって』とでも言いたげな顔だな智哉」

「なっ!?」


 相変わらず僕の周りはエスパーばっかだ!!

 それとも僕って、そんなに思ってることが顔に出るタイプなのかな……。


「むしろこちらは感謝してほしいくらいだぞ」

「は?」


 なんでだよ。


「――あくまで今回は演劇の練習としてやるのだろう? で、あれば、普段の自分とは違う立場の人間を演じるのが一番練習になる」


 ――!


「しかも今回は本物の教師の私もいるんだ。教師役の手本が間近で見られるなんて、そうそうないぞ」

「……」


 まあ、一理ある、か。

 こいつを本物の教師としていいのかという疑問は残るが。


「フッ、では早速舞台をセッティングしよう! 我々用の机を六個だけ残して、それ以外は後ろに下げるんだ!」

「「「はーい」」」


 やれやれ、結局僕はこれからもこんな感じに、流されて生きてくんだろうな。




「フッ、それでは始めるぞ」


 そして六個の机を並べて職員室に見立てた、簡易的な舞台が出来上がった。

 僕達はみんな窓際に立っており、演劇でいう舞台袖に待機しているような状態になっている。


「それぞれ舞台に上がるタイミングは任意とする。もちろんどんな役柄で登場するかも自由だ。歴史に残るエチュードを読者に見せてやろうじゃないか!」

「「「オー!」」」


 読者って何!?

 メタいこと言うなよ!


「ではよーい、はじめ!」


 っ!

 遂に始まってしまったか。

 さて、どうするかな。

 最初に舞台に上がる勇気はないから、少しの間は様子見かな。

 ――その時だった。


「おはようございまーす。あれ、まだ他の先生は来てないかあ」

「「「――!」」」


 まーちゃん!

 やはり最初に動いたのはまーちゃんだったか。

 なるほど、朝の職員室という設定にしたんだな?

 よし、じゃあこの流れに乗じて、僕も同僚の教師役で出よう。

 僕は軽く深呼吸を一つし、一歩を踏み出した。


「おはようございます足立先生。お早いですね」

「キャアアアッ!! 何でこんなところにチュパカブラが!?」

「っ!!!?」


 チュッパリート!?

 早くも自分の彼女に裏切られたぞ!?

 僕チュパカブラなの!?

 なんで職員室にチュパカブラがいるんだよッ!!

 そもそもそんなマイナーなUMA、みんな知ってるかな!?(知らない人はググってね)


「いやあッ!! こないで!! こないでええええ!!!」

「……」


 迫真の演技だな……。

 これもう、やるしかないやつじゃん……。


「……チュ、チュパアア。チュパチュパアア」

「ヒィ! 誰か助けてえ!!」


 チュパカブラって「チュパチュパアア」って鳴くのかな!?

 むしろ泣きたいのはこっちだけどね!!


「フッ、お困りのようだねお嬢さん」

「「――!」」


 ここでお前が来るのか!

 頼むから下手なことはしないでくれよ!!(フラグ)


「あ、あなたは」

「フッ、私は通りすがりのチュパカブラハンターさ。私が来たからにはもう安心だ」

「まあ!」


 食えてるのかそれで!!?

 そもそもなんで学校内をチュパカブラハンターが通りすがってんだよ!!


「早く! 早くあのチュパカブラを捕まえてください!!」

「フッ、まあそう焦るんじゃない。オーイ、ぶるうちいず、ぶるうちいずはいるか」


 なっ!?


「はいチュパカブラハンター。お呼びでしょうか」


 ぶるうちいず先生まで来たぞ!!!!

 最近の篠崎さんはぶるうちいず一本槍だな!!!

 そもそも職員室ってテーマなのに、今のところ教師が一人しかいないんですけど!!?


「こ、この方は……?」

「フッ、彼女は私の助手のぶるうちいずという。優秀なBL同人作家だ」

「そんな、優秀だなんて」


 なんでチュパカブラハンターの助手がBL同人作家なの!?!?

 世界観どうなってんだよッ!!!


「彼女にかかればどんなチュパカブラも『受け』にしてしまうのだ」

「えへへ、それほどでも」

「まあ!」


 な ん だ と。


「……しかし、『受け』にするためには当然『攻め』も必要になる。そうだなぶるうちいず?」

「はい! その通りですチュパカブラハンター!」


 っ!

 ま、まさかこの流れは。


「そこで彼の出番だ! 出でよ、田島勇斗!」


 ――!!!


「どうも、田島勇斗です」


 勇斗はまんまなのかよ!!!!

 こんなのもう演劇じゃねーよ!!!!!


「さあ勇斗くん、浅井くんのことを攻めて!」

「ああ、いいぜ」


 僕も浅井くんになってる!?!?

 チュパカブラはどこいったの!?!?


「というわけだからよ、今から攻めるぜ、智哉?」

「――!」


 勇斗が猛禽類のような眼で僕を見据えてきた。

 え!? え!? 待って待って!!

 お、お前、攻めるの意味わかって使ってんのか!?


「大丈夫、すぐに終わらせるからな」

「ちょっ、ちょちょ――!」


 勇斗が大きな手で、僕の頬をそっと撫でてきた。

 ふおおおおおおお!!!!!


「エクストリームチュパカブラフラーーーッシュ!!!!!!」


 申し訳程度のチュパカブラ要素!!!


「うふふ、そこまでよ!」

「「「――!!」」」


 優子!!

 今まで鳴りを潜めてたと思ったら、最後の最後に出てきたか!!

 お、お前はいったいどんな役なんだ……。


「あ、あなたは……?」

「うふふ、私は『運営さん』よ」

「「「運営さん!?」」」


 どゆこと!?


「今の流れ的にR18に抵触しそうだったから、警告をしにきたのよ」

「まあ!」


 今回ちょいちょいメタいな!?

 むしろお前はどちらかというと警告される側だろ!!


「でもね、私もあなた達が憎くて警告してるわけじゃないのよ?」


 え?


「――サイトがつつがなく継続していくためには、誰かがルールをきちんと取り締まらなきゃいけないの。だから心を鬼にして警告しているのよ。本当は私だって、こんなことしたくてしてるわけじゃないの。そこのところは理解してね?」


 ……いや、まあ、そりゃわかってますよ、僕だって。

 みんながみんなやりたい放題やってしまったら、絶対収拾がつかなくなりますもんね。

 大変なんですね、運営さんも。


「ハァーイオッケェ!! フッ、初めての割には、みんななかなか見事なエチュードだったぞ」

「えへへ、そうですか」


 お前の目は節穴か?

 そもそも教師役の手本を見せるんじゃなかったのかよ。

 見せられたのはチュパカブラハンター役という、絶対に使いどころがない役だったぞ。


「では次のテーマは『未知との遭遇』だ。みんな気合を入れろよ!」

「「「オー!」」」


 まだやんのかよ!?

 てかそのテーマだと、僕またチュパカブラ役になっちゃうよ!!


 ――結局この不毛なエチュードは、下校時間ギリギリまで続いたのであった(遠い目)。

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