「みんな、今日はエチュードをやってみない?」
「「「エチュード?」」」
今日も今日とて放課後の教室でダベっていた僕達四人だが(もうバスケ部の練習は完全になくなっちゃったのかな?)、まーちゃんがにわかにそんな提案をしてきた。
エチュードって、何?
「エチュードっていうのは演劇の練習法の一つで、一言で言うならアドリブ劇のことだよ」
「へえ」
まーちゃんは本当に物知りだね。
「前に文化祭で男女逆転劇やったじゃない? あれでちょっと演劇に目覚めちゃってさ私! だからみんなで練習がてら、エチュードやってみないかと思って」
なるほど、そういうことか。
でもまーちゃんはまだしも、僕は本来なら人前で演技とかするのは苦手だしなあ……。
しかも台本無しのアドリブって……。
大分ハードル高いな。
「フッ、何やら楽しげなことをやっているではないか諸君!」
「うふふ、元宇宙海賊として、腕が鳴るわ」
「「「――!」」」
変態コンビもやってきた!
お前らマジで最近仲良いなッ!
「演者の数は多い方が面白かろう、足立?」
「まあ、それは確かにそうですね。じゃあこの六人でやってみますか!」
あ、もう僕らもやることが確定してる。
……まあ、まーちゃんが言い出した以上、僕らに拒否権なんて
「フッ、ではテーマは『職員室』としよう!」
「「「職員室!?」」」
何でお前が仕切ってんだよ。
しかも職員室とか、自分に有利なテーマにしやがって。
「フッ、『何でお前が仕切ってんだよ。しかも職員室とか、自分に有利なテーマにしやがって』とでも言いたげな顔だな智哉」
「なっ!?」
相変わらず僕の周りはエスパーばっかだ!!
それとも僕って、そんなに思ってることが顔に出るタイプなのかな……。
「むしろこちらは感謝してほしいくらいだぞ」
「は?」
なんでだよ。
「――あくまで今回は演劇の練習としてやるのだろう? で、あれば、普段の自分とは違う立場の人間を演じるのが一番練習になる」
――!
「しかも今回は本物の教師の私もいるんだ。教師役の手本が間近で見られるなんて、そうそうないぞ」
「……」
まあ、一理ある、か。
こいつを本物の教師としていいのかという疑問は残るが。
「フッ、では早速舞台をセッティングしよう! 我々用の机を六個だけ残して、それ以外は後ろに下げるんだ!」
「「「はーい」」」
やれやれ、結局僕はこれからもこんな感じに、流されて生きてくんだろうな。
「フッ、それでは始めるぞ」
そして六個の机を並べて職員室に見立てた、簡易的な舞台が出来上がった。
僕達はみんな窓際に立っており、演劇でいう舞台袖に待機しているような状態になっている。
「それぞれ舞台に上がるタイミングは任意とする。もちろんどんな役柄で登場するかも自由だ。歴史に残るエチュードを読者に見せてやろうじゃないか!」
「「「オー!」」」
読者って何!?
メタいこと言うなよ!
「ではよーい、はじめ!」
っ!
遂に始まってしまったか。
さて、どうするかな。
最初に舞台に上がる勇気はないから、少しの間は様子見かな。
――その時だった。
「おはようございまーす。あれ、まだ他の先生は来てないかあ」
「「「――!」」」
まーちゃん!
やはり最初に動いたのはまーちゃんだったか。
なるほど、朝の職員室という設定にしたんだな?
よし、じゃあこの流れに乗じて、僕も同僚の教師役で出よう。
僕は軽く深呼吸を一つし、一歩を踏み出した。
「おはようございます足立先生。お早いですね」
「キャアアアッ!! 何でこんなところにチュパカブラが!?」
「っ!!!?」
チュッパリート!?
早くも自分の彼女に裏切られたぞ!?
僕チュパカブラなの!?
なんで職員室にチュパカブラがいるんだよッ!!
そもそもそんなマイナーなUMA、みんな知ってるかな!?(知らない人はググってね)
「いやあッ!! こないで!! こないでええええ!!!」
「……」
迫真の演技だな……。
これもう、やるしかないやつじゃん……。
「……チュ、チュパアア。チュパチュパアア」
「ヒィ! 誰か助けてえ!!」
チュパカブラって「チュパチュパアア」って鳴くのかな!?
むしろ泣きたいのはこっちだけどね!!
「フッ、お困りのようだねお嬢さん」
「「――!」」
ここでお前が来るのか!
頼むから下手なことはしないでくれよ!!(フラグ)
「あ、あなたは」
「フッ、私は通りすがりのチュパカブラハンターさ。私が来たからにはもう安心だ」
「まあ!」
食えてるのかそれで!!?
そもそもなんで学校内をチュパカブラハンターが通りすがってんだよ!!
「早く! 早くあのチュパカブラを捕まえてください!!」
「フッ、まあそう焦るんじゃない。オーイ、ぶるうちいず、ぶるうちいずはいるか」
なっ!?
「はいチュパカブラハンター。お呼びでしょうか」
ぶるうちいず先生まで来たぞ!!!!
最近の篠崎さんはぶるうちいず一本槍だな!!!
そもそも職員室ってテーマなのに、今のところ教師が一人しかいないんですけど!!?
「こ、この方は……?」
「フッ、彼女は私の助手のぶるうちいずという。優秀なBL同人作家だ」
「そんな、優秀だなんて」
なんでチュパカブラハンターの助手がBL同人作家なの!?!?
世界観どうなってんだよッ!!!
「彼女にかかればどんなチュパカブラも『受け』にしてしまうのだ」
「えへへ、それほどでも」
「まあ!」
な ん だ と。
「……しかし、『受け』にするためには当然『攻め』も必要になる。そうだなぶるうちいず?」
「はい! その通りですチュパカブラハンター!」
っ!
ま、まさかこの流れは。
「そこで彼の出番だ! 出でよ、田島勇斗!」
――!!!
「どうも、田島勇斗です」
勇斗はまんまなのかよ!!!!
こんなのもう演劇じゃねーよ!!!!!
「さあ勇斗くん、浅井くんのことを攻めて!」
「ああ、いいぜ」
僕も浅井くんになってる!?!?
チュパカブラはどこいったの!?!?
「というわけだからよ、今から攻めるぜ、智哉?」
「――!」
勇斗が猛禽類のような眼で僕を見据えてきた。
え!? え!? 待って待って!!
お、お前、攻めるの意味わかって使ってんのか!?
「大丈夫、すぐに終わらせるからな」
「ちょっ、ちょちょ――!」
勇斗が大きな手で、僕の頬をそっと撫でてきた。
ふおおおおおおお!!!!!
「エクストリームチュパカブラフラーーーッシュ!!!!!!」
申し訳程度のチュパカブラ要素!!!
「うふふ、そこまでよ!」
「「「――!!」」」
優子!!
今まで鳴りを潜めてたと思ったら、最後の最後に出てきたか!!
お、お前はいったいどんな役なんだ……。
「あ、あなたは……?」
「うふふ、私は『運営さん』よ」
「「「運営さん!?」」」
どゆこと!?
「今の流れ的にR18に抵触しそうだったから、警告をしにきたのよ」
「まあ!」
今回ちょいちょいメタいな!?
むしろお前はどちらかというと警告される側だろ!!
「でもね、私もあなた達が憎くて警告してるわけじゃないのよ?」
え?
「――サイトがつつがなく継続していくためには、誰かがルールをきちんと取り締まらなきゃいけないの。だから心を鬼にして警告しているのよ。本当は私だって、こんなことしたくてしてるわけじゃないの。そこのところは理解してね?」
……いや、まあ、そりゃわかってますよ、僕だって。
みんながみんなやりたい放題やってしまったら、絶対収拾がつかなくなりますもんね。
大変なんですね、運営さんも。
「ハァーイオッケェ!! フッ、初めての割には、みんななかなか見事なエチュードだったぞ」
「えへへ、そうですか」
お前の目は節穴か?
そもそも教師役の手本を見せるんじゃなかったのかよ。
見せられたのはチュパカブラハンター役という、絶対に使いどころがない役だったぞ。
「では次のテーマは『未知との遭遇』だ。みんな気合を入れろよ!」
「「「オー!」」」
まだやんのかよ!?
てかそのテーマだと、僕またチュパカブラ役になっちゃうよ!!
――結局この不毛なエチュードは、下校時間ギリギリまで続いたのであった(遠い目)。