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第62話:兄貴①

 ふう、遂に俺も今日から大学生か。

 それにしても大学って何て言うかこう……、空気が爛れてるッ!!!

 普通にみんな煙草吸ってるし、男女の距離感も近い気がする……!


 ――ここでなら、俺も童貞チェリーブロッサム卒業マイグラデュエーションできるかもしれないッ!!


 ……永かった。

 思えば小学校四年生の時、初恋だったカナちゃんに告白した際、緊張のあまり告白と同時に放屁してしまったのが俺の黒歴史の始まりだった。

 当然カナちゃんにはこっぴどくフラれてしまったうえ、あだ名が『スカンク』になってしまった……。

 スカンクは言わずもがな動物のスカンクのことだが、無得点で負ける『スコンク』とも掛かっているのがタチが悪い。

 その後も小学校六年の時のサトミちゃん、中学一年の時のカエデちゃん、中学二年の時のアイちゃん、中学三年の時のイノリちゃん、高校一年の時のアヤナちゃん、高校二年の時のミユキちゃん、高校三年一学期の時のマアヤちゃん、高校三年二学期の時のハルカちゃん、高校三年三学期の時のリエちゃんと、俺は女の子に告白するたびことごとく放屁してしまい、遂にはあだ名は『スキング』になってしまったのだった。

 スキングは当然、『スカンクキング』の略だ……。

 俺の肛門のバカッ!!!!

 何故ほんの少しの我慢ができないんだ!!?

 ……飼い主に似たのか。

 ま、まあ、いい。

 大学生になったからには、今度こそ卒業マイグラデュエーションできるはずだ。

 愛読書のエロ漫画の中じゃ、大学生なんてみんなエロいことしかしてないもんな。

 そのためにはまず、サークルに入らなければならない!


 ――本命はテニサーだ。


 エロ漫画でも、テニサーは大体乱交パーティーばっかやってるからな。

 えっ!? でも待てよッ!?

 卒業マイグラデュエーションがいきなり乱交パーティーだと、価値観変わっちゃわないかな!?

 普通じゃ満足できなくなっちゃわないかな!?

 ……まあ、それならそれでよしッ!!


「フッ、そこの青年、忍者には興味はないかな?」

「え?」


 ふいに声を掛けられ振り返るとそこには――。


 ――エロ漫画の中でしか見たことがないような、パツパツのセーラー服を着た巨乳美女が佇んでいた。


 えーーー!?!?!?

 いきなり大学の洗礼を受けてしまったッ!!

 これはあれだ!

 この後俺はこの巨乳美女の手で、半ば無理矢理童貞チェリーブロッサム卒業マイグラデュエーションさせられてしまうんだ……!

 ずっと卒業マイグラデュエーションしたいと思っていた童貞チェリーブロッサムだけど、いざ卒業マイグラデュエーションするとなると、少しだけ名残惜しいな(しんみり)。


「フッ、どうかな? 忍者になってみたくはないかい?」

「み、みたいですみたいですッ!!」


 忍者っていうのは、何かの隠語かな?

 きっとメッチャエロい意味なんだろうな……(ゴクリ)。


「フッ、だと思ったよ。――では私について来たまえ!」

「は、はいッ!!」


 くううう、遂に卒業マイグラデュエーションかあ!

 感慨深いぜッ!


 ――プウッ


「「――!!」」


 ああああああああああ!!!!!

 俺の肛門のバカアアアアアア!!!!!

 せっかく卒業マイグラデュエーションできそうだったのに、これで全てがパアだ!!

 ……うぅ、卒業マイグラデュエーションしたかった。


「フッ、どうした、来ないのか?」

「え?」


 巨乳美女は涼しい顔でそう言った。

 なっ!!? そ、そんなまさか!!?


「だ、だって俺……、今、放屁したのに……」

「フッ、だったら何だ? 放屁くらい誰でもする。その程度のこといちいち気にはせんよ。私をその辺のケツの穴の小さい女と一緒にしないでくれ。――放屁だけにな!」

「――!」


 その瞬間、俺はこの人に童貞チェリーブロッサムを捧げると誓った。




「フッ、諸君、早速新人を一人連れて来たぞ!」

「おほー! 流石梅さん、仕事がお早い!」

「どんどんぱふぱふ~、『伊賀忍者研究会』にようこそでござるよ~」

「……は?」


 巨乳美女に連れて来られた場所は、サークル棟の一番奥にある古びた部室だった。

 それはまあいいのだが、何故かそこには俺達以外にも四人の男女がくつろいでいた。

 なっ!? まさかここでも乱交パーティーがッ!!?

 やはり俺は乱交パーティーからは逃れられない運命なのか……!(恍惚)

 でも今、『伊賀忍者研究会』って言った?

 忍者ってのは隠語じゃなくて、ガチの忍者のことだったのか?


「フッ、では軽く自己紹介をしよう。私はこの伊賀忍者研究会の会長にして、四年生の峰岸梅だ」

「あ、どうも」


 巨乳美女は梅って名前だったのか。

 古風だけど、エロそうで良い名前だ。

 しかも会長とは。

 会長自ら乱交パーティーに誘ってくれるとは、大学ってしゅごい。


「おほー! 次は私ですかねー。三年のウニっていいまーす。よろしくお願いしますねー」

「こ、こちらこそ」


 このやたら飄々としてる女の人はウニさんっていうのか。

 ウニはあだ名かな?

 髪型もウニの棘みたいにツンツンしてるしな。


「どんどんぱふぱふ~、拙者はクロダイというでござる~。三年生でござる~。これから一緒に頑張りましょ~」

「は、はい」


 癒しオーラ全開の男の人はクロダイさんか。

 これも多分あだ名だろうな。

 何故か室内なのに背中に釣り竿背負ってるし。


「では次は俺だね。俺の名前は普津沢。実は俺はOBなんだけどね。今日はちょっと用事があって寄ったんだ」

「あ、そうなんですか」


 イケメンのお兄さんはOBだったのか。

 確かに歳は二十代中盤くらいに見える。

 用事っていうのはもちろん、乱交パーティーのことですね?


「フッ、そして最後は――」


 ……?

 梅先輩は、壁に寄りかかっている長身のイケメンに目線を向けた。

 その人は個性派揃いのこのメンバーの中でも、特に異質な雰囲気を纏っていた。

 何故ならその人は執事服を着ている上、腰に日本刀の大小を差しているからだ。

 執事服を着てる割には無愛想で、執事というよりは侍って感じだ。

 これも乱交パーティーの演出の一つなのだろうか?


「……如月きさらぎだ。俺もOBだ」

「あ、どうも」


 この人もOBなのか。

 この人に関しては、最早30歳近くに見える。

 やっぱいくつになっても乱交パーティーの味は忘れられないのかな。


「フッ、こちらのメンバーはこんなところだ。して、青年の名は?」

「あ、俺は浅井っていいます。きょ、今日はよろしくお願いしますッ!!」


 俺は深々と頭を下げた。

 くううう、遂に始まるぜ、乱交パーティーがッ!!(倒置法)


「フッ、よろしくな浅井。して、今日はどんなご用ですか、普津沢先輩」

「ああ、それがね。……どうやら最近この付近に、『救国の光』の教祖が出没してるらしいという情報を掴んだんだ」

「「「――!」」」


 ん? 救国の光?

 それって何年か前にハイジャック事件を起こして大騒ぎになった、怪しい宗教団体の名前じゃん。

 確かその一件で団体の幹部は粗方逮捕されたんだけど、教祖を含む一部の幹部は逃走して、未だに捕まってなかったはずだ。

 なんでここでその名前が出てくるんだろう?

 それに、教祖の名前と顔は完全に謎に包まれてて、世間には公開されてなかったはず。

 なのに、なんで普津沢さんは教祖の情報を知ってるんだ?


「フッ、なるほど、それは見過ごせない案件ですね、普津沢先輩」

「……ああ。いざとなったら如月さんのお力もお借りすることになるかもしれません。その際はよろしくお願いします」

「任せておけ」


 ははーん、わかったぞ。

 さてはあれだな、シチュエーションプレイってやつだな!?

 こうして影から日本を守る忍者という設定で、場の雰囲気を盛り上げようってわけだ!

 対魔忍的なやつだッ!!


「因みに救国の光のメンバーは、みんな胸元にこんなタトゥーが彫られているらしい。目印にしてくれ」


 普津沢さんは一枚の紙を机の上に置いた。

 そこには太陽を模したようなシンボルが印刷されている。

 ああ、そういやこれが救国の光のシンボルだったな。

 当時はよく目にしたっけ。


「フッ、委細承知しました。要件は以上ですか?」

「うん、今日のところはね」

「では各自気を引き締めて事に当たるように!」

「おほー! みなさんの足を引っ張らないように頑張りまーす」

「どんどんぱふぱふ~、このメンバーならきっと大丈夫でござるよ~」


 こ、この感じは……、いよいよ乱交パーティー本番ですか!?


「そうだ浅井、お前にはこれを渡しておく。いざという時はこれを使え」

「え?」


 そう言うなり梅先輩はおっぷぁいの谷間からテニスボールくらいの大きさの球を取り出し、俺に手渡してきた。

 ふおっ!?

 な、何だこれ……。

 俺は見たことないけど、最新の大人のオモチャかな!?


「フッ、では今日は解散! 忘れ物に気を付けるように!」

「……え」


 えーーー!?!?!?

 乱交パーティー本番はッ!?!?!?




「……ハァ」


 とんだ詐欺もあったもんだ。

 まさかただの忍者ごっこサークルだったとは……。

 今からでもテニサーに乗り換えるべきか?

 ……うーん、でも俺の童貞チェリーブロッサムは梅先輩に捧げるって決めちゃったしなあ。

 俺は薄暗くなった家路を、独り寂しくトボトボと歩いていた。


 ――その時だった。


「た、助けてくださいッ!」

「――!?」


 路地裏から突如一人の女性が飛び出し、俺に抱きついてきた。

 えーーー!?!?!?

 しかもよく見ればその女性は、絵画から抜け出してきたのではないかと見紛う程の絶世の美女だった。

 その上豪奢な飾りが付いた巫女装束のようなものに身を包んでおり、俺はその佇まいから邪馬台国の卑弥呼を連想した。


「――なっ!?」


 そして俺の目線は卑弥呼さんの胸元に釘付けになった。

 余程慌てて走ってきたのか、巫女装束がはだけて胸の谷間が露わになっていたのだ。

 だが俺が一番驚いたのはそこではない。


 ――その胸元には、太陽を模したようなタトゥーが彫られていたのである。

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