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第65話:兄貴④

「梅先輩!!!」


 遂に俺の童貞チェリーブロッサムを奪ってくれる気になったんですね!?

 で、でも、ここは流石に危ないっすよ!

 どうせ奪ってくれるなら、もっとこう、汗臭い体育倉庫とかで……。


「……何者だね、君達は?」


 中二病総統閣下が怪訝な表情で梅先輩達を見据える。

 あ、紹介しますお義父様!

 こちら、俺の正妻ですッ!


「フッ、なあに、ただのしがない忍者さ」

「……忍者?」

「フッ、クロダイ」

「どんどんぱふぱふ~、お任せあれでござるよ~」

「「「――!!?」」」


 その時だった。

 俺に銃口を突き付けていたカバ太が、突然透明な巨人に掴み上げられたかのように宙に浮き上がった。

 ニャッポリート!?

 な、何が起きたんだ!?


「がふっ!」


 そのまま天井付近まで吊り上げられたカバ太は、今度は巨人に投げ捨てられたかの如く、床に激しく叩きつけられた。

 サングラスが外れた顔は完全に白目を剥いており、一日の内に二度目となる失神をキメてくれたのでした(めでたしめでたし)。


「どんどんぱふぱふ~、本日の釣果はカバの一本釣りでござる~」

「「「っ!??」」」


 よく見ればカバ太の襟からは釣り糸が伸びていた。

 その糸はクロダイさんが持つ釣り竿に繋がっている。

 そんなッ!?

 人間一人をあんな風に吊り上げる(釣り上げる?)なんて、どんな強度の釣り糸と膂力だよ!?


「ああっ! 釣り糸が絡まってしまったでござる~! 取れないでござるよ~」


 ほっこりーと!?

 意外とおドジさんな一面も!?


「くっ! な、何をしているワシ! こいつらを何とかしろッ!!」

「ハッ」


 ヌッ!?

 ワシ夫と呼ばれたひょろりとしたノッポで目付きが鋭い男が懐から大振りなナイフを取り出し、ウニさんに襲い掛かっていった。

 ウ、ウニさんッ!!


「おほー! 大丈夫ですかー? 足元危ないですから気を付けてくださいねー」

「何!? ――イッ!! 痛タタタタ!!!?」

「「「――!!?」」」


 どうした!?

 学生時代の黒歴史でも思い出しちゃった!?

 ――いや、違う。

 いつの間にか、ウニさんの周りには夥しい数のウニが転がっていたのだった。

 ワシ夫はあれを踏んじまったのか!?

 でも、革靴を貫通するくらいのウニの棘って、これまたどんな強度だよ……。


「おほー! そしてこれが必殺、ウニクラッシャーアタックですよー」

「ぐあああああああああ」

「「「――!?!?」」」


 えーーー!?!?!?

 ウニさんはツンツンウニヘアーを前方に突き出し、錐揉み回転しながらワシ夫に突っ込んだ。

 それを受けたワシ夫は全身をズタズタに引き裂かれ、その場にくずおれた。

 全体的に強度がエグいッ!!!

 寝る時とかどうしてるんだろう(素)。


「ぬうううう、ふざけた真似をしおってえええ!!! クマぞう、あのセーラー服の女から片付けるんだッ!!」

「イエス、ボス」

「なっ!?」


 クマ蔵と呼ばれた文字通りクマみたいなガタイをした大男が、梅先輩に殴り掛かっていった。


「う、梅せんぱーーーーい!!!!!」

「――フッ、案ずるな、浅井」

「……え?」

「あばばばばばばばばばば」

「「「――!?!?!?」」」


 今日は俺、驚くリアクションしてばっかだな!?

 ――だがそれも無理はない。

 突如としてクマ蔵は、漫画で雷に打たれたみたいに全身の骨を透けさせながら感電してしまったのだから――。

 本当にこういう時骨って透けるんだね(素)。


「う、梅先輩……、それは」

「フッ、これは私が独自に開発した、1千万ボルトの電圧を誇るスタンガンさ」

「1千万!?!?!?」


 何ですかそのぼくのかんがえたさいきょうのすたんがんみたいな設定は!?

 そんなとんでもない代物、一介の大学生に作れるんですか!?


「因みにもう少し研究を進めれば、1億ボルトのスタンガンも作れると踏んでいる」

「1億!?!?!?!?」


 それは最早雷っすね!!

 お願いですから俺が浮気したとしても、それは使わないでくださいね?(素)


「な、何者なのだ貴様らあああああああ!!!!!」


 遂に中二病総統閣下がブチギレた!!!

 自分に都合が悪くなると声を荒げるオッサンってカッコ悪い(素)。


「フッ、だから先程も言っただろう? ただのしがない忍者だよ。――正確には公式には存在しない架空の政府機関、その名も『Imaginary Governmental Agency』、通称、『IGA』さ」

「IGA……」


 イッガニージャ!?!?!?

 マジのマジでマジモンの忍者だったんすかッ!?

 つ、つまり梅先輩はくのいちってこと……!?(ゴクリ)

 エロの化身じゃねーかッ!!!(偏見)


「フッ、さあ城上龍翔、年貢の納め時だぞ。神妙にお縄につけ」

「ぐっ! おのれえええええ!!」


 随分時代がかった言い回し!

 そんなところも好きッ!


「まだまだこちらは人数で圧倒しておるのだッ! みなで一斉に撃ち殺せええええ!!」


 なっ!?

 残っていた10人以上の黒服達が、同時に梅先輩達に銃口を向けた。

 い、いくら梅先輩でも、この人数は!!


「梅先輩ッ!!!」

「フッ、、後はよろしくお願いします」


 ――!!


「ああ、お前達は下がっていろ」

「「「――!!?」」」


 影が形を成したかの如く、忽然と如月さんが現れた。

 キッサラーギ!?

 音すらしなかったけど、この人ホントに人間か!?


「――ハッ、またふざけた格好の男がきたものだな。その腰に下げているのは日本刀か? そんなもので近代兵器の銃に勝てるとでも思っているのかッ!」

「試してみるか?」


 如月さんは左手の親指で鯉口を切った。

 マ、マジっすか如月さん!?


「ぐう! れええええええ!!!」


 室内にほぼ同時に無数の銃声が響き渡った。


「如月さああああんッ!!!」

「「「ぎゃあああああ」」」

「……え?」


 ――が、次の瞬間。

 発砲した側の黒服達が、全員同時に手や足から血を吹き出しながらその場に崩れ去った。

 い、いったい何が……。


「そ、そんな……!? 貴様、何をしたッ!!」

「大したことはしていない。刀の峰で、撃った本人に弾丸を弾き返しただけだ」

「……な」


 えーーー!?!?!?

 それは大したことあるでしょ!!?

 逆に如月さんにとって大したことある事象って何ですか?(素)


「……ば、化け物め」

「フッ、それは言い得て妙だな。何せ如月先輩は、、IGAで最強の人材だからな」


 マジっすか!?!?

 如月さんSUGEEEEEE!!!!

 ……ん? でも待って?

 今、『派遣社員を除けば』って言いました?

 IGAで最強なのは派遣社員の方なんですか?

 正社員より派遣社員の方が優秀な会社は結構多いって聞いたことありますけど、まさか忍者の世界もそうだったとは……。


「ク、クハハハ、クハハハハハハハハハハハハハハハ」

「お、お父様!?」


 おやおや?

 突然お義父様が陽気に笑い出したぞ?

 もしかしてやっと姫子さんを俺の側室として送り出す気になっていただけました?


「何が最強だ。どれだけ貴様が強かろうが、

「「――!!」」


 お義父様は右手に握っていたを躊躇なく押した。

 う、うわあああああああああ!!!!!!!!


「………………ん?」


 ………………ん?

 おや?

 何も、起きないな?


「そ、そんな!? 何度も点検したはずだぞッ!? 壊れているわけは――」

「キャハハ、ご~めんねえ、この子ならあーしが解除しちゃったよん」

「「「――!!」」」


 その時だった。

 爆弾の陰から、フード付きのダボついたコートを着た異様に目が血走っている女性が現れた。

 ここにきて新キャラ!?!?


「ざ、戯言を抜かすなッ!!! これは我々が心血を注いで開発した、極めて特殊な構造をした爆弾だぞッ!!? この世の誰にも解除なぞできるものかッ!!!」

「フッ、それがこの人ならできるのさ。何せこの人は、ボンバー爆間ばくまだからな」

「「「――!!!」」」


 この人が!?!?!?

 ――ボンバー爆間は、救国の光がハイジャックを起こすより更に前に、廃ビルの連続爆破事件で日本を震撼させた伝説の爆弾魔だ。

 結局事件は未解決のまま終わり、ボンバー爆間は国外に逃亡したという噂が流れていたが、まさかIGAの一員になっているとは……。

 あれかな?

 漫画とかでよくある、捕まえた凶悪犯を、司法取引して味方として働かせるとかいうやつなのかな?(名推理)


「キャハハハ、この程度の爆弾だったら、あーしは作ってたよお」

「な、何だと!?」


 もうやめて! とっくにお義父様のライフはゼロよ!


「城上龍翔、貴様を逮捕する。――抵抗すれば斬るぞ」

「――!」


 如月さんが抜刀の構えを取った。


「……う、うおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

「お父様ッ!!」


 っ!!

 お義父様は起動スイッチを投げ捨て、懐から拳銃を取り出し如月さんに向けた。


「……愚かな。――――訃舷ふげん一刀流いっとうりゅう奥義」

「「「――!」」」


 ――刹那、如月さんの纏う空気が、何の音も耳に入らなくなるくらい、静謐なものに変わった。


「【雁渡かりわたし】」

「――なっ!?」

「「――!!!」」


 一瞬の出来事だった。

 お義父様とは大分離れていたはずの如月さんは、気が付けばお義父様の真後ろに佇んでいた。

 しかもその右手には、抜刀した刀が握られている。

 ……み、見えなかった。

 影すら置き去りにする。

 まさしく神速とも呼べる抜刀術だ。


「……あ、ああ、あああああああああああああ」

「「っ!!!?」」


 お義父様の左肩から腰にかけて、斜めに鮮血が走った。

 うおおおおおおお!!!!!!?

 き、如月さああああああああああん!!!!!!!!


「あ……ああ……」


 お義父様は事切れたように、仰向けに崩れ去った。


「お父様ッッ!!!!」


 堪らず姫子さんはお義父様に駆け寄った。


「案ずるな。急所は外してある」

「……! あ、ありがとう……ございます」


 姫子さんは複雑な面持ちで、震えながら頭を下げた。

 ……姫子さん。


「お疲れ様でした如月さん。みんなも、よくやってくれたね」

「ふ、普津沢さん!?」


 ここに来て普津沢さんも登場した。

 流れ的に普津沢さんもIGAの一員なんだとは思ってましたが、全部終わってから来るのズルくないすか?

 ひょっとして普津沢さんは戦闘要員じゃないのかな?(名推理)


「おほー! 頑張りましたよー。褒めてくださーい」

「どんどんぱふぱふ~、釣り糸をほどくのを手伝ってほしいでござる~」

「キャハハ! あーしはパンケーキが食べたいねえ」

「うんうん、みんな順番な」


 普津沢さん大人気だな!?

 結局この世は顔なのかよッ!!(嫉妬)


堕理雄だりおくんッ!!」


 え?

 にわかに姫子さんが普津沢さんに抱きついた。

 えーーー!?!?!?

 俺のいる前で浮気ですか姫子さんッ!!?

 てか普津沢さんの下の名前って、堕理雄っていうの?

 ……変な名前!!(嫉妬)


「……久しぶりだな、姫子」

「うん! うん……! 会いたかった……。会いたかったよ堕理雄くん!」

「姫子……」


 他所でやってくんないかなッ!!?(嫉妬)

 あれ?

 これ、もしかして姫子さんが最後に会いたがってた人って、俺じゃなくて普津沢さんだったのかな?(悲しい名推理)


「フッ、普津沢先輩と姫子さんは、中学時代は恋仲だったらしい」

「恋仲!?」


 イケメンは全てを攫っていく!!

 とんだ君主主義もあったもんだッ!!


「だが城上龍翔が救国の光を立ち上げる際に二人の仲は引き裂かれ、離れ離れになってしまった」

「……!」


 そんな過去が……。


「しかし、どうやら姫子さんのほうはずっと普津沢先輩への想いを忘れられなかったようだな。それが今回の事件を解決する鍵になったのだから、皮肉なものだ」

「……」


 それは確かに皮肉っすね。

 何て可哀想な人生なんだ……。

 あーあ、それにしても、俺と姫子さんは運命の相手じゃなかったのかよ。

 よく考えたら子供の頃に綺麗なおねえさんに会った覚えなんてなかったわ(素)。


「うおっと!?」


 その時だった。

 俺は突然足がふらつき、後ろに倒れそうになった。

 あ、ヤバ。


「フッ、強がってはいても、やはり極度に緊張していたのだな」

「……!!」


 が、すんでのところでむにゅんという柔らかいもので後頭部を包まれながら、梅先輩に支えられた。

 こ、この感覚は……、もしやッ!!!?


「フッ、よくやってくれたぞ浅井。今回の案件は、お前のお手柄だ」

「……梅先輩」


 結納はいつにします?


「――俺は先に失礼するぞ」

「フッ、お疲れ様でした如月先輩」

「っ!? ま、待ってください如月さん!!」

「……何だ」


 俺は如月さんの前に滑り込み深い土下座をした。


「お、俺を……弟子にしてくださいッ!」

「……」

「先程の技、痺れました! 俺も如月さんみたいに強くなって、日本の役に立ちたいっすッ!!」


 そうなれば、今度こそ卒業マイグラデュエーションできるはず!!(本音)


「……他をあたれ。俺は弟子はとらん」

「そ、そんなあ」

「フッ、いいではないですか如月先輩」

「梅先輩!?」


 流石俺の正妻!

 もっと言ってやってください!


「こいつなら、いつか如月先輩を超える存在になると私は踏んでいますよ。――私の発明品と合わせればですが」

「……ほう」


 発明品!?

 それはさっきのスタンガン的なものですか!?


「どうだ浅井、地獄の試練に耐える覚悟はあるか?」

「あ、ありますあります! 余裕で耐えてみせますよッ!」


 童貞チェリーブロッサム卒業マイグラデュエーションするためだったら、何だってやってやるぜ!


「フッ、その意気やよし! ではお前にはこれを授けよう」

「え?」


 梅先輩はおっぷぁいの谷間からダルダルのスウェットを取り出した。

 おっぷぁりーと!?!?


「お前には今日から私の開発した強化スーツを24時間着てもらう。このスウェットで、それを隠すがいい」

「は、はい! ありがとうございます!」


 ふおおおお!!!

 このスウェット、一生大事にするぜ!!


「フッ、よし、今日からお前のあだ名は『ダルダルマイスター』だ!」

「ダルダルマイスター!?!?」


 そこはかとなくダサい!!

 まあ、正妻からつけてもらったあだ名だから、しょうがないから受け入れますかね(ノロケ)。


 ――こうして俺の忍者としての人生が、この日から始まったのであった。

 この後俺は忍者になったことを何度も死ぬ程後悔するのだが、それはまた、別の話。

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