「よっ、おはよっ、智哉。ちゃんと朝飯食ってきたか?」
「おはよう勇斗。……って暑苦しいから離れろよ」
今日も教室に入るなり、勇斗くんが
エクッフ!
……危ない危ない。
早くもエクフラが出てしまうところだった。
私も一人の淑女として、せめてエクフラは『一日一ヘヴンフラッシュ』に留めておかないとね。
はぁ~、それにしても今日も今日とて私の推しカプが
こんなに
「おっはー美穂ー! 美穂は今日も可愛いねー」
「わっ、茉央ちゃん」
私は私で茉央ちゃんから抱きつかれて頬擦りされた。
私も愛されてるなあ……。
「んふふ、ぺろり~ん」
「ひゃうッ!?」
そのまま茉央ちゃんに頬を舐められた。
えーーーー!?!?!?!?
「ふふふ、この味は、ゆう×ともに萌えている『味』だぜ」
「っ!?」
いや確かに軽くエクフってたけれども!?
どこのイタリアギャングのチームリーダーよ!?
「なあなあ微居、あやとりやろうぜあやとり」
「フン、しょうがないな」
――!
また絵井君と微居君が古風な遊びをしている。
エクッフ!
ゆう×とも程じゃないけど、この二人も私の中で
私は相棒固定のニコイチカプじゃないとエクフれない体質だから、いろんな男の子と仲良くしてる総受け気質な子が受けだと推せないんだけど、その点この二人は完全に二人だけの世界に入ってるから安心して推せます!
エクッフ!
……ただ問題は、『
私は相棒固定派な上、左右も固定派だから、一度左右を決めちゃったが最後絶対に変えたくない。
だからこそ左右決めは熟考に熟考を重ねなきゃ。
……ふむ、いい機会だからちょっとだけシミュレーションしてみよう。
先ずはA×Bのパターン。
天真爛漫で気さくな攻め様絵井君。
そして何だかんだそんな絵井君にいつも流されがちなツンデレ受けの微居君。
口ではあれこれ文句を言いつつも、心の中は常に絵井君のことでいっぱいな微居君。
そんなある日、スマホの待ち受けにしていた絵井君の隠し撮り画像にキスしているところを絵井君に目撃されてしまう微居君……!
『おい微居、どういうことなんだよそれ』
『い、いや、これは違うんだ……!』
『何が違うってんだよ? ――そんなに俺の唇が欲しいなら、お前にだけはくれてやるよ』
『え、絵井……!?』
――エクッフッッッ!!!!!
これはアリよりのアリだねッッ!!!!
70エクッフくらいいってたね!!
100エクッフが一世帯の一日の電気代に相当するって聞いたことあるから、これはなかなかのエネルギー量だよ!
何て地球に優しいのだろう……!
これはA×Bで決まりか……!?
……いや、待て待て。
結論を急ごうとするのは私の悪い癖だ。
ついさっき自分で熟考に熟考を重ねると言ったばかりじゃないか。
――ということで次は、B×Aのパターンをいってみよう。
我儘で俺様気質な攻め様微居君。
そんな微居君のことを、いつも抜群の包容力で受け止めてくれるオカンタイプ受けな絵井君。
今日はなかなか知恵の輪が解けない微居君のことを、絵井君は菩薩のような表情で眺めているのです。
『あーもう、全然ダメだ。こんなのやってられっか』
『お前がやりたいって言い出したんじゃないか。すぐ投げ出すのはお前の悪い癖だぞ』
『うるさい。――こうなったらお前で憂さを晴らしてやる。覚悟しろよ』
『ちょっ、微居、こんなとこで……。まったく、しょうがねえなあ』
しょうがないのッッッ!?!?!?
どれだけ包容力に溢れてるのッッッ!?!?!?
――エクッフッッッ!!!!!
くぅぅ、これはB×Aも捨てがたい……!
……やはりこれは今すぐ決められることじゃないな。
もっと時間を掛けて、ジックリ考えよう。
「篠崎さん、ちょっと今いいかしら?」
「あ、
鹿ノ上さんが中指でメガネをクイと上げながら話し掛けてきた。
鹿ノ上さんはこのクラスで私が唯一
まあ、茉央ちゃんとも腐リートークはできないことはないんだけど、茉央ちゃんは逆カプとかも割と平気な雑食気質な上、どちらかというととも×ゆう推しだからなあ……。
私、とも×ゆうだけはド地雷なのッ!!!
だって勇斗くんはどう考えても攻めだし、浅井君に至っては受けオブザイヤーも有力視されてるくらいのド受けじゃないッ!?!?
何をどう間違ったらとも×ゆうなんていう結論に至るの!?!?
その点鹿ノ上さんは私と同じ相棒固定派且つ左右固定派で、その上ゆう×とも推しだから安心して腐リートークできます!
「……篠崎さん?」
「あ! ご、ごめんね鹿ノ上さん、ちょっと他のこと考えてて」
「ふふ、いいよ。実はこの前買わせてもらったぶるうちいず先生の新刊のことなんだけど」
「――!」
そう、先週末にあった同人誌即売会で私はまたぶるうちいずとして新刊を出したんだけど、ありがたいことに鹿ノ上さんはいの一番にそれを買いにきてくれたんだ。
「ど、どうだったかな?」
本の感想をこうやって読者の方から直接聞く機会はなかなかないので、この瞬間は凄く緊張する。
「……うん、それが、率直に言って」
「……」
ゴクリ。
「801エクッフくらいいってたねッ!!!!」
「――!!」
そ、そんなに!?
801エクッフといえば、恵まれない国の子供達百人が、一ヶ月は飢えずに暮らしていけるだけの食料に相当するという。
私の同人誌に、それだけの価値が……!?
「い、いや、いくら何でもそれは褒めすぎだよ」
「ううん! そんなことないよ篠崎さん! ――いや、ぶるうちいず先生」
「――!」
……鹿ノ上さん。
「自信を持ってぶるうちいず先生。あなたの本は、お世辞抜きでドチャクソ
「……あ、ありがとう鹿ノ上さん」
あ、ヤバ。
ちょっと泣きそう。
いつも心の奥では、こんな本誰が読みたいと思うんだろうって不安と常に戦ってるんだけど、こうやって本心から良かったって言ってくれる人がいると、それだけで全てが報われる。
正直締め切り前だと三日くらい徹夜することもあって、もうヤダって投げ出したくなっちゃう時もたまにあるけど、諦めずに頑張ってきて本当によかった……。
「ん? 智哉、お前何か顔赤いな。熱でもあんじゃねーか?」
「べ、別に何でもないよッ! ――ファッ!?」
「「「――!!」」」」
その時だった。
勇斗くんが
「「エクストリームヘヴンフラーーーッシュ!!!!!!」」
教室中に私と鹿ノ上さんのエクフラが炸裂した。
生涯を懸けてゆう×ともを推そうと、改めて私が決意した瞬間である。
「はぁ~」
「ん? どうした美穂?」
「あ、何でもないの!」
そして迎えた放課後。
今日は勇斗くんの家にお呼ばれしたので、お家デートだ。
でも昼間のゆう×とものおでこピトーが頭から離れない……。
あんなの間近で見せられちゃったら、もう……、もうッ!
「マジで大丈夫か美穂? 熱でもあんじゃねーか?」
「だ、大丈夫だよ勇斗くん! ――ファッ!?」
勇斗くんは今度は私に、
はわわわわわーーーー。
「ホ、ホントに大丈夫だからッ!」
「そっか、ならいいんだけどよ」
はー、心臓に悪いよ、もう!
「……でも、ゴメン、美穂」
「え?」
な、何が?
「俺、もうガマンできねーわ」
「――!」
勇斗くんがギラギラとした瞳で私を見つめながら、肩を掴んできた。
ゆ、勇斗くん……!?
――ゴメンね浅井君。
今だけは、勇斗くんを借りるね。