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第71話:肘-1グランプリ②

「さあ、ではケツカッチンなので早速一回戦第一試合を始めましょう!」

「ケツカッチンなんですか!?」


 誰が!?

 勇斗ケツカッチンって言いたいだけだろ!?


「浅井さん、組み合わせの抽選をお願いします」

「え?」


 勇斗は僕の前に穴が開いた正方形の箱を置いた。

 抽選?


「この中には参加者の名前が書かれたボールが8個入っています。浅井さんには対戦のたび2個ずつボールを取っていただき、その2名が対戦相手となります」

「マジっすか」


 責任重大じゃないか。

 少なくとも変公や優子と当たった相手からは恨まれそうだな……。


「そして準決勝進出の4名が決定いたしましたら、再度浅井さんに抽選していただき、準決勝の組み合わせを決めるという流れになっております」

「へえ」


 つまり通常のトーナメント戦と違って、次の対戦相手の対策が立てづらいってことか。

 ある意味平等なのかな?


「というわけで浅井さん、早く抽選をお願いします。ケツカッチンなんで」


 何回ケツカッチン言うんだよ!?

 勇斗って同じワードを何回も言う傾向ある!(分析)

 まあ、僕がクジを引かないと始まらないのは事実だろうし、腹を括るか。

 僕はおずおずと抽選ボックスの中に手を入れた。

 そして適当なボールを掴んで取り出すとそこには――。


「――浅井さん、どなたの名前が書かれていますか?」

「――は、鳩原さんです」

「あら? 私ですか?」


 鳩原さんがキョトンとした顔で僕のほうを見た。

 ええ、あなたです鳩原さん。

 他に鳩原って名前の人いないでしょ?


「は、鳩原さん、頑張ってね!」


 ――!

 観客席の一番前から、いぬい君が鳩原さんに声援を送った。

 乾君と鳩原さんは教室でもいつも二人でお喋りしていたり、一緒に学校から帰ったりしているという、誰がどう見ても両想いな二人なのでみんなから密かに「お前らはよくっつけ。そして爆発しろ」と思われている(まあ、僕とまーちゃんも昔はそうだったのだろうが……)。


「はい、頑張ります! 因みに今日の晩御飯は何がいいですか乾君?」

「「「――!!」」」

「ちょっ!? 鳩原さん、人前でそういう話はしちゃダメだって言ったでしょッ!」

「あらすいません、私ったらついウッカリ」


 鳩原さんはてへぺろポーズを取った。

 晩御飯????

 よもやあの噂は本当だったのか……。

 この二人は――という噂は……!

 ――ハッ!

 微居君ゴ○ゴ13が、照準を乾君に合わせている――!

 乾君、後ろ後ろーーー!!!


「では浅井さん、鳩原さんの対戦相手を抽選してください」

「あ、はい」

「ケツカッチンなんで」

「わかりましたよもうッ!?」


 いい加減ウザいなッ!!?

 僕はそそくさとボールを取り出した。

 するとそこには――。


「浅井さん、発表してください」

「――ま、まーちゃんです」

「FOOOOOOOOOOO!!!! 鳩原さん、本気でいくから覚悟しといてねー!」

「ふふ、お手柔らかにお願いしますね」


 まさか初戦からいきなりまーちゃんとは……。

 これはいきなり波乱の展開になりそうだな……。


「それでは浅井さん、対戦種目の抽選もお願いします」

「対戦種目?」


 勇斗は僕の前にもう一つの抽選ボックスを置いた。


「ええ、この中には様々な対戦種目が書かれたボールが入っているので、浅井さんが引いた種目で対戦していただくことになっております」

「……えぇ」


 種目まで僕が決めるの?

 何だか僕の負担が多くないかなこの大会……。


「浅井さん、ケツ――」

「ケツカッチンなんですよね!? わかりました! 引きます引きます引きますよッ!」


 もう自棄だ!

 僕は適当にボールを一つ引いた。

 すると――。


「浅井さん、対戦種目は何でしょう」

「――『料理』です」

「あら?」

「FOOOOOOOOOOO!!!! よっしゃああああ!!! 腕が鳴るぜええええ!!!」


 これはまーちゃん有利かな!?

 なんてったってまーちゃんの料理の腕は料理教室を開いてるお母さん直伝だ。

 鳩原さんの腕前は未知数だが、まーちゃんより上ってことはないんじゃないか?


「フッ、では対戦ステージを用意しよう!」


 え?


「「「――!!」」」


 なっ!?

 その時だった。

 変公がスマホを操作すると、ゴゴゴゴという仰々しい音を立てながらステージ上に二つのキッチンがせり上がってきた。

 また税金の無駄遣いをしてやがるッ!!!


「それでは対戦ルールを説明いたします」


 田島さん動じねえなあ。

 これ中身は別人とかいうオチはないよね?


「今から鳩原さんと足立さんにはこのキッチンでご自由に料理を作っていただきます。食材は冷蔵庫の中に各種取り揃えておりますので好きなだけお使いください」

「承知いたしました」

「がってん承知の助!」

「そして料理が完成し次第、お互いに相手の作った料理を食べていただきます」


 えっ、相手の料理を食べるの?

 普通こういうのって、審査員に食べさせるんじゃないの?


「そして美味しさのあまり服が弾け飛んだほうの負けとなります」


 んんんんんん???????


「あ、あの田島さん、気のせいですかね、今『服が弾け飛んだほうの負け』って聞こえたんですけど」

「ええそうです。今や美味しい料理を食べたら服が弾け飛ぶのは通例になっておりますからね」

「なっておりましたっけ!?!?」


 それはごく一部の料理漫画だけでは!?!?


「というわけで鳩原さん、足立さん、調理を開始してください!」

「はい。ところでみなさん『包丁』って知ってますか? 野菜を切る時とかに、とっても便利な道具なんですよ」

「FOOOOOOOOOOO!!!! 食戟の始まりだぜッ!!」


 食戟って言っちゃったよ。




「出来ました!」


 もう!?


「私も出来たよ!」


 まーちゃんも!?

 まーちゃんが前に料理が上手い人は作るのも早いって言ってたけど、その法則だと鳩原さんも相当料理上手ってことに……。


「では早速実食です! まずは鳩原さんの料理を足立さんが食べてください」

「はい足立さん、召し上がれ」

「おおーー!! メッチャ美味しそう! 回鍋肉ホイコーローだね!」


 ああ、確かに美味しそうだね。

 こっちまで鼻腔をくすぐる良い匂いがしてくるよ。


「で、出たーーー回鍋肉!! 鳩原さんの十八番料理の一つだぜえ!」


 乾君!?

 君ってそんなキャラだったっけ!?

 てか何その俺は鳩原さんの十八番料理知ってますよ的な無自覚マウントは!?

 微居君デュー○東郷アサルトライフルが今にも火を噴きそうだよ!?


「いっただっきまーす。あーーむ。――!! こ、これはッ!?」


 まーちゃん!?


「ジューシーな豚肉が、ジューシーなキャベツやピーマンと絡まって、口の中がとってもジューシー!」


 ジューシー一点張り!!!

 まーちゃん食レポの才能はないね!?


「う、うあああああああッ」

「まーちゃん!?」


 パーンという破裂音と共に、まーちゃんの着ているシャツの袖と襟と裾が弾け飛んで、フリンジブラトップみたいになってしまった。

 マ ジ で!?!?!?!?

 服って本当に弾け飛ぶんだ!?!?(飛びません)


「くっ! なかなかやるね鳩原さん。見事な回鍋肉だったよ」

「ふふ、恐れ入ります」


 何だかバトル漫画みたいな展開に……。


「早速服が弾け飛びましたが、まだ全裸ではないので続行です。次は鳩原さんが足立さんの料理を食べてください」

「はい」


 全裸になるまで続けるの!?!?

 そ、それは流石に勘弁してもらいたいんだけど……。


「大丈夫だよともくん、私を信じて」

「っ! ……まーちゃん」


 まーちゃんは真っ直ぐな瞳で、僕を見つめてくる。


「……わかったよ、まーちゃんを信じるよ。でも、絶対に無理はしないでね」

「へへっ、りょーかい。――さあ鳩原さん、おあがりよ」


 おあがりよも言っちゃうんだね!?


「はい、わあ、これはお味噌汁ですか?」

「そうだよ!」


 おお、お味噌汁とは。

 随分渋いチョイスだね。

 でもお味噌汁は料理の基本だっていうし、ある意味一番実力の程がわかる料理かもしれないな。

 まーちゃんのお味噌汁の具は豆腐とワカメという、ザ・王道のものだった。


「いただきます。ごっくん。――! こ、これは!」


 鳩原さん!?


「お椀の中でお豆腐とワカメがお味噌に蹂躙されて、プライドをズタズタに引き裂かれています」


 鳩原さん!?!?!?


「それだけに飽き足らず、その蹂躙されていく様をビデオに撮られて、ビデオレターとしてそれぞれの恋人に送り付けるなんてことまでされていますね」


 表現が生々しいねッ!!!!!

 お豆腐とワカメのNTRビデオレターって斬新すぎるでしょ!?!?


「これは本物のお味噌汁です。――た、耐えられません。――嗚呼!」


 鳩原さん!?

 パーンという破裂音はしたものの、特に鳩原さんの見た目に変化はなかった。

 ――あれ?


「きゃあっ」


 ん?

 鳩原さんが恥ずかしそうに胸とスカートを抑えた。

 ど、どうしたの?


「ブ、ブラとパンツが弾け飛んでしまいました……」


 ブラとパンツが!?!?!?

 つ、つまり今の鳩原さんはノーブラノーパン……。


「ぬわーーっっ!!」


 乾君!?

 乾君が盛大に鼻血を吹き出した。

 思春期!!

 いかにも思春期な反応だね乾君!!


「もちろんこれも全裸ではないので続行です。ではお二人共、二品目の料理をお作りください」

「はい」

「りょ!」


 まだ続けるの!?!?




「出来ました!」

「私も!」


 そして相変わらずどちらも早い。


「では今回も足立さんから食べてください」

「はーい、むむむ!? これは油淋鶏ユーリンチー?」

「そうです」


 ほほう、油淋鶏か。

 鳩原さんは中華料理が得意なのかな?


「キターーーー油淋鶏!!!! 鳩原さんの伝家の宝刀!! これで陥落しなかったやつはただの一度もいないんだぜ!」


 乾君ちょっとうるさいよ!?

 微居君超A級スナイパー愛銃絵井君相方が抑えてる内に黙ってね!?


「いっただっきまーす。あーーむ。――!! こ、これはッ!?」


 まーちゃん……!


「もむっとした鶏肉が、しゃこっとした衣に包まれ、てむっとしたタレと合わさって、もう口の中がてょろって感じ!!」


 独特のオノマトペ!!

 『てょろ』ってどう発音するの!?


「う、うあああああああッ」

「まーちゃん!?」


 パーンという破裂音と共に、まーちゃんのスカートの裾が伸びてパンタロンのようになり、どこからともなくハート型サングラスとカウボーイハットが飛んできてまーちゃんの目と頭に装着され、まるで昭和のパリピみたいな格好になってしまったのである。


「FOOOOOOOOOOO!!!!」


 いやそうはならんやろ!?!?!?!?

 最早服が弾け飛んでるというよりは、別の服に変化してるじゃないか!?!?

 あの制服も変公の発明品なのかな!?!?

 ハート型サングラスとカウボーイハットが飛んできたのも意味不明だし!

 まあ、こういうエキセントリックな格好、まーちゃんにはよく似合っているけれども!


「流石だったよ鳩原さん。あまりの美味しさに、スカートがパンタロンになっちゃったよ」

「ふふ、恐れ入ります」


 もう何が何だか……。


「もちろんこれも続行です。さあ鳩原さん、足立さんの料理を食べてください」

「はい。おや、これはミートボールですね」

「イエス!」


 ミートボール!!

 まーちゃんの一番の得意料理じゃないか……!!

 これは……勝ったな!


「ではいただきます。んむんむんむ。――! こ、これは!」


 鳩原さん……!


「牛や豚を殺して切り刻んだ肉をぐちゃぐちゃに混ぜ合わせ、それを灼熱の炎で容赦なく焼いていますね」


 言い方ァ!!

 確かにそうなんだけれども!!


「そしてその様をビデオに撮られて、ビデオレターとしてそれぞれの牛や豚恋人に送り付けるなんてことまでされています」


 悪魔か何かかな!?!?!?

 鳩原さんって天然ってよりは、若干サイコさん入ってない!?!?


「これは紛れもなく至高のミートボールです。――た、耐えられません。――嗚呼!」


 鳩原さんッ!!!?

 パーンという破裂音と共に、鳩原さんの制服の背中側が弾け飛び、その瞬間何故かシャツとスカートが繋がってエプロンのような形になった。

 こ、これは……!

 伝説の裸エプロン……!!!!


「ウボァー」


 乾くーーーーん!!!!(迫真)

 偶然鳩原さんは僕らのほうを向いていたため背中側は見えなかったが、それでも乾君には致命傷だったようで、辺り一面を鼻血ブラッディースクライドで染め上げた。

 乾君……(落涙)。


「も、もう……これ以上はダメだよ鳩原さん……」

「乾君……!」


 観客席の乾君からステージ上にタオルが投げ込まれた。

 まあ、確かに今の鳩原さんは全裸ですらないものの、とても直視できる格好じゃないしな。

 これ以上の続行は不可能か。


「では、一回戦第一試合は足立さんの勝利となりますッ!!」

「御粗末!」


 ……こんなのがあと六回も続くの!?(戦慄)

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