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第82話:東部警察②

「フッ、これはこれは、壮観だな」

「う、うわぁ」


 シノザキは目の前に広がる光景を見て言葉を失った。

 あの後チュパオケ館に赴いた二人が店員に合言葉である『のわっさほーい』と呟くと、隠し通路からこの最上階の特別ルームへと案内されたのだ。

 そこにはラスベガスのカジノを彷彿とさせるような、豪奢で広大な空間が広がっていた。

 ルーレットにブラックジャック、スロットマシン等の各種ギャンブルが用意されており、せくしぃなバニーガールの衣装に身を包んだないすばでぃなおねえさん達がカモをもてなしている。

 とてもカラオケ店のビルの中とは思えない。

 よくこんな場所が今まで警察の目に触れずにいられたものだ。

 これが『魔王』の手腕だということなのだろうか――。


「で、でもウメ先輩、本当に応援を呼ばずに私達だけで潜入してよかったんですか? 一応社会人として、報・連・相は欠かすなと教わったんですが……」

「フッ、シノザキ、良いことを教えてやろう」

「?」

「ほうれん草はおひたしにすると美味しいぞ」

「いやそっちのほうれん草じゃなくて!?」

「シッ! ……どうやらお出ましだぞ」

「え?」

「FOOOOOOOOOOO!!!! みんなあ、今日もジャンジャンバリバリ出してるかぁ~い?」

「――!!」


 突然カジノの中央の一段高くなっている台の上にスポットライトが当たったかと思うと、そこには上はフリンジブラトップ、下はパンタロン、そして頭にはカウボーイハットを被り、ハート型サングラスをかけているという、シブヤのパリピの如く奇抜な格好の若い女がダンスを踊っていた。

 パッポリート!?!?


「……会いたかったぞ、

「なっ!? あ、あの人がッ!!?」


 魔王というネーミング的に、渋いイケオジ的な人物を想像していたシノザキは、あまりにも魔王の名が似つかわしくない遠目に見える女に面食らった。


「今日もこのカジノ『魔王城』では老若男女問わず、大人も子供も、おねーさんも、誰もが日々の疲れを癒せる場としてみなさんをお・も・て・な・し、させていただきまーす」

「「「FOOOOOOOOOOO!!!!」」」


 客達から割れんばかりの歓声が上がった。

 ……流石あの若さで魔王と呼ばれるだけはある。

 人の心を良くも悪くも惹きつけるを、あの女は持っているのかもしれない。


「フッ、では、早速始めるか」

「え? ウメ先輩、始めるって何を……」


 シノザキが隣のウメに目線を向けた途端、ウメはおっぷぁいの谷間から拳銃を取り出し、それを天井目掛けて躊躇なくブッ放した。

 ブッパリート!?!?!?!?


「フッ、御用改めであるッ! ここにいる全員、神妙にお縄につけ!」

「「「――!!!!」」」


 バ カ な の か な!?!?!?

 この先輩はおバカさんなのかな!?!?!?

 これだけの人数、たった二人で検挙出来るわけがない!

 しかも自分はまだ赴任初日のド新人だというのに……!!

 もしかして自分はとんでもない署に飛ばされたんじゃと、今更ながらに戦慄するシノザキであった。


「アッハハー! ウメちゃん、君ならきっとって信じてたよ」

「フッ、それは光栄だな、魔王」

「――!?」


 いったいこの二人の過去に何が!?

 クソウ!

 これが二人共男だったらギャン萌え必至の鉄板シチュなのにと歯噛みする、生粋の腐女子エクフラージュ


「でも、流石のウメちゃんもこの人数相手は厳しいんじゃない?」


 魔王が指をパチンと鳴らすと、カジノ中のバニーガール達が、全員どこからともなくマシンガンを取り出し銃口をウメに向けた。

 バッポリート!?!?!?

 にわかに場は騒然となった。


「フッ、なあに、これくらいの人数差、ハンデとしてちょうどいいさ」


 ウメはおっぷぁいの谷間から拳銃をもう一丁取り出し、二丁拳銃スタイルでマシンガンバニー達に対峙した。


「ウ、ウメ先輩!!? 無茶ですよッ!!」

「フッ、お前は私の後ろに隠れていろ、シノザキ」

「せ、先輩――!?」

「FOOOOOOOOOOO!!!! お前達、や~っておしまいっ!!」

「――!!!」


 魔王の号令と同時に、ウメを蜂の巣にするかの如く、銃弾の雨がウメを襲った――。

 ウメせんぱーーーーーーい!!!!!!


「フッ、無駄だ」

「「「――!!!?」」」


 が、当然ウメにそんな銃弾モノが通じるはずがない。

 銃弾は、ウメの無敵スーツに赤子の平手打ち程のダメージすら与えることができなかった。


「ウ、ウメ先輩!?!?」


 そんなチートスーツをウメが着ているとは知らなかったシノザキは、ただただ目を丸くしている。

 もちろんそれはマシンガンバニー達も同様だ。


「フッ、次はこちらの番だな」

「「「――!!!」」」


 ウメは春風の如くゆったりとした所作で二丁拳銃をマシンガンバニー達の眉間に向けると、お返しとばかりに容赦なく引き金を引いた。


「ウメせんぱーーーーーーい!?!?!?」


 職場の先輩が被疑者達を撃ち殺した光景を赴任初日に目の当たりにしてしまい、早くも辞表の文面を頭の中で推敲するシノザキ。


「フッ、案ずるな。これは私が開発した特製のゴム弾だ」

「あ……、そうなんですか」


 ゴム弾だからといって撃っていい理由にはならないのでは!?!?

 そんなツッコミをシノザキが頭の中でしている内に、マシンガンバニー達は一人残らずウメの特製ゴム弾で昇天してしまった。


「「「う、うわあああああああ」」」


 そんなウメを見てパニックになった客達は、一斉に出口に向かって駆け出した。


「フッ、私は『ここにいる全員、神妙にお縄につけ』と言ったはずだぞ?」


 ウメはそんな客達も、満遍なく特製ゴム弾でお・も・て・な・し、してあげた。

 瞬く間にその場に立っているのはウメとシノザキ――そして魔王だけとなった。


「ハハハ、やるねえウメちゃん」


 が、依然余裕の笑みを崩す素振りすらない魔王。


「フッ、後はお前だけだ魔王。今日こそ年貢の納め時だぞ」


 そんな魔王にやおら銃口を向けるウメ。


「……」


 そして二人の様子を緊迫した表情で見守りつつも、頭の中は来月の同人誌即売会で出す薄い本のプロットでいっぱいな生粋の腐女子エクフラージュ(通称『ぶるうちいず』先生)。


「いやあ、私もまだまだからね。残念だけど捕まってあげるわけにはいかないな」

「フッ、だからといって私が『はいそうですか』と見逃してやるとでも思っているのか?」

「いいや。――でも、いくらウメちゃんでもには敵わないんじゃないかな」

「……彼?」

「出でよ、ッ!!」

「のわっさほーい!」

「「――!!!」」


 魔王が高らかに名を呼ぶと、どこからともなく胸にデカデカと『田島勇斗仮面』と書かれた、アメコミのヒーロースーツのようなものを着た男が現れた。


「俺の名は謎の覆面ヒーロー、田島勇斗仮面!! 本名すら謎の、謎の男だ!」

「「……」」


 何回『謎』って言うんだよ。

 むしろ本名は田島勇斗なんじゃないのと心の中でツッコむシノザキ。


「ハッハー! 高いギャラを払ってるんだから、シッカリ働いておくれよ田島勇斗仮面」

「のわっさほーい!」

「「――!!」」


 が、フザけた外見とは裏腹に、最速の動物であるチーターの如く圧倒的なスピードでウメに突撃してくる田島勇斗仮面。


「のわっさほーい!」

「がはぁ……!」

「ウメ先輩ッ!!?」


 そして丸太の如く太い腕で、強烈なボディーブローをウメに喰らわせた。

 ウメはそのまま派手に吹っ飛ばされ、壁際に設置されていたスロットマシンに激突した。

 そんなッ!!!?

 マシンガンの弾ですらビクともしなかったウメ先輩を!?!?


「ハッハー! いいよいいよ田島勇斗仮面! ついでにそこのちっぱいちゃんもやっちゃって」

「ち、ちっぱ……!?」


 一番気にしてることなのにッ!!!!

 いくら自分がたまたま上半身の体脂肪率に恵まれてるからって……!!!

 心の中で血の涙を流すシノザキ――。


「のわっさほーい!」

「っ!!」


 が、無情にもそんなシノザキに、田島勇斗仮面の凶器の如き右拳が振り下ろされる――。

 ……嗚呼、終わった。

 せめて最後に、一番お気に入りの『ゆう×とも』の同人誌が読みたかった……。

 シノザキが有明に祈りを捧げながら、ゆっくりと瞳を閉じようとした、その時――。


「フッ、そこまでだ」

「あばばばばばばばばば」

「「――!!?」」


 突如田島勇斗仮面が、漫画で雷に打たれた人みたいに内部の骨を透けさせながら感電し、その場に卒倒した。

 スッケリート!?!?


「フッ、怪我はないか、シノザキ」

「ウ、ウメ先輩……」


 倒れた田島勇斗仮面の後ろには、ウメが立っていた。

 ウメの手にはスタンガンのような機械が握られており、その機械からは電撃が伸びてエネルギー状の剣のようになっている。


「そ、それは……」

「これは私の開発したスタンガンサーベルだ。最大で1億ボルトまで出せる特別製さ」

「1億!?!?」


 ぼくのかんがえたさいきょうのすたんがんかな!?!?


「が、流石にあのスピードが相手ではこれを当てるのも一筋縄ではいかなそうだったのでな。一芝居打ったわけだ」

「な、何だ、そうだったんですか……」


 やられたフリをしていただけだったのか。

 が、口元に血を滲ませながら肩で息をしているウメを見て、あながち全部が芝居だったわけでもないのだろうなと、敵ながら田島勇斗仮面に敬意を表するシノザキであった。


「フッ、これで今度こそ残るはお前だけだぞ、魔王」

「あららら、案外大したことなかったなあ、田島勇斗仮面も」


 やれやれといった感じでオーバーリアクションをとっている魔王には、相変わらず焦った様子は見られない。


「まあいっか。どの道カジノここは、そろそろお開きにしようと思ってたし」


 そう言いつつ魔王が手元のボタンを押すと、魔王の背中にバサッとハングライダーが展開された。

 ハッポリート!?!?


「じゃ、また遊ぼうねウメちゃん」


 そのまま窓際まで駆け寄る魔王。

 ハングライダーでここから飛び立とうというのか!?


「フッ、逃がすと思うのか?」

「「え?」」


 が、ウメはおっぷぁいの谷間からロケットランチャーを取り出し(!?)、それを躊躇なく魔王に向かってブッ放した(!?!?)。

 ブ、ブッパリートオオオオオ!?!?!?!?!?!?


「ちょっ!? あああああああああああ」


 そのロケットランチャーは魔王に直撃し、本家西○警察も斯くやと言わんばかりの大爆発が起こった。

 煙が晴れると、ポッカリと壁に大きな穴が開いており、非常に見晴らしのいい光景が広がっていた。


「ウ、ウメせんぱーーーーーーいッッ!?!?!?!? 今度こそっちまいましたねーーーーーー!?!?!?!?」

「フッ、案ずるなシノザキ。魔王のは死んではおらんよ」

「――え?」


 本体??


『ハッハー、酷いなあウメちゃん。これ、作るの凄く大変だったんだよ』

「――!!?」


 シノザキは足元に転がってきた魔王の生首から機械音声のようなものが聞こえてきて、心底身震いした。

 が、よく見るとその生首の切断面からは、機械のコードのようなものがはみ出している。

 ま、まさか、ロボット!?!?


「フッ、大胆且つ慎重なお前のことだ。こんな人前に姿を現すはずがないと、最初から見当がついていたさ」

『いやいや、それでも万が一生身だったらどうするつもりだったんだよ? 君、殺人犯だよ?』

「フッ、お前のような凶悪犯なら殺してもいいのだ」

「よくないですよウメ先輩ッ!?!?」


 自分は本当にこの先輩の下で今後も働かなくてはいけないのだろうかと胃が痛くなるシノザキ。

 帰ったらアサイ署長に胃薬分けてもらおうかな……。


『ハハハ、そうだったね。ウメちゃんはそういうキャラだったよね。ま、今日のところはウメちゃんの勝ちってことにしておいてあげるよ。?』

「フッ、お前こそ、次こそお前の本体に手錠をかけてやるからな。首を洗って待っておけ」

『はいはーい、楽しみにしてるよん。じゃーねー』

「フッ、またな」


 友人と電話しているかの如く気安い感じで、二人は会話を終えた。

 本当はこの二人、仲良いのでは?

 ――つくづく二人が男同士でないことを悔やむ、ぶるうちいず先生であった。




「ウメエエエエエエ!!!!! テメェこの野郎!!!! 発砲するなって言ったよな!!? あれだけレモン千個分並みに口を酸っぱくして、発砲だけはするなって言ったよな!!!? その上ロケットランチャーでビルを半壊させただとッ!?!?!? お前苦労してビルを建てた建築会社さんの気持ち考えたことあんのかッ!!!?」


 例によって東部警察署の署長室に響き渡る、アサイ署長の怒声。

 だがこれまた例によってウメは凪いだ海の如く、とても上司から叱られているとは思えない穏やかな表情を浮かべている。

 シノザキはそんなウメの横で、死んだ魚の目をしながら状況を見守っている。


「フッ、せっかく開発したロケットランチャーだったので、どうしても現場で試し撃ちしたかったもので」

「お前それしか言わねーな!?!?!? ……ぐっ、胃……胃が……」

「うふふ、署長、はい、胃薬とお水です」

「あ、ああ……、ありがとうアリス君」


 そんなアサイに、今日だけで六度目となる胃薬と水を差し出す、美人婦警のアリス。

 実はウメ達が外出している間も、ウメ達が心配で一時間おきに胃薬を飲んでいたのだ。

 ――アサイ署長の半分は胃薬で出来ている。


「フッ、まあよいではないですか署長。裏カジノは潰せたのですから」

「僕の顔も一緒に潰れてんだよッ!?!? お前のせいで僕の顔は今やオブラート並みの薄さしか残ってないよッ!!!!」

「フッ、おっと、そろそろ定時ですので、私はこれで失礼します」

「はああぁ!?!? お前のメンタルはオリハルコンで出来てんのか!?!? 今上司から説教されてる真っ最中なんですけど!?!?!? ……ぐっ、胃……胃が……」

「フッ、ついてこいシノザキ。今からお前の歓迎会を開いてやる」

「え!? あ、はあ。あ、ありがとうございます」

「オイちょっと待てウメ!! ウメエエエエエエ!!!!!」


 血の涙を流しながら激高するアサイを背に、東部警察署を後にするウメとシノザキ――。


 ――ヒジカワの平和を守る二人の戦いは、まだ始まったばかりである。







「ハァーイオッケェ!! フッ、これにてクランクアップだ。みんな実にご苦労だった」

「「「お疲れ様でしたー!」」」


 いや何これ!?!?!?

 突然何の脈絡もなく始まったけど、急に全校生徒を巻き込んで映画の撮影とか、やっぱ変公こいつ頭沸いてんじゃねーの!?!?

 しかもこいつの技術ならCGとかでいくらでも爆破シーン作れるだろうに、ガチの爆破にこだわるし……!

 その費用はいったいどこから!?


「フッ、智哉、お前の演技もなかなかよかったぞ」

「あ、はあ」


 演技っていうか、ほとんど素だったけどね、あれ……。


「せっかくエチュードで演技力を鍛えたのだからな。それを発揮できる場がないと張り合いがあるまい」

「――!!」


 ま、まさかこいつ、そのためだけにこんな大それたことを……!?


「フッ、それに、ロケットランチャーをブッ放すシーンだけは、どうしてもやりたかったしな」

「……」


 いや、違うな。

 今のが本音だわ、絶対。


「でも私は出番があんまなくてつまんなかったですー」

「フッ、そう言うな足立。次回作では、もっと見せ場を作ってやるさ」


 次回作!?!?


「お! 約束ですよ! よーし、それまではエチュードいっぱいやって、演技力磨いておくぞー」

「……」


 仮に次回作があったとしても、僕は絶対に出演しないからねッ!!?(フラグ)

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