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第90話:クリスマス

「FOOOOOOOOOOO!!!! クリスマFOOOOOOOOOOO!!!!」

「まーちゃん!? ご近所迷惑だからあまり大きな声は出さないで!」

「あはは、ゴメンゴメン。ついテンション上がっちゃって」


 まったく、本当にしょうがないなぁまーちゃんは。


 ――今まーちゃんは、ミニスカサンタコスという出で立ちで夜の街を闊歩している。


 ――そして僕は顔の部分だけが表に出ているトナカイの着ぐるみを身に纏っている。


 ……どうしてこうなってしまったのだろう。


 話は今日の昼間に遡る。




「ねえねえみんな、今日はクリスマスイブじゃない?」

「うん。そうだけど、それがどうかした茉央ちゃん?」

「へっへー、せっかくだから私とともくんがサンタさんとトナカイになって、美穂と田島君にプレゼントを配ってあげるよ!」

「茉央ちゃんと浅井君が???」

「サンタとトナカイにのわっさほーい???」

「ちょ、ちょっとまーちゃんッ!?」


 急に何言い出すの君は!?

 そんな話初耳なんですけど!?


「え、えー、でも悪いよそんな……」

「大丈夫大丈夫。もう衣装も用意してあるし」

「「「……え」」」


 そう言うなりまーちゃんはどこからともなくサンタとトナカイの衣装を取り出し、ドヤ顔でそれを掲げたのである。

 サットリート!?

 もしかしてその(恥ずかしい)トナカイの衣装は僕用かな!?!?

 ――せめて心の準備をする時間だけでも欲しかった……!


「まあ今日はクリスマスイブですし、放課後は二人でニャッポリートならぬ『しっぽりーと』するんだろうから、配りに行くのは深夜にするからさ」

「ま、茉央ちゃん!?」

「オ、オイ足立……」

「まーちゃんッ!!!」


 しっぽりーととか言うな!!!


「あ、そうだ。オーイ、絵井君、微居君」

「ん? 何?」

「……何の用だ」


 まーちゃん!?


「二人の家にもプレゼント配りに行ってあげるから、部屋の鍵開けといてねー」

「え!? 俺達にもくれるの!?」

「……俺は別に、プレゼントなんか……」

「まあまあ遠慮しなさんなって。いつもサブエチューダーとして頑張ってくれてるから、そのお礼だよ」

「そっかー、じゃあお言葉に甘えようかな」

「いや、だから俺は……」

「ほんじゃまた夜にねー!」

「うん、よろしくね」

「……」


 遂に微居君無言になっちゃった!

 ホントいつもゴメンね僕の彼女が!




 ……なんて遣り取りがあり、もうすぐ日付も変わろうかという深夜の街を、僕とまーちゃんは職質不可避の格好で練り歩いているのであった。

 いや、今日くらいはポリスメンも多めに見てくれるだろうか(希望的観測)。


「では最初は田島君の家からだね! おおー、ここが田島君の家かあ。立派な邸宅ですなあ」


 そっか、まーちゃんは勇斗の家に来るのは初めてか。

 まあ、僕から言わせたらまーちゃんのお家も負けず劣らず十分「ご立派ァ!」だけどね。


「田島君の部屋は二階だっけ?」

「うん、そうだよ」

「よし、ほいっとな」

「まーちゃん!?」


 まーちゃんはプレゼントが入った大きな袋を背負っているにもかかわらず、まるで忍者みたいに二階のベランダまでジャンプしてしがみついた。

 ベッポリート!?!?

 いつもながらまーちゃんの身体能力はどうなってるの!?!?

 ひょっとしてまーちゃんもIGAの一員だったとかいうオチじゃないよね!?!?


「さあ、ともくんはこれで登ってきて」

「う、うん」


 ベランダに降り立ったまーちゃんはプレゼント袋の中からロープを取り出し、それを地面に垂らしてくれた。

 ……何だかやってることがサンタさんてよりは泥棒じみてるな。




「お! 開いてんじゃーん」

「そりゃまーちゃんが開けとけって言ったからね」


 鍵が掛かっていなかったベランダの扉を開けて室内に入る僕とまーちゃん。

 勇斗の部屋には子供の頃から数え切れない程遊びに来てるけど、当然ながらベランダから侵入したのは初めてだ。

 勇斗はベッドでスヤスヤと寝息を立てている。


「へえ、男の子の部屋ってもっとごちゃっとしてるイメージがあったけど、田島君の部屋は綺麗に片付いてるね」

「勇斗はこう見えて綺麗好きだからね」


 人は見かけによらないもんだ。


「よーし、そんじゃあ早速プレゼントをあげますかね」


 まーちゃんは袋の中をゴソゴソと探った。


「勇斗にはどんなプレゼントを用意したの?」


 とにかくついてくればいいからとしか言われてなかった僕は、プレゼントの中身は一切知らされていない。


「んふふふー、やっぱ田島君の好きなものといえばこれでしょ! じゃじゃーん! 『1/6スケールともくんフィギュア』!」

「『1/6スケールともくんフィギュア』!?!?!?」


 肖像権!!!!

 何勝手に人のフィギュア作ってくれちゃってんのさッ!?!?

 しかも結構似てるなまたッ!!!


「私のお母さんはね、フィギュア原型師の仕事をしてたこともあるの」

「久しぶりに出たねその設定!!」


 逆にまーちゃんのお母さんがしたことない仕事ってあるの!?


「いや、まーちゃん、百歩譲ってここは篠崎さんのフィギュアをあげるべきなんじゃないの?」


 勇斗が一番好きなのは篠崎さんなんだからさ。


「大丈夫大丈夫、田島君はともくんのことも大好きだから」

「う、うーん」


 まあ、確かに親友としては好かれてる自覚はあるけれども。


「それに少なくとも田島君がともくんのフィギュアを持ってるって知ったら美穂は泣いて喜ぶよ」

「……あぁ」


 そりゃそうだろうね。

 ぶるうちいず先生の特大エクフラが目に浮かぶよ……。


「う~ん、むにゃむにゃ、サンタさんプレゼントありがとわっさほ~い」

「勇斗!?」


 寝言がデカいな!?

 本当は起きてるんじゃないだろうな!?


「うんうん、良い子にするんじゃぞ、ほっほっほ」

「……」


 ここぞとばかりのサンタムーブ。




「さてさてさーて、次は美穂の番だね」


 続いてやって来たのは篠崎さんのお家。

 ここに関してはまーちゃんは勝手知ったる他人の家といった感じなので、慣れた足取りで篠崎さんの部屋がある裏庭に回っていく。

 篠崎さんのお家は日本家屋の平屋なので、さっきみたいな忍者ムーブはなしだ。


「ほっほっほー、メリークリスマース!!」

「だから声が大きいよまーちゃん!?」


 深夜テンション全開で部屋の窓から篠崎さんの部屋に侵入するまーちゃん。


「スピー、スピピピー」


 が、篠崎さんは起きる素振りすら見せず、深く夢に潜っているようだった。


「はふうっ! 美穂の寝顔ギャンカワッ!! 収めたい、写真にッ!!(倒置法)」

「まーちゃんッ!!」


 サンタそっちのけでスマホのカメラを起動するまーちゃん。

 もうこれサンタじゃなくただのストーカーでは!?!?


「おっと! ちゃんとプレゼントもあげないとね! はい、美穂へのプレゼントも、『1/6スケールともくんフィギュア』」

「まさかの二体目!?!?」


 在庫処分かな!?!?


「いや篠崎さんに僕のフィギュアは完全におかしいでしょ!? 篠崎さんは別に僕のことそんな好きじゃないよ!!」

「大丈夫大丈夫、もちろん用意してありますよ、『1/6スケール田島君フィギュア』もね」

「肖像権再び!!!!」


 ま、まさか……。


「ふふふ、そういうこと。これで美穂の最推しカプであるゆう×とものフィギュアが揃ったってわけよ。これは朝起きたらメリクリならぬ『メリフラ』不可避!」

「メリフラ!?」


 メリークリスマスヘヴンフラッシュの略かな!?


「う~ん、むにゃむにゃ、メリークリスマスヘヴンフラ~~~ッシュ」

「篠崎さん!?」


 もう出たよ!!!

 やっぱり起きてるよねこれ!?


「うんうん、メリフラは一日一時間までじゃぞ、ほっほっほ」

「……」


 ここぞとばかりの高○名人ムーブ。




「ガンガンいくぜ! 次は絵井君!」

「もう今から不安しかない!」


 絵井君の家は良くも悪くも庶民的な住宅だった。

 律儀に窓の鍵も開けてくれていた。


「ふーん、何て言うか、普通だね」

「う、うん……」


 絵井君の部屋もこれまた取り立てた特徴はない、ザ・普通の部屋だった。

 ある種徹底しているとさえ言える。

 絵井君らしいといえばらしいが……。

 絵井君はとても幸せそうな寝顔で僕らを出迎えてくれた。

 いつも無表情な微居君と違って、絵井君は本当に雰囲気が朗らかだよね。

 前世は聖人かな?


「そんな絵井君へのプレゼントはもちろんこれ! 『1/1スケール微居君フィギュア』!」

「1/1スケール!?!?」


 それは最早フィギュアというよりマネキンでは!?!?

 てかそんなデカいもの、よく袋の中に入ったね!?

 四○元ポケット!?

 あとまーちゃんのクリスマスプレゼントってフィギュア一択なの!?!?

 どこのワンフェスかな!?


「これには美穂もニッコリ!」


 クリスマスはぶるうちいず先生をニッコリさせるためのイベントじゃないよッ!!!


「う~ん、むにゃむにゃ、説明しよう、クリスマスとは、イエス・キリストの降誕祭のことであ~る」

「「――!!」」


 すっかり説明キャラが板に付いてきたね!




「よっしゃ、これで最後! ラスボスは微居君だぜ!」

「ラスボスって……」


 確かにリア充に対する殺意はラスボス級だけども。

 「この世のリア充というリア充を一人残らず滅ぼしてくれるわ!」とか言ってそうだけど(偏見)。

 微居君の家は絵井君の家同様、外観は極めて一般的なものだった。

 ……は。


「……うわ」

「……おぉ」


 何だかんだ言いいつつもちゃんと窓の鍵を開けてくれていたことに安堵しつつ部屋に入った僕達だが、そこに広がる光景を見て思わず息を吞んだ。

 微居君の部屋の壁に据えられている棚には、が飾られていたのだ。

 微居君て岩に関してはガチだったんだね……。

 流石のまーちゃんもこれには若干引いている様子だ。

 しかも微居君は寝息も立てずまったくの無言で横になっているため、寝ているのか起きているのかさえ判然としない。


「ま、まあ、気を取り直して、早速プレゼントをあげますよ」


 まーちゃんはゴソゴソと袋を探る。

 今までの流れ的に、ここは『1/1スケール絵井君フィギュア』かな?


「微居君へはこれ! 『1/1スケール岩フィギュア』!」

「岩フィギュア!?!?!?」


 いやそれはもう岩でイイじゃんッ!!!

 わざわざフィギュア化する必要ある!?!?

 1/1スケールって言われても、岩の大きさなんてどれもまちまちなんだからピンとこないし!!


「あと『1/1スケール絵井君フィギュア』も!」

「結局そっちもあげるの!?!?」


 よかったね、微居君!(迫真)


「これで美穂の描く薄い本も厚くなること請け合い!」


 今日ぶるうちいず先生しか得してない気がするけど大丈夫!?!?


「…………ありがとよ……」

「「――!!」」


 何だかんだちゃんとお礼が言える良い子!!(萌)




「お疲れ様、ともくん!」

「いや、僕は別にまーちゃんについていっただけだし」

「えへへ、でもついてきてくれたのが嬉しかったんだよ!」

「そ、そうなんだ」


 賛否両論あるだろうが、一応表面上はサンタとしてのミッションをコンプリートした僕達はまーちゃんの家の部屋に帰ってきた。

 まあ、こんな僕でも少しでもまーちゃんの役に立てたのなら光栄だけど。


「じゃあ、大分遅くなっちゃったけど、私達は今からクリパ始めますか!」

「っ!」


 そう言うなりまーちゃんは僕の誕生日の時に作ってくれたような、小型のウェディングケーキくらいある荘厳なクリスマスケーキを持ってきた。


「も、もしかしてそれ、まーちゃんの手作り!?」

「もちろんそうよ!」


 相変わらずまーちゃんのスペックが諸々カンストしている!


「……でね、これを食べ終わったら、是非ともくんに貰ってもらいたいクリスマスプレゼントがあるんだけど」

「――!」


 まーちゃんはミニスカサンタコスのまま艶っぽい表情で僕に擦り寄ってくると、僕の腿の辺りを指先でつつつとなぞった。

 ――この流れも僕の誕生日の時に見た!!(デジャブ)


 ――メリークリスマス(迫真)。

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