「ねー黒猫君。また縁談蹴ったんだって?高貴な血を引くお嬢様。性格は高飛車だけど、綺麗なんだからOKすれば良かったのに」
「嫌だね。そういうお前こそ、いい加減嫁もらえよ。伝説の竜と謳われた末裔の血が絶えてもいいわけ?」
桜道をスラリと背の高い青年と黒衣を纏った少年が、そんなどうでもいい会話をしながら歩く。
黒猫と呼ばれた少年はいまだに信じられないでいた。この軽薄男が伝説の竜の血を引いているなんて、悪夢でしかない。
季節は春。どこもかしこも満開で、早く咲き過ぎた桜は既に散り始めている。
「いいよ別に。どうせいつかは滅びるんだからさ、生きているものは。黒猫君だって、同じでしょ?」
「多少は同感。俺は、女なんてめんどくさい生き物は更々ごめんだしな」
「だよねー君は。オレは好きだけどー」
桜道は淡く染まり、夢と現実の境がわからなくなる。綺麗で、不思議で、異質な光景。
恋人同士ならもっと盛り上がるだろうが、男ふたり。
しかも最強に仲が良くないのだから、一緒にいる理由と呼び出しがなければ一緒に行動するわけがない。
何度目かのため息をつきながら歩く黒猫の隣で、竜だけが通常運転の笑顔。
(こいつの笑顔は相変わらず気持ち悪い)
桜道を通り抜け、自分たちを呼んだ学園王がいる城へ向かう。
あまり気は進まないが。
学園王が一番偉いから仕方ない。
(偉いというか、偉そうの間違いだけど)