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第391話 リフォーム③

 マルメルは刃が食い込んだままの巻き藁と折れた刀を見比べる。


 「あ、あー、すんません。 折れちゃいました」

 「それはええよー。 インテリア扱いやからウインドウを操作で――ほい直った」


 ふわわがウインドウ操作すると折れた刀が元通りになった。

 ヨシナリは流石に折れるのはおかしいと思い、巻き藁を固定している棒に触る。

 固い――というより明らかに木ではなく鉄の感触だった。


 「ふわわさん。 もしかして俺達の時だけ棒を鉄に変えたりとかありません?」

 「んー? そんな事ないよー。 ほら」


 マルメルから刀を受け取った無造作に一閃。 上半分が綺麗に切断されて床に落ちる。

 ヨシナリは切断面を軽く叩く。 金属特有の固い音が鳴った。

 マルメルもヨシナリの反応からふわわが何をやったのかを察して背筋が寒くなる。


 ――嘘だろ。


 ヨシナリは訳の分からなさに恐怖すら感じていた。 

 どうやったら金属の棒をここまで綺麗に切断できるんだよ。

 エネルギーブレードを使えばこのような断面にはなるが、あれば熱で切るので表面が溶けるのだが――


 「あれー? 皆さんここでしたか」


 騒ぎを聞きつけたのかシニフィエが入って来た。


 「そっちは終わったん?」

 「はい、終わりましたよー。 家具代ありがとうございます姉さん」

 「あんた、ウチからどれだけ毟り取れば気が済むんよ……」

 「まぁまぁ、可愛い妹のお願いじゃないですか――って凄い部屋ですね」


 シニフィエはそう言って切断された巻き藁を見る。


 「何ですか? 皆で遊んでるんですか?」


 ヨシナリは無言で壁にかかっていた刀をシニフィエに差し出す。

 シニフィエは意図を察したのか小さく首を傾げながらも受け取ると巻き藁ではなく固定している棒を鞘で軽く叩く。 


 「鉄かぁ。 ちょっと自信ないなー」


 ――あぁ、ちょっと自信ない程度なのか。


 ヨシナリはこの二人の実家の異常さに内心で震えていると、シニフィエは抜刀の体勢に入る。

 二度、三度と深呼吸を繰り返し、呼吸を整えると地面を踏み砕く勢いで一歩踏み込んで一閃。 

 衝撃で上半分が吹っ飛んでいった。 


 「あー、力が入り過ぎちゃったかー。 やっぱり刀剣類はあんまりだなぁ」


 シニフィエが自己採点している後ろでマルメルが小さく呟く。


 「鉄って普通に斬れるんだなぁ。 俺、全然知らなかったわ」

 「奇遇だな。 俺も全然知らなかった」


 そんな事しか言えなかった。 



 流れでそのままシニフィエの部屋へ。

 正直、中身が全く想像できなかった事もあって身構えていたのだが、思った以上に普通だった。

 木目調の壁紙に窓が付いており、森の映像が映し出されており、風が入って来る。 どうやら窓に見せかけた送風機のようだ。 窓際にぶら下がっている風鈴がいい味を出していた。


 床は畳。 壁際には木製のベッドが一つ。 


 「何か普通だな」

 「あぁ、普通だな」


 マルメルがそう呟き、ヨシナリが同意した。


 「いや、変なのを期待されても困るんですけど……」


 結局、それ以上は特に何もなく、ヨシナリの部屋を見て――


 「何かさっぱりしてるな」

 「らしいと言えばらしいね」

 「お義兄さん。 部屋にはこだわらない感じですか?」


 ――と感想が出て来て終わった。 


 ヨシナリの部屋を見終わったタイミングでグロウモスが出てきたのでそのまま部屋に押し掛けようとしたのだが――


 「ぜ、絶対にダメ!」


 恥ずかしいのかそれ以外の理由があるのかは不明だが、NGとの事なので見れなかった。




 ログアウト。 ヨシナリから嘉成へ。

 あの後、次のイベントに関する話をしてその場は解散となった。

 開催まで一週間ほど。 やれる準備は一通り行ったので、後は訓練を積みつつ待つだけだ。


 ごろりとベッドで横になる。

 自室の天井を見ながらぼんやりと次のイベントについて考えていた。


 ――とはいっても相手の情報がほぼゼロなので精々、前回のアメリカ第三以上を想定するぐらいしかできないんだよなぁ……。


 ラーガストなら何か知っているかもとメールを送ったが返事はなかった。

 特にやる事もなかったのでウインドウを出現させ、ニュースサイトにアクセス。

 興味を引くニュースは特になかったので、折角なので惑星ネプティヌスについて調べようと資料を呼び出す。


 宇宙開発は太陽系の外縁まで届いており、ネプティヌスまで到達はしているらしい。

 だが、宇宙開発は秘匿性の高い事業という事でヨシナリのような一般人にはあまり情報は降りてこない。 その為、大きさや形状など基本的な情報しか見る事は出来ないのだが――


 ヨシナリは目を閉じて思い出す。 あの太陽の光が届かない暗くて寒いあの惑星を。

 一度目のイベント時は長い事移動していたので風の音や暗さ、それによる孤独感。

 当時は中々にきつかったが、喉元過ぎれば熱さを忘れるというのか今となっては良い思い出だった。


 そして二度目のイベント。 

 機体もキマイラに乗り換え、情報もある程度手に入っていたので、最低限の勝ち筋も見えていた。

 その為、行動にもあまり無駄がなく。 戦ってばかりの印象が強い。


 とにかく強敵が多かった。 メガロドン型、ジンベエザメ型の大型エネミーはともかく、上位の敵性トルーパーとボスらしき奇妙な機体が特に厳しかったと記憶している。

 中身に関してはチート持ちではあったが技量自体はそこまでではなかったので付け入る隙は多かったが、見るべきはあの連中が使っていた武装だ。


 防衛イベントのボス、ラーガスト、アメリカ第三のSランクプレイヤーの物と思われる機体のコピー。 無数の攻撃ドローン、高出力のエネルギーウイング、シリンダーのついた腕パーツ、後は防御用のリング。 最後の一つは見覚えがなかったが、もしかしたら他のサーバーのランカーが使用しているのかもしれない。


 ジェネシスフレームの武装はユニークな分、一度見れば嫌でも印象に残る。

 最後にボスが使用した謎の武装。 ヨシナリとしては一番気になっているのはアレだった。

 空間情報変動を観測するセンサー系にしか引っかからない謎の武装。 恐らくシックスセンスがなければ碌に認識すらできずにやられていただろう。 ショップを漁ったが類似の武器は見つからなかった。


 使用できるのなら戦いがかなり変わるであろう新しい概念の武装群。 

 ポンポンはサイコキネシスと形容したが、かなり的を射た表現と言える。


 「次からはフィルターかけるのを止めて、ウイルス関係のセンサー系の攻撃に対する備えが課題か……」


 そう呟いてヨシナリは目を閉じた。 疲労もあったのか睡魔は直ぐに訪れる。

 意識を手放しながらも脳裏にはあのボスとの戦いが焼き付いていた。

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