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第447話 ユニオン対抗戦Ⅲ:本戦一回戦⑧

 「はは、お前、そのランクでその装備って詐欺すぎんだろ」


 ツガルは思わずそう呟く。 

 エーテルによって覆われ、黒く染まったホロスコープは形状に差異こそあるがその見た目は闇の王を自称するAランクプレイヤーの機体に酷似していた。


 『ふはははは、我がホロスコープの黒金剛石ブラックダイヤモンドの如き威容を慄くがいい!』


 エネルギーウイング、足の推力偏向ノズルからエーテルの黒い輝きが噴き出す。


 ――来る。 


 ツガルは機体を加速させる。 慣性を無視し、更にランダム性を持たせた機動で攪乱を意識。

 回転しながら闇雲に弾をばら撒くだけではあのエーテルの装甲を抜けないので仕留めるには一点に集中して撃ち込む必要がある。 対するヨシナリは大剣を変形させたハンマー。


 恐らく喰らったらシールドを貫通して落とされかねない。 落ちなかったとしてもバランスを大きく崩されるのは目に見えているので喰らう訳にはいかなかった。

 仕留めたいならコックピットか、推進装置だが、ヨシナリのホロスコープは腰部にエネルギーウイングが二基、そして両足に推力偏向ノズルと四つ搭載されているので一つ潰した程度では墜落は難しい。


 ツガルの機体はスペックの大半を機動性に割り振っている事もあって、火力と耐久に関しては既存機と大きく変わらない。 重力制御による飛行は凄まじい飛行能力を付与してくれるがジェネレーター出力をかなり圧迫する上、斥力フィールドを併用する関係で高出力の光学兵器が積めなかったのだ。


 武装に関しては現在、実戦データの収集中と並行して実弾系の兵装を開発中だったのだが、今回に間に合わなかった。 その為、プレーンな状態での参戦となってしまったのは厳しくはあるが、機動とエネルギー式の機銃で大抵の相手はどうにかなる。 


 ――そう思っていたのだが、目の前のヨシナリはその大抵の相手に当てはまらないようだ。


 読み取れ、ヨシナリの思考を。 ツガルは必死に思考を回す。

 あいつなら俺が何をしてくると判断する? 

 今のホロスコープの機動性はボーディングパイクと同等以上だ。 


 先手を取る事もできるだろう。 なら先に仕掛けてくる?

 ハンマーは攻撃の回転は良くないはずだ。 なら、ここは先手を相手に譲り、カウンターで仕留める。 一撃躱せば自分のターンだ。 


 ――さぁ、来い!


 背後を取ったと同時にヨシナリが高速旋回。 とんでもない速さで、即座に背後に回られる。

 ツガルは機銃を連射。 上昇で躱される。 この機体は前後に銃口がある関係で仕留めたいなら側面か上下から来るのは読めていた。 


 上。 一気に振り下ろす。 ハンマーが唸りを上げてツガルに向けて振り下ろされる。

 まだだ。 ギリギリまで引き付けろ。 相手に思惑通りに進んだと思わせるんだ。

 接触の直前に縦旋回。 ヨシナリからすればハンマーのヘッド部分をすり抜けたように見えただろう。


 このまま背後を取ると思わせて真上からエネルギーウイングを狙う。

 タイミングはかなりシビアだが、この角度、位置なら充分に当てられる。

 エーテルの鎧に守られていようともエネルギーウイングは推進力を吐き出す為に他よりも脆い。


 これで――


 どうだと撃とうとしたツガルの視界一杯に広がったのはハンマーのヘッド部分だった。

 何でだ? そんな疑問は刹那。 よくよく考えれば分かる話で、ヨシナリはハンマーを振り抜いた後もエネルギーウイングを噴かし続けて一回転したのだ。


 直撃。 咄嗟に斥力フィールドを展開したが、衝撃を完全に殺す事には至らない。

 外殻部分が大きく陥没し、内部の機体にもダメージが入る。 先端を狙われたのだが、運悪く頭部側だった事もあって画面のあちこちにエラーメッセージが次々にポップアップ。


 ――だが、まだやられてはいない。


 ツガルは吹き飛ばされながらも機体を立て直す。 

 重力制御による飛行システムはこういった状況で特に力を発揮する。

 即座に立て直しが終わり、銃口を向けたのだが、ヨシナリは空いた手を向けていた。


 掌の奥に闇が蠢く。 発射。

 ツガルの無数のエネルギー弾はヨシナリの掌から放たれた闇色の光線に呑み込まれた。

 外殻が熔解し、本体が露出。 機体のダメージが閾値を突破した。


 「ったく、また負けかよ。 次はこうは行かねぇからな」


 負け惜しみにそう呟くと同時に機体が爆発。 ツガルは退場となった。



 「ふぅ、きつかった」


 エーテルの鎧を解除してパンドラの出力を元に戻す。

 ホロスコープを覆っていた鎧が空気に溶けるように剥がれ落ち、ついでに腕も溶け落ちた。


 「これは駄目だなぁ……」


 思わず呟く。 

 掌に付けた給排気口からエーテルを収束させた砲を放ったのだが、腕がエーテルの流入に耐えられなかったようだ。 爆発せずに内部でパーツが融解して落ちただけで済んだのは運がいいと言える。 


 やはり500%での駆動は無理があったようだ。 

 エラーメッセージを見るとフレームにダメージが入っているという珍しい内容が表示されていた。

 大抵の場合はフレームにダメージが行く前に機体が大破するので割とレアな状態だ。


 シックスセンスは辛うじて生きてはいるが、エネルギーウイングも推力偏向ノズルもエラーメッセージを大量に吐いている状態なのでもう戦闘は無理だろう。


 「ヨシナリ! 無事か!?」


 マルメルから通信が入る。 ヨシナリは苦笑してあぁと応えた。


 「何とかな。 やっぱ、慣れない事はするもんじゃないよ。 悪いが俺はここまでだ。 センサーリンクは生きてるから後は頼む」

 「おう! ――にしてもジェネシスフレームを単独撃破とか凄いじゃねーか!」

 「詳しい話は感想戦の時にでもしよう。 決着はまだだから気は抜くなよ」


 マルメルの後は任せとけという頼りになる返事を聞いて通信を切断。

 ゆっくりと降下しながらヨシナリはさっきの挙動を脳裏で反芻する。

 キマイラのスペックを超過した駆動はジェネシスフレームと同等以上の戦闘能力を発揮した。


 ランカーとの戦いではこれ以上ないほどに頼もしい武器だが、使えば機体が使い物にならなくなるのは大きな問題だ。 


 「300か200まで落とすか?」


 だが、落としすぎると半端な強化になるので無駄に機体を傷めつけるだけに終わる。

 そう判断したからこそ500%というギリギリの出力での使用に踏み切ったのだ。


 「――ってか機体がボロボロなのにコネクターは無事なの納得いかねぇな」


 そう呟いてまた思考に入ろうとしたが、不意に響いた衝撃音に掻き消される。

 発生源に視線を向けるとそこでは二人のAランクが本気の潰し合いをしている姿が見えた。

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