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第463話 ユニオン対抗戦Ⅲ:本戦二回戦⑦

 手の甲・・・で弾いたのだ。 

 正確には命中する直前に腕を差し込んでほんの僅かに軌道を変える。

 一度だけならまぐれと捉えられるが、七回連続で成功している姿を見せつけられればそうではないと認めざるを得ない。


 ――意味が分からない。


 ラクリマの脳は今しがた起こった事を正確に理解した。 

 理解はしたが訳が分からない事には変わりない。 

 いや、それ以前に素手で銃弾を受け流すなんて真似が人間に可能なのか?


 目の前で実行できているのだから可能なのだろう? いや、無理だろう?

 まさかとは思うがチート? このゲームで? それこそまさかだ。

 ならどうやって? リアルスキル?? 混乱した時間は一秒にも満たないかったが大きな隙だった。


 ふわわがエネルギーウイングを用いての急加速で一気に肉薄。 

 ラクリマは即座に思考を切り替え、シルヴァー・スピアを連射。 

 近いなら躱すのは――旋回で躱される。 撃ってからしまったと後悔。


 焦りでタイミングをずらさずに連射してしまった。 側面、入られる。


 「――舐めるな!」


 ラクリマはそう吼えると腰裏の銃を抜く。

 彼女の扱うリボルバーは三種類。 


 小口径のシルヴァー・スピア。

 大口径のシルヴァー・フィスト。

 なら最後の一つは何か。 


 大きさは前述の二挺とそう変わらないが、不釣り合いな巨大な銃口がそれを否定する。

 回転式弾倉に見える代物の真ん中に巨大な銃弾が一発収まっているだけ。

 シルヴァー・ハンマー。 接近された時の為の切り札。 


 特別製の徹甲炸裂焼夷弾が装填された銃で、その一撃は重装甲のパンツァータイプですら一撃で屠るだろう。 

 構えて引き金を引くだけでふわわの機体は跡形もなくなる。 

 タイミング的にはギリギリだが、充分に仕留められるはずだ。 


 ふわわは既に腰の太刀を抜刀する姿勢。 もう鞘から刃が抜けて刀身が露わになっている。

 明らかに相打ち狙い。 Aランクの自分が撃破されるのは不味い。 

 相手は確かFかそこらの低ランク。 詐欺みたいな強さだが、AとFでは価値が違う。


 こんな交換みたいな結果は避けなければならない。 

 ラクリマは刹那の間に思考し、結論を出す。 カウンターだ。

 幸いにも斬撃の軌跡は読める。 距離的に上半分がこちらに接触する距離感。


 間合い的にもギリギリ。 つまり僅かに間合いを外してやれば致命傷は避けられる。

 躱してシルヴァー・ハンマーでの一撃を叩きこむ。 これしかない。

 鞘から太刀が抜けた瞬間、僅かに後ろに跳ぶ。 これで躱せる。


 後は――


 「は?」


 ――そんな彼女の思惑は大きく外れる事になる。 

 何故ならふわわの振った太刀には刃が存在しなかったからだ。

 いや、正確には一瞬前までは存在した。 振り切った瞬間に消失したのだ。


 ホログラムの刃? ハッタリ?

 驚きはあったが、染みついた操作技能が彼女の体を自動で動かす。

 銃を構え、引き金を引こうとして――次の瞬間、彼女の機体はバラバラになった。



 「うーん。 話と違うなぁ」


 シニフィエはそう呟いて谷を越えていた。 

 現状、捲れている敵の戦力は空中でタヂカラオとヨシナリが戦っているジェネシスフレーム二機とエンジェルタイプが一機。 


 マップの北でユウヤが一機、ベリアルが二機のジェネシスフレームと交戦中。

 マップ中央にはマルメルとホーコートが一機と睨み合い。

 西側の谷底では姉がジェネシスフレームと交戦中。 見えていないのは残り二機だが、この時点でジェネシスフレームが六機も居る。


 最大五機という話だったのだが、この様子だと三軍所属のAランクは全員居そうだ。

 つまりジェネシスフレームが七機。 ちらりと上を見る。

 タヂカラオの戦い方に不自然な点は見えない。 


 恐らく、彼は敵に回るという事で偽の情報を掴まされたのだろう。


 「――という事は私もランカーの相手になるのかなぁ……」


 やだなぁと思っていたが、咄嗟にブースターを噴かして後退。 

 地面に薙ぐように銃弾が突き刺さる。 エンジェルタイプが一機、突っ込んでくる。

 エネルギーウイングを噴かして一気に肉薄してくる。 どうやら接近戦を仕掛けるようだ。


 素早くはあるが、捻りもない直線的な攻撃。 

 シニフィエは脳裏で戦い方を組み立てる。 躱してカウンター、流してカウンター。

 どっちにしようかなと思ったが相手はエネルギーウイング装備だ。 機動性では勝負にならない。


 なら流して態勢を崩して仕留めに行く。 敵機の太刀筋に合わせて――

 不意に機体に衝撃。 シニフィエが何だと視線を落とすとコックピット部分からエネルギーブレードが突き出ていた。 流石にこれには驚く。


 何の気配もしなかったからだ。 訳が分からない。

 彼女は自分に何が起こったのかを理解できずに脱落となった。



 「はは、どうやら僕は一杯食わされたようだね」


 タヂカラオの口調には僅かな悔しさが滲んでいた。 

 明らかに想定よりもジェネシスフレームの数が多い。 

 恐らくは部外者になるタヂカラオには偽の情報を流したのだろう。


 だからと言ってメンバーそのものが変わった訳ではない。

 一応、Aランク全員の情報は貰っていたのでどうにでもなるはずだ。 

 まずは目の前の三機をどうにかする所からだ。 


 『さて、始める前に横槍は排除させて貰う』


 ヤガミが小さく顎を動かすとエンジェルタイプが頷きで返してヨシナリ達の来た方向へと向かっていく。 どうやらグロウモスの排除に向かうようだ。


 『アベリア、君はタヂカラオを。 私はヨシナリ君の実力を見せて貰う』

 『分かりました』


 どうやらヤガミは一対一をお望みのようだ。

 前情報は貰っていたので厳しい相手だが、瞬殺はされないと思いたい。

 そんな事を考えながらアトルムとクルックスを抜く。 


 『背の剣は使わないのかな?』

 「今のあなたに当てられる気がしないので」

 『その様子だと予習して来たようだな。 感心、感心。 では、君の準備が適切だったかの答え合わせと行こう』


 二本のエネルギーダガーを握るとだらりと脱力した構え。

 シックスセンスを全開にして相手の挙動の兆候を見逃すまいと目を凝らす。

 背のエネルギーウイングと足元にエネルギー反応。 


 ――これが話に聞いてたアレか。


 ヤガミが靴先を整えるように爪先を空中に打ち付けたと同時にエネルギー反応が爆発的に上昇。

 ヨシナリは危険を感じてエネルギーウイングと推力偏向ノズルを全開にして上に逃げる。

 その判断は正しく、弾丸のようなスピードで突っ込んで来たヤガミの斬撃が空を薙いだ。

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