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第598話 来訪者討伐戦⑤

 開始と同時にモタシラは後方に跳んで距離を取り、ヨシナリはシニフィエへと銃撃。

 アシンメトリーから放たれたエネルギー弾をシニフィエは難なく躱す。

 エネルギーウイング装備だけあって速い。 回避に入るのも滑らかだった。


 ――こりゃ、かなり練習してるな。 


 「いきなりこっちですか?」

 「悪いが今回はふわわさんの討伐がメインでな。 ノイズは早めに処理しておきたいんだよ」

 「上手くいきますかね?」


 視界の端ではふわわがモタシラを追っていくのが見える。

 しばらくはシニフィエに集中できそうだ。


 「そういえばあの強化装甲どうしたんだ? 見覚えのない型だけど?」


 捉えきれないと判断してアトルムとクルックスに切り替えて連射。

 シニフィエは加速する事で躱す。 ヨシナリは連射しながら観察に入った。


 「あぁ、アレですか? 前にナインヘッド・ドラゴンのサンプルを送り付けて来た所から追加でもらった新装備のサンプルらしいですよ」


 道理で見覚えがない訳だ。 それにしても凄まじい見た目だった。

 ソルジャータイプ専用の追加装備なのかもしれないが、随分とユニークだ。

 性能はこれから観察しなければなれないが、見極めはモタシラが頑張ってくれるだろう。


 そのまま返り討ちにしてくれるのなら楽でいいのだが、モタシラの雰囲気的に難しそうだ。

 予定通り、シニフィエをさっさと落として二対一で袋叩きにする。

 モタシラは勝ちたい訳ではなく、道場に現れる恐ろしい女を目の前から排除できれば何でもいいとの事なので勝ち方にはこだわる必要はない。 


 「道理でお前の機体と装備代金を賄える訳だ」

 「まぁ、そういう事です。 浮いたお金で色々と買って貰いました。 んじゃぁそろそろ私の修行の成果を見て貰いましょうか!」


 シニフィエはエネルギーウイングを小刻みに噴かして加速。 

 一気に噴かさないのはシックスセンス対策だろう。 これをやられると動きが読み辛い。

 挙動に見覚えがある。 恐らくはユニオン対抗戦でホーコートが使っていた動きの応用だろう。


 アトルムとクルックスの連射で対応するが左右に機体を振って回避。 

 近づきながらなのに当たらない。 軽量化しているだけあって流石に速い。

 アトルムの弾が切れたと同時に残ったクルックスに向けて腕に仕込んでいたクナイを投擲。


 上手い。 アトルムは弾切れなので躱してからの反撃がし辛い。


 ――まぁ、撃ち分けができるからそこまで大きな問題はないけどな。


 弾種を実体弾からエネルギー弾に切り替えて連射。 シニフィエを狙いつつクナイを撃ち落とす。

 シニフィエは両腕を目の前で立てて防御の構え。 突っ切るつもりか?

 エネルギー流動を視てなるほどと納得する。 


 あのガントレットはシールドの役割も担っているようだ。 

 前面にエネルギーフィールドに似た防御力場が展開される。

 エネルギー弾を防ぎ、無傷で間合いに入って来た。 


 機体の向こうでシニフィエがしてやったりと笑っている姿が簡単に想像できる。 

 咄嗟にクルックスを向けるが払いのけられた。 そのまま拳を握り――




 ――入る。


 シニフィエは手応えを感じていた。 

 義兄ヨシナリの動きに関しては彼女なりに研究して来たのだ。

 対策も練って来た。 彼の強みは柔軟な対応力にあるが、どんな人間にも慣れた挙動、癖のような物は必ず存在する。 それは強みでもあるが高確率でそれをするという事は付け入る隙でもあった。


 プラスフレームに変えた事で機動性での差はほぼ解消されている。

 それでもこちらはソルジャー+、ヨシナリのキマイラ+と比べて総合力では劣っている。 

 特にホロスコープは機動性に振っているだけあって簡単に捕まえられない。


 だが、間合いに捉える方法は存在する。 それは戦闘の序盤。

 根拠としてはヨシナリは慣れた相手――要は既知の相手にはすぐに戦い方を組み立てるが、未知の相手は必ず見てから対処を決めるからだ。 


 それはこれまでのランク戦、ユニオン戦を見て来た事から明らかだった。

 距離があるならアシンメトリー、機動力に優れた相手ならアトルムとクルックスで牽制を入れて様子を見る。 恐らくだが、不確定な要素を可能な限り取り除く事で勝利を確実なものにする為だろう。


 ――勝利に対して貪欲。


 そこまで付き合いが長い訳ではないが、それなりに濃い時間を共にしたのだ。

 何となくその気性は見えてくる。 ヨシナリは簡単に言うと極度の負けず嫌いだ。

 だから、負けない為にできる事を可能な限り実行する。 情報収集はその最たるものだろう。


 普段であるならヨシナリは距離を取ってアシンメトリーで仕留めにかかるはずだが、機体を乗り換えたシニフィエのデータはない。 つまり高い確率で様子を見てくる。

 こちらの機体構成から間合いを詰める事は読まれてくるので使って来るのはアトルムとクルックス。


 ただ、注意したのは今回、ヨシナリの目的は勝つだけでなくモタシラを勝たせるというもう一つのタスクがある。 

 その為、様子を見るにしても時間は余りかけてくれない。 


 ――以上を踏まえると対応を決めるよりも早く、速攻をかけて間合いを詰めるのが最善手。


 エネルギーウイングの扱いはかなり力を入れて練習してきた。

 お手本も多かったので形になるまでそう時間はかからず、充分に通用するレベルで仕上げて来たつもりだ。 

 小刻みに吹かす事でシックスセンスによるエネルギー流動を観測を難しくして、挙動を読み取らせない事を意識。 


 そうなるとヨシナリは目視に頼らざるを得ない。 

 今の自分が勝っている部分は接近戦のみ。 中距離以上の距離に持っていかれると勝ち目がない。 

 特に距離を維持されると脆いという点は前のイベント戦で嫌というほどに思い知らされたからだ。


 ――だから相手の得意な距離で勝負なんてしてやらない。


 常に自分の得意な距離を維持し、相手にそれを押し付けるのだ。

 機体の装備構成もそれを実行できる物を揃えた。


 ――姉の金で。


 武器も一通り試しはしたがやはり自分には格闘戦が一番合っている。

 その強みを最大限に活かす為に色々と揃えたのだ。 

 特にヨシナリ相手に有効なのはこのガントレットだろう。


 打撃の補助だけでなくエネルギーシールドの発生装置を兼ねており、盾としても扱える。

 範囲はあまり広くないがその分、強力な盾を局所的に展開できる事もあって拳銃程度のエネルギー弾なら何の問題もなく防ぐ事が可能だ。


 その甲斐あってか間合いに入る事が出来た。


 ――ここからですよ。

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