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第599話 来訪者討伐戦⑥

 予想通りアトルムとクルックスで対処してきたので実弾は機動で躱し、エネルギー弾はシールドで受けて強引に間合いを潰す。 残弾は把握済み。 

 ヨシナリは左右同時に弾切れになるのを嫌がってアトルムとクルックスで使用頻度を変えている。


 どちらで撃っているのかをしっかりと見極めればどちらが先に弾切れになるのかは分かる。

 アトルムが弾切れになると同時にクナイを投げて体勢を崩す。

 左から投げたのでヨシナリは撃ち落としながら機体を傾けて躱すが、クルックスは撃てなくなる。


 そうなると弾切れのアトルムしかないが、エネルギー弾に切り替えざるを得ない。 


 ――ここ!


 両腕を交差させて突っ込む。 これで完全に間合いだ。

 ヨシナリは半端に追いつめるとパフォーマンスが爆発的に向上するので可能な限り速やかに撃破しなければならない。 咄嗟に向けて来たクルックスを手で払いのけ、残った拳を固める。


 一撃だ。 一撃でコックピット部分を打ち抜く。

 体勢は完全に崩した。 上半身は完全にがら空きだ。 

 イラはマウントされているので考える必要がない。 パンドラは発動の兆候があれば推進装置などに変化が起こるのでエーテルを吐き出していな以上は問題ない。


 足のクレイモアは要警戒対象だが、蹴りを繰り出す必要がある以上は間に合わない。

 行ける。


 「――って思っただろ?」


 ヨシナリが見透かしたような事を言うと同時に両足のクレイモアが起動。

 無数のベアリング弾がシニフィエに襲い掛かる。 咄嗟に腕をクロスさせて防御。

 エネルギーシールドは実体弾にも有効ではあるが、光学兵器に比べると質量がある分効果が落ちる。


 損傷は軽微だが、完全に気勢を削がれた。 不味い。

 このままだと攻守が入れ替わる。 シニフィエは主導権を取られまいと攻撃に移ろうとするが、防御に一手使わされた事で反応が遅れてしまう。 


 それでもと固めた拳を振り抜こうとしたが目の間に居たはずのヨシナリの姿が消えていた。

 一瞬で離脱は不可能。 なら死角に移動しただけだ。

 振り返りながら背後へと手刀を一閃したのだが、何かが絡みつき動きが止まる。


 よく見るとヨシナリの腕だ。 


 ――手刀を素手で巻き取って止めた!?


 無手である事を除けばモタシラの動きそのものだった。 

 流石に接近戦に応じてくるとは思わなかったシニフィエの反応はさらに遅れる。

 こうなるともうどうにもならない。 


 次の瞬間にヨシナリが空いた手でシニフィエの胴体に掌底を叩きこむ。 

 距離が近かった事もあってダメージはそこまでではないが、手の平を押しあてられている状態が不味かった。 咄嗟に剥がそうとするが間に合わない。


 密着状態で精製されたエーテルのブレードがシニフィエのコックピット部分を貫いた。


 「さ、流石ですお義兄さん」

 「ふ、月光に照らされし我が闇の帳に触れた時点でお前の敗北は定められていた。 これは確定された事象と言える」

 「な、納得いかないなぁ……」


 それを最後にシニフィエの機体は爆発。 脱落となった。



 信じられなかった。 

 モタシラはふわわの技量の向上に戦慄する。

 ユニオン対抗戦からそう時間は立っていないはずなのにまるで別人だった。


 太刀による斬撃を巻き取ろうとしたが、その動きに合わせて逆に絡め取ろうとしてくる。

 結果、モタシラの太刀は打ち落とされのだ。 

 装備が太刀一本のモタシラに対してふわわの武器は一つではない。


 空いた手で小太刀を抜いて刺突。 上半身を傾けて躱す。

 モタシラの機体は関節の可動域が広い。 

 普通の試合であるならこのまま追撃されて敗色濃厚の場面だが、太刀による斬撃を上半身を回転させる事で強引に姿勢を変えて流す。 


 『おもろい動きするなぁ』

 「それはこちらのセリフだ。 少し見ただけで俺の動きの癖を見極めたのか?」


 ふわわは答えずに低く笑う。 


 ――まずは見極めから入りましょう。


 ヨシナリがくれたアドバイスはいくつかあるが、最初にやるべき事はふわわがどれだけの準備をしているかを見極める事。 装備は変わっているか? 動きは変わっているか?

 何か違和感はないか? とにかく以前との違いを探し当て、想定外が発生する余地を潰すのだ。


 モタシラはじっとふわわを観察。 

 装備構成は変えているかもしれないと思ったが、見た目まで変わっていたのは驚きだった。

 Aランクプレイヤーだけあって、余り下位のパーツに対する関心が薄かった事もあって目の前の見慣れない装備の情報を持ち合わせていない。 


 それでも分かる事はある。 

 ヨシナリとのセンサーシステムのリンクによって相手のエネルギー流動が見えている事もあって強化装甲の正体は何となくだが見えていた。


 まずはジェネレーター内蔵式で機体のパワーアシストを行うタイプだ。

 お陰で機体の出力は大きく上昇している。 性能を盛るのは単純だが、強化としては効果的だ。

 装備自体は変わっていないが、ふわわは純粋な剣だけの人物ではないので高い確率で何か仕込んで来るとはヨシナリの言。 モタシラもグルーキャノンなどを見て来た事もあって警戒は怠っていない。


 機体に関しては現状、これ以上の情報は出てこないが当人の技量は勿論、精神面でも変わっていた。

 以前にあった剥き出しの殺気が鳴りを潜め、こちらを窺うような気配が不気味だ。

 肉食獣が草むらに伏せて獲物を待ち伏せているかのような嫌な予感が付いて回る。


 気圧されている事は理解しているが、惑わされているだけとも思わない。

 この圧に相応しい何かを彼女は体得して現れたのだ。 


 ――まずは底を視なければ話にならない。


 ふわわが楽し気に踏み込んで来る。 思い切りのいい前進。

 前屈姿勢からの上段。 力任せの一撃に見えるが、こちらの手の内を見た上での選択だ。

 受けてもいいが、ここは追撃を警戒して回避。 ギリギリを狙わずに余裕を持って後退する。


 返しの刺突を繰り出すが、手の甲――籠手のような装備で受けられた。

 何で出来ているのか不明だが妙な手応えだ。 よくよく見ると円形の鏡のような物が嵌まっている。

 エネルギー流動に変化。 籠手に集まっている。


 飛び道具? いや、形状的に考え難い。 なら可能性として考えられるのは――


 ――目晦まし。


 モタシラはメインカメラの接続を落としながら小太刀の一撃を流す。

 視界が暗転する前に白く染まっていた事からフラッシュライトのようなものかもしれない。

 即座に視界を元に戻し、大きな動きで後退。 太刀を構えて仕切り直す。

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