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第600話 来訪者討伐戦⑦

 ――!?


 その頃にはふわわは野太刀を構えていた。 

 鞘から紫電が迸り――モタシラは即座に横に跳んで回避。 

 斬。 大地に縦一文字の傷が刻まれる。 


 ひやりとしたが予備動作が大きい攻撃なので躱すのは難しくない。

 今度は間合いを詰めてくるかと思ったが、ふわわももう一本の野太刀に手をかけており、エネルギー流動から充填は済んでいるようだ。 


 「うぉ!?」


 身を屈めると同時に何かが通り過ぎる気配。 

 掠めた程度で済んだがチリチリとした焦燥感にも似た何かが身を焦がす。

 モタシラは何度も呼吸を繰り返して平常心を保つ。 例の野太刀に関しては聞いていた事もあって、来る事は想定していたが、二連続で放てるとは思っていなかった。


 強化装甲のお陰と見て間違いない。 

 ふわわは野太刀を手放すと柄だけになったそれは吸い込まれるように鞘に収まった。

 あれも聞いていない機能だ。 磁力のような物を発生させて柄と鞘を引き合わせている?


 不明ではあるが便利ではある。 振り切った後、鞘に戻すという手間がかからない。

 ふわわは腰の太刀に手を添えて踏み込んで来る。 

 エネルギーウイングを使用しなかった所を見ると流石に二連続で野太刀は相当の負担と見ていい。


 二歩、三歩と進んだ所で回復したのかエネルギーウイングに光が戻る。

 一気に加速。 迎え撃つように構えるが、ふわわは太刀に添えた手を僅かに持ち上げる。


 ――嫌な使い方を!


 手の甲が光る。 またフラッシュか。

 咄嗟に視界を落として躱してやり過ごす。 動揺を見せない為に微動だにしない。

 視界が戻った頃にはふわわは既に剣の間合いだ。 太刀から刃が迸り、モタシラの胴を薙ごうと振るわれるが、攻撃方向に合わせて刃を滑らせていなす。


 比較的、巻き取り難い薙ぎを選んでいる時点で対策は良く練ってきているが、そんな事は百も承知。

 巻き取れないならいなせばいいのだ。 このまま返して――

 脳裏で三手ほど先まで組み立てていたが、ふわわの動きはモタシラの想定を超えていた。


 彼女は太刀を手放したのだ。 結果、手から抜けて飛んでいく。

 何が狙いかと思考したのは刹那。 ふわわは野太刀の柄を掴んでいた。


 ――使えるのか!?


 液体金属刃である以上、充填作業が必要のはずだ。 

 エネルギー流動を視ても鞘に溜まっている様には見えない。 

 抜いても刃は形成されない。 


 されていたとしても鞘が動いていない以上、例の凶悪な斬撃は飛んで来ないはずだ。

 ふわわは抜かずにアタッチメントから鞘を外してそのまま殴りかかって来たのだ。

 驚きはしたが、この距離で長物。 当たってやるほどモタシラは甘くない。


 ただ、重量がある以上、巻き取るのは難しい。 いなして態勢を崩す。

 横を叩いて軌道を逸らすと野太刀の鞘は地面に叩きつけられる。

 随分と迂闊な事をすると思いながら、ようやくできた隙を突くべき刺突を繰り出そうとしたのだがふわわの機体は宙にあった。 


 振った後、エネルギーウイングで強引に機体を持ち上げたのだ。

 横に流れた状態でも攻撃を繰り出せる態勢。 これが狙いか。

 横薙ぎの蹴り。 上半身を傾ければ躱せるが、モタシラはちらりと振り下ろされた野太刀を視る。


 エネルギーウイング最大の強みは旋回性能だ。 そのまま機体を回せばもう一撃、繰り出せる。

 本命は野太刀での追撃か。 ならば、ここは後退が正解のはず。

 モタシラはそう判断して推進装置を全開にして後退。 やや強引に距離を取る。


 その間にふわわはモタシラの読み通りに強引な旋回で野太刀を持ち上げて一閃する所だった。

 読み通り。 このまま追撃に繋げる。 

 本来ならヨシナリを待って二対一で確実に仕留める場面だが、受けに回るのは危険だ。


 特にふわわは相手の弱気に付け込むのが上手い。  

 逃げ腰は不利を招く。 そう判断し、振り切ったタイミングで前に出ようと――する前に何かが真っすぐに飛んで来た。 何だと困惑したのは僅かで、ふわわは振ると見せかけて鞘だけ飛ばしてきたのだ。


 これは躱せない。 咄嗟に打ち落とすがそれが良くなかった。

 次の瞬間にはふわわは既に間合いの内。 速い。

 エネルギーウイングの他に推進装置があったようで、これまで隠していたようだ。


 いかにシックスセンスと言えど、起動していない装置に対しては反応できない。

 太刀で流すには近すぎる。 掴んで投げるしかない。

 モタシラは太刀を手放し、掴みに入ろうとしたがふわわは姿勢を低くして腰にしがみつくように体当たり。


 ――またこのパターンか!


 以前のイベント戦でヨシナリにやられた事を思い出す。

 各所のスラスターを噴かして何とか姿勢制御を行おうとするが、全開にして突っ込んで来た機体に対して戻すのは難しかった。 そのまま地面に叩きつけられる。

 完全にマウントを取られた。 これは不味い。


 『こうなると手足をぐるぐるさせて躱せへんでしょ?』


 ふわわは小太刀を抜いて振り下ろす。 確かに躱せはしない。

 だが、こんなピンチは過去にも経験している。 

 振り下ろされる刃を両手で挟む。 白刃取りだ。


 ふわわは少し驚いたように息を漏らすが、モタシラはこんな事では終わらない。

 彼の機体は可動域の拡張を追及している事もあって手足だけでなく上半身も一回転できる。

 見せていないが膝、肘は球体関節のような形状をしており、通常ではありえない方向へ曲げる事が可能だ。


 現在は倒れたモタシラの上半身に跨るようにふわわが居る。

 つまり下半身は拘束されていない。 

 剣士としてあまり褒められた事ではないが、Aランクプレイヤーとして生き残っていくには最低限の備えは必要だ。 機体に仕込んでいるギミックを展開。


 爪先からエネルギーブレードが突き出る。 仕込み刃だ。

 爪先、踵、肘、膝に仕込んでいる。 

 普段は使わないが太刀を失ったなど、攻撃手段を喪失した時の為の緊急用だ。


 膝から上が跳ね上がる。 特殊な関節のお陰で人体ではありえない動きもこのように可能だ。

 ブレードがふわわの背に突き刺さる――直前に止まった。


 「ふ、振り返らずに掴んだ?」


 そう、ふわわはいつの間にか後ろに回した腕でモタシラの足を掴んでいたのだ。


 『焦ってた所為かな? 殺気が漏れとったよ?』


 だったらと各所の関節を強引に動かして拘束を振りほどくまでだ。

 あまり頑丈ではないこの機体でやるのはリスキーではあったが手段を選んでいられない。

 もう少しすればヨシナリがシニフィエを片付けて戻って来る。


 それまで粘れば――

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