とある選択科目――萌とリコ、悠、そして真理もとっている――の科目の担当教員は、テストの代わりにレポートのテーマをいくつか出して学生に選ばせ、そのテーマについてグループ発表をさせる。
グループの人数は授業の参加人数次第だが、3人から5人ぐらいまで。教員はグループのメンバー構成には口を出さず、学生の自主性に任せている。
今回は1グループ4人か5人ということになった。萌はもちろんリコと同じグループを組む。教室の中を見ると、皆それぞれグループを作りつつある。でも悠はポツンと1人で手持無沙汰にしていた。
「リコ、園田君を誘ってもいい?」
「いいよ」
萌が近づくと、悠は顔を上げて何か言いたげな表情をした。
「園田君、私達と一緒のグループにならない?」
「……いいの?」
「もちろん」
「ありがと……頼もうかと思ってたんだ」
萌がにっこり微笑むと、悠は小声でぶつぶつとお礼を言った。
「あと1人どうしようか」
萌がちらちらと視線を感じる方へ目を向けると、真理が険悪な目つきで萌を見ているのが見えた。真理の周りには親衛隊の男の子達が群がっている。誰が真理と一緒のグループになるか少し揉めているようだ。
「あそこからあぶれた人は問題外だね」
リコはうんうんとうなずいた。
「佐藤さん、私達2人なんだけど、一緒に組まない?」
2人組の女の子が寄ってきて萌にそう提案した。萌達3人も異存なく、5人組のグループができた。
グループができた後は、それぞれが調べる担当範囲を決めて、1週間後にその結果を5人で突き合わせようということになった。
授業の後、空き時間のある学生は、図書館に参考になりそうな本を探しに行ったようだった。萌やリコ、悠、真理、真理の親衛隊の男子学生達もそうだった。
悠が本棚の間で本を探していると、後ろから肩を叩かれた。悠は振り向かなくてもきつい香水の匂いで真理だとわかり、前を向いたまま冷たい声で応答した。
「何?」
「な、何って……えっと、うちのグループに
「『
「そう」
「今のグループ、何人なの?」
「5人だよ」
真理は、悠が自分のグループに来たいと言うのだとてっきり思って嬉々として答えた。
「じゃあ、俺のために1人グループから抜けさせるってこと? その人はそれでどうするの?」
「佐藤さん達のグループに入れてもらえばいいでしょ?」
「その人の意思も佐藤さん達の意思も関係なしに?」
「え?」
「そういう考え、やめた方がいいと思うよ。じゃあね」
「え? え? え?」
悠が去って行った後、真理はしばらくの間、呆然とその場に立ち尽くしていた。
その頃、萌も図書館で本を探していた。めぼしい本が目に入って手にとろうとしたら、他の人の手が萌の手に触れた。
「あっ! すみませ……え? 園田君?!」
同じ本に手を延ばそうとしていたのは悠だった。それがわかった瞬間、萌は悠の触れた手の甲から全身に熱が広がっていくのを感じた。
「あっ、佐藤さん! ごめん」
「そ、園田君もこの本必要なの?」
「ううん、まだわかんない。タイトルから言って発表に必要な本かなって思ったから、中身見ようと思って。でも、この本、先に見てもいいよ。俺、その間、別の本読んでる」
「そんな、悪いよ」
「いいよ」
「でも……」
「じゃあ、俺が隣に座って佐藤さんが見終わったらすぐに見せてもらうってことでいい?」
「えっ?!」
「だめ?」
決してイケメンではないが茶目っ気のある悠にそう聞かれると、萌はダメだなんて言えなかった。
萌は、なんだか胸がドキドキして本の内容が頭に入らず、早々にその本を悠に渡して別の本を見ることにした。
2人はそれぞれいっぱいいっぱいで自分達をじっと見つめる視線――しかも好意的ではない――に気付いていなかった。萌は自分の高鳴る胸のやり場に困ってそれに気付くどころじゃなかったし、悠は悠で調べものに没頭していたからだった。