マリスハイムに滞在して一週間。
僕達は王立書庫で情報を集めつつ、ギルドに顔を出して依頼をこなして先を見越して資金も貯めていく。
それに旅に役立つ道具ももっと良質の物に変え替えたいし、やっぱりお金は稼がないとね。
朝の日課の素振りや走り込みも欠かさない。
剣や魔術の腕も向上していきたいし、前に起きたような不思議な経験をするかもしれない。
ギルドでは、流石に一週間も滞在すれば、ここで活動する冒険者にも認知され、ラシードが交流を深めてくれていたお陰もあってパーティとして歓迎されていた。
人と人との繋がりが大事なのは、ここまで来た中で痛感している事だ。この街の人達とも良い関係を築いていけたらいいな。
そして肝心の勇者や神剣の情報については、先日の退魔の精霊以外には、めぼしい情報は得られていなかった。
マリスハイムに辿り着くまでの頃、ここに来ればすぐに情報が集まると思っていたが、どうやら僕の認識が甘かったようだ。
この街に腰を据えて、根気よく探していかねば。
朝、皆で揃って朝食を取っていた時に最近ずっと慌ただしくしていた僕達は、今日は息抜きをしようという話になった。
と言っても、どう過ごそうかと考えていると、サヤが一つの提案を提示した。
「今日は皆でポルコさんのお店に行ってみない? 丁度お買い物もしたいし!」
「そう言えばなんだかんだ忙しくて行けてなかったね」
「そうだな、行くか!」
「ん!」
満場一致で行先は決定だ。
ポルコさんのお店も気になっていたし、最近の調べ物の成果が芳しくなかったので、ポルコさんから元気を貰えるかもしれない。なんて下心もちょっとだけあったりするけどね。
それから僕達は、皆で揃ってポルコさんのお店がある商業区までのんびりと向かっていた。
その道中で中央広場に差し掛かる。
ここには広場の真ん中に大きな噴水があり、サリア神聖王国建国のきっかけとなった偉人『サリア・コリンドル』の像が立っている。
勇者の伝承を調べているうちに分かった事だが、かの偉人はかつて勇者と共に魔王を封印し、世界に平穏を取り戻した英雄の一人で、今から約500年前に実在した人物だ。
類まれなる神聖魔術の使い手で、勇者や仲間をその力で幾度と救ったとされる。
サリアの像を見る限り、美しい女性だったようだ。
勇者の仲間達について、王立書庫でもっと詳しい記述があるかと思ったのだが、その人物の詳細が記された書物はなかなか見付からなかった。
僕の探し方の問題かもしれないが、どうも『意図的に情報が秘匿されている』ような気がしてならない。
最近情報を追い求めてふつふつと思うのだ。
世界を救った勇者だ。異名などで呼ばれたりはあれど、名前を誰も知らないのは流石に妙だ。
仲間達に関しても出てくるのは名前と簡単な情報くらいで、世界を救った後の事は何故か書かれていない。
まるでわざと情報を隠しているみたいに。
とは言っても、ひとまずはこのまま情報を探し続けることに変更はないんだけども……。
と、そんな事を考えているうちに、いつの間にかポルコさんのお店の前までやってきていた。
外に掛けられた看板には『オッティの雑貨屋さん』と書いてあった。お店の名前が可愛らしくてポルコさんらしいとサヤが楽しそうに笑う。
ツヴェルク族のお店だと思ってたから、てっきり小さなお店を想像していたけど、そこは万人向けのサイズだった。
オッティの雑貨屋さんに入ると、忙しなく働くツヴェルク族の女性がこちらに振り向いて満面の笑顔を向けた。
「いらっしゃいませ〜! どうぞゆっくり見ていってくださいね〜!!」
あれ、この感じ凄い既視感。十中八九ポルコさんの奥さんだ。
「こんにちは! 僕達ポルコさんとご縁があって……ポルコさんはいますか?」
「わぁ! 主人のお友達ですか! ちょっと待ってくださいね〜!」
そう言うとポルコさんの奥さんが思いっきり息を吸い込み…………。
「あーなーたーーー!!! お友達がーー!! 来てますよおおーーーっ!!!」
あまりの声量に僕達は驚いて、揃ってビクッとした。
ウィニなんて驚きすぎてサヤに飛びついている程だ。
……それにしても夫婦揃って元気いっぱいなんだなあ。
そして店の奥からどたどたと足音が迫ってくるのが聞こえてドアが勢いよく開かれると、ポルコさんが姿を現した。
「おおっ! クサビさん達ですっ!! 来てくれたんですねー!! ようこそ!!!」
ポルコさんは相変わらずの元気溌剌さで再会を喜んでいた。
「ポルコさん、お久しぶりです!」
「お邪魔しますねっ」
ポルコさんが奥さんと伴って対面する。
「紹介します! 僕の奥さんのカルアです!」
「はいっ! 『カルア・オッティ』と申します!!」
明るい栗色の長い髪を二つ結びにして、くりくりとした目で元気よくぺこりとお辞儀している。
「おお、らぶらぶ」
「「はい!! ラブラブですー!!」」
奥さんのカルアさんを紹介すると、何故か二人で声を上げて笑い合いながら抱き合ってぴょんぴょんと跳ねていて、ウィニの呟きにも揃って返事をする程に息ぴったりだ。
確かにお似合いの二人だ。満面の笑みで飛び跳ねる二人が、僕の目には微笑ましく映った。
カルアさんに紹介してもらった後、僕達はお店を見て回ることにした。
カルアさんは僕達がエルヴァイナから護衛依頼としてポルコさんと一緒に来たと知ると、絶対にもてなしたいと言って店の奥へとすっ飛んで行った。
せっかくの厚意を無下にするのも忍びないのでご相伴にあずかる事になった。
ポルコさんはその間店番をしながら僕達に商品の紹介をしてくれるという。
元気な二人が営むお店で、僕達は久しぶりにのんびりとした時間を過ごす事になったのだった。