目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

Ep.216 対峙『チギリ・ヤブサメ』

「――ふふ。……僥倖。皆覚悟を決めたようだ。……では、精々死なぬよう抗うといい!」


 その言葉を合図に戦闘が始まった。

 同時にラムザッドとナタクが散開するように飛び退き、それを追うように仲間達も散開した。



 チギリが杖を振るい、頭上に大量の火球が発現し、僕とマルシェさんに降り注いだ!


 僕とマルシェさんはそれぞれ左右に別れて回避する。

 上空から叩きつけられた火球は爆発を起こし砂埃が舞う。

 僕は怯まず駆け続け、足に溜めた強化魔術を解放し、地面を蹴りつけて急加速して間合いを詰めた。


 チギリを剣の間合いに捉える!


 だが、既にチギリは杖の先端を僕に向けて魔術を放つことで迎撃せんとする!


 ――僕は咄嗟に屈み、放たれた炎弾を掻い潜った!


「はぁっ!」


 低い体制のまま両手で握った剣を振り上げて斜めに斬撃を放ち、続けて即座に剣を右手に持ち替えて横一閃に斬る。


 チギリは初撃を風魔術で自身を浮かすことで回避し、二撃目を左手で発動した防御障壁で凌いでいた。


 そこに盾を器用に動かして火球を弾きながら距離を詰めていたマルシェさんが攻撃範囲に捉える。


 チギリは素早くマルシェさんに向き直り、マルシェさんが盾で防ぐよりも先に杖を突き出して炎弾の連打を放つ。


 盾で受け止められた炎弾は爆発し、マルシェさんはその衝撃で後ずさる。さらに追撃の爆炎弾を盾で受け、パリィを発動させた。


 その爆炎弾は大きな爆発を起こした後、炎の渦を巻き起こした!


 ……火炎が晴れた後、そこにはマルシェさんの姿はなく、爆風で舞った砂埃に紛れてチギリの側面に移動していた彼女の姿があった。


「せいッ!」


 すかさずマルシェさんが盾を突き出し、突進して距離を詰めようとしてくるのをチギリは杖で防御する!


 するとチギリはニヤリと口角を上げると、杖を振るう動作と共に、マルシェさんを吹き飛ばす程の雷の衝撃波を放った!


「――くっ!」


 マルシェさんは吹き飛ばされるが、すぐに宙返りして地面に足を付けると、体勢を低くして強化魔術を使い、さらに加速して間合いを詰めた!


 僕はチギリに水の牽制弾を放ちながら側面に回り込み、チギリをマルシェさんと挟み込むように立ち回る。


 ――その隙にマルシェさんは一気にチギリの懐に飛び込んだ!


「シールド……レイジ!」

「……っ!」


 強化魔術で飛び込んだ勢いのまま構えた盾でチギリに突っ込むと、さすがのチギリの防御障壁の片手では防ぎきれず、両手で障壁を展開せざるを得なかった。


 好機だ! チギリは今僕に背を向けている!


 急加速で飛び出し、そして跳躍。


 マルシェさんは渾身の力を盾に込め、チギリの防御障壁を破らんとしていた。魔力を乗せた盾の衝撃力は、通常の突進の何倍もの圧力を発揮させていた!


 そこに僕はチギリの背後から飛び上がり、縦に一回転した反動で急降下して威力を高め、さらに上段に掲げた剣に炎を纏った炎剣を思い切り振り下ろした!


「うおおおおおっ!」


 チギリに僕の剣が届く!

 予め張っていたのか、背中に展開された防御障壁と剣が打ち合い、その障壁ごとチギリの背中を斬り裂いた……!


「――クッ!」


 傷を受けたチギリから血が僅かに飛び散り、それに構わずチギリは自身の足元に突然爆発を起こして爆風でその場を離脱した!


 爆発を至近距離で受けた僕は吹き飛ばされ、盾で凌いだマルシェさんも後退を余儀なくされた。



「――――チギリ……!」


 戦いの行方を見守っていたアスカさんが悲痛な表情でチギリに杖を向けた。

 ……が、チギリはそれを手で制して拒否する。


「……まだだ。致命傷ではない。……よもや一日でここまで良い動きをしてくるとはな、いやはや末恐ろしいな」


「自分の甘さを思い知りました。師匠のおかげです」


 僕は油断なく剣を構えながら目の前の敵と言葉を交わす。

 手応えはあった。だがまだ倒すには至らない。おそらく今の戦法は二度は通じないだろう。


 ――ならば。


 僕のあつ一つ策を思いつき、近くに移動していたマルシェさんに耳打ちする。


「……マルシェさん、お願いがあります。師匠を少しでいいので、足止めできますか?」

「勝機があるのですね。やりましょう」


 マルシェさんは武器を構えてチギリを見据えながら、一片の迷いもなく承諾する。


「はい。師匠に見せたことがないとっておきです……!」

「ならば、私も私の役目を全身全霊で全うします」


 僕の方からでは桃色の前髪によって目が隠れている側に立っていて、マルシェさんの眼差しを推し量ることはできなかったが、彼女の口元に微笑みが垣間見えた。


「……ではよろしくお願いします、マルシェさん」

「引き受けました。……ああ、それと――」


「はい……?」


 マルシェさんが敵から目線を外して僕に微笑み掛ける。


「マルシェでいいですよ」


「――っ……はい!」


 僕らは視線を交わし合い、そして目の前の強敵に意識を切り替える。


「作戦会議は済んだようだね。では再戦といこうか」

「はい!」

「では。――――参りますッ!」


 マルシェが気合と一緒に飛び出していき、僕は剣を構えながら準備を始める。


 そしてマルシェが決死の覚悟でチギリに接近する!


「はぁぁーっ!」


 剣を下げ、盾を構えながらマルシェは走る。

 チギリの迎撃の幾度もの雷撃――ショックストリーム――が一直線にマルシェを襲うが、その悉くを走りながらのパリィで弾き返していた!


 そして剣の間合いまでもう少しというところで地面を強く踏み込んで加速しチギリの懐に飛び込んで剣を水平に斬り放つ。


 それを躱されるのは織り込み済みのマルシェは剣の構えを瞬時に切り替え、連続で突きを繰り出す。

 強化魔術で剣速を高めた鋭い一撃が矢継ぎ早に放たれ、距離を取ろうとするチギリに追従しながら攻め立てた!


 チギリはマルシェの連撃の対応に集中しながらも、時折視線を僕に向けて注視していた。おそらく僕が何かを準備している事に勘づいているだろう。

 だが、今はマルシェが時間を稼いでくれる。僕は僕に出来ることを全力でやるんだ……!

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?