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Ep.228 王命

 そしてついにやって来た、ヨルムンガンドの討伐の日。


 僕達はそれぞれの覚悟を胸にマリスハイムの王城に向かう。


 その前に僕達はギルドに顔を出して、ギルドマスターのレドさんにも挨拶してから向かうことにした。

 それに、ヨルムンガンド討伐は僕達に向けた特別依頼という体でもある。その手続きもする為だ。



「……いよいよこの時が来たのだな。古の封印が解かれる時が」


 レドさんの執務室に通された僕達。

 討伐依頼にサインした本人にも思う所があるようで、レドさんの表情はいつもの穏やかな様子はなく、険しい表情が皺を深く刻んでいた。


 王家の秘密を知り、守り抜いてきた数少ない人物だ。今日その秘密の一端が暴かれようとしているのだから。


「レドさん。……行ってきます」

「厄災の力はどれほどのものなのか計り知れない。どうか、皆生きて戻っておくれ……」


 僕達を送るその言葉には、懇願めいた意思が込められていた。

 ……レドさんの僕達を案じるその思いも一緒に胸に抱いて戦う。



 それからレドさんは多くを語らず、僕達は挨拶もほどほどにして執務室を後にした。

 ギルドを出る時にカウンターを通りかかると、受付嬢のエピネルさんとイルマさんとアリンさんが、ゾロゾロとやってきた僕達に声を掛けてきた。


「あれっ? 皆帰っちゃうの? いってらっしゃーい!」

「今日も~いい日で~。ありますように~」

「皆さん、いってらっしゃい」


「おう! 行ってくるぜっ!」


 それぞれが反応を返しながらギルドを出た。

 事情を知らないエピネルさん達のいつも通りの言葉が、今はとても嬉しく感じた。


 ギルドの人達からも勇気を貰った。

 いざ、王城へ――――。




 王城へと至る昇降機を登り、城門を抜けて城内へ。

 城内に入ると、そこには既に文官のソーグさんと、近衛騎士団長であるルイントスさんと、今回の戦闘に参加する選りすぐりの騎士達総勢15名が待機していた。



「お久しぶりですね、皆さん。……クサビ君、随分逞しくなったように見えるよ。今日はよろしく頼むよ」


 整った顔で爽やかな笑顔を向けるルイントスさんが気さくに声を掛けてくれた。美男子過ぎて眩しい。


「お久しぶりです。こちらこそ今日はよろしくお願いします!」


 そしてルイントスさんによって選ばれた14人の騎士達が手本のような敬礼で挨拶してくれた。一冒険者でしかない僕にとっては恐縮してしまう光景だ。

 その14人のメンバーの殆どは人間の男女だったが、中にはポルコさんのようなツヴェルク族や獣人も交じっていた。


 ここに居る騎士達は王様に絶対の忠誠を誓っており、王家の秘密に関する事は他言無用という事を承諾している人達だ。


「王は既に玉座の間でお待ちです。参りましょう」


 近衛騎士の部隊は主に神聖魔術に長けた者で固めており、後方支援を担当するそうだが、団長のルイントスさんは部隊指揮を副長に委任し、僕達と同じ前衛に立つという。


 ルイントスさんは王国騎士の中でもトップクラスの剣の腕を持つというし、後方からの支援も頼もしい限りだ。



 ……と、そんなことを道すがら話しているうちに、玉座の間が近づいてきた。

 ここからは気を引き締めて臨むべきと自分に言い聞かせる。


「到着致しました」

「うむ。入るがよい」


 玉座の間の扉が開かれて、僕達は歩を進め、敷かれている赤い絨毯の終点で跪いた。


 そして玉座の手前の階段の脇へと進んだソーグさんが、初めての謁見のように近衛を下がらせると、総勢24名の勇士達が頭を垂れていた。


「面を上げ、楽にせよ」


 ルドワイズ王の声に促され、僕達は立ち上がった。

 王様は、これから戦いに向かう勇士達を一瞥すると何かを確かめていたかのように頷いた。


「ここに集いし勇敢なる戦士達よ、そして余をよく支えておる忠義の者よ、よくぞ馳せ参じてくれた」

「「はっ!」」


 王様の言葉に、後ろに並んだルイントスさんを筆頭に、選ばれた近衛騎士達が揃って敬礼する。


「これより向かうは地下に在りし秘匿書庫。そこに封ざられし厄災ヨルムンガンドのもとである。そなた達の今日の働きは、この世界を覆う闇を斬り裂く剣となるであろう」


「王家はこれまで勇者アズマと我らが聖女サリアが遺した魔族への切り札となり得る存在を守らんが為、今日まで秘匿し続けてきた」


 皆が真剣な表情で王様の言葉を受け止めている。

 ルドワイズ王にとって、ヨルムンガンドの討伐を決断は、失敗すればその被害は甚大なものとなる。きっと計り知れない覚悟を持った事だったはずだ。

 皆それを理解していた。


「だがその甲斐有り、ここに勇者アズマの血を継ぐ者、そして魔王への切り札となる解放の神剣がここに集ったのだ。反撃の火種はここから燻り、やがて激しく燃え上がり魔族を焼き尽くすであろう」


「……それを成す為に、あと一歩なのだ。厄災ヨルムンガンドの力は計り知れぬ。だが……。そなた達ならば必ずや成し遂げると信じておる」


 玉座の間に一時の静寂の時が流れる。

 そして王様は勢いよく玉座から立ち上がり、右手を僕達に翳した!


「王たるルドワイズ・サリアが命ずる! ――厄災ヨルムンガンドを討伐せしめよ!」

「――――はっ!!」


 僕を含めた全員の闘志漲る返事が玉座の間に響き渡った。ヨルムンガンド討伐は王様にとっても悲願となった。その思いも一緒に連れていく。


「武運を祈るぞ……」



 王様に送り出され、玉座の間を退出した。

 そして王様の側近のソーグさんに連れられて、城内の宝物庫へと移動する。

 宝物庫には、限られた者しか知りえない隠し通路があるという。その隠し通路は秘匿書庫へと続いているという。


 ソーグさんは宝物庫の壁の一部を押すと、それがスイッチとなっている仕掛けが作動し、下へ続く石の階段が姿を現した。

 ルイントスさんも知らなかったようで驚いていた。


「ここを降りれば一本道になっています。私の案内はここまでです。……どうかご無事の帰還を……!」

「ありがとう、ソーグ。……皆さん、ここからは私が先導します。行きましょう」


 階段の先は真っ暗だ。

 松明を持ったルイントスさんが注意深く先行して階段を下りていき、僕達はそれに続いた。

 その姿を真剣な表情で見守るソーグさんは、僕達が見えなくなるまで敬礼し、無事の帰りを祈っていた。

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