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第31話 反撃の準備

「ふむ、ではこんなところでしょう。……準備は整いましたので三人を探しに行きましょうか」




「アイツらだったら特に問題は無いと思うが。俺達が作戦を立てるぐらいには囮になってくれたと思って探してやるか」




「貴方も相変わらず酷い性格をしていますね。ただ、ラゼクさんの方は良く知らないので何とも言えませんが、ティターニさん達なら一人でも逃げ切れるでしょうね」




(ん? なんかやたらティターニの事買ってんなコイツ)




 そんなことを話しながら、周囲を警戒する俺たち。


 あの連中の鳴き声は聞こえて来ないし、ココから移動しても問題無さそうだな。


 リュックを背負った俺は、左手でチェナーを担ぐ。




「何をするのですかいきなり!? 離しなさい!!」




「さっきはうまくいったが、お前の足の遅さじゃいざって時に分からないからな。その点俺の体力と長い足ならお前一人担いでも逃げられるってな。これぞ合理的な考えだな」




「冗談じゃありません! わたしは自分で走れます! 降ろしてください!」




「おうおう、そう遠慮するなよ。へへっ」




 腕の中で暴れるのも構わず俺はそのまま歩き出した。コイツの腕力じゃ、文字通り子供にポカポカ殴られてるもんだぜ。




 真っ赤になって取り乱しす様に、コイツのプライドの高さが見える。結局そういうところがコイツの限界だな。合理性を求める癖に恥の方を取ってしまうんだから。




 いや気持ちがいいぜ、ほんと。




「うー、うぅ~!」




「ほれ、大人しくしろ。いつかの肩車よかマシだろ? ここでそんな事したら目立っちまうからな、お前もあんまり声出すなよ? がはは!」




 さすがに暴れるのはやめてくれたが、無言の抗議として睨み付けてくる。ただでさえつり目なのにさらにキツくなってるぜ。




 ◇◇◇




 慎重に、ヤツらがいたあの原っぱと迷子の二人を探し歩いて数十分。




 木々も開けて来て近いのがわかる。同時にあの牛共の鳴き声も聞こえ始めているが。


 そろりそろり……と。バレねぇよなぁ?


 無言の俺達は音を立てないように足を動かしていた。




 ……のだが。




「ああっ! こんなとこにいたんだ二人共!!」




「ひぃう!?」




「きゃっ!?」




 突然、木陰の脇から腕を掴まれて変な声が出てしまった。


 連られて腕の中のチェナーも悲鳴を出す。




「ちょっと驚き過ぎじゃない二人共?」




「ば、ばばばばばっ!? 馬鹿お前! 急に飛び出してくんじゃねぇよ!!」




「ドロシアさん! 貴女は何を考えているのですか!?」




 俺もチェナーも二人して思わずドロシアに詰め寄った。


 なのに当の本人ときたら、何の事やらとキョトン顔だ。




「ええ~、ここは再開を喜ぶところじゃないの?」




「じゃないの!!」




「ちょっと落ち着きなさい二人共」




「ほら、ドロシアさんもお静かに。近くに彼らがいるかもしれませんから」




 割って仲裁に入って来たラゼクとティターニは小声で話す。


 おっといけない、確かにそうだ。俺達二人は息を一飲みして落ち着く事にした。




「もう、しっかりしないとダメだよ二人共。やっぱり、リーダーのぼくがいないと纏まらないよね」




「誰のせいだと思っているのですか……」




「?」




「いえ、もうよいです。……全員揃いましたし、改めて作戦会議とでも行きましょうか」




 周りを見渡し、カノンブルの居場所を確認する。ココからそこそこ離れたところに二体いる。あの程度の数だったら何かあっても対処はできる。が、もし鳴き声でもあげられたら逃げるしかないな。




 木陰に隠れて、顔を寄せ合う俺達五人は気付かれないように話し合った。




「あそこでお前が叫ばなければ、こんな」




「アンタの挑発も十分悪いでしょうが」




「お、落ち着きしょうお二人共。過ぎた事は置いておいて、まずどのような作戦で行くか考えなくては」




「今回の依頼ではカノンブルを約十体程狩れば十分でしょう。しかし、彼らの力と突進力は非常に危険です。生半可な攻撃ではまともに効かないので正面から戦うのは難しいでしょう。それでいて、一体ずつ相手していてはあまりに時間がかかります」




「それで俺達は一つ作戦を立てた。チェナーがその気になりゃ一気に全滅出来るんだが、それやっちまうと俺達も巻き添えになってこの辺りも更地になっちまうからな」




「へぇ、チェナーさんってそれ程の実力者なのですね!」




「…………まぁそうですね」




 こいつ、今一瞬ティターニの事睨まなかったか?


 ティターニも気まずそうに眼を反らしたが、はて?




 それは置いとくとして。


 この事はまだラゼクとティターニには話して無かった事だ。手持ちカードを共有してこそのパーティだからこのタイミングで話したってわけ。




 それを聞いたラゼクは、関心したような顔をする。想像通りだな。




「この子、魔導士だったのね。それもそんな強いだなんて」




「ゴブリンにしちゃ貴重な完全後衛型だぜ? その反面ゴブリン特有のすばっしこい運動神経をカケラも持ち合わせてないがな」




「代わりの魔力があるのだから問題は無いのです! それに”子”は止めて下さい。……そんな事よりもちゃんと作戦を聞いてもらいますよ。わたしは早く終わらせたいので」




 普段のようにピシャリとした言い分だが、その言葉の端には付き合い切れないという感情が見え隠れだぜ。無理矢理付き合わされた挙句に、全力疾走までさせられたんだからそれも仕方ねぇか。




「お~チェナーがやる気だぁ。うんうん感心感心」




「今下手に刺激してやんなよ。拗ねられると面倒だろうが」




 どこまでものん気なドロシアを羽交い絞めにして抑え込む。


 おい睨むなよ。しばらくじっとしてろ。




 チェナーの口から全員に行き渡る作戦概要。俺は一度聞いたけど。




 それから数分後。




「さて、んじゃあ行くぜ! 人の事を散々追い回してくれた家畜の成り損ない共に目にもの見せてやる!」

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