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第34話 慌てたコーデ

「やあアリゼ。今回の依頼ご苦労だったね、今日はゆっくり過ごすと……キミやけに息が荒くないか?」


「いや、ティリート殿、これはその……。知人と久しぶりに会ってな! それでその、これから直ぐにまた出掛けなければならないのだ。取り敢えず着替えに戻った」


「そ、そうかい。それにしてはちょっと焦り過ぎてはいないかな?」


「気のせいではないか?! わ、私は別に、その何も……。ともかくっ、そういうわけなので失礼する!」


「あ、ちょっと!?」


 拠点に戻って来て早々、ティリート殿への挨拶もそこそこに自室へ向かい、剣を下す。

 ええい、服っ。まともなよそ行きの服は……。


 数少ない私服を漁っていた時だ、不意に声を掛けられた。


「アリゼちゃん、どうしたの? ものすごく焦っていたようだから心配になっちゃった」


「グウィニス殿。別に何かあるわけでもないが……」


 部屋に入って来たのはパーティー最年長のグウィニス殿であった。

 いかんな、ティリート殿にしろ彼女にしろ。態度に出し過ぎたか。


 だがもう時間が無い。……そうだ! 彼女に見繕って貰うか?

 メンバーの中で最も女性らしい方だ、私服の中から最適なものを選んでくれるかもしれん。


 いや! 別に女性らしい恰好をしたいとかそういうわけでもなく、状況に最適な恰好をだな!


「ぐ、グウィニス殿。実は知人と会う約束をしていまして、どのような恰好が良いか選び切れずにいたのです。待たせておりますので、出来れば直ぐに支度を終えたいところなのですが」


「あらそうなの。ふぅん、お友達かしら?」


「あ、いえ! ……知り合いです、はい」


「へぇ……。そう、そういうことね。……わかったわ、私が貴女を綺麗にしてあげる。大丈夫よ直ぐに終わるから」


 数分後。


「ありがとうございました! では、私はこれで」


「頑張ってねアリゼちゃん。応援しているわ」


「な、何を頑張ればよろしいのかはわからないが、行ってきます!」


 本当に数分足らずでコーディネートを終了してくれたグウィニス殿の手腕に感心しつつ、お借りしたバッグを肩から下げて足早に拠点を後にした。



「あ、アリゼは何であんなに焦っていたんだ? 恰好も合わせてちょっと見たことが無い姿で驚いてしまったよ」


「ふふ、もしかしたら男の子とデートかもね」


「え!? 彼女にそんな相手がいたとは知らなかったな。まだこの街に来てそれほど経ってるわけでも無いのに」


「う~ん……案外、ティルちゃんにとっても身近な人、かもしれないわね」


「……ん?」


 ◇◇◇


 私は足を速めて待ち合わせ場所に向かっていた。

 そもそも、どうしてこうなったかというと。


『お前、そんな物騒なもん腰からぶら下げて俺に着きまとうつもりかよ。冗談じゃないぜ』


『貴様も同じように剣をぶら下げているではないか! それで人にどうこうと……』


『俺はこれから部屋に戻って着替えるんだよ。つまりどの道ココで別れるって事だ、お前も偶にはオシャレでもしたらどうよ? ツラはイイんだからさ、物好きな彼氏が出来るかもしれんぜ』


『私はそのようなものに現を抜かすつもりなど無い! だが待て、貴様から目を離すつもりは無いが一旦此処で解散してやる。着替えが終わったら……、そ、そうだなA地区の噴水広場で待っていろ。いいか必ずだぞ! 逃げるな!!』


『何だよそれ、お前俺に決闘でも申し込んでんのか? 俺にも俺の都合ってのがあるんだからさ』


『し、知らん! いいか、逃げるなよ?! 絶対だぞ? 絶対に逃げるんじゃないぞ? 絶対だぞ!』


『あ、おい!?』


 ということで一旦解散する運びとなった。


 問題は奴が約束を守るという保証が無い事だが、ともかく急がなくては。

 靴はいつものブーツからローファーに履き替えていて、さほど動きにくさも感じないが、それでも普段よりは多少速く走れないのは確かだ。だが目的の噴水広場は見えてきたぞ。


「はぁ、はぁ……。着いた。はぁあ……」


 何故私はこの程度の距離を走って疲れているのだ? きっと慣れない恰好のせいだな。うん。

 だが、奴は何処に? 私の方が早かったか?


 そう考えていると、聞きなれた声が聞きなれたセリフと共に耳へと入ってきた。


「ああ、そこのレディー。貴女は随分と麗しい恰好をなさっている。実に……そう、優美だ」


「は、はぁ。あの、あなたは一体?」


「これは失礼を致しました。しかし何一つ気にする事などありませんよレディー。わたくしめは今日から貴女という可憐な蝶に寄り添う……俗世間で言うところのかれ」


「貴様何をしているかぁああ!!?」


 そう、あの男が女性を口説いていた。それもあの男が好きそうな年上で、清楚で、何よりも……む、胸の大きい女性だ。


 あ、あの男! 私との待ち合わせ場所でなんという事を……!


 やはり野放しにしておくべきではないと考えた私は、素早く奴の腕を掴んだ。


「うわっ! 何だお前急に?!」


「この男は危険です、連行しますので今日の事はお忘れ下さい」


「はぁ……?」


「さぁ来い貴様! やはり一般女性に危害を加えようとしたな!」


「何の話だテメェ!? ちょ、痛っ」


 聞く耳もたん! 奴の腕を掴んだまま、いそいそとその場を離れた。


 全く! 品性というものを持ち合わせていないのかこの男は!

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