3日後、諦めきれない朱音は失踪した2年生の神田さんという人について一人で調べてみることにした。何事も聞き込みをしなければ始まらないというのは小説でもドラマでも鉄則である。
「すいません。神田さんと同じサークルのものなんですけど、神田さんと同じ学科の飯田さんですか?」
「はい、そうですけど」
怪訝な顔で飯田は朱音を見つめる。全く知らない人から声を掛けられ、しかも自分と知り合いの名前まで出されれば誰だって怖いだろう。
「あの、怪しい者じゃなくて、部誌でメンバー紹介を書くのでどんな方か教えていただきたくて」
「あっ、そうなんですね」
理由が分かったためか、安心した様子で話し始める。もっとも、部誌など真っ赤な嘘であるが。
神田の所属する学科紹介のパンフレットで必死に同じ科の人物を特定した結果、飯田にたどり着いたのだ。
「まずは神田さんの性格と、チャームポイントを教えてください」
初めは気軽で答えやすいような質問から攻めていく。警戒心を解くことから始めなくては踏み込んだことは聞けないだろう。
「そうですね、とても真面目で熱心な人です。学費稼ぐためにバイトも頑張ってて。チャームポイントは口元のほくろかな」
「なるほど。チャームポイントがほくろってかわいらしいですね」
朱音は印象をよくするため、オーバーにリアクションをする。
「そう。しかも優しくて気遣いもできるから、もう明日にでも教師になっちゃいなさい!って言いたいぐらい」
神田のことを思い出したのか、飯田の表情が暗くなる。
「最近はお会いしてますか」
朱音はいけないこととは思いつつも、知らぬふりをして聞く。
「会ってません。連絡も取れなくて。でも、休学中だから、いつか帰ってくるって思ってます」
飯田の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「最後に神田さんが好きなものと、応援メッセージをお願いします」
「神田さんはボランティアで子どもたちと遊ぶことが好きだと言ってました。メッセージは、これからも無理せず頑張って、です」
「ありがとうございます。部誌ができたら飯田さんにも送りますね」
お礼を言い、その場を立ち去る。
朱音は取材のための嘘で始めた部誌の制作を実現させることにした。これはただの辻褄合わせではなく、ある種の決心と償いである。
朱音は他の行方不明者の知り合いにもインタビューを行っていったが、ほとんどが真面目で学業、バイトともに熱心に取り組む人が多い。その性格から決してただのサボりや遊びでないことはほぼ間違いないらしい。
数日後、朱音の聞き込みもいよいよ終盤戦となった。
18時ということもあり学生の姿は少なく、構内は薄暗い。
「よし、次でラスト」
有力な情報がつかめておらず、朱音は焦りを隠せずにいた。
聞き込みをする予定の人がいる場所へ向かっている途中、朱音は恐怖心を抱いていた。先ほどから自分の足音と同じテンポでぴったり付かれているような気がするのだ。ただの行き先が同じ学生かもしれないが、薄暗さが不安を煽る。
まさか嗅ぎまわったばかりに本当に黒幕とやらが狙いに来たのだろうか。
朱音はだんだんと速度を上げるが、足音の速度も上がる。いよいよ怖くなり、朱音は走り出した。
すると足音は遠のいていく。夢中で走っていると、突然“ドン”と何かにぶつかり、しりもちをついた。
「おぉ」
「いったあ」
後ろばかり気にしていた朱音は前から来たその人に気づかなかったのだ。
「す、すいません」
目を凝らしてみると、目の前には同じくしりもちをついている大崎の姿があった。