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第11話 訪れる

 翌日、朱音は暗号で得た情報をもとにある場所に訪れた。最寄り駅からバスで1時間以上かかる都市部から外れた場所だ。バスの利用者はほとんどおらず、ひたすら青い空と豊かな緑が広がっているだけでどれだけ進んでも景色は変わらない。

 朱音はこの行動が本当に正しいのか不安になりながらも、目の前の雄大な自然に心を奪われていた。


 バスを降り、スマホの地図アプリを頼りに朱音は歩いていく。


 文字通り人っ子一人いない道を進んでいく。だんだんと道幅の狭いけもの道となり、森の方へ入っていった。


 不安定な道だが汗をぬぐいながらひたすらに進む。すると、遠方に何やら灰色のものが見えてきた。

 ようやく目的地に近づいてきたらしい。だんだんとその全貌が露わになる。その正体は田舎の風景には似合わない巨大な建造物であった。


 森の中に不自然にたたずむその建物はところどころ蔦に覆われていて、5階建ての地味な見た目をしている。周りには高さ2メートル以上の鉄柵がはられていて、終わりが見えないほど先まで続いている。相当に広大な敷地らしい。


 朱音はその建物をふと見上げる。屋上部分にはうっすらと錦病院という文字が刻まれていた。看板が長年の風雨で消えかかってしまっているようだ。

 ようやく目的地にたどり着くことができた。しかし入口らしい入口が見つからないため、朱音は鉄柵に沿って歩いてみることにした。


 敷地内は木や草でおおわれていて中をのぞくことはできない。さらに、しばらく進むとある地点でいきなり鉄柵がレンガ壁に変化した。これでいよいよ中の様子を探ることは不可能になる。


 しばらく歩いていると、再びレンガ壁が鉄柵に切り替わった。夢中になっていて気が付かなかったが、既に30分以上朱音は歩いている。

 ふと、覆い茂った草の間にトタンの様なものが見えた。そのトタンをどかして見てみると、鉄柵が曲げられており、しゃがめば何とか人ひとり通れるぐらいの隙間ができていた。


「入るならここしかない」そう心の中でつぶやき、朱音は狭い穴を、草をかき分けながら潜り抜けた。


 穴を抜けると、これまた錆びれたトタンの貼られた小屋が目に入る。

 錆びで茶色くなったドアノブに手をかけ、ゆっくりと扉を開いた。


 小屋の中はほこり臭く殺風景であった。長年放置されているのが一目で分かる。しかし、最近人が使用したのか、足跡らしいものがいくつかうっすらと見える。


 暗号解読の結果が正しいらしいことに朱音はうれしくなるが、何か見つけるまでは浮かれてはいられない。


 小屋の壁面には木でできた棚が置いてあり、ぽつぽつと軍手やシャベルが置いてある。棚の端から端まで見ていくと、棚の一番角に不自然にきれいなままの紙切れが置いてあるのを発見した。

 そこには走り書きで“棚の上”と書かれている。しかしその棚の上をのぞいてみるも、ただ土ぼこりが積もっているだけだ。


 棚の上、と表現できる場所が他にあるというのだろうか。紙切れが置いてあった棚をもう一度観察する。


 この棚だけに注目しろと言っているのなら……。


 朱音はもしやと思い、紙切れが置いてあった段の上の板を手で探る。すると、一か所だけ感覚が違う場所があることに気が付いた。どうやらファイルが貼り付いているらしい。


 朱音は静かにそのファイルをはがして表紙を見ると、目を丸くした。詳細は分からないがどうやら東部大学に関わるものらしい。ファイルの中にも紙切れが入っている。


 “知らん、帰れ”

 そう走り書きされていた。


 ファイルには分厚い資料がいくつか入っており、中身は何かの計画書の様である。少し目を通すと、教育関連の計画書のようだ。しかし糊で封がされた資料もあり、具体的な内容まではわからない。


 開けたい気持ちを抑え、朱音は走り書きの伝言に従うことにした。


 翌日、講義を終えた朱音は昨日入手したファイルをリュックに詰め、第三講義棟へと向かった。

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