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第18話 救出

「どうしよう?」

 佐藤が不安げに言った。

「とりあえず、立神に連絡しよう」

 宮下はそう言うと、スマホを取りだし、立神に電話をかけた。

「立神、大変だ!」

 宮下がそう言うと、立神が、

「はぁ? それよりもさぁ、さっき校門を出たところで変な奴らに手紙をもらったんだよ」

 と言う。

「手紙?」

「そうなんだよ。俺の彼女をさらったから、三丁目のビル解体現場に来いって書いてるんだよなぁ。でも、俺って彼女いないし、いったいなんだと思う?」

 立神はのんきな声で言った。

「あっ、それはお前、伊集院さんだよ。伊集院留美!」

 宮下が叫ぶように言った。

「留美! ちょっと待ってくれよ。あれが俺の彼女だっていうのか?」

「いま俺たちの目の前でさらわれるところを見たんだ」

「なに! 本当か?」

 立神もさすがに驚いていた。

「本当だ!」

「クソー、なんであんなブスが俺の彼女なんだよ!」

「いや、怒るポイントそこ?」

「許せねぇ!」

 立神は怒っていた。

「あの、怒るのもわかるけど、いまはそれよりも彼女を助けないと」

「当たり前だ! いまから行って彼女じゃないって否定してくる!」

 そう言って立神は電話を切った。

「立神君の声が聞こえてたけど、なんか方向性が違うようだったね」

 横にいた佐藤が言った。

「うん、どうもポイントが違う気がするけど、どっちにしても立神が連れ去られたところへは行くみたいだから、俺たちも行こう」

 宮下がそう言って走り出した。

「俺のことはどうなるんだ?」

 岸田は今回も失敗してがっくりしていたが、宮下と佐藤について行くしかなかった。


「こいつがライオン野郎の女か?」

 向島がビル解体現場で留美を見て言った。

「はい、そのはずです」

 さらって来た男三人が答える。この男三人は、向島がかわいがっている半グレの兄ちゃんたちだった。

「切杉女学院って言ってたよな?」

「はい」

「それにして、えらく不細工じゃねえか。あの学校は顔面偏差値七十以上じゃないと入れねえって話だろ? この女はどう見ても三十以下だろ」

「いやぁ、でも、この女だと思うんですけどね」

 男たちは自信なさげになってきた。

「おい、石渡。この女であってるのか?」

 向島が石渡に訊く。

「俺も顔は知らないんですよ。ただ、ライオン野郎の彼女が誰か知ってるって奴が、あの女だって言うから、そのまま拉致ってきたんですけどね」

 石渡は拉致現場の離れたところから、立神の彼女を知っているという者と一緒にいて、実行犯に指示していたのだ。

 だが、伝聞情報ばかりで話が混乱していた。おそらくリオが立神の彼女と勘違いした人がいて、そこから話が周りまわっているうちに、こんなことになったのだろう。

「なにをさっきから言ってるんですか? 帰してください。こんなことしていいと思ってるんですか!」

 留美は結構強気だった。

「うるせぇ! お前、ライオン野郎の女なのか?」

 向島が訊いた。

「ライオン野郎? ああ、立神君のことね。そうよ。私が彼の彼女よ」

 留美は胸を張って言うのだった。

「ほう、そうなのか。よし、お前らよくやった。思っていたような女じゃなかったが、そんなことはどうでもいい。こいつを餌にライオン野郎と痛めつけるぞ! お前ら武器は持ってるだろうな?」

「はい、このとおり」

 半グレどもは鉄棒や鎖を手にしていた。

「ところで、ライオン野郎はちゃんと来るんだろうな?」

「はい、俺の仲間が奴に手紙を渡しているんで、それは大丈夫です」

 石渡が答えた。

「フフフ、これまでの仮を返すぜ」

 向島は不敵に笑うのだった。

「よし、この女を椅子に縛り付けるんだ」

 向島の指示に、男どもは留美を縛り上げた。

「ああっ、やめて!」

 留美は抵抗するが、男の力にはどうにもならなかった。


 しばらくすると立神がビル解体現場に来た。

「おい! どういうつもりだ!」

 立神は怒鳴って入ってきた。

「来たな。ライオン。騒ぐんじゃねえ。この女がどうなってもいいのか?」

 向島は手に持ったドスを椅子に縛られた留美に向けていた。

「立神君!」

 留美が叫んだ。

「クソー!」

 立神は地団太を踏んだ。

「ああ、立神、来てたか」

 そこに宮下、佐藤、岸田も到着した。

「ハハハ、お前がいくら強くても、大事な彼女を取られては手も足も出まい」

 向島は愉快そうに笑った。

 立神は口惜しそうに歯を食いしばっていた。

「どうだ? 自分の女が恐怖におののいている姿を見るのは? ハハハ」

「立神、どうする?」

 宮下が訊いた。

「おのれ、許せねえ!」

 立神は怒りに震えていた。

「この女を傷モノにされたくなかったら、おとなしく……」

 と向島が話していると、立神は人間離れした速さで向島に突進し、

「この女は俺の彼女じゃねえー!!」

 と向島の顔面にパンチを叩き込んだ。

「ゲフッ!」

 向島はあまりの速さと、圧倒的な迫力に、持っていたドスもまったく使うことができずに殴られた。

 そして、そのまま棒きれのように後ろに倒れた。

 立神はガオーッと吠えて、倒れた向島に飛び掛かり、馬乗りになってボコボコに殴った。その姿は野生のライオンそのものであった。

「ああっ、ヤバい!」

 宮下と佐藤は同時に声を上げた。

 立神はしばらく殴ってほとんど気絶状態の向島をかかえると、頭にガブッと大きな口で噛みついた。

「ギャアアアアアアアア、助けてくれー!!」

 向島の断末魔の悲鳴が解体現場に響いた。

「ああっ、まずいよ。止めよう」

 宮下と佐藤が急いで立神に近づき、向島から立神を引き離した。

 ライオンの口から出された向島はぐったりとしていた。

「ガルルル」

 今回の立神はかなり怒っていて、まだおさまっていない。

 残りの男たちのことを唸り声とともに睨みつける。

「ヒイイイイイイ!」

 男たちは震えあがった。持っていた武器もすぐに投げ捨てた。とてもじゃないがライオンに鉄棒や鎖では勝てないと悟ったのだ。

「か、勘弁してください! 俺たちは向島さんに言われたからやっただけで」

 男たちは土下座する勢いで謝った。

「この女は俺の彼女じゃねえ!」

 立神は吠えるように言った。

「はい! そのとおりでございます。そんなブスがあなた様の彼女なわけないです」

 男たちはペコペコと頭を下げた。

 そして、走って逃げて行った。

 石渡も逃げようとしたが、立神が捕まえた。

「ヒイイイ、か、勘弁してくれ! もう二度と手出しはしねえ。だから見逃してくれ!」

 石渡は恐怖のあまりに失禁していた。

「いいか、あの女は俺の彼女じゃねえ! あんなブスが俺の彼女なわけないだろう!」

 立神はそう言って石渡を殴った。

「は、はい。そのとおりです。あんなブスはあなたの彼女じゃないです」

 石渡は鼻血を流しながら言った。

「みんなにもよく言っておけ!」

 立神は言って石渡を放した。

 すると石渡はあたふたと逃げて行った。


「良かったね。無事にすんだよ」

 佐藤が言った。

 宮下と岸田が、留美を縛りから解いた。

「ありがとう、立神君。嬉しかったわ」

 留美は涙ぐんでいた。怖かったのだろう。

「フン、連中の勘違いをそのまま放置するわけにはいかねえからな」

 立神はそう答えた。

「もう、強がり言って。でもいいの。あなたの本当の気持ちはちゃんとわかってるんだから」

 留美はまったく気にしていないようだった。

「それにしても、立神の強さは尋常じゃないな」

 宮下が感心していた。

「ほとんど、ライオンそのものだね。ヤクザでもあれには勝てないよ」

「まぁ、あれぐらい朝飯前よ。ガハハハ」

 立神は誤解を解くことができてすっかり機嫌が良くなっていた。

「あの、俺の告白はどうなるの? みんな忘れてる?」

 岸田は完全に忘れられているのだった。


 向島は、立神らが帰った後、仲間が助けに来たが、顔面と頭がい骨の骨折で全治三か月の重傷だった。あごの骨が砕け散っていたので、治るまで流動食の生活を余儀なくされた。

 そして、もう二度と立神にはかかわらないと心に誓うのだった。

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