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第39話

「お、早いな。まあ、新人とはいえそっちの兄ちゃんは手練れっぽかったもんな」

「ありがとうございます」


 道中、特に問題なく町まで戻り、一行はギルドへ到着した。受付の職員が労うと、フランツがおじぎをする。


「ま、頑張れよ! 今回は村からだし、それほど多くはないが報酬だ」

「ほれ、リア受け取れ」

「わ……!」


 無事、報酬を受け取りランキーがアリアへ渡す。投げられた重い革袋を手にすると、彼女は頬が緩む。


「ははは! 喉をやられているとはいえ、やっぱりリアだな! 金を手にするとすぐその顔だ」

「……!」

「あはは、確かに!」


 受付の男が言った言葉に不満を露わにするアリアだが、ジャネットの笑いでリアもそういう顔をしていたことが伺えた。


「それじゃ、また来るよ。なんかダンジョン系の依頼があったら教えてくれ」

「おお、シーフの本領発揮ってやつだな。最近、依頼が少ないから期待に応えられるかわからないがな」

「それはその通りだなあ。なんとかならないもんか。じゃあな」


 ランキーが片手を上げて受付の男に挨拶をしてギルドの外へ移動した。アリア達もついていき、まだ昼前の町へと出る。


「あー、天気がいいねえ。アタシはこのまま買い物にでも行くけど、あんた達はどうする?」

「疲れちゃったからベッドで寝たいわね。アジトに戻ろうかしら」


 アリアが周囲を気にしながら小声で言うと、ランキーは頷いてから口を開く。


「ま、そうだな。二人は微妙な立ち位置だし、戻った方がいいだろう。俺もこのまま出かけてくるけど、帰れるか?」

「ええ、道は覚えています。僕も戻ることにしますね」


 二人も小声で会話をし、アリアとフランツがクランに戻り、ランキーとジャネットは町へ繰り出すことになった。


「んじゃ、また後でね~♪」

「ありがとう、ジャネット」

「あ、いいね、リアっぽいよ」

「じゃあなー」

「はい」


 大通りまで来たところで別れ、アリアとフランツはクランの方へと歩いて行く。

 ランキーとジャネットは別々に……移動したが、すぐに合流して人通りの少ない路地裏へ歩き出す。


「あの子、どう思う?」

「訳アリでお嬢様だから、逃げ出すと思ったんだがな。どうやら本気で冒険者をするつもりらしい」

「リアの代わりとしちゃ流石に数段落ちるけど、人目がつかないところで魔法を使ってもらえればいい牽制になるよね」

「ああ。フランツも胆力があって剣筋もかなりいい。正直、欲しい人材だな」


 一緒に依頼をこなした二人の評価はまずまずで、特にアリアは戦力外だと思っていたが意外な一面を見せてくれたと話す。

 その内、二人が居なくなるのは確定だが、フランツの腕は少し強い魔物と戦うのもアリかもしれないと考えていた。


「依頼が少ないのが問題よねえ」

「ああ。そういや本物のリアも調査中だもんな。シーフはまだ需要があるけど。前衛を入れようと思ったらフランツみたいに引き入れた方が報酬はきっちりできるんだけど」


 リアが調査のためヨグライト神聖国へ行っていることを話しつつ、冒険者が飽和状態になっているのは問題だと口にする。

 他の地域が空いているなら、クランを支部に分けるような形も考慮しているのだ。


「とりあえず稼げる内は……っと、ジャネット、見ろ」

「おっと、見慣れない奴等だね。エルフとは珍しいねえ」


 そんな話をしている中、二人は裏路地で普段見かけない種族を見た。耳の長さでエルフだと気づき、さらに疑問が頭に浮かぶ。

 この国にエルフが居ないわけではないが、こういった裏路地に足を踏み入れるような種族ではない。

 見慣れない、ということはこの町のものでは無いということ。そしてどの町でも路地裏というのはトラブルが起こりやすいため、見知らぬ者は立ち入ることは少ない。


「もしかして、フランツ達の追手ってやつか……?」

「あー」


 ランキーが顎に手を当ててアリアとフランツを追うものでは無いかという推測を口にする。ジャネットもポンと手を打って理解を示した。


「……確認してみるか」

「え、マジで?」


 そこでランキーは気になるエルフに話しかけることにした。アリアとフランツが何故逃げているのか確認できるかもと考えたからだ。

 ランキーとジャネットは三人のエルフに近づいていき、気さくに声をかけた。


「やあ、観光かい? こっちにはなにも無いぜ。道に迷ったのか?」

「……!」

「ああ、そんなところだ」


 三人とも女性と見間違いそうだが、一人は男性のようでランキーの言葉に返していた。残り二人は女性で、話しかけられてドキッと身体をこわばらせていた。


「どこかへ行きたいのか? 俺はこの町のシーフクランのランキーだ」

「アタシは同じくジャネットって名前よ。よろしくね♪」

「あ、よろしくです」

「ふむ」


 二人は自己紹介をしつつ、首に下げていたギルドカードを掲げて怪しい者ではないことを告げていた。

 女性エルフの一人が安堵した顔で小さく頭を下げ、男性がなるほどと頷いていた。


「特に目指している場所はないんだ。人を探していてな、男女のペアなんだが知らないか?」


 すると男性エルフはおもむろに人探しをしていると口にする。観光ではなく人探し……そして男女のペアと聞いてランキーは少し考えてから口を開く。


「人探しか、名前とかはわかるのか?」

「すまないが名前は言えない。男女のペアで、この町の人間で無ければ顔を見たい」

「そりゃあ難しい注文じゃない? アタシ達だって男女のペアよ。町にどれだけいると思っているのさ」

「そ、そうですよ」


 ランキーとジャネットが呆れてそう告げると、エルフの女性の一人が同意していた。

 だが、男性エルフは鼻を鳴らしてから言う。


「私達が指示されたことを忘れたか? なるべく穏便に探すのだ。しかし、そちらの言うことも尤もだ。すまない、見つからなくて少し苛立っていた」

「別に構わないぜ。男女ペアと遭遇したいなら中央通りから広場にかけて、だな。こんな路地裏はデートには向かないだろ」

「そうですね」


 おどおどした女性と違う、凛とした女性がランキーの言葉に同意していた。


「それもそうか。大通りとやらへ行くとしよう」

「わ、わかりました……」

「案内しようか?」

「結構。人探しついでに散策をするさ。情報、ありがとう」


 男性エルフはそう言って踵を返すと二人を引き連れて路地裏を出て行った。


「当たりっぽいな」

「そうかもね。どうする、追ってみる?」

「いや、女の子二人はともかく、男は手練れだ。さっき、俺達が話しかける前に気配には気づいていた気がする」

「なるほど。なら、ここは適当にショッピングでもして帰りますか」

「そうしよう」


 こっちはこっちで勘繰られても面白くないため、適当に町をぶらつくことにした。

 夕方まで時間を潰してクランへ帰り、二人へ報告をする――


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