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第40話

「それにしても見つかりませんね、タイド」

「町の数、人の数……どこをとってもサッと見つかる要因は無い。簡単に見つかるとは思っていないさ、ミンク」

「で、でも、このままだと、いつ帰れるかわからないですよぅ」

「まあ、ディズの言う通りではあるな」


 ランキー達と出会った三人組のエルフは広場で休憩をしつつ、小声で話をしていた。

 探し人について見つからないと、ミンクと呼ばれた女性エルフが嘆息する。仕方が無いと男性エルフのタイドが窘めるが、女性エルフのディズが口を尖らせる。


「このまま見つからないとなるとどうなるのでしょうか」

「我々の与り知らぬことだがな。聖殿に聖女が居ないことが知られれば……シルファー様達がどうなるかわからん」

「そうですよね……解放されたりしないのでしょうか?」


 ディズは聖女が居なくなってしまった場合はどうなるのかと口にする。しかし、尋ねられた二人は首を振る。

 何故か?

 それは歴代で聖女が居なくなるという事態になったことが無いからである。アリアの行動は異例中の異例ということなのだ。


「今は誤魔化せるが、いずれ先代聖女が来た時にバレるだろう。やはりシルファー様のためにも見つけなければ」

「そうですね。フランツ殿との逃避行とはまるで演劇のようで羨ま……いえ、けしからんことです」

「ミンク?」

「さあ、行きましょう。この町に居なければ次は隣国に行く必要があるかもしれないですし」

「あんまりヨグライト神聖国から離れたくないなあ……」


 ミンクは咳ばらいをして移動を開始し、ディズが肩を竦めて着いていく。

 タイドも首を鳴らした後でゆっくりとついていく。


「(正直、我々エルフにとって聖女はどうでもいい存在だだな。……むしろシルファー様が解放されるなら聖殿など無くても良い。それにアリア様はそれほど力がある感じはしない。このまま行方不明の方が――)」

 タイドは二人の背中を見ながらそんなことを考えるのだった――


◆ ◇ ◆


「追手が居た?」

「ああ。恐らく、って感じだけどな。男女のペアを探しているエルフの三人組を見たんだ」「エルフ……」

 クランに戻ったランキーとジャネットは二人を呼び出して顛末を報告する。そこにはクランマスターであり、リアの義父であるギルフォードが立ち会っていた。

 アリアとフランツが難しい顔をしていると、そこでギルフォードが口を開く。


「エルフに追われているのか?」

「いえ、そういう訳ではありません。ですが、可能性としてあり得るかとは考えます」

「エルフが人間をか……アリアはどういう出身なんだ?」

「それは、申し訳ないですが言えません。見つかっても皆さんには迷惑はかからないので、もう少しこのままでお願いします」

「お、ああ」


 ギルフォードが尋ねるもそこは不可侵であるとアリアはあっさりと返す。ハッキリと返した彼女に困惑していると、ジャネットが質問を重ねる。


「迷惑がかからないのは確実かい?」

「ええ。見つかったら連れ戻されるかもしれないけど、あなた達は『私の素性を知らずにクランで働いていてもらっていた』ということでいいと思うわ」

「あー、そういうことね」


 アリアの言葉に三人は納得することになった。知っていたが知らないフリよりも、本当に知らない方が良いうことである。


「アリアの言う通りです。相手が僕達を探しているかどうかわからないので、このままでいいかと。申し訳ないですが……」

「まあ、こっちに迷惑がかからないのであれば、引き受けたからには気が済むまで居てもいいがな。しかし、この町に追手が居るなら出た方がいい気もするぞ?」

「どうですかね……下手に動かない方がいい予感がします。ここで移動しようと急ぐと鉢合わせなんてことになりそうですし」


 フランツも下手動くべきではないと告げた。そこへアリアが続ける。


「……フランツは外に出ると危ないけど、私はお二人と外に出るつもりよ」

「アリア……?!」


 急な提案にフランツが焦る。これは今まで二人が打ち合わせた話の中に無いことで、ほとぼりが冷めるまでここから出るべきではない。


「訳は後で。明日からも私は出るわ」

「まあ、俺達は構わねえが、大丈夫なのか?」

「ええ。リアさんと似ているという点がどこまで通用するか、試してみるのもアリかなって」

「うーん……もしダメだった時は? 僕は近くにいけないけど」

「その時は即逃げね。とは言ってもフランツが居なかったらわからないと思うけどね?」

「自信があるみたいだな? ま、そこは二人で話し合ってくれ。それにそいつらが追手とは限らないしな。それじゃ俺は部屋に戻っている。なにかあれば声をかけてくれ」


 アリアはしっかりと意味を考えて提案を口にしたようだとギルフォードが結論づけて椅子から立ち上がる。

 実際、二人の問題なので正体を口にしない以上手助けも最低限だと考えていた。


「じゃアタシも戻るね」

「俺もだ。また依頼の時に行くとしようぜ」

「はい」


 フランツが返事をし、アリアと共に部屋へと戻る。二人きりになったところでフランツがため息をついた。


「エルフ達……僕達が知っている人達ならミンクとかかな?」

「多分ね。シルファーの関係者でしょ、多分。とりあえず追いつかれた感じねえ」

「まあ、留まっていたからね。隣国へ向かうタイミングが難しくなったかな?」


 そうフランツが顎に手を当てて口にする。しかし、アリアは不敵に笑ってからフランツへ言う。


「ちょっと試したいことがあって。むしろ一回見つけて欲しいのよね」

「え? 本気か?」

「ええ」


 アリアは頷いた後、真面目な顔で答える。


「現状、リアと会ったこと知っているのは私とフランツだけよね? ギルフォードさん達にも言っていない」

「うん」

「で、聖殿が今どうなっているのか? そこを確認したいの」

「ええっと……」


 アリアの言いたいことが分からず、困惑しているとアリアが人差し指を立てて回答を述べる。


「えっと、私はリアを囮にしてこっちへ来た。恐らく、リアは聖殿に連れて行かれたと思うのよね。そのリアを捜索隊が知っているかどうか? それを確認したいの」

「うーん、ということはリアさんのことをシルファーが告げていたらここに居るリアさんはアリアということに気付くってことか」

「そうそう。もしリアとして誤魔化せるなら、捜索隊には告げていないってことになるわよね。で、もしリアを代わり身にしたとしても偽物を置いてますなんて言うとは思えないのよね」

「なるほどね」


 捜索隊を出すタイミングも慌てて出しただろうということと、リアを身代わりに仕立てている可能性も低いという見立てだ。

 しかし、リアは身代わりになっているので、アリアの勘は半々と言ったところだった。


「明日は私だけ着いていくわ。もし後を追うなら変装は念入りにね?」

「そうしよう」


 流石にアリアだけでは不安だとフランツは考える。

 ひとまず依頼が終わったが、一難去ってまた一難。それでもアリアはそれほど困惑することなくぐっすり眠って翌日を迎える――

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