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第45話

「あー、あなた達の行く道はあたしなら出ていきますわ。だけど、それを決めるのはあなた自身なのだ。です」

「……確かにそのとおりです。俺は誰かにそう言って欲しかったのかもしれません。ありがとう聖女様……!」

「頑張ってくださいねー」


 いつもの謁見で冒険者が遠くへ旅をするべきか、近くの町で活動を続けるべきかを相談に来ていた。

 アリアなら分からないだろうが、あたしは先日のゴブリン討伐やロルクアの町の依頼状況を考えて、他所にいくのもありだろうと口にした。

 実際、ロルクアの町では王都に依頼を取られてまともに運営が出来ていない。それを考えての答えだった。

 もちろん、あたしも同じ理由でこの神聖国へ来たわけだしね。

 だけど、決めるのは自分自身。人から決められた道なんて面白くないし、結果が悪かったらいくらでも相手を悪く言えるからなあ。


「こういうのを決められないなら冒険者なんて出来ないと思うんだけどな」

「まあまあ。神頼みって言葉もあるくらいだし、聖女の言葉が欲しかったんだよ。それくらい悩んでいたんじゃない?」

「そうかな……そうかも?」


 謁見の間から冒険者達が立ち去った後、一人呟くあたしにシルファーがそう言う。他人の言葉で物事を決めるってのはどうなのかねえ。


「ハッ……!?」

「どうしたのですか?」


 そこであたしは重要なことに気づいて声を上げてしまう。そこで近くに居たディーネがこちらへ顔を向けて訝しむ。


「なんであたしはあいつらの心配をしているんだ……!」

「言葉遣い」

「もう終わったし、いいだろ?」

「ひひ、聖女らしくなってきたねー」

「あたしは聖女じゃねえっての」

「あああああああ!?」


 嫌らしく笑うシルファーのこめかみをぐりぐりしながら口を尖らせる。

 ……ただ、能力はだんだんとそれらしくなってきたのだけが悩みだけどな。

 例えばムーンシャインは使い続けた結果、回復魔法としての側面だけじゃなく、相手の精神を落ち着かせる効果が出て来た。

 それだけかと思うかもしれないけど、戦闘やダンジョン探索などをしていると疲労とかでだんだんと精神がおかしくなっていくのよね。

 緩和するためにのは薬とかに頼るしかないので、この魔法は貴重どころか唯一かもしれねえ。

 それに気づいたのはとある謁見で最後に一目、聖女に会いたかったという男の時だった。

 なんとなく、話を聞いていると最後は自殺するんじゃないかという感じで、目が泳いでいるのも少し気になったからだな。

 ただ、本当の話はしてもらえなかったから、気にしつつもいつもの流れでムーンシャインをかけてあげた。

 するとどうだ、青かった男の顔色に赤みが差し、目に光が戻って来たんだ。

 その後は男が人に騙されて財産をもぎ取られたらしいことをポツリと呟いていた。

 イフリーが詳しい内容を聞く形にシフトして、なんとかなったとか。

 そんな感じでムーンシャインはレベルアップしていて、魔法も使いまくっていたら魔力量がかなり上がりゴブリン戦のような疲れは無くなってきた。


「……あたしは一体なんなんだろうなあ」

「んー?」

「いや、聖女みたいな能力っていうか『もうお前は聖女だろ』って言われてもおかしくなくね?」

「あはは、そうだねー。同じ顔でアリアよりも強い力があるのは興味深いよー。できれば先代の聖女に会って欲しいくらいだよ」

「うえ!? やめろよ、そういうの……何されるかわからねえだろ」


 シルファーは状況が許すなら先代の聖女に話をしたいくらいだと口にする。アリアに似ているだけでなく、力も上なのでなにかあるのではと精霊達はずっと言っている。

 ただ、アリアの居ない現状先代とやらに会う訳にはいかないためむしろ来て欲しくないと思っている。


「しかし精霊達も律儀だよな。聖女の護衛をずっと続けているとかさ」

「それが義務だからねー。昔の恩はずっと返し続けないといけないんだー」

「そんなもんかねえ……ん?」

「どうかしたー?」

「いや、なんでもねえ」


 シルファーの言葉と眼になにか引っかかるものがあったけど、いつも通り笑っている彼女を見て気のせいかと話を打ち切った。

 今日の謁見はこれで終わりだし、後は自由なので風呂でも入ろうかと思う。


「毎日これじゃ気が滅入るなあ」

「謁見?」

「ああ。話なんて友達にすればいいだろうにさ」

「もう、言葉遣いが戻っていますよリアさん。人間は面倒くさいですから仕方ありません」

「あー、まあ言いたいことは分かるけど」

 確かに真剣な話を茶化す奴もいるから面倒くさいというのはあるかと納得する。

「アリアの情報は?」

「まだないですね。すみません、基本的な人員はシルファーの眷属であるエルフやノルムさんのドワーフがメインでして。私の眷属は地上に慣れていない者が多いので……」

「イフリーの眷属は?」

「彼等サラマンド族は気性が荒いので出していません。というか、聖女を探しているってうっかり口にしそうなのが怖いですから……」


 ディーネが口を尖らせてそんなことを言う。まあ、イフリーを見ていればなんとなくわかるか。

 予定していたよりも人員が少ないとかそういう感じだろうか。


「ま、早く見つけてあたしもあなた達も安心したいですわね」

「こういう時ばっかり……」


 ディーネが予想通りの反応を見せてくれたので、あたしはくっくと笑いながらお風呂へと向かう。

 結局、アリアが戻って来なければなにも始まらないし危ないままなのは変わらない。

 幸いと言っていいかは分からないが、先代とやらがここへ来るのは一年に一回程度らしいので、誤魔化しは利く。

 それまでなんとかアリアを見つけた方がいい……とは思うけど、あたしはこの立場になって少しあいつの気持ちも分かるので複雑だ。

 精霊と暮らし、謁見とやらで知らない人の話を聞き、実の親は殆ど尋ねてこない。


「この聖殿は一体、なんなんだろうな……」


 あたしはディーネがキレイにしている庭に目を向けてそんなことを考える。

 屋敷も庭も、食器から衣類、家具に至るまで正直な話、豪華なものが用意されていた。

 だけど、見てくれだけでそこに住んでいたアリアはどう思っていたのだろうか?

 もちろん、歴代の聖女も、だ。


「どしたの?」

「いや……」


 あたしは庭からシルファーに目を向けて再び歩き出す。

 そんないつもの日常。

 さて、なんだか妙なことを考えてしまったけど、明日は週に一度の休みだ。

 こうやることが無いと、買い物が唯一の楽しみだよなと思いつつ、翌日を迎える。


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