「よーし、買い物だ、買い物だ♪」
「町に居る時は気を付けてくださいよ!」
さて、待ちにまった町へ行く日になった。……なんかちまちま言っているな?
それはともかく、ディーネのお小言を流しつつ食堂から自室へと戻る。
「これでいいか」
あたしはディーネが用意したフレアスカートを履くことにした。上はまあ、麻の上着でいいだろう。どうせ羽織るものがあるし。
最近はスカートみたいなひらひらした服でもあまり気にならなくなってきた。
まあ、バレないようにするには丁度いいし、意外とあたしに似合うな、という服もわかってきた。
「入るよー」
「お、シルファーか。いいよー」
ちょうど着替え終わったところでシルファーが迎えに来た。招き入れるるとあたしを見て拍手をする。
「あー、いいじゃん! 似合うよそのスカート」
「へへ、そうか? 今日はなんか飲み物とか補充しておきたいな」
「行ってからのお楽しみだねー。ギルドはどうするかなー」
「行く予定、あるのか?」
前はギルドには行かないと言っていた精霊達。だけど今、シルファーがギルドに行くような素振りを見せた。恐る恐る尋ねてみると、彼女は唇に指を当ててから言う。
「イフリー次第かなあ。エルゴさんは相変わらず困っていそうだしね」
「なるほどな」
ディーネとノルム爺さんはあんまりいい顔をしないが、ロルクアの町に冒険者が居つかないのは最終的にイフリーの負担になるのが気になるそうだ。
そして前回、ゴブリンを倒したあたし達を王都のギルドがどう見ているかもあって、『あたしが』ギルドへ行くのは躊躇するらしい。
「結局、聖女はここで癒すか話を聞くという役割を果たす以外のことをしなくていいからって言われているからさー」
「ん? それだと……」
「なにー?」
「あ、いや、なんでもねえ」
不意になにかを思いついたけど、考えがまとまらず頭を振った。
……というか、ギルドに働きかけるのは悪くない気がするんだよな。
むしろ聖女という肩書きがあり、歴代の聖女は強かったのなら使わない理由はないような――
「準備は出来ましたか?」
「ん、ディーネだ。オッケー、いつでも行けるぜ」
「ほら、もう!」
「はは、ちょっと考えごとをしてたのよっと」
「あはは、リアらしいねー。それじゃ行こうかー」
あたしの悪い頭じゃパッとまとまらないや。とりあえず町へ行って楽しむかとシルファーと一緒に部屋を出てからディーネと合流する。
そのまま廊下を歩いていき、イフリーとノルム爺さんが用意していた馬車へ乗り込んだ。
「お待たせ」
「おう、今日は休みだからゆっくりでいいぜ」
「いい服を着て来たのうリア」
「へへ、いいだろ? ま、動きにくいのが困るのだけど」
ノルム爺さんの言葉にあたしはディーネをチラリと見ながら言葉遣いに注意しつつ、そんなことを言う。
そんな様子を見てノルム爺さんが微笑んでいた。
「ま、見せる相手も居ないし正直なんでもいい気がするけど」
「聖女なんですから、町の人達に見られている意識が必要なのですよリアさん」
「あたしは聖女じゃないし……」
「確かに……」
ここ最近、ディーネは聖女を強調するけどあたしは違うんだよね。もちろんシルファーもあたしと同じ考えなので顔を見合わせてため息を吐く。
アリアはおしゃれが好きだったらしいから、そこは合わせておく形なのです。
と、胸中で思ったところで聖殿の外へ出て町へと進路を取った。
「今日はなにを買うんだ?」
「まあいつも通り食材じゃな。後は雑貨を見るくらいかの?」
「イフリーは?」
「俺は特に無いから飯だけ食えればいいぜ。前に見かけてリアが行きたいって言っていたレストランでいいか?」
「あ、いいわね。というかイフリーはギルド行かないの?」
「ん」
シルファーとの会話を思い出し、荷台から御者台へ身を乗り出して尋ねてみた。しかしイフリーはあまりいい返事をしてくれない。
どうかしたのかと思い眉を顰めていると、シルファーも身を乗り出してイフリーに尋ねた。
「あれ? いつもなら一応は顔を出すのに」
「俺は行ってもいいんだが、エルゴがあまり来ない方がいいって言うんだよ。ゴブリン討伐以降、なんだかギルドを監視しているような節があるらしい」
「監視……? 誰がそんなことをしているんだ? そもそも何の意味があるのか分からないな」
イフリーの話にあたしは訝しんだ。
というのも、ギルドは国が各町に運営を頼んでいる、役所のような施設だ。なにか気になることがあれば直接言えばいいし、最悪王都に声を上げれば調査をしてくれる。
だからギルドを利用しているあたしからすると、わざわざ監視をする意味は無いと考えるわけ。
「逆に気になりますね」
「お、ディーネがそういうとは珍しいー。ていうか、狙いはリア……いや、アリアかもね」
「あたし?」
「うんうん。ゴブリン討伐で依頼をしたでしょー? もしかしたら依頼を手伝ってほしいとか、依頼をして欲しいみたいな人かもしれないかなって。なんだかんだで聖女の能力は高いって思われているわけだし」
「ふむ。確かにシルファーの言うことは一理あるか」
シルファーの言葉にノルム爺さんが納得し、イフリーも視線だけで『なるほど』といった感じでこっちを見ていた。
「そうであれば関わらない方がいいでしょうね。前回が特別だっただけですし」
「……」
ディーネがふふんと鼻を鳴らしながらそんなことを口走った。シルファーとノルムが苦笑している中、あたしは頭の中で色々なことが浮かんでいた。
そして――
「いや、ギルドに行ってみようぜ」
「リア?」
「どうしたんだ?」
あたしがギルドに行くと告げたらシルファーとイフリーが眉を顰めていた。確かに聖女が行く必要はないし、関わるのは面倒だけど聖女という枠を変えるために使えるかもと考えたからだ。
「依頼を受けて解決してやろうじゃないか。こそこそしている奴をとっ捕まえてみようぜ」
「えー、そこまでする必要あるかなー」
「俺もシルファーの意見に賛成だぜ? それに意味があるとは思えねえ」
「ちょっと考えたことがあってね。それとあたしのストレス解消に魔物をぶっとばしたいのですわ!」
「ちょっとリアさん!」
もちろんあたしの言葉にディーネが驚き、そして声を荒げた。
「まあまあ。気持ちは分かるけど、これはチャンスだ」
「チャンス……?」
ノルム爺さんが眉を顰めているが、さっき考えていたことが少し纏まりこれは使えると判断したからだ。
「ま、食材を買ってからギルドへ行こうぜ。エルゴさんが困っているなら助けてやるべきだろ? あたしは聖女だし」
「うーん……怪しい……」
シルファーが訝しむ中、あたし達は町へと到着した。