「洗剤と金たわしは必要よね」
「ありがとうございますアリア様。シルファー、箒はありましたか?」
「これでいいかなー?」
「いつもありがとうございます、聖女様……!」
というわけで町に到着したあたし達は服の店や、肉や魚の店を回り、雑貨のお店を物色していた。
後はランチでもして散歩をしたら聖殿へ帰るだけとなる。
「それじゃレストランに行こうぜ、喉が渇いたから飲み物が欲しい」
「あはは、荷物番ありがとうイフリー。この前見つけたところにいきましょ」
御者台で待っていてくれたイフリーにお礼を言って出発する。聖女の紋章がついているため悪さをする奴は居ないと思うけど念のためというやつだな。
「あー、聖女様だ!」
「はは、こんにちはー」
「手を振ってくれたぞ! ありがたい……」
「明日はいいことがあるかしらね」
「あはは……」
そして町では相変わらず聖女をありがたがっている光景に遭遇する。さすがに慣れたけど、そこまでありがたいものかねえ……
というのも、聖女は町の人達になにかをしてあげているわけじゃないからだ。そこに居るだけでありがたい、ということだろうけど、あたしにはさっぱり理解できないんだよね。
「それにしてもいい感じにバレないよねー」
そこでこそっとシルファーがあたしに言う。もう結構な日数が経過したし、町にも来ているけど確かに知られていない。
「……聖女様を見る機会があまりないのは僥倖だったのかもしれませんね」
「だな」
ディーネがしーっと唇に指を当てながらそんなことを口にする。確かにその側面はあるかとあたし達は納得する。
「先代の聖女だとさすがにバレそうだよな」
「そりゃあ娘なんじゃしのう。ま、捜索が上手くいくことを祈るしかあるまい……」
「ふむ」
やはり気になることがあるんだけど、今はいいか。そんな話をしているとレストランへと到着する。
「さて、なにを食べましょうかしら」
「怪しいってー。わたしはサラダかな? パスタもいいかなー」
「俺は肉だな肉!」
「わしはキノコと野菜が食えればええわい」
「いらっしゃいま……聖女様!?」
外にハリヤーを繋げてから、あーでもないと話しつつお店に入る。すると、ウェイトレスの姉ちゃんがあたしを見てびっくりしていた。
聖女が座っていたら驚きもするかな?
しかし、昔はどうだか知らないけれど、アリアもあたしも村や町の集会所でお年寄りを相手にしているくらいの感覚だと思う。
平たく言えば『聖女』という肩書き以外、大したことはしていないって話だ。
ひと月ほど聖殿で暮らしていたけど、ホントにソレイユが何もしていない。
話をするのは嫌いじゃないし、ケガを治せば元気になるのでいいことはしているんだけど、これ聖女の仕事かってなるんだよな。
「久しぶりに自分達でご飯を作らないから楽だねー」
「あたしはいつも作ってもらってばかりだから変わらないけど。たまには作ろうか?」
「……やめてください。先代になにを言われるか分かりません」
ディーネがあたしの言葉遣いを気にして、見えない足を抓ってそう言う。
「いてて……確かに。それでこの後はどうするの? ギルドに行く?」
「あー……そうだな。エルゴの様子も気になるし、顔を出したいと思う」
「依頼もしましょう。なにか困っているのがあれば、ですが」
「リ……アリア様!?」
「まー、一回受けているからいいと思うけどねー。ノルム決まった?」
「むう、れすとらんのメニューは多すぎて迷うわい……」
イフリーに聞いてみるとギルドへ行くというので、仕事をしてはどうかと提案する。
もちろんディーネが険しい顔をしたけど、あたしは聞かないフリをした。
やがて料理が運ばれてきて食事を終えると、そのままギルドへ向かうことにした。
あと、なぜかウェイトレスの姉ちゃんに握手を求められた。
「こんちはーっす」
「あ……!」
ギルドに到着するとイフリーを先頭に中へと入る。もう依頼には出てもおかしくない時間だけど、冒険者は残っている感じだった。
「依頼が少ないと言っていたし、こんなものかな……?」
それにしても数が居るなと思いつつ受付カウンターまで歩いていく。
前と同じくギルドマスターのエルゴさんが渋い顔で座っているのが見えた。
「よっ」
「……! イフリー様!」
「『様』はいいって。最近、連絡が無いからどうしているのかと思って来たんだ」
「ああ、申し訳ない。ちょっと色々あってな……」
「聞かせてもらえますか?」
「アリア様……!」
イフリーに言うのは躊躇いが見られたので、あえてあたしが尋ねてみる。こういう時、聖女という肩書きは利用しやすい。
「あ、は、はい。実は――」
エルゴさんの説明はこうだった。
今まで王都のギルドに依頼が集中していたので、このロルクアの町のギルドにも回ってくるようになったそう。
だけど急に回されてもそれが出来る冒険者が居ない、ということで困っているとのこと。
依頼が少ないせいでこちらに能力の高い冒険者が居なくなったのに、いきなりやれと言われて出来るはずがないので困るのは仕方ないと思う。
「王都のギルドマスターは冒険者を回してこないのか?」
「そもそも、人が必要だから依頼を回してきたのだと言っているから援護は来ないんだよ」
ふむ、まあ王都のギルドがここへなんらかの嫌がらせをしている話は聞いている。だからありえない話じゃない。それはエルゴさんも分かっているハズだ。
となると悩んでいる理由は内容が酷いってことか。
「どんな依頼なんですか?」
「え? ええ、聖女様に見せるのは気が引けますが――」
あたしが尋ねると、エルゴさんは片目を瞑ってから少し躊躇していた。
だけど無言で見つめていると、ため息を吐きながら依頼票を出して来た。