昼食はヴィヴィアンが作ってくれることになった。その間にリーゼロッテは一旦部屋に戻り、乾かすだけに終わっていた
どのみち帰宅したころから風も強くなり、雷も近くなっていたため、
「よし、これで完璧!」
いつも通りに洗われたシリウスは、部屋干しという名目のもと窓際に吊された。今日は前回より時間があるため、いちかばちかの魔法は使わず、自然乾燥することにしたらしい。
脱水工程は前回と同じでタオルに包んだぬいぐるみをとにかく振り回すというあまり合理的とはいない手段だったが、結果的には思いのほか水気が飛んでいることにシリウスは密かに驚いていた。さすがは幼いころから元気――と空を飛ぶこと――だけが取り柄などと言われていただけのことはあるのかもしれない。そしてそんなふうに改めて考えられるようになったということは、不本意ながらそんな扱いにも慣れてきたということだ。まったく慣れたくはないけれど。
とは言え、反してシリウスは早くもうとうととまどろみ始めている。薄手のタオルに包まれたまま吊されている状況はさながらゆりかごのようでもあり、そのせいだと誰にでもなくいいわけをしながら、おりてきた眠気に身を委ねてしまう。
「あ、サギリさん!」
そこでコンコンとドアを叩く音がする。部屋のドアは開け放ったままだったが、急に声をかけるのは遠慮したらしい。リーゼロッテが振り返ると、そこにはサギリが立っていた。
長身のヴィヴィアンと並んでもずいぶん大きく見えるサギリはリーゼロッテからすると山のようだった。顔つきも精悍で表情も乏しく、どちらかというと近寄りがたい雰囲気を持っていたが、その実とても優しい性格であることをリーゼロッテはもう知っている。
「飯、できたって。ヴィヴィアンが」
「わ、ありがとうございます。すぐ行きます!」
言葉少なに告げられた言葉に、リーゼロッテは笑顔で頭を下げた。サギリは無言で頷き、踵を返す。いまやすっかりサギリもこの家に慣れている。
「さすがにここならカラスも来ないし……いい子にしててね、シェリー」
それは指示なのか。まるで子供に言い聞かせるようなそれを夢現に聞きながら、シリウスはそのまま意識を手放す。
リーゼロッテはサギリのあとに続く。部屋の片隅にはきれいに手入れされた箒が立てかけられている。そのかたわらには白いリュック。シリウスを入れるためのポーチもちゃんとある。洞窟から回収した道具も必要なものはだいたいそろっていた。おそらくはカラスに持って行かれたのだろう魔法のランタン以外は。
「ほっとしたらお腹空いちゃった……」
それを横目に、ぐう、とふいに鳴ったお腹を押さえるとリーゼロッテはダイニングへと向かう足を速めた。
***
天候悪化により、ヴィヴィアンの店は午後から閉めることになった。サギリは仕事があるからと一旦宿に帰って行ったが、夜にはまた来ると言っていた。今夜は一段とひどい嵐になりそうだという予報を聞いたらしく、心配だから店にでも泊まるとのことだった。
夕方までヴィヴィアンはアトリエに籠もると言っていた。一方でリーゼロッテはヴィヴィアンの部屋に置いてあるテーブルセットを借りて手紙を書いていた。ミカエルに借りた羽根を使って、メイサに注文書を届けることにしたのだ。早いにこしたことはない。少しでも早くルイーズを喜ばせたい。そう思ってのことだった。
「えっと……」
呟きながら、ペンを走らせる。ヴィヴィアンの店にあった、魔法の便箋を購入させてもらった。これなら下手にリーゼロッテが魔法をかけたメモ用紙より、確実にメイサのもとに届くはずだ。少しくらい費用がかかっても、背に腹は代えられない。この雨の中を飛ばすことになるのだから、リーゼロッテの魔法で迷子にさせるわけにはいかなかった。
「メイサへ。お元気ですか? 突然だけど、服のオーダーに関する相談です――」
ひとりごちるリーゼロッテの頭上で、ぶら下げられたタオルが微かに揺れる。いまだ夢の中のシリウスが小さく寝返りを打ったのだ。けれども