目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

第39話

 ダンジョンの入り口というのはいくつか種類がある。

 オーソドックスなのは洞窟に見立てた物や階段だが、風変わりな物だと目に見えないゲートと呼ばれる類もある。

 また一部の地域ではスタンピードが発生しない特別なダンジョンが存在し、それらは塔や城、神殿を模している。

 これらはオーソドックスな物ほど難易度が低く、ゲートの難易度に至っては未知数で調査隊が派遣されることも稀ながら命知らずの冒険者が突撃して情報を集めてくることが多い。

 ある意味では新しい産業の一歩になるからね、発見者と調査チームなんてのは結構な報酬が貰えたりするが、死ぬときは大体一瞬だ。

 そして城や塔といったダンジョンは不思議なものが多く、中には死んでも外で生き返らせてくれるようなものまである。


 果たして生き返ったのか、同じ能力値と遺伝子を持ったスワンプマンなのかは別として……ちなみに私はその手のダンジョンは避けていたので詳しくないが、闘技場ダンジョンというのには参加した事がある。

 現れる魔獣は一匹だけで上限も同様、30分おきに生まれて餓死するまで舞台の上を歩き回って死んで、新しい一匹が生まれる。

 そんなダンジョンだが舞台に立った相手に合わせた戦闘力であることが多く、力試しなどに挑む者が多い。

 なお死んだら普通にそれまでの場所だが、血なまぐさい見世物を好む変態共が仮面をつけて見に来るのである種の興行となっている。

 一応舞台を降りたら追いかけてこないが、部隊の外から攻撃した場合は別なので人間によって管理されている数少ないダンジョンのひとつだったりする。


 そして今回はオーソドックスながらに、場所が悪いためスタンピードを起こしまくった場所である。


「これがダンジョン……」


「まぁそんなに気張らなくても司と私がいれば何とかなるよ先生。というか私だけでも司だけでもそこそこいけるんじゃないかな」


「それはさすがに無責任すぎます……」


 責任感の強い先生ならではの言葉だなぁ。

 司はせんように作り直してやった魔道具を手に戦いに備えているし、田中は発声練習している。

 ……司はともかく、田中も結構図太い神経しているよな。


「あ、田中。あの大声で叫ぶ魔法は禁止な。見ての通り洞窟だから崩落の危険もある。同様に司も炎の魔法は禁止だ」


「うっす!」


「わかりました」


 洞窟型ダンジョンは基本的に内部構造がそのままという事が多い。

 もちろん変質して草原や荒野ができあがって、疑似的な太陽が作られているなんてこともあるけど……今回はどうだろうな。


「それと先生は真ん中を歩いてくれ。先頭は司、次に先生と田中が横並び、私は一番後ろだ」


「あの、ポジションの確認はいいんですけど理由をお聞きしても?」


「そりゃ簡単だ。先生と田中は分類するなら後衛職、サポートや回復が中心で守りの薄いジョブだ。一方で私はレベルの暴力、司は勇者のジョブとステータスの暴力で大抵の相手なら対処できる。なにより背後から不意打ちされる可能性を視野に入れるなら私が最後尾を行くべきだし、撤退戦となったら大火力で逃げ道を作る必要があるからな」


「なるほど……」


「仮に奇襲とか不意打ちの恐れが無ければ先生を後ろに置いて、田中と私が中心、司が先頭だ」


「……司君はどうあっても先頭なんですね」


「私も分類的には後衛職……つーか生産職だからな? レベルとステータス、それとできる事が多いだけで基本は研究が仕事なんだ。だからレベルの上がった司相手だと十中八九負けるし、魔王に一人で挑まないのも同じ理由だ」


 ただあの魔王、なんか似たような空気感じるんだよな。

 こう、何度か挑んでいるけど毎回初見殺しの罠とかしかけてきたり、しっかりと復活後の人間の同行を見て裏から手を回したりしている。

 切れ者というよりも人間という存在をしっかり警戒したうえで、調査に手を抜かない。

 拠点から出てこないのは不思議だけど、相手取るには厄介すぎると言ってもいい。


「さて、それじゃ準備ができたら行くぞ? 司、装備はどうだ」


「問題ありません。しっくりきますね、これ」


「だろ、自信作だからな」


 前回司に渡したのは滅茶苦茶頑丈な剣だった。

 ただ力量はもちろん、技術もつたないのに黒龍王の鱗に思いっきりぶつけたからぶっ壊れた。

 結果的に逆転の発想で、不定形の武器にしてしまおうと考えたわけだ。

 イメージしたのは金属製のスライム。

 普段は指輪やネックレスの形にしておけば持ち運びに困らず、必要な時にイメージして形状を変える。

 盾にもなるし、剣や槍にも変化する。

 そして何より壊されても不定形に戻るだけで回収できれば元通り使用できるわけだ。

 まぁ使い方間違えると危ないから司以外使えないようにしているけどさ。


「田中はどうだ」


「ばっちりっすね。いやはや、まさかこんなもんを貰えるとは」


 田中の魔道具はチョーカーだ。

 糸電話の話を聞いた時に思いついた物で、魔力を通しやすいという特性以外に二つの特徴がある。

 と言っても類似性があり、声の拡張が一つ目。

 純粋にあの叫び声に魔力を乗せる魔法の威力を上げてくれる。

 もう一つは特定の相手だけに声を届けることができる能力。

 田中のトーカーというジョブは未だに不明点が多いが、言葉に関する物というのは分かっている。

 本来なら敵味方関係なく巻き込んでしまう事が多いから魔封じのブローチを与えていたのだが、特定の相手だけに声を届けられれば範囲攻撃しかできなかったのを解消して特定の敵だけに大音量の声をぶつける事も可能だ。


 まだ試作品ではあるが、今後能力がどんな風に変化するかで作り直しも視野に入れている。

 一応使い方を変えれば特定の相手だけに声を聞かせないという事もできるが、まだそこまで使いこなせてないんだよな……日夜練習しているみたいだけど、まだ10人くらいに声を届けるのが精いっぱいだ。

 範囲もそんなに広くないから使い勝手はよくないが、後衛職が相手を選んで攻撃できるってのはでかい。


「先生は?」


「問題ないですけど……ちょっと派手過ぎませんか?」


「よく似合ってるからいいと思うぞ」


 先生に渡した魔道具だが、数が多い。

 支援と回復に特化しているので、攻撃手段と防御手段を持たせたというべきだな。

 咄嗟の防御魔術も上手くなってきたが、まだまだつたない所があったし。


「でもこのヘアピンは可愛いですね!」


「先生をイメージしたからな」


 ダンデという、タンポポに似た花がこちらの世界にはある。

 それをモチーフにした一式装備であり、見た目はアクセサリーだ。

 ヘアピン、ネックレス、指輪、ブレスレットの四つだが全てダンデをモチーフにした装備だ。

 一応一つずつ装備しても効果はあるが、一式装備するとその効果が跳ね上がるようになっている。

 盗まれた時の対処法だな。

 能力としてはヘアピンが防御、これは物理も魔法も弾くし、並大抵の呪いや毒も無効化してくれる。


 これを突破できるのは魔族の中でも原初の時代と言われた古代から生きているような連中位だな。

 世間的に言うところの高位魔族とか、上級魔族とか、生きる災害とか、そんな奴ら。

 普通の守りも黒龍王の一撃なら一発だけは受けられるように作ったが……まぁ魔王の前じゃ紙みたいなもんだな。

 残るネックレスは聖女の使う魔法や魔術の強化、回復や支援の効果を高めてくれるし、自分でシールドを使ってもいい。


 ぶっちゃけここまでが本命で、指輪とブレスレットにはそれぞれ魔術の発動回路……まぁ魔法陣が彫り込まれているわけだ。

 攻撃魔術の適性が低い先生でも魔力を流せば攻撃ができる寸法で、この人の大魔力をちょっと流しただけでも並大抵の相手は死ぬ。

 二つに分けたのは相性の問題で、サラマンダーみたいな炎に強い相手にぶつかった際は指輪から風属性の攻撃魔術、シルフみたいな風属性に強い相手にはブレスレットの炎魔術といった使い分けが基本となる。

 あと風と炎って相性いいから、合わせて使うと世間では戦略級魔術と言われるような大規模破壊もできなくはない。


 ただ魔道具がぶっ壊れるの前提の運用になって来るけどな。


「先生も今回はブレスレット禁止な」


「はい、そのつもりです」


「そんじゃお前ら、突入だ!」


 その言葉に二本の刀を持った司が先陣を切った。

 ……こいつもやっぱり男の子なんだな、刀を選ぶ辺り。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?