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第47話

 少し整理しよう。

 私のジョブは究極的に言えば既存の物をコピーする事。

 一方の魔王は既知の有無に関わらず法則を見つければ自由に扱えるというもの。

 似て非なるが、共通点は多い。

 まず自力での発見が必要だという点だが、魔王に関しては法則さえ理解してしまえば使えるのだろう。

 そして私も、魔王の理とやらを読み解けば同様に使える。

 過程は違えど結果は同じ。

 ただ研究対象というか、その規模が違うだけだ。

 私が小さなものを見ているのであれば、魔王は大局を見ている。

 必要性の問題か、それとも趣味趣向の問題かはともかく、類似点は多い。


「……無茶を承知で聞くんだが、魔王と話してみたい。仲介を頼めるか」


「俺には無理だな」


 アランが首を横に振る。


「俺達人狼は時にひとに紛れて生活してきた。俺の一族も人に化けて生活していたんだが、魔族としてのつながりが薄くなってしまった。今更魔王様に合わせてくれと言ってもすぐには通らないだろう」


「同じく、新参者故魔王様への謁見は厳しいだろう」


 グレゴリーも首を横に振る。

 そしてアラン共々、ミストに視線を向けた。


「わ、私!? そりゃまあ、魔王様の所で働いてたことはあるけどメイドよ? 伝手を使えば話を通してもらう事はできるけど……」


「頼む」


 両手をついて頼み込む。

 魔王が暴れだしていない今が最初で最後のチャンスだ。

 司もまだ勇者というジョブに引っ張られていない。

 ジョブというのは多かれ少なかれ本人の資質、あるいは性格をくみ取って発現する物だが、それが本人の度量を超えていた場合ジョブに操られるようになっていく。

 私が勇者という存在をはじめ、ジョブに関して研究をしていった結果辿り着いた一つの答えだ。

 過去の勇者が蛮族になり果てていたのも、恐らくは魔王と魔族に対して戦う事を義務として、そしてそれが当然という刷り込みが行われたからだろう。


 まぁ、そうじゃなけりゃ日本でのほほんと過ごしていた一般人が四肢が吹っ飛ぶような戦場で生傷関係なく突撃とかできないだろうしな。

 ある意味洗脳だよ。


「わかった! わかったから頭を上げて! 破壊神にお願いされるとかどんな冗談よ!」


「その破壊神ってのやめてくれないか……?」


「じゃあ創造神?」


「神から離れてくれ」


「まぁいいわ。ただし貸しひとつよ」


「わかった。人類に敵対しない内容なら大抵の事は聞いてやれる」


「じゃあそうね……あの聖女、雫って言ったわよね。あの子のつけてる髪留めが気に入ったから作って頂戴」


「魔道具としてか?」


「いいえ、普通の髪留めでいいわ」


「構わないが、あれは先生のイメージに合わせて作ったんだ。ダンデの花をモチーフにしているんだが君はまた別の花が似合うと思うぞ」


「へぇ、口説き文句みたいな事言ってくるのね。じゃあどんな花が似合うのか教えてくれる?」


 ミスト、アラクネである彼女はこの中では私に次いで長命だという。

 それゆえに色々な経験をしてきたのだろう、自身に満ち溢れている。

 一方で弱気な部分を隠すためか、気丈に振舞う事も多い。

 そんな彼女に見合った花か……。


「スノウドロップ、雪山に咲く花だ。透明な花弁は常に月光を追い続け、夜明けと共に蕾に戻り夜になれば再び咲く。高い魔力を持ちながらも人肌に触れるだけで溶けるように消えてしまう儚い花だ」


「随分素敵なものを選んだのね。理由を聞いても」


「花言葉があんたの印象にぴったりでな、誘惑する蜘蛛だ」


「あらあら」


 ミストの印象は美人の一言に尽きる。

 どこか妖艶な美貌は、下半身が蜘蛛であることを差し引いてもお釣りがくるだろう。

 並大抵の精神では振り払えない魅力は、まさに蜘蛛の巣に自ら進んでいくように仕向けられたようにすら感じる。

 一方でスノウドロップの花言葉はもう一つある。

 触れてはいけない幻想。

 雪山の、それも人が立ち入って生きて帰れる場所には生息していない事からその花言葉は付けられた。


 魔族との共存、それが幻想とは言わないが数百年の月日が必要になるだろう。

 その間彼女が生きているかどうか、私にもわからない。

 魔族の寿命は長いが、それでも個体差はある。

 アラン、彼は人狼であり人間に化けることができるが獣人の中にも似たような見た目の種族がいる。

 だが決定的に違うのはその寿命と保有魔力だ。

 見るものが見ればすぐにわかるが、大抵の人間ではその区別はつかないだろう。

 そうなってくると、時間をかけて住み分けを済ませた今の状況が奇跡ともいえる。

 では共存となれば、さらに時間をかけなければ再び亜人と言われる私達への迫害に繋がりかねない。


 人間の真に恐ろしい所は数だ。

 弱者であろうと集まれば恐るべき存在になる。

 さっき償還した英雄たちのように、そして司のように突然変異のごとく現れる強者が率いる軍勢となればそれはもう恐怖でしかない。

 エルフの守りも、ドワーフの穴倉も、獣人の危機察知も、全てが無意味になるだろう。

 そう考えると亜人の未来が私達の双肩にのしかかっているというのは……少し怖いな。

 気付いているのは私とグレゴリーだけだろうけれど。


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