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第46話

「じゃあ私から簡潔に……ご存知の通りハイエルフのユキ、何度か魔王と殺し合いした事あるけどまだ500歳の若造だ。戦闘は得意じゃないがレベルが高いから並大抵の奴よりは強い。それ以外に特筆するようなことは無いかな。次、そこの青い魔族」


 リレー形式で、自己紹介をした奴が次の相手を指名することになった。

 なので真っ先に手を挙げて紹介してから気になっていた相手を指名する。

 ……豚汁美味いなぁ。


「あー、何から説明するべきか……魔族になったばかりの若輩者だ。以前はハルファ聖教の教祖をしていたのだが、戦の中で倒れて魔族に救われ、こうしてここにいる。名前はグレゴリーだった」


「……まて、どこから聞けばいいかわからんのだが」


「それがさっきの寝物語に繋がるんだ。俺は人狼族のアラン、話は太古の昔魔王様と魔族の誕生までさかのぼる」


 人狼……アランが語ったのは魔族の歴史だった。

 もともと魔族という種は存在せず、理不尽な迫害を受けていた者達を助けた男がいた。

 それが今の魔王であり、そして一大勢力となったこいつらの祖先はあらゆる国家から追われる身となった。

 そのため膨大な力を求めた魔王は金属を使い不思議な道具を作ったという。

 魔道具に似た能力を持ちながら、魔力が無くとも使える武器の数々。

 聞けばそれらは銃や戦車といった名前がついていて、今も魔族の宝物庫に保管されているとか。

 いずれ和解することを願いながら、最果ての地へ逃げて防衛線を張ったが数の暴力によって押しつぶされそうになり、一人また一人と命を落としていったという。

 そしてついに魔王は和解を諦め、持ちうる全ての技術を駆使して魔族という存在を生み出した……いや、成ったという事らしい。

 それが魔王の起源であり、後に続いて人間や獣人が魔族へと変質していった。

 技術は残っているからこそ、復活の度に命を落としかけた者や迫害された者達を魔族へと変質させて招き入れているという。

 どこから情報を集めているのか謎だったが、これで一つ解決した。

 その代わり別の問題も浮上したわけだが……。


「ユキさん……もしかして魔王って、その、私達と同じ……」


「あぁ、転移、あるいは転生した存在かもしれない」


 異世界人という可能性が高い。

 というか聞く限りじゃかなり短縮されているが……ほぼハーレム主人公じゃねえかな。

 末路は悲惨だが、そこに至るまで救世主なんてもてはやされた時期もあったようだし。


「今も魔王は人間を滅ぼそうとしているのか? 私の見解じゃ違うと思うんだが」


「あぁ、魔王様は人として人間との和解は諦めた。だが強大な力を持った隣人として平穏に過ごす事は望んでいる。エルフやドワーフのようにな」


 なるほど、人間との和解というよりは人類の枠組みに入れてほしいという事か。

サキュバスがそれに成功しているが本当なら魔族全体をそうしたいってところだな。


「大体わかった。話を遮らせてすまない。自己紹介を続けてくれ」


「では……そうだな、そちらの聖女の挨拶を聞かせていただけるだろうか」


「わ、私は雫と言います! えと、教師をしていて、この世界に召喚されて、聖女のジョブ? を得て、それで……えっと……」


「落ち着け先生。特技とか好きな物とか、なんでもいいから答えてやるといい」


「あ、はい……好きな物はおにぎりです! 塩むすびが一番好きなんですけど、梅干しのおにぎりと順番に食べるのが一番好きです。特技は……一応回復と支援でしょうか」


「ジョブに関係ない特技はあるかい?」


 さっきの司といい、思わぬ特技があったりするので聞いてみたくなった。


「星座観測……ですかね。こちらの世界は私の知っている星座や星が無いので何もできませんが、元の世界だと星の位置から方位とか割り出すくらいはできました。一応歴史教師なのでフィールドワークなんかもやってたので」


「そいつは凄い。あとで星に関する本を用意するよ」


 どうせならその辺も覚えてもらえると旅が楽になる。

 ……魔道具はあるけど、結局道具だから簡単に壊れるんだよな。


「えと、じゃあ次は蜘蛛のお姉さんで」


 会釈してからアラクネに振った先生。


「アラクネ族のミスト、一応この中だと……貴方と黒龍王を除いて最高齢ね」


 ピッと私を指さしてきたアラクネことミスト。

 女性に年齢を聞くのはタブーだが、魔族やエルフはその辺あまり気にしない。

 というか律義に年齢数えている奴もいないので、私もおおよそ500歳で通している。


「趣味は編み物、特技も同様ね。私の糸で編んだハンカチなら国の一等地に館を建てられると思うわ」


「そいつは頼もしいな。つっても稀少性も相まってという事もあるだろうから、魔王の思惑通り人間と仲良くなったら値段も落ち着きそうだけど」


「む……それは……まぁ、そうね。それに私より上の世代は私よりもよっぽど上手だし……」


「上には上がいるもんだ。それを気にしすぎるのはよくないんじゃないか?」


「でも下を見たら後がないのよ……」


「なら横と前だけ見ていればいい。上も下も関係なく、仲間と我が道を行くってな」


「……流石、伝説に歌われるハイエルフさまは言う事が違うわね」


「待って? 伝説?」


「ハイエルフのユキ、事ある毎に魔王様と対峙して今なお世界中を走り回っている変わり者。一方で気まぐれにとんでもない物を作り出したりして、人類進歩の一助となっている。基本的には温厚だけれど、敵対者には容赦しない創造神と破壊神の二面性を持つ存在として魔族からは恐れられてるわよ、貴方」


 ……何それこわ。

 私知らない所で邪神みたいな扱い受けてたの?

 ただ好き勝手に研究してただけなんだけど……。


「まぁいいわ、次はそこの勇者……と言いたいけれどメインディッシュは最後にしたいわね。その隣にいる胡散臭いの」


 あ、田中か。


「あ、ども。田中って言います。まぁ家名だけど気にせず田中呼びしてください。トーカーって言うユニークジョブで、相手の種族や言語の壁関係なく会話できるっぽいです。それに言葉を利用して支援とか、簡単な攻撃なんかもできます。趣味は悪だくみ、特技は裏での根回しです! よろしくおなしゃす!」


「それを聞いてよろしくできる奴がどんだけいるか考えろアホ」


「絶対によろしくしたくないわね」


「嘘の匂いがしないのが逆に気味が悪い」


「田中君……」


「そういえば修学旅行で女湯覗きを企んでたね」


「我が契約者ながらに最低であるな」


 ボロカスである。

 言われ放題だが、本人はへらへらしている辺り狙っているな?


「こいつの言う通り、ユニークジョブでトーカーて言うの持っているんだが未だによくわかってないんだ。人の感情にも干渉してくるみたいで、今みたいに嫌悪感持たせたりも普通にしてくるから気をつけろ。逆に場にそぐわぬ冗談で笑わせてきたりもするからな」


「……厄介な相手ね」


「厄介なんだよ。敵にしても味方にしても目を離せない相手ってところだ。正直こいつが敵なら聖女とか魔王よりも真っ先にこいつ殺す」


「そんな評価されてたんすね俺!」


「喜ぶな。危険視されてるんだよ」


 と言っても、これも田中なりの冗談だろうけどな。


「というわけで締めの司君、名誉挽回で頼んます!」


「勇者に選ばれた異世界人、司です。どうぞよろしく。趣味は……そうだなぁ。読書かな。人間観察も好きだけど、何を思って文字を綴ったのか想像するのが好きなんだ。それとキャンプだけど、一人でコーヒーを飲みながら読む本は最高だと思っている。特技は大体の事ができるけど、ロッククライミングとかできます。あと無免許でよければ大抵の乗り物は運転できますね」


「凄いんだが自慢しちゃいけない特技だな……」


 無免許運転ダメ絶対。

 こっちの世界でも一応御者の免許とかあるんだよ。

 無くても運転していいけど、持っていると商人とかに雇われやすいって言うだけでな。

 あとは一部のジョブは国が管理するという意味で免許に似たものを持っている。

 私も持っているが……更新期限半世紀くらい前だった気がするな。

 人間の考える基準ってころころ変わるから長命種で気にする奴は少ない。

 似たようなのだと各種ギルドのカードだが、あれは身分証としての扱いが大きいな。

 設立当時かなり細かく設定した魔道具を仲間たちとあーじゃないこーじゃないと話し合って作り上げた傑作を使っているから偽装ができない。


 ただ漫画とかみたいに犯罪歴が載ったりしないのは、やはり私と吸血鬼の意見が大きかったな。

 法律を考えるのは基本的に人間だ。

 私のいたエルフの里にも掟はあったが、決めたのはそこに住んでいるエルフじゃなく精霊たちだ。

 それもここから先は入っちゃダメという曖昧な取り決めだったりするから、法と呼ぶには程度が低い。

 要するに人間の尺度でやるならその辺の法律はコロコロ変わるから、毎度整備に向かうのも面倒なので却下という事にした。


「そういえばユキさんの特技と趣味聞いてないですね。なにかありますか?」


「先生……あえて言わなかったんだけど察してほしかったよ」


「ご、ごめんなさい!」


「まぁいいさ。特技はなんだろな、ジョブ的に言えば研究完了した物の模倣なら何でもできるよ。さっきの召喚術やネクロマンサーの魔術もその類。魔道具作成も同じだな。私個人の特技というなら……あぁ、司と被るがこの世界に存在する大抵の物は乗りこなせる」


 ドラゴンライダーというジョブがあるが、彼等同様ドラゴンを乗りこなすくらいは問題ない。

 ジョブの補正とか関係なしにできたし、ジョブの究明が完了している今ならなおさらだ。

 普通にドラゴンとの会話もできるしな。


「あぁ、そういう意味じゃ他種族との会話も特技か。田中のジョブほどじゃないけど、自力で色々な言語覚えたしドラゴンの言葉もわかる。種族的に植物の声を聞くこともできるし、海の向こうにある別の大陸の言語なんかも問題ない」


「へぇ、凄いじゃない」


 ミストが素直な称賛を送ってくる。

 嫌味が一切ない、本当に感心したと言った様子の物だ。


「まだ古代語とかまでは手が伸びてないから専門家に色々聞きたいところなんだがな。そういう意味じゃ魔王はぴったりなんだが……毎回会話する前に勇者が突撃かますから」


「……伝説に謳われたハイエルフも苦労人なのね」


「まぁな。趣味は研究だが、鶏と卵どちらが先かわからん。今のジョブになったのも研究好きだからか、ジョブの影響で研究が好きになったのか、どちらにせよ趣味というなら研究としか言えんよ」


「研究ね……ジョブの名前を聞いてもいいかしら」


「究明者、ジョブの内容は今簡単に話したが、私が究明した範囲でなら大抵の事は模倣できる」


「……魔王様にそっくりなジョブね。というか話してよかったの?」


「今更隠してないし、人間が保管してる文献当たればいくらでも出てくるないようだからな。それより魔王のジョブを知っているのか?」


 ユニークジョブはその名の通り二つと無い物だ。

 時代を超えようとも単独であり、唯一無二である。

 有名になるか、誰にも知られないまま死んでいく事が多いが世に出たら世間がひっくり返るような事態に陥ることも珍しくない。

 その手の煩わしさから逃げるように放浪しているようなもんだしな。

 里に帰るというのも手段だけど、あそこは退屈だから戻る気はない。


「魔王様のジョブは探究者。発見した理を意のままに操れると聞くわ」


 想定外というか、想像以上にヤバイジョブだった。


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