疑い始めるときりがない、とはこの事。
何もかもが怪しく見えてくるわけで、ジョブの影響と前世からの性もあってアレコレ調べたくなってくる。
が、いったん我慢だ。
そんなもんは後で張本人から聞き出せばいいだけの事だし、今はダンジョンに辿り着くことを優先した。
結果的に日暮れ前には宝物殿の前までたどり着くことができたのだが……。
「誰もいない、居住はもちろん野営の跡すら残ってないな」
「えぇ、流石におかしいですね」
ダンジョンの近場というのは必ずと行っていいほど発展する。
近場に無限に素材がわいてくる鉱脈があるのと同義だからだ。
故に現代、私が生まれて以降はもちろんの事、ギルドなんかを作る以前ですらダンジョンを多く保有する国が列強として名をはせていた。
だというのに宝物殿は周囲から一切人気が感じられない。
名前に宝とついているならば金目当てのごろつきや、一攫千金を夢見た連中を襲おうと画策するような盗賊。
他にも情報屋、中で手に入れた物を欲しがる商人なんかが群がるのが一般的だ。
だというのに、人気がない。
森の奥深くに鎮座する洋館と言った様子のそれは、気配察知の魔法を使っても内部を探ることができない。
異界系ダンジョンと呼ばれるものの特徴であり、かなり珍しい部類の物だ。
基本的にダンジョンは洞窟や森が形を変えるのだが、異界系はその場に似つかわしくない建物が現れるというもの。
内部は屋内にも関わらず草原が広がっていたり岩肌の一本道だったりと千差万別。
……まぁ実態は持ち運び可能な家の魔道具、ハウスといわれているものにダンジョンコアをアルファたち魔族が取り付けて適当に放置しただけらしいが。
ちなみに私もハウスは複数持っている。
こっちの世界に来てから究明した数少ないゲーム時代の産物だ。
ゲームでは課金アイテムで値段もワンコインと手頃だったことから人気のアイテムだった。
運営がハウジングエリアという、家を設置できるエリアの増築ができないという報告の後に出してきたもので土地や家を持てない者でも気軽に家の改築を楽しめるものとなっていた。
まぁ、ゲームも神が作ったものだったわけだからハウスはある意味では神造魔道具のコピー品ってことになるわけだが……私は大人買いして2ダースくらい持っていたから解析も楽だった。
アルファはその倍は持っていたらしい。
「とりあえず野営するが、お前ら用意はできているか?」
「はい、各自状況に応じた準備をしています」
そう言って近衛達がとりだしたのは一般的なテント。
魔道具は高価だし、ハウスなんかは壊されると次元の狭間に飛ばされるなんて話もある。
実際は安全装置が働いて外に放り出されて、魔道具に仕込まれた自己修復機能で修理が完了するまで使えなくなるだけなんだがな。
ともあれどこでも砦を作れる、文字通り一夜城がどこでも発生するから各国ではハウスの取り扱いについて滅茶苦茶厳しいルールが作られているとかなんとか。
多分その中に軍人や、軍備に関わるものが使用することを禁止する条項があるんだと思う。
「そうか。なら私は勝手に休ませてもらうがいいか?」
懐から取り出した小さな家をチラリと見せると近衛達が首を縦に振る。
司達との旅じゃしばらく使わない予定だったが、想定外が多すぎてなぁ……いや、本当ならちゃんと野営の仕方を教えたうえでハウスを各自持たせようと思っていたんだよ。
だけどそんな暇なくアルファたちと出会って……おん?
「いかがなさいました?」
「いや、ハウスが反応しない」
「……どういう事でしょうか」
手にしたミニチュアこそがハウスであり、わかりやすいように作った自作の魔道具だ。
ゲーム内では持ち運びの際の外見も自由に変更できるようになっていて、リュックサックや革袋、指輪やイヤリングと言ったアクセサリーにしていた。
ただそれだと一目見ただけじゃわからないので、外観そっくりそのままの魔道具として作り上げたのだが……こいつが作動しないエリアって言うのはかなり限られた範囲で三つしかない。
一つは街中、設定的に不可能になっている場所だったが、この世界でも街中での展開はできない。
まぁこれ、厳密には所有者がいると血での使用が不可能という事なんだけどな。
つまり街中でも空き地とかを購入、あるいは借りてしまえばそこにハウスを設置することはできる。
二つ目がハウジングエリアだったんだが、今じゃ冒険者居住区という名前で酒場やら娼館やらが置かれた地域になっていた場所。
これも一つ目と同じような物だからゲーム内で三つ、この世界じゃ二つってことになるのかな。
そして最後がダンジョン。
森や草原が変化してできたような場所であろうとダンジョンであると判定された場所は絶対にハウスを設置することができない。
専門家たちと話し合った結果魔力の波長が云々ということでうやむやになってしまったが、魔道具の中でもハウスだけはどんなふうに作り替えてもこの手の制限から逃れられなかった。
……いや、これも今にして思えばおかしいな。
そういう物だと納得して終わらせたが、本当なら今でも研究が続いていて当然の内容だ。
そもそも許可を得たら街中でも使える?
誰がその場面を確認しているんだ?
ダンジョンの定義は?
魔力がよどんでる程度ならいくらでもある。
……いや、落ち着こう。
そんな事はこの際どうでもいい。
後でじっくり考えればいいだけの事なんだ。
問題は……。
「全員警戒を厳に。この場所は既にダンジョン内部と判定されている」
私の言葉に近衛達が唾を飲み込んだ。