それから三日が経った。
特訓は各々苦戦中と言った所で、一部の変人奇人を除いて悪戦苦闘、あるいは方々の体といった様子である。
「しかしまぁ、異世界人は王のジョブにもなれないのか」
「派手に立ち振る舞うようにとは言っておいたのですが、やはり信仰心と知名度の問題でしょう。それに彼等は……言ってしまえばバグのような存在です。この世界のシステムとは別の物で動いているという面が強い分ジョブの恩恵を十全にとはいかないのでしょう」
だからこそ、と続けようとしたレーナが口を噤む。
なるほど、だからこそこちらの世界じゃ無敵といえるアルファ相手に少数精鋭で立ち向かえるんだな。
言うなれば二本のゲームソフト用意して、片方はレベルとかの最大値が100だがもう片方はその上限がない物だとする。
私達が上限有りで、司達は上限なしだ。
その差異が、神に攻撃が届かなかった時のようにアルファの攻撃や並外れた生命力を無視する事になるのだろう。
そういう意味じゃこっちの世界の軍隊を利用とした連中とかが軒並み失敗した理由もわかるな。
自分から世界のシステムに縛られに行ったわけだし。
「で、一番うまく言ってるのは司として逆に一番苦戦してるのは誰よ」
キュッキュと窓を拭きながらレーナに尋ねてみる。
「苦戦しているのは破壊者です。能力の加減ができず食事も苦労しているようです。そしてひとつ訂正を、勇者司は確かに順調ですが一番ではありません」
「は?」
ゴトンと頭上の鉄球が落ちた。
……三日で鉄球になったのはまぁいいが、それ以上に司よりも上手く特訓こなしてる奴がいるだと?
「一番うまくこなしているのはあの道化師です。どうしてなかなか、侮れないものですね」
そっと落とした鉄球より一回り大きいそれを私の頭に乗せてニコニコとしてみせるのは……たぶん勇者という存在への嫌悪感からそれを超える存在が出てきた事で優越感へ変化したのが理由だろう。
「道化師……あぁ、田中か」
「そんな名前でしたね。あれはなかなかどうして、飄々としていながら手際がいいものです」
「そんなにか?」
「はい、まず初日は全員倒れるまで走らせました」
サラッと言っているが防風防寒魔法の使用は自由としていたはずだ。
逆に言えば自分でできないならクッソ寒くて台風並みの風が吹き寄せてる中走れという事である。
「あの道化師は合図開始と共に倒れ伏しました。そしてヘラヘラと笑いながら寒さに耐えられず倒れちゃいました、風が強くて起き上がれないのでもう無理ですと宣ったのです」
「……ルール的には間違ってないが、違うよな」
「違いますが抜け穴を突かれたのは事実。呆れと感嘆からそれを認め、十全な体力を残したまま次の特訓に移行しました」
「なんだっけ、たしか攻撃力と防御力を計るやつだよな」
木製の人形に攻撃する、逆にレーナの攻撃をどこまで耐えられるか木製人形を守るという方法での特訓だった。
わかりやすい結果を言うなら、破壊者君は司以上の攻撃力を見せたが防御力は最低、逆にガーディアン女子は攻撃力は下から数えた方が早いが守りに関しては司超えという所。
……基準になってるけどあいつも上位5本指に残る成果を出している。
まぁ攻守のトップはこの二人だったが、守りに関しては先生なんかも司以上だった。
「はい、これがその時の詳しい記録です」
「ほう?」
えーと田中の名前は……ん?
「これいかさましてるよな」
「でしょうね。奴は言葉を操る。言葉は人を繋ぐと同時に欺く手段でもある。その側面を強く出したのは生来の物か育ちか……」
「あるいは両方か、私も未だにあいつの掴み所わからんからな」
童貞臭いガキかと思えば時折うまく周囲を丸め込んだりと大人顔負けのトークを披露してくることもある。
なんなら自分が未熟で幼いというのを逆手に取っている節すらあった。
そんな田中の成績だがぴったりど真ん中、戦闘系と生産系のジョブで差が出るのは当然だが、戦闘系の中でも支援系の田中の攻守がそこまで平均的なはずがない。
なにかしらのトリックがあると見るべきだが……。
「まぁ、いいんじゃないか? 少なくともレーナの特訓を騙せるだけの実力があるなら問題ないだろ」
「えぇ、なので一番順調とお答えしました。ただ戦力としてはどうなるか……」
「過去の勇者を見ればわかるが、あの手のイレギュラーなやつが一番怖いぞ。敵味方問わず何してくれるかわからんからな」
「そうですね。ならば今は味方であることを祈るしかないでしょう」
「あの糞ったれの神にか?」
「……いえ、これから神の座に就くアルファ様に祈っておきます。ついでにユキ様にも」
「私はついでか」
くすっと笑って見せるとレーナも笑みを見せた。
案外茶目っ気あるなこいつ。