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第99話

「知らなくて当然さ。僕は淘汰された世界線の存在だからね」


「世界線……あぁ、そういうことか」


「流石に察しがいいね。その通り、そこのレーナとか言う女ならわかるだろう?」


 あんまり見たくないけど視線をチラリとやると、凄く苦々しい表情のレーナがいた。

 なんていうんだろう、初恋の人によく似ているんだけど絶妙にコレジャナイ不快感を与えてくる人物にあったような表情している。

 要するに嫌悪感だ。


「パラレル、とはまた違うよな」


「そうだね、言うなれば立体交差並行世界かな」


「その心は」


「まったく違う文明、文化、そして進化を遂げた世界でも必ず共通するポイントがあるって事さ。例えば産業革命だがこの世界線の魔族は産業で成り立っている」


 これも理解した。

 そもそもこのオメガとかいう奴はこの世界に存在しない、そして生まれる事の無かった存在だ。

 宝物殿でレーナがトライ&エラーで今に至らせた結果、魔王アルファが復活し続ける世界となった。

 けれどこいつはそうならなかった世界の、何かしらの理由から生まれた最後の存在。

 だからオメガ。


 そして立体交差並行世界、地球でも歴史書に大々的に記録されるような出来事のいくつかはこの世界でも発生している。

 例えばペスト、鼠を媒介とすると言われている病気の蔓延とそれによる多数の死者。

 そして魔族における産業革命もそうか。

 まだ大々的に広まっていないだけでその兆しは見えている。

 こういった大きなポイントを通る事は全ての世界で決まっていて、けれど決して交わる事の無いマラソンのようなものを指す。

 パラレルワールドとは同じ世界のifであり、根本的に違うと言っていい。

 つまりアルファもレーナも勇者も、そして私も何らかの形で魔王と魔族を止めきれず暴走させた世界という根本から別物……スタート地点だけが同じな別の世界の存在だ。


「だから、この世界が壊れようとどうでもいいと」


「いやいや、一応神として管理している世界が壊れたら困るよ。だからリセットするという話なんだけどね」


「もっと穏便な方法があるだろ」


「あるけど面倒くさいんだよね。僕の力の大半をつぎ込んで要約と言った所まで来ちゃってさ」


「ならそこまで放置してたお前が悪いな。というわけで大人しくその座を明け渡して死ね」


 神刀細雪を袈裟懸けに振るう。

 だがあらゆるものを両断するはずの刃はピタリと動きを止めた。


「まずその勘違いを正した方がいいかな。僕たち神に死の概念は無いよ」


「……そういや肉体という殻を捨てた魂と精神エネルギーの塊だったな」


 以前アルファがそんな事を言っていた気がする。

 肉体が無いからこそ、限界がないんだ。

 人間の脳みそは200年分の記憶を保存できると言われているが、逆に言えばそれが限界だ。

 寿命をはるかに超えた記憶量を持っていようと不老不死となれば短すぎる。

 私のようなエルフ関係の長命種だって記憶の保持量には限界があるが、脳みその作りが根本から違うという研究結果がある。

 どこぞのマッドが解剖実験やらかした結果だが……ようするに人種と一口に言っても人間やエルフ、ドワーフにオーガと友好的に接している種族でも身体の作りが違う。

 ただそれは男女の違いと同じような物として見られているわけだが……こいつの場合そういった限界が存在しないんだ。


「となると……やっぱこれしかないよな」


「まったく、お前の周到さには毎回驚かされる」


「はて、何の事でしょう」


 私が刀を修めると同時にアルファも武器をインベントリに仕舞う。

 そしてレーナだけが首を傾げ、オメガはほくそ笑んでいる。


「戦意喪失かな?」


「いんや? 想定より早いが最終手段」


 コキコキと関節の位置を調節して、握りこぶしを作りそのままオメガの顔面をぶん殴った。

 先程細雪が止められた時のような抵抗はなく、渾身の右ストレートが炸裂する。

 続けざまに吹っ飛んだオメガの、再び顔面にアルファ渾身の拳が叩きつけられ地面と拳でサンドイッチだ。


「レーナ、本気であのいけ好かない顔を殴れ」


「わかりました!」


「ぐっ、どういうことだ!」


 ぼたぼたと鼻血を流しながら叫ぶオメガは、レーナの拳を回避する事に精一杯だ。

 あいつ、たぶん肉弾戦なら私達の中で最強だと思うからね……威力も比じゃないと思う。


「お前も逆らえない物があるだろ? 上位種だけじゃない、そいつらの残したものとかさ」


「そんなものが……いや、アカシックレコード……」


「大正解だ。ご褒美にレーナの渾身の一撃を受けさせてやるよ」


 アカシックレコード、それは管理者すらも記録する上位存在が用意した巨大な記録装置。

 そこに書かれたことは全て実現する。

 そして勇者だろうが魔王だろうが、その気になれば一撃で殺せる拳。

 それを当てるために魔法で障害物を作り出す。

 いや、魔導かな?

 炎はあいつには効かない、雷とかも……とにかく質量がなければ障害物にはなりえない。

 だから土や氷、時に召喚獣で道を塞ぎ、そしてついに避け切れなくなったオメガの顔面にレーナの拳が……届かなかった。


「逃げるばかりじゃないんだよ」


「まぁ受け止めるとは思ってたよ」


「当然だ! 最後の魔王を舐めるな!」


 先程までの余裕はどこへやら、激昂するように叫ぶオメガの言葉に今度はアルファがほくそ笑んだ。


「ユキ、いいぞ」


「お前も抜け目が無いよな」


 そういいながら召喚術を行使する。


「無駄だ! 最後の魔王にして神である僕にはどんな攻撃も効かないんだからね!」


「そいつは早合点ってもんだぜ?」


 術式が完成したと同時に、オメガの胸から一本の剣が生えた。


「は?」


 茫然とした様子のオメガの顔面にレーナの拳が今度こそめり込んだ。

 剣だけがその場に残り、持ち主が大きく跳びあがって私の隣に立つ。


「割と暇なタイミングで助かりましたよ」


「そりゃよかった。いい奇襲だったぞ、司」


「魔王と勇者の戦いで奇襲ってあるんですかね」


 不思議そうに呟くが、安い言葉だけど戦いなんて勝った方が正義だ。

 過去暗殺でアルファを殺した勇者だっていたしな。

 むしろあれが最適解じゃないかと今になって思うほどだ。


「やっぱ魔王と戦うのは勇者の役目、だろ?」


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