「化け物、うん。懐かしい響きだ。昔僕はそう呼ばれた。いや、未来かな?」
「………………」
そいつの言葉の意味を理解しようとは思わない。
だが、不思議と耳に入ってくる。
同時に脳みそが全てを理解しようとしたのを、無理やり押しとどめる。
これは理解してはいけない知識、探究も究明も許されず、それを知る事が致命的な事実となりかねない。
その判断はアルファも同じだったのだろう。
視界の端で耳から血を流しているのが見えた。
「脳を直に刺激、鼓膜の破壊、頭部の破壊、なるほど効果的な手段をとったものだ。管理者ユキは一番力を使いこなしているし、他の二人はドッペルゲンガーという存在だからこそとれた手段というわけだ。皆自分の強みを理解している」
「シッ!」
飄々としているところに切りかかる。
首を跳ねようとした私の一閃は、ただ長く伸びたように見える爪に阻まれた。
「だが弱みを理解していないね。君は接近戦向きじゃない。確かに動きはいいが重さに欠ける。だから爪切りにもなれない」
弾かれた、そう思うと同時に足場が消える。
吹っ飛んだにせよ投げられたにせよ、このままだと地面にたたきつけられることになる。
「召喚! ワイバーン!」
咄嗟に足場となる魔獣を召喚し、その背骨を蹴り折る勢いで元居た場所に戻る。
すまん、と思いつつ直後に召喚したワイバーンは細切れにされて消えた。
……一瞬判断が遅れていたら巻き込まれていただろう。
「管理者にして魔王アルファは慎重に過ぎる。だから機会を逃す」
八極拳だっただろうか、前世で見た覚えのある動きで距離を詰め、そのままアルファを吹き飛ばした。
「管理者レーナは考え無しだ。だから仲間との協力が苦手だ」
高速で飛んでくる鉄球を躱しながら見たレーナは、化け物となった神に蹴り飛ばされていた。
攻撃したはいいがその直線状にいた私の事まで考えていなかったのだろう。
危うく頭が吹き飛ぶところだったが……あの動きはカポエラか?
「それと管理者ユキは二つ目だが、君は視野が広く思慮深いせいで一瞬動きが遅れる。致命的な遅れだ」
ジャブ、ジャブ、ストレートからのアッパー、どうにか受け止めることはできたが威力は殺しきれない。
受け止めた神剣細雪の柄がぴしりと音を立てる。
……くそっ、砕かれたか。
「改めて自己紹介をしよう。神の座に君臨した合成獣、かつて、あるいは将来化け物と呼ばれるようになる者。魔神オメガだ」
知らない名だが、始まりを意味するアルファに対して終わりを意味するオメガというなら何か関係があるのかもしれない。
ちらりと戻ってきた二人を見るが、その視線は問い返すようにこちらを見ている。
全員知らないってことか。