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第97話

「よーう、遊びに来たぜ神様よ!」


 ノック代わりに塔の扉を切り刻む。

 同時にアルファとレーナの斬撃と鉄球がぶち当たって粉みじんになったソレを通り、キセルに火をつける。

 煙草の代わりに各種薬草を乾燥させて作った持続型回復ポーション未成年禁止バージョンだ。

 色々とバフ効果の付いたドーピングアイテムだが事ここに至っては微々たる効果しかないが、それでもないよりましだ。


「さて、手間かける意味もない。最初からやべーのだしてくぞアルファ」


「おう」


 私達はそれぞれの知らないジョブを教え合った。

 その中にあった召喚術師、そしてテイマーというジョブ。

 さらにはカードマスターというユニークジョブに至るまでを解析して、あるヤバいものを作り出す事に成功した。


「王水スライム!」


「マグネシウムゴーレム!」


 スライムにゴーレム、召喚術師たちが好んで使い、テイマーが入門から中級へと上がるための踏み台にするそれらを改造した物だ。

 名の通り、王水でできたスライムであり黄金すら溶かす最強最悪の特殊個体。

 そしてマグネシウムでできた、一件銀色のシルバーゴーレムかミスリルゴーレムと見まがうが、水を浴びせた瞬間とんでもない爆発を起こすそれはあらゆる障害を破壊しつくしていく。


「手加減は不要、全ての部屋と道、そんでもって敵を食い散らかしてこい」


「スライムに続け、ゴミ一匹残すな」


 その言葉に従うように歩き出す二体。

 とはいえこいつらはあくまでも露払いであり、後顧の憂いを断つための存在。


「では私もお仕事を」


 そう言って鉄球を思い切り振りまわしてから頭上に向けてぶん投げるレーナ。

 当然のごとく天井を破壊して、降りしきる瓦礫を足場に定海へと昇っていく。

 私達もそれに続き、階下を見ればもはや入口は瓦礫に埋もれていた。

 これで敵さんは増援を呼ぶことはできない。


「はっ、神のダンジョンぶっ壊すとか罰当たりもいい所だ」


「この世界の神なんか冒涜してなんぼだろ」


「アルファ様の言う通りです。この世界の神はまさに糞……失礼、排泄物のような存在ですから」


 ……レーナ、それ言い直した意味ないぞ。


「このままぶち抜いていくぞ!」


「それは困るなぁ」


「なっ!」


 私の言葉に、聞き覚えのある厭な声がしたと思ったら空中にいた。

 何が起きたのか、それを考える前に風魔法で足場を作りゆっくりと降りる。

 ……随分と高い、雲が眼下に広がっている。

 唯一足場と呼べるのは丸い石造りの……なるほど、塔の頂上だ。


「随分暴れてくれたね。君達の召喚したスライムもゴーレムも厄介極まりない。おかげで階層主すら軽く殺されてしまっているよ」


 ケラケラと笑うそれは紛れもなく神だった。

 以前闘技場で出会った分御霊じゃない、演説の直後に出てきた分霊でもない。

 正真正銘、威圧感もさることながら神々しさからして本物だと思わせる威光を持っている。


「なぁ、あれ本物だと思うか?」


「あれが本物じゃなければ詰み……かもしれんな」


「ぶちのめせばわかる事です」


 ……レーナさん、貴方だいぶ脳筋だな?

 様子見しようとした私達スルーして鉄球投擲とか、なかなかできる事じゃない。

 とはいえ遠距離攻撃もできるからこその判断なんだろう。


「かけまくも畏き伊邪那岐の大神、筑紫の日向の橘の!」


 神道における祝詞、その祓言葉を流用した詠唱による最大火力の雷魔法をぶっ放す。

 魔力は自家製、対処法は避けるか守るかしかない。


「言は肉体となり、私達の内に宿った!」


 アルファが続けたのは聖書の一節を詠唱に転換したもの。

 筋力強化の終着点ともいえるそれは、過去多くの勇者と対峙したからこそ使える強大な攻撃。

 砲弾すら比較にならない威力でナイフを投げつける。


「おぉ、これはこれは」


 それらを、神は身動き一つとらずに全て受けた。

 確実に当てたという手ごたえがあった。

 現に神としてその場に降臨した光の人型は穴だらけになり、片腕が吹っ飛び、頭部も原形を失っている。


「初撃でこれほどの歓待とは恐れ入る。故にこちらも本気でいかせてもらおう」


 だが余裕を崩さず、光の粒子が形を変えた。

 もはや光は無く、赤い髪をなびかせ、両目は爬虫類のように鋭くこちらを射抜き、背には黒龍王の物と酷似した翼と尾、脚部からへそに至るまでは獣の脚、両手は鋭く伸びた爪が印象的ながらに人の面影を残しているその姿。


「……化け物が」


 もはや、その姿は神ではなかった。


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