そして数日のうちにある程度様になった連中を見渡してから、私達は各々目的地へ向かう事になった。
リリは防衛と指揮のために近衛達を連れて国へ、司達勇者と異世界人も……当然ながら先生もそれに同伴。
私達管理者側になった者の中で私とアルファ、そしてレーナの三人で塔に向かう事になった。
「ユキさん、どうかお気をつけて」
「先生こそ無茶はほどほどにな」
別れの挨拶をしながら先生と握手をする。
この人、生徒の事になると無茶しがちなんだよな……特訓の最中も魔力枯渇寸前で、気絶するまでみんなの回復を行ってた。
水溶きポーションぶっかけて起こして、気絶するまで特訓と回復して、それを延々と繰り返して古今東西類を見ないほどの回復魔法の使い手にのし上がったのは怪我の功名というべきか。
「国……いえ、世界の防衛はお任せください。私のジョブの進化により覚えたスキルでどこへでも我が国の兵士を送り込めるようになりました」
「我ら近衛一同、一騎当千とはいえずとも相応の力を得ることができたのはユキ様のおかげです」
「大袈裟だな。リリはとにかく自分の身を守れよ。必要なら適当なところは切り捨てていいからな」
ハルファ聖教とか。
「それと近衛共、お前ら一騎当千どころか一機当万にも匹敵するからな? ここでの特訓がやばすぎて勘違いしているが、世界でも上から指折りで数えられるくらいの強さだから」
一部例外を除いて、人間という種に限る話だけど。
「はい、では皆。これより国へ帰還する! 各自準備を怠るな!」
リリの号令で全員が帰路に着く。
ちらりとこちらを見て、少し寂しそうに笑ったのはあの子の面影があったな。
結局送り出してからは娘の顔を見ることなく、森で過ごしていたからその時のこと思い出してしまった。
「ユキさん、僕達もリリ様についていきますけど何かあったら呼んでくださいね」
「俺達でできる事なら何でも力になりますから!」
「ん? 今なんで持って言った? いざという時盾にするぞ」
「酷いっす!」
「はははっ、冗談だ。お前らは国の防衛の方を頼むな。まだ周辺諸国がきな臭いんだから」
司と田中の言葉に冗談を交えてから、本音を返すと全員が少し顔をしかめてから、それでもやはりニカッと笑って見せた。
あぁ、そうか。
久しく忘れてたが人殺しってのは取り返しがつかない行為だったな。
それを子供に任せるって言うのは酷な話だ。
「殺す必要はない。力の差を見せつけてやれば向こうから逃げていくさ」
「そうですか?」
「お前ら人種の頂点に位置する連中って言うのを忘れるなよ? お前ら誰か一人が国に侵入しただけでその国滅ぼせるからな?」
冗談抜きでの発言だったが、それをちゃんと理解したのは司だけだったらしい。
他の連中はいまいちピンと来ていないようだったが……まぁそれもすぐにわかるだろう。
本人たちには内緒にしていたが、特訓の最中何度か帝国や聖教国の新劇の気配があった。
そのたびに雷落としたり、地割れ起こしたりとそれっぽい演出に使える魔法で阻止してきたのだが……そろそろ限界だろうという事もあり、また全員が私のメニューをある程度こなせるようになったから頃合いとキリをつけたのだ。
「一つだけ言っておくなら、殺されるくらいなら殺せ。後悔なんて死んでからはできないからな」
昔、とある仲間がそんな事を言っていた。
そいつは結局仲間をかばって死んだが、後悔せずに死ねる事を誇りに笑顔で死んでいった。
思えば色々な奴らの想いを受けて私という存在は構成されていったのだろう。
まったく、他人の祈りや想いであり方が構成されるとか、とことん神には向いてないな。
必要に駆られてそうするだけで、神をぶん殴るって言うのも怖気づきそうな性根を奮い立たせるための方便だったってのに。
「黒龍王、こいつらの事は任せる。いざという時は……」
「今更人を数千数万屠ったところで何も変わらん。契約者達がそのような汚れ仕事をするくらいなら喜んで悪の名を引き受けようぞ」
まったく、かっこいい事言ってくれる。
こいつの場合特訓と訓練の合間に私とマスタークラフターが作った専用魔道具を試したいというのもあるだろうけど、言葉も思惑もどちらも本音であることに変わりはないだろう。
そして最後に少し、司に耳打ちをして終わりだ。
「それじゃあ、できる事ならまたみんな無事に会おう」
私の言葉に世界が一瞬捻じれたかと思うと眼前には見上げても雲の上まで続いているようにしか見えない塔があった。
レーナの管理者権限でそれぞれが行くべき場所に配置されたのだ。
「ユキ様、ここから先は何が待ち受けているかわかりません。アルファ様もいつもの油断は抜きでお願いいたします」
レーナの言葉に私達は頷く。
そして揃ってインベントリから装備を整えた。
私達の持つ最強の武器、それらはあくまでもゲームから引き継いだものであり、つまるところ地球の神々が作ったセーフティ付きの物だった。
それをマスタークラフターから進化する神の手というジョブの効果を使い改造しまくった代物、闘技場で使ったような即興ではない代物を装備する。
司達にも強すぎず、けれど今のあいつらの実力に見合った物を用意してやったからそうそう死ぬことは無いだろう。
うっかり殺しかねないのは怖いけれど、あいつらが死ぬよりは余程ましだ。
「よし、覚悟はできた。行くぞ」
「おうよ。あのいけ好かない面を張ったおすか」
「えぇ、そろそろこちらとしても一度締めておくべきだと思いますしね」
三者三葉、私達はとあるマークを施しただけで見た目はバラバラな装備で突入する事になった。
レーナは相変わらずのメイド服だが、エプロンまで漆黒の防具とフレイルと呼ばれる鎖付き鉄球。
アルファは黒光りする鎧に大鎌……ちょっと見方かえたら台所に出る不快害虫にも見えかねない姿。
そして私は赤い着物に白の袴、黒の羽織と刀といういで立ち。
その全員が【勇】の文字をマークとして背負いながら最後の神のダンジョンに突入した。