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第100話

「まったく、もしもの可能性とか言われて構えてましたが……未来予知でもできるんですか?」


「未来の事が書かれたアカシックレコード見たけど、分岐が多すぎて相手の特定は無理だったから可能性の一つとして考えてただけだ」


 試しに適当な世界見たらSFになってたり、逆に原始時代突入したようなのもあったからな。

 まさにパラレルじゃない別世界って感じだった。

 それに未来の事を知ったとして、そんなに面白い事もないだろうと思ってたからさ。

 性分的には未来の事より今の研究って感じだし。


「まぁ神になれるようなのがいるとすれば魔王か勇者か龍だったんだ。見た目から龍の要素もあったが明らかにキメラだし、早々に魔王だろうなと当たりをつけて確証を得たから呼んだんだよ」


「他の可能性とかは?」


「あったけどその場合は私達だけで十分どうにかなるレベルだった。見ての通り既に半死半生だからな」


「あれ、どうしたんですか?」


「アカシックレコードに勇者パーティが神をぶん殴るって書いておいた」


 宝物殿でちょこっと書き足したのはその一文。

 といってもそれ以外に書くことなかったし、レーナの裏切りとか考えてもリソースを割く余裕がなかったんだよな。

 如何せん、一文字書くにも膨大な力が必要で何度もポーション飲んで気絶しそうになりながら書いたのがそれだったから。

 一番効果がありそうなものとして選んだが、結果として正解だったな。

 あとは勇者パーティの定義を確立させる事ができたし、そこにレーナとアルファを組み込むことができた。

 勇の文字を共通のマークとすることで明確化する事も出来たからな。


「さて、後は消化試合だ」


「ふざけるな! 神である、魔人の僕が、この程度で!」


 ズモモモと人らしさも形状も捨てて巨大化していくオメガ。

 同時に影から無数の化け物が湧いて出てくる。

 あーあ、巨大化とか異形化は負けフラグって知らんのかね。

 ご丁寧に雑魚召喚まで……劇場版特撮作品だったら雑魚扱いだぞ。


「スキル発動、破壊神」

「スキル発動、守護神」

「スキル発動、殲滅者」


 管理者となった私とアルファとレーナがそれぞれ会得したスキルを発動する。

 破壊者君から究明した破壊神、それは時空や事象の否定。

 破壊の先に創造ありというが、そもそも破壊すらしなければ生まれる事もない。

 奴の言葉を借りるならレーナが無数のパラレルを作らなければこいつは産まれなかった。

 だったら、そのもしもを壊してしまえばいい。

 アルファが発動したのはガーディアン女子から探究した守護の力。

 私やレーナの攻撃が世界や仲間に影響を与えないための物。

 役割的に逆じゃねえかなと思ったけど、もともとこいつ仲間を守るためにこんな姿になってるんだよな。


 まぁ譲ってやるか。

 そしてレーナが発動したのは神の名を持たないながらに、自身のスキルだからこそ使い方を熟知しているソレ。

 集団戦でこそ真価を発揮するというのに無差別という事から封印していたらしい。

 ただここには絶対的な守護ができるアルファがいて、神のスキルとそうでないスキルの間には明確な差が存在する。

 さっきまで私達の攻撃が奴に届かなかったように、レーナの攻撃は余波すら私達には届かない。


「か、身体が崩れていくだと! 何をした!」


「お前が生まれるという世界軸を破壊した。最初から存在しなかったんだからお前は産まれてないんだよ」


「馬鹿な! そんな事をすればこの世界も崩壊するぞ!」


「あー、それなんだが安心しろ。魂の研究は随分進んでいる。神の研究はまだだったが、こうして目の前で実物に見て触れてわかった。ただの膨大なエネルギーを肉体の代わりに使ってるだけの何かってな。じゃあそのエネルギーを循環させて、司たちを元の世界に帰して、なおかつ次元の穴を塞ぐのに足りるかって話になるが……答えは数世紀くらいなら何とかなるってところだった。小物だなお前」


「くそっ、ありえない! こんな!」


「司」


 私が放り投げた神刀細雪を司が受け取り、無言のまま腰に添える。

 次の瞬間姿が掻き消えたかと思えば……オメガが両断されていた。


「あ……が……」


「魔王を勇者が倒す。結局王道だな」


「エネルギー循環を開始します。手伝ってください」


「はいはい」


 レーナがエネルギーを循環させる。

 長年城の管理者をしていただけあってその手際はいいが、それ以外に関しては私とアルファの専門分野だ。

 まず拡大を続けている次元の裂け目を固定して、糸で縫い合わせるように少しずつ塞いでいく。

 少しだけ隙間を残し、司達が帰れる分……ただしこちらで得た力は持ち帰れないように調節しながら塞いでいく。


「送還術式分のエネルギー確保できたぞ」


「こっちも最低限だが裂け目の応急処置できた」


 エネルギーを糸にして縫う感覚だったからな。

 そんなに難しくはないが、次元の裂け目を感知する方が難しかった。

 というか裂け目は一つだったが、その先にいくつもの世界があったのでその辺もどうにかしたいが……うん、エネルギー不足だ。

 エントロピーが云々言ってた害獣の出てくるアニメ、こういう感じだったのかな。


「世界を循環するエネルギーを神のダンジョンコアとして作成。接触不可にしましたが踏破したら相応の力となるように設定しました」


「それ大丈夫なのか?」


「結局死んで世界のエネルギーに戻るだけですから」


「ならいいか」


 レーナがアドリブ決めてくれたが、それはそれとして仕事はしっかりこなしてくれたようだ。

 終わってみればあっさりしたものだったが、十重二十重と作戦を用意して使ったのはたった一つ。

 今になって疲れがどっと来たわ……。


「とりあえず、残業終わらせたら司達は本当の意味で帰宅だ。もう少しだけ手伝ってもらえるか?」


「乗り掛かった舟ですからね」


 そう言ってはにかんだ司は、もうただの青年だった。

 あぁ、サイコパスでもなく勇者でもない。

 どこにでもいる普通の男の子ってやつだ。


「その笑顔、似合ってるぞ」


 以前のような貼り付けた笑みと違ってな。


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