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最終話

 こうして神を倒した……というか、利用する形になったが無事世界の均衡は保たれることになった。

 元凶はあの神の怠慢かもしれないが、そもそも神の仕事を知らない私達が何かを言える立場でもない。

 更に言うならもとをただせばレーナによるパラレル量産という物があるが、仮にこの世界線軸でなくても同じ事をしていただろうという事で処分はアルファに任せた。

 ……三日三晩ベッドルームから出てこなかったよあいつら。

 そして司達もだが疲弊した人たちを癒すために私は方々を駆け回った。

 帝国相手に王クラスのジョブの力を見せつけたり、ハルファ聖教を邪教認定するかどうかという脅し込みの机上戦を繰り広げたりと……まぁまだ安定するには時間がかかりそうだが、リリの国はしばらくは安泰だろう。

 その代償というわけではないが、私は最低でも200年ほどこの国に留まらなければいけない事になったが……。


 まぁ研究ができるならどこだっていいだろう。

 なにより我が子達の国だ、面白い宿題もあるだろうし、弟子が墓守をしているという王墓にもいかなければならない。

 やる事がある以上研究も進むという物だが、一方で抑止力という形で存在しつつ、常に聖教国と帝国両方ににらみを利かせて弱体化させていくという目的もある。

 大人の事情ってやつだが、そういう政治関係は門外漢なんでパスした。

 私は国内で自由にしていればいい、旅行で半月くらいなら土地を離れてもいいという了承を得たからな。

 まぁ塔を制覇したことで神のダンジョン経由した移動ができるようになったのは嬉しい誤算、あの城を使って物品の取り寄せはもちろん、瞬間移動じみた移動だってできるようになったのだから。

 逆に問題点といえば……。


「ねぇねぇ、君神の座に興味ない? 今ならこの世界丸ごとあげちゃうよ?」


「そっちのお兄さん、あたしと一晩どうだい? ついでに神としてこの世界に君臨しなよ」


「メイドさんや、お茶を頂けぬかね。お礼に世界をあげるぞい」


 神より上位の連中がこぞって勧誘に来るのが鬱陶しいくらいだろうか。

 連日連夜、ひっきりなしにやってくるので私達は一つの答えを出した。


「神になってやってもいい。ただしこの世界で寿命を迎えるまで神の仕事は副業。ただし権利は全部貰う。責務は半分だけ受け取るが、残り半分はお前らが適切に処理しろ!」


 折衷案に見せかけた押し付けである。

 まずアルファとレーナだが、ドッペルゲンガーという魔族であるのが前提だが細胞分裂の限界とか無い。

 そりゃ他の生き物に化けられるような細胞の持ち主だからな、劣化とかも自由自在だそうだ。

 つまり寿命という概念はない。

 物理的に殺してもアルファは復活するし、レーナはそもそも殺せるやつがいるのかどうか怪しいくらいに強い。

 多分私とアルファと司が本気で挑んでも勝てるかどうか……。

 そして私はオリジンエルフという種族になったことで寿命という概念が消えた。


 どうやら原種と呼ばれる連中は寿命と無縁だったらしいが、争いの渦中で全滅して今のハイエルフやエルフといった一般的な種族に取って代わられたという。

 人類の進化の歴史でもそんなんあったな、クロマニョン人がアウストラロピテクスに全滅させられて、その原因が発声幅による言語数が云々とかいう話。

 まぁ中にはハーフとかになって今に至るまで遺伝子の一部を残しているのもいるんだろうし、私みたいなのはその代表例なんだろう。

 というわけで私も殺されない限り死ぬことは無いし、レーナ以外で殺せるやつがいるかどうかと言った所だ。

 まぁある程度力に制限はかけられるんだろうなと思ってたが……。


「え? 制限? いや惑星一つ壊したところで文句言うつもりないけど?」


 という代表者からの緩い言葉が帰ってきた。

 ……オメガみたいなのが増長するわけだ。

 というかあいつ制限なしであれだったのか、単純に油断してたのか……相性の差はあったかもしれないけどな。

 それでも、神と呼ぶには弱かった気がするという話を上位者共にしたところ……。


「あれ中身は子供だからね。強い弱い以前に力の使い方を知らなかったんだよ。運が良かったね」


 だとよ。

 ぶん殴ってやろうかと思ったし、実際殴り掛かったけどすりぬけた。

 神は殴れても上位種を殴れるようにアカシックレコードに書き込んでなかった私の落ち度だな。

 ……いや、仮に殴れたとしても虫が止まった程度のダメージにもならなかっただろうけど。

 そして司達、異世界人。


「本日この場を持って勇者一行の送還を行います」


 リリの号令でその場にいた兵士全員が敬礼し、貴族たちは頭を下げる。

 他にもギルドの連中とかも来ているが、冒険者ギルドのマスターと破壊者君が泣きながら握手してる光景は少し以外だ。


「この世界の身勝手によりこのような事態に巻き込んでしまった事。深くお詫び申し上げます」


 リリが精いっぱいの謝罪を込め頭を下げると同時に私も同様に頭を下げる。

 普段ならば貴族がざわつき、ギルドの連中が驚くことだろう。

 けれど相手が相手だからというのもあり、ついでに武力の面じゃ絶対勝てないし今後関わることがないからと黙認している。

 が、それでも頭の高さを変えた連中の顔は覚えた。

 侮るのではなくリリに倣う形だな。

 逆に姿勢を維持したやつも覚えた。

 こいつらは中立で、侮るような表情みせた奴らは敵か……敵ってのは腹の中にもいるもんだ。


「私からも詫びさせてもらう。厳しい事を言ったしさせた。本当にすまなかったな。それに約束していた詫びもできなかった。なぁ田中?」


「あははははは、ほんの冗談ですってば。マジで女子に射殺されそうな視線貰ってるんで勘弁してください」


 そのおどけた様子に少し安心するとともに寂しさも感じる。


「穴埋めってわけじゃないが些細な魔道具を用意した。本当にお守り程度にしかならんものだが持って帰れるようにしてある。受け取ってくれ」


 一人一人、手作りのお守りを用意した。

 みんなの趣味趣向に合わせて作ったものだから形が全て違う。

 破壊者君なんかは分かりやすく変身ヒーローを模したバックルなんかだな。

 先生なんかはネックレスだ。


「司、お前なら心配いらないが元気でな」


「えぇ、ユキさんもこれから大変かと思いますがお元気で」


 握手を交わし、司との別れを惜しみ……いや別に惜しくないか。

 私の旅での胃痛の半分はこいつだったわ。


「先生、マジで色々大変だと思うけど身体に気を付けて」


「ユキさんに教わった事、私は向こうでも忘れません。貴女との出会いは私の生涯の宝物です」


「面映ゆいよ。けれど光栄だ」


 涙を流しながらも気丈に笑顔を作ってみせるその姿は、体格からは想像できないほど大人びている。

 こちらに来た時よりも随分落ち着いた正確になったみたいだ。

 ……荒療治だったかもしれんけど。


「田中、お前詐欺師にはなるなよ」


「唐突に犯罪者予備軍扱い!?」


「コメディアン……も向いてないな。タレントとして賑やかしができるアナウンサーみたいなの目指せばいいんじゃないか?」


「アドバイスもふわっとしてる!」


「まぁ他の連中よりお前はその辺の感覚ずれてそうだからな。境界線くらいなら反復横跳びしそうだ」


「信用がない!」


「けど、場を和ませる力は誰よりもある。それは武器になる。正しく使えよ」


「……最後の最後で褒めるとか、卑怯ですよ」


 ぐすっと鼻をすする田中に渡したお守りは無難に巾着入りの物だ。

 絶対開かないように、破れたりしないようにしてあるが中には黒龍王の鱗が入っている。

 あいつもなんだかんだで神になったし、城に詰め寄せた魔族も神として扱われるようになった。

 とはいえ人材不足から来る物だったが、それでも世界の運用は少しは楽になるだろう。

 まだ周知はされていないから神という存在はあやふやなまま、しかし映像魔法で映し出した私やアルファなんかは既に一部で認知されてしまっている。


 主に同胞に。

 あとはリリもそうだな、騎士の中でも近衛だけが知る真実として死後神として働くことになっているので、今から色々鍛えているところだ。

 そういった、神にまつわる物をなにかしら入れたのが今回のお守り。

 事故除けとか、安産祈願とか、家内安全健康成就くらいの物だけどな。

 心願成就みたいな強い力はないけれど、守ってくれることだろう。


「さて、一通り挨拶も終えた。やってくれアルファ」


「おう。短い間だったが楽しかった。俺からは霊を言わせてくれ、地球のみんな」


「俺も楽しかったぞ!」


「私日本に帰ったら留学するわ! 海外の面白さが分かったから!」


「珍しい体験ができて最高だったぞー!」


 アルファの言葉に地球から来た皆が声を上げて返事をする。

 そして涙を流しながら、手を振り魔法陣の光に飲み込まれ消えていった。

 あぁ、これでようやく終わりか……。


「さて、無事向こうに着いたのが確認出来たら裂け目を完全に閉じるか」


「少し余裕を持って三日くらいは置いておいた方がいいかもな」


「だとするとその間裂け目の監視をする必要があるし、黒龍王……じゃなかった黒龍伸に頼むか」


「それがいい。あとレーナも世話されるのに慣れてないからと城に引きこもるらしいからそっちで監視してもらおう」


「そうするか。ならその間は……」


「そうだな、当然……」


 私とアルファは大きく息を吸ってから、ニヤリと笑みを浮かべる。


「「神の力の研究だ!」」


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