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第十三章憧れの上司は御曹司でした

第65話

旅行は一ヶ月後の土日に決まった。

宿の予約は私がしようとしたものの。


『いいよ、俺がやるよ』


……と、龍志がしてくれた。

しかも、半分は出すと言っても聞いてくれない。

金はあるから大丈夫と言われても、やはり心配になる。

でもたぶん、これも言えない事情とやらが関わっている気がして、深く聞けないでいた。



旅行が決まってすぐの週末、私はCOCOKAさんと由姫ちゃんと一緒に買い物に来ていた。

ちなみに龍志は快く送り出してくれるどころか、わざわざ待ち合わせ場所にまで送ってくれた。


『今日も七星さんをお借りします!』


……などと龍志に頭を下げるCOCOKAさんと由姫ちゃんに、遠い目になったのはいうまでもない。


今日の買い物の目的はもちろん、旅行用品の購入だ。


「井ノ上先輩って最近、雰囲気変わりましたよね」


「そうそう。

前の、隙のないデキる女!って感じもよかったけど、今の優しいお姉さんって感じも捨てがたい……」


私が旅行に着ていく服を選びながらふたりに言われ、照れくさくなってくる。

ちなみに今日も龍志がメイクとヘアセットをし、服を選んでくれた。

甘めの丈長ブラウスにシンプルな黒のスキニーパンツだ。


「えっと……似合って、ない?」


「全然!

滅茶苦茶いいですよ!」


「最高です!

ありがとうございます!」


振り返ったふたりががしっと私の手を掴んできて、たじろいだ。


「それって宇佐神課長のチョイスですか」


「うん、そうだけど」


「了解です!」


なにがわかったのか知らないが、ふたりは先ほどまでよりもさらに真剣に服を選び出した。


「ああいうのが趣味なら、こういう感じで攻めたらいいと思うんですけど」


「でも、色気が足りなくない?

ここはこう、もうちょっと……」


ふたりを若干、不安な面持ちで見つめる。

選んでくれるのはいいが、とんでもない服だったらどうしよう?


「これ!

着てみてください!」


少しして渡されたのは水色のカットソーにグレーのスカートだった。


「うん」


思ったほど奇抜なものではなくてほっとし、受け取って更衣室に入って着替える。


「どう、かな」


オフショルダーのシャツは許容範囲で肩が出て、マーメードスカートが女性らしさを演出していた。

キレイめで上品な女性といった感じで、とてもいい。


「いい、いいですね」


「決めちゃう?

これで決めちゃう?」


「でもまだ、一軒目だし」


悩んでいるふたりを苦笑いで見つめる。

結局、ここでは決めず他にも見てみようとなった。

……のはいいが。


「ねえ。

まだ見るの?」


「えっ、だってまだ、決まってないですし」


「そうそう」


鼻息の荒いふたりの手には、ナース服とセーラー服が握られている。

途中からどうも、私にいろいろ服を着せて遊ぶほうへシフトチェンジしている気がしてならない。


「さすがにコスプレで外は歩けないけど?」


さりげなく、ふたりを注意してみる。


「わかってますよ!

これは宇佐神課長に迫るとき用です」


「ああ、そう……」


まったく聞いてくれそうになくて、遠い目になった。


最終的に一軒目で見た服と、もう一組を別のお店で買い、なぜかナース服も追加され、遅い昼食となる。


「すみません、なんか楽しくなっちゃって……」


美味しそうな料理を前にして、ふたりは申し訳なさそうに項垂れている。


「いいよ、いい服買えたし」


きっとひとりだったら悩むだけ悩んで買えなかった可能性がある。

それにふたりが楽しそうに、自分のために選んでくれるのがなによりも嬉しかった。


「そう言ってもらえると助かります。

あ、ここでの払いは私たちがさせてもらいますので!」


COCOKAさんの申し出に同意だと由姫ちゃんがうんうんと頷く。


「いいよ。

それより、さ。

お願いがあるんだけど……」


私の頼みを聞いて、ふたりは目を輝かせた。


昼食のあとはなにやら怪しげなお店に連れてこられた。

ここで本日のメインともいえる下着を買うらしいが。


「ねえ」


「はい」


私に声をかけられ、真剣に下着を選んでいたふたりが振り返る。


「本当にこんなの、着るの?」


「はい、そうですが?」


彼女たちはなに当たり前のことを聞いているんだといった感じだが、……ねえ。

そのお店に並んでいるのは極端に布の面積が少なかったり、ほぼ紐だったり、大事なところがまったく隠せないように……というよりも大事なところを見せるようになっていたりする下着だった。

これを、着る?

いやいや、ありえない。


「もうこれって、なにも着てないのも同然……」


「なにを言います」


どどん!とふたりの顔が迫ってきて背中が仰け反った。


「お、おう……」


「こう、見えそうで見えないのがいいんですよ!」


「隠しているようで隠れてないのがまた、そそるんです!」


ふたりがさらに顔を近づけて説明してきて、背筋が限界まで反る。

私はそういう方面に疎いから、彼女たちがそういうのならそうなのだろう。


「う、うん。

わかったよ……」


もうこれはふたりにまかせておくしかないなと悟ったが、問題は私にこれらの下着を着る勇気があるかどうかだ。

……ないけれど。

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