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第13話 呪いはどこから

最上もがみ会館って?」


 先ほどの男との会話を聞いていたミズキが、レンタカーの中で尋ねてきた。


「橘葬儀社の最初にできた葬儀場。俺が実家にいた頃から老朽化がひどいって言われていて、当時からほとんど使われていなかったんだ。もうとっくに取り壊しているかと思ってた」

「最初にできた葬儀場ってことは、一番古い所だろう? 一番霊が出そうな場所じゃないか。忘れんなよ」

「つい山形市内のことばかり頭にあって」


 実際、橘の職場見学を最後にもう閉鎖しようかという話も持ち上がっていた。壊すにしても金がかかるだとか、初代の建物はとっておくべきだとか、いろいろと揉めていた気がする。


「行ってみよう。そこが一番怪しい」

「そうだな」


 エンジンをかける前に、再び胸元の巾着に触れてみる。特に変わった動きはない。

 ミズキに揶揄われる前にハンドルに手を戻した。





 昔は、人が死ぬと遺体はお寺に託され、住職が寺の敷地内にある火葬小屋で焼いた。

「火葬場」と呼ばれる専用の施設はなく、寺や墓地の一画に小屋が作られ、そこで遺体は火葬された。


 橘葬儀社の創業者・橘権蔵たちばなごんぞうの家は寺の隣にあり、親切で住職の火葬業務を手伝ったのが橘葬儀社の始まりだったようだ。


 やがて権蔵ごんぞうは、自分の持つ畑の一部を火葬専用の場所とし、寺から専門的に火葬業務を請け負うようになった。権蔵の家は、現在の新庄市にあり、それが橘葬儀社のいしずえ橘家たちばなや」の拠点となった。

 隣にあった寺は、すでになくなっている。


「新庄市ってどこ? 遠い?」

「ここから一時間くらいかかる。寝ていてもいいぞ」

「――うん」


 時刻は二十二時を回り、車通りもすっかり少なくなっていた。

 周囲は民家が多く、灯りを落として寝静まっている家も多い。

 ミズキはシートに凭れるものの、目を閉じようとはせず、じっとこちらを見ている。眠くはないのだろうか。


「さっきの男」

「え?」


 ちらりと視線を送ると、ミズキはシートにもたれたまま「さっきの男」と繰り返した。


「途中からおかしくなってた。たぶん、本人も意識がなかったと思う」

「意識がなかった?」


 途中から? 盗み聞きした話を、社長に伝えてくれと言ってきたあたりか。


「小さな不平不満はあるけど、あいつはいたって普通の男なんだ。けど、お前と遭遇した途端おかしくなった。普段は外に出さない敵意や攻撃性みたいなものを、全面に押し出してきた」

「普段からああいう性格じゃないのか?」

「違うと思う。見ただろう? 途中から目の色が変わってた。あの男はもっと小心な奴なんだけど、お前の呪物に触発されて攻撃性を引き出されたんだ」


 ミズキは普段、他人の性格をジャッジしたりしない。ミズキがそう感じたのなら、よほど異常だったのだろう。


「またこれのせいか」


 橘は胸元の巾着を服の上から握りしめた。

 ここ数日、橘自身には何もない。が、外部には何等かの影響を及ぼしているのかと溜息を吐いた。

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